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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三題噺

三題噺①カード、決闘、勝利

作者: 優凛

 彼女は勝負事にはとびきり弱くて、


 私は悉く勝負事には強すぎて、


 お話にならないくらい目に見えた勝負なのに、毎度の事ながら彼女は飽きずに私に挑戦する。


 昨日はオセロ、その前はチェス、なら今日は将棋だろうか。


「ふふん。(エース)のツーペアよ?」


 中央に置かれたカードの山の中から選ばれし五枚のカードを扇のように手にして、彼女は不敵に微笑む。

 確かにAはトランプの中では一番強い数字であるが、あくまで私と彼女の手持ちの役が同等であった場合にのみ適用される順位であって、今、私の持っているカード達にそれは何の効力も持たない。


「フォーカード」


 ぴら。裏向けたカードを表向け、自分の手を晒す。

 王様が四人、堂々と威厳に満ちた表情で彼女を見つめる。


「うぐっ!?」


「まだやる?」


「三回勝負でしょ!」


 負けず嫌いな彼女は勝負に弱い癖に、毎回私に挑んでくる。そして負ければ、絶対にそれを三回勝負にしてしまう。

 まぁ、私は運が強すぎて、特に頭を使わずとも三回すべて勝ててしまうのだから、その勝負に意味は無いのだけれど。


「す、ストレートぉっ!」


 2、3、4、5、6。


 これなら勝てる! そう力強く確信した彼女の目に私は非情にも手持ちの札を見せつける。


 10、10、10、7、7。


「うぐぐぅ……フルハウスぅ……」


 ほら、もう諦めて。

 そう言おうものなら余計に意固地になって三回が五回、五回が十回勝負になるから言わない。

 じわりと浮かべた涙目が可愛くて、ついつい意地悪げにカードをぴらぴらと見せびらかしてしまうのはご愛嬌。

 大体、毎晩毎晩、飽きもせず勝負を挑んでくる彼女の相手を、愚痴も言わずに付き合っているのだ。多少の意地悪くらいは許して欲しい。


「さぁ、最後の勝負だよ」


 三回勝負の内、二回は私の勝ち。だから勝敗は既に決まっている筈なのだろうけれど、ここはいつもの彼女ルール。

 最後に勝ったものが真の勝者! なんてバラエティー番組じゃあるまいし……。

 だけど、そんなことを言おうものなら、彼女は子供みたいに泣いちゃうだろうから言わないでおいてあげる優しい私。


「いち、にー、さん、しー」


 彼女が交互に手札を配る。

 一枚、二枚、三枚、四枚、五枚。手際良く五枚のカードが目の前に届いた。

 取り上げて、広げる。


(ああ)


 溢れんばかりの愛が詰まったカードばかりだ。沢山のハートが五枚のカードに散りばめられている。


(困った)


 10、J、Q、K、A。


「おおおおお! キター! キタよー! 今回こそ私の勝ちなんだからね!」


「……どうかな?」


 まさしく、これこそ、最強の役。ポーカーの頂点にして、これ以上はない幸運の極み。


「んっふっふー」


 キラキラと瞳を輝かせ、彼女は無邪気に、不敵に、輝かしい未来を信じて、希望に溢れた表情で私に笑って見せる。


――ぱらっ。


 役になれなかった要らないカード達の行き着く所は、中央に盛られた交換の為のカードの山……の隣に無造作に積み上げられた山とは名ばかりの墓場である。


「五枚。全部替えるよ」


「あれあれ~? ついに運も尽きたかなぁ?」


 してやったりな顔。今までの仕返しに意地悪なことを言っているつもりだろうが、ただ己の可愛さを増幅させているだけだ。

 手札を五枚、再度手に入れて扇に広げる。


 ハート、ハート、ハート、ハート、ハート。

どれだけハートを得るんだ、私は。

 けれど数字は全てバラバラ。なるほどフラッシュか。それなりの手だが、私にしてはまずまず安い。


(いや)


 まだ駄目だ。もう一度、カードを全部捨ててみる。


「おやおやおや~? カードの交換は三回までだよ~?」


「……」


 黙ってカードを取れば、まるで私が余裕のない様に見えるだろうか。

 ちょっと言い過ぎたかな? と思わず私に申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女に、俯いたまま、カードで口元を隠しながらニヤニヤと顔を歪ませる自分がいる。


(あー……)


 新たに取ったカードを見る。

これはまた微妙なカードだ。


 さぁ、勝負! と勢いよくテーブルの上にトランプを叩きつけた彼女の手札を見る。

 4、4、3、2、2。

 ツーペア? いや、全部ダイヤのマークだからフラッシュか。


「……」


 ちらり、と手持ちのカードを見て、肩を竦めた。


「はいはい」


 私はカードを宙に放り投げる。

 重みのある五枚のプラスチックのカードは優雅に舞い散ることも無く、虚しくもぼとりと床に散らばった。

 降参。私の負けだと軽く手を上げる。


「やっっ、たぁあー!」


 両手(もろて)を上げて万々歳。彼女の喜びようと言ったら、まるで宝くじにでも当たったかのように大袈裟だ。


――でもさ、実際はどうなのさ?


 今夜の敗者への罰ゲームは、この後のお楽しみの女役。何だろね。それって本当に罰ゲームになり得るのかな?


(上か下か。男役か女役か。変なことに拘るよねぇ)


 勝負に勝った喜びからか、それとも別の理由があるからなのか、彼女の紅潮した顔とハイテンションに馬鹿みたいに緩んだ顔が抑えられない。

 だって、勝負する為とは言え、遠まわしに彼女が私をベッドに誘ってきたわけだもの。


『きょっ、今日はっ、上と下で勝負なんだからねっ!』


 素直になれない、恥ずかしがり屋の彼女が挑む勝負はいつもこんな感じ。キスだったり、デートだったり、ベッドだったり。


 ね? 可笑しいでしょう?


 だって彼女が挑んでくる勝負はいつも、勝っても負けても私が得するだけのゲームなんだから。

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