2章 底から見えた光
死刑回にと思ったら、次の章に延びてしまった…
そろそろ用語と人物集作ろうかと思います。
では続きをお楽しみ頂ければと思います。。。
見渡せど見渡せども、視界に写るのは同じ景色。
目前には怪しく黒光りする鉄の棒が縦に均等に張り巡らされ、後ろには隙間無く積まれた石土の壁と者を拘束する為であろう拘束具に鎖が垂れ流されている。
左右に目をやれば同じく石土の壁、しかし右の壁には顔の大きさ程の穴が空けられており横の様子を確認する事が出来るようになっているが、穴の奥に広がるのは全くと言って良いほどの同様の景色。
俺がいる部屋と同じ牢が並びに3部屋程ある程度だ。
下を見れば少し前に腹に入れた食事が入っていたお世辞にも綺麗とは言えない食器と受け皿と、以前ここに入っていたであろう者が残した物。
臭うぼろぼろの衣類の様だが、それを身につけようという気にならない。
天井には一切の光の差し込み口は無く視界を補う光と言えば、牢の鉄柵の向こうにいる門番であろう兵士の机に差し込む太陽光と壁に気持ち程度掛けられた蝋燭の火の灯りだけである。
「ふぅ〜…」
牢の中にある堅いベッドに身体を横たえると、俺は少し考える。
……大きかったな、あの子の胸。
俺があの金髪女性の胸を触ってしまったから大凡2週間程過ぎただろうか。
―――
あの時拘束から1日程までは色々状況を考える気力も残っていたが、最低限しか与えられない食事や水分、それに加え兵士達の無言の圧力。
手は出すなと言われていたのだろうか最後まで直接何かされる事はなかったが、寝る事も躊躇われるほどの殺気が四六時中自分に向けられているは、正直手を出された方がマシだと思える感覚だった。
そんな視線にさらされた俺は、3日後には決して多くもない食事ですら満足に取ることも出来ない程心身が衰弱し自らの事を考える事は無くなっていた。
思うのは「(どうしてこんな事に…)」、こればかりである。
兵士に引きずられ無意識に歩みは進めるが、それでも弱っている身体は上手く動く事が出来ず、躓いて(つまず)は兵士から罵倒を浴びながら立たされ再び歩かされる行為を繰り返す1日。
そんな重苦しい1日を繰り返すことしばらく、集団は石造りの大きな門の前に到着する。
兵士が門の側にある詰め所に入りしばらくすると、集団は門を潜り門の中に広がる大きな城下町へと入っていく。
門のすぐ前には大きな湖とそれを跨ぐ(また)橋が架かっており、橋を越えた先は石造りの様々な民家と人々で賑わう商店がお城へと続く道を大きく空けて綺麗に立ち並んでいる。
中央通りの大きな道を俺を連れた集団はゆっくり歩き、その先にある立派な城を目指す。
城へとたどり着き城門を超えると、俺は別の兵士に連れられ城から少し離れた石造りの丸い塔へと入り地下へと進む丸階段を降りると、今俺がいるこの牢屋へと放り込まれた。
それからは出される食事と睡眠を繰り返されるだけの数日が続き今に至る。
―――。
「…どうなるんだろ、俺」
やっぱり死刑かな〜と思う。
ここの居心地は勿論良いとは言えた物ではないが、兵士達の圧力を直ぐ側で受けながら過ごす数日間に比べると桁違いに快適な生活だった。
食事も時間は決まっている様だが、ここに至るまでの道中での食事とは量も質も違った。
牢に入れられて2日程経った時に、数人の兵士と何かの官職の人なのか上等そうなマントを着けた人が俺の所に来て、俺の名前の確認と簡単な質問をしただけでそれ以上のアクションもなかった。
「俺には何も聞くことは無いって事なんだろうなぁ」
偶々とはいえ、兵士達の前で女性の鎧を剥いだあげく乳房を揉みしだいたんだもんな。
兵士が守っていた位だし、結構良い家の出の子だったんだなと思う。
ただ、暗殺者としては扱われていないと言う事は、あの子が弁明してくれたんだろうか。
「そういえば名前って聞いて無かったな…」
「誰の名前を聞いて無かったんだぁ?」
男の声が牢屋のある地下に響く。
「あれ、起きてたの?」
響いた声、隣の牢にいる声の主に俺は言葉を返す。
「当たり前だろうぉ、こんな汚ねぇベッドでぐっすり寝てられっかよ」
「そう?俺は結構居心地良いんだけど、この部屋」
「俺にゃぁ向いてないってこったな!」
豪快な笑い声と独特な喋り方の声の主ダウドは、壁に空けられた穴からこちらをのぞき見る。
