■1日目 12月26日■ <2>
■1日目 12月26日■
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昨晩シオリに届いたコウジからのメッセージは“朝11:00に本校舎前に来て欲しい”とシオリを大学に呼び出す内容だった。
シオリはコウジとは仲が良かったが、何故呼び出されたかは全くわからなかった。コウジはいつも自分で決めて行動する様な人だったのでこういう事に慣れていた。
大学二年生の夏、どこか旅行行きたいねと三人で話し合っていたら、翌日にはコウジは熱海旅行を勝手に決めて予約していた。シオリは本当は軽井沢の様な避暑地に行きたかったのだが、結局言い出せずにそのまま熱海に行ったのだった。
約束の十分前には学校に着いたが、すでに待ち合わせ場所の本校舎前にはコウジがイヤホンで音楽を聴きながら待っていた。
「シオリ、急に呼び出してごめんな……」
コウジはシオリを見つけるとイヤホンを外しながらそう言った。
「ううん。大丈夫よ。どっちにしても学校に来る用事もあったから」
「そっか。なら良かった。シオリ、ここ懐かしくない? 入学式の日のちょうどこの時間にこの場所でシオリと出会ったんだよな」
コウジとの出会いは印象深いものだった。大学の入学式直後に校舎前で大勢の人が友達を作ろうとあちらこちらで話しかけたりしている中、シオリは一人でポツンといるシンイチを見つけると、後ろから「わっ」と脅かしてふざけた。
シンイチはおかげで新生活の緊張から解き放たれると憎まれ口を返しながら先ほど終わったばかりの入学式の感想を語り合っていた。
そこへ割って入って来たのがコウジだった。
「二人は何で仲がいいの? 俺、難波コウジ! よろしく」
二人のコウジに対する印象は明るくて軽そうというものだったが、悪い人ではないことはすぐにわかった。
「星川シオリです。よろしくお願いしますね」
「俺は竹内シンイチ。シオリとは昔からの腐れ縁でさ」
「腐れ縁ってひどいなぁ。幼馴染でしょ」
そんなシンイチとシオリのやりとりを見てコウジもすぐに打ち解け、三人はすぐに親友になった。
そんな事をシオリも懐かしく思い返した。
「もう三年近く経つのね。何だか懐かしいな。あっという間だね。」
「実はさ、あの時シオリがシンイチと楽しそうに話しているのを見て、なんて可愛いんだ! って身体に稲妻が落ちたんだよね。それで一目惚れして声をかけたんだ。」
「あら、嬉しいわ。ありがとね」
シオリはまたいつものコウジの軽口だと思って聞き流す様に返事した。
コウジはシオリのそんな返事に対して真剣に言った。
「シオリ。ちゃんと真面目に聞いて欲しいんだ……。俺、あの時からシオリの事がずっと好きだったんだ−−。」
「えっ?」
シオリは不意を突かれて言葉に詰まったが、コウジのいつになく真剣な表情を見て気持ちを入れ替えた。
「今、付き合っている人いないんでしょ?」
シオリはシンイチの事を頭に浮かべながらも答えた。
「いないけど……」
「じゃあ、いいじゃん。ずっと仲よかったじゃん。俺ら。ほんと一ヶ月だけでもいいから俺の事をちゃんと見てよ。その後ダメだったら諦めるからさ。ね! ね! 約束!」
コウジは畳み掛ける様に言った。シオリは返事に困りながらもきちんと断らなければと慎重に言葉を選ぼうとした。
コウジはそんな様子のシオリを見て断られる事を恐れたのか、また交際しているという既成事実を作ってその後何とか好きにさせてみせるつもりだったのか
「じゃあ、約束ね! 俺、この後待ち合わせあるから先に行くね! 後でメールする!」
と去って行ってしまった。
シオリはその勢いに何もする事ができず呆然としてしまっていた。
「困ったな……。どうしよう……」