■0日目 12月25日■<3>
■0日目 12月25日■
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シオリは悲しそうなシンイチの顔を見ることが耐えらずに走り去ってしまった事を後悔していた。ただ、そのまま一緒に帰っても何と声をかけてもいいかもわからずにいただろうと思った。
シンイチから愛の告白をされた時、正直嬉しさがこみ上げたが、顔に出さない様に取り繕うのが精一杯だった。複雑な悲しみが湧き上がってくるが、シンイチの気持ちを考えると涙はこらえようと必死に戦っていた。
「シオリ、こんな遅くまで何していたんだ?」
シオリの父ショーゴは帰宅するなり物静かに問い詰めたが、迫力は十分だった。
「シンイチとご飯に行ってたよ。お父さん」
シオリはその迫力に慣れている様子で丁寧に答えた。
「シンイチくんなら安心だが、まだ大学生なんだから、恋だ愛だ言って恋人を作ったりせずに勉学に励みなさい。」
「うん。わかっているよ。お父さん。いつも気にかけてくれてありがとうね。」
銀行に勤めているだけあって厳格な父であったが、シオリはそんな父が好きだった。一人娘である自分を大事に育ててくれて、感謝もしていたし、クリスマスイブの夜は必ず家族三人で食卓を囲むのが決まりで、シオリはそんな父が作り出す家族の暖かい絆も好きだった。
綺麗に片付いた、いかにも女の子らしい部屋のベッドに倒れこむと、シオリはシンイチとの幼い頃からの記憶を思い出していた。
いつも側で見守ってくれて、純粋で素直で優しさに溢れるシンイチは、どんな時もシオリに元気をくれていた。そんなシンイチの事を思い做すと、味わったことのない虚脱感が巨大な闇となってシオリに覆いかぶさって来た。
シオリの部屋には階下から聞こえるショーゴが見ているニュース番組の降雪情報が、こもった音でうっすら聞こえるだけだった。
そんな時、ポロンと音がなった。
シオリはゆっくり携帯を拾うと、そこにはコウジからメッセージが届いていることが表示されていた。