俺も横たえていた身体を起こし、相手と視線を合わせるようベッドの上に座り直し穴の方を見て笑う。
「ここに来る前は本当に大変だったんだから…」
「ちげぇねぇ!」
再びガハハ!と笑うダウドのその身体は人間とは少し違う。
年齢は人間で例えるなら30歳程らしいが、その顔には髭が頭髪から繋がる程に伸ばされている為にもう少し年月を生きているようにも見える。
本人曰く普段なら綺麗に手入れをするのだが、こんな所にいる為手入れがままならないと言うことだ。
そして人間とは明らかに違う耳、顔の横にあるはずの耳は頭の上、まるで犬の様な容で耳が機能している。
ウォーウルフという種族らしい、ボロボロになった獣皮の軽鎧から見えるその身体は鍛え抜かれたプロレスラーの様にゴツゴツとした身体である。
『俺ぁ、ふらふら旅をしながら色んな所ぉ見るのが好きなんだぁ』
彼の言葉その通りダウドは様々な町や村を転々と生きていたが、ある時立ち寄った村で起きた大量虐殺の事件の犯人として捕まってしまい、俺がここに来る前から牢屋に放り込まれ刑が決まるのを待つ身の様だった。
そんな所に彼とは違えど、似たように牢へ連行される迄の間兵士から散々な扱いを受けた俺が牢に入ると
、似た境遇の2人はしばらくするとあっという間に仲良く打ち解けてた。
そして何よりも俺がこうして落ち着いていられるのは、彼が同じく牢屋に入っていてくれたからに他ならない。
事の経緯を打ち明けた俺に、この世界の事をたくさん教えてくれた。
(元の世界、俺がいた世界の事はまだ伏せて置いたが…)
俺がいた世界とは違うという事、人間以外の種族も存在する事、魔族と悪魔が存在する事、魔法が使える者がいる、王族貴族等の官僚階級がある事等、そしてこの世界の生活や風習等、俺が知るよしもないこの世界の常識という物を1から俺に教えてくれた者である。
「そういえばダウドって力強いんだよね?」
「あたりめぇーだろう!、俺ぁ誰だと思ってる」
「はは、ウォーウルフでしょ、知ってるよ」
「本当ならなぁ、こんな牢屋なんてぶっ壊してやりてぇ所だが、逃げたんじゃぁ意味がねーからなぁ!」
ダウドは笑みを絶やさずに、言葉を続ける。
「俺ぁ意味も無く殺しなんてしねぇって、この国の奴らに教えてやらぁ!」
こういった彼の性格も幸いし、違う世界に来てしまったんだと事実に混乱しそうな中でもダウドと笑い話をする事ができる。
そんな事が今は何より楽しかったりもした。
「そっか〜、ダウドと協力すればここから抜け出せるかなと思ったんだけど」
「弱っちぃ、お前を担いで(かつ)けってか?そりゃないぜぇ」
「そうなんだよなぁ〜、俺、弱いからな〜」
人間の枠に外れない一般的な腕力等しか持ち合わせていない、世界が違うけど。
「でもよぉ、俺ぁお前からなんかちけぇもんを感じるぞ」
「それってつまり?」
「お前も魔族とかじゃぁ、ねーのかってな」
「ないない、それはない」
「ガハハ!、そりゃぁそうだ!」
ただの興味本位だったのかそれ以上聞いてくる事は無く、ダウドは話を戻す。
「そういやぁ、結局誰の名前を聞いてなかったんだぁ?」
「いや、気のせいだったよ。ダウドの名前を一瞬忘れちゃってさ」
「そりゃひでぇ〜な!」
2人して笑い話に浸っていると、地下へと続く丸階段を誰かが降りてくる複数の足音が不協和音の様に響き楽しかった会話が途切れる。
「誰かぁ来たみてぇだな」
「そうみたいだね」
「俺たちぁどっちかの迎えだったりしてなぁ」
「そうで無い事を祈りたいね」
足跡の主は俺の牢の前で立ち止まる。
「お主が、ケータか」
「たまげたなぁ、こりゃ」
横の牢のダウドは驚きの声を上げている。
声の主が俺の牢の前に立つと、側に従う監視員とお付きの兵士数名は頭を垂れ声の主である男性の言葉を待つ。
見るのも勿体ない程上等そうな装飾とマントに身を包んだ声主の男性は、優しそうな表情に似合った優しい声音に少しの凄味を忍ばせて俺に言葉を投げかける。
「お主が、ケータかと、聞いている。」
直ぐに応答がなかった俺に何処かで聞いた事のある言葉の切り方で、再度問いながら牢の前の高価な男性は俺を見る。
「…は、はい。そうですけど…」
「お前、王様に目ぇ付けられる様な事したのかぁ!?」
(お、王様っ!?)
ダウドの言葉に座っていた腰を思わず上げ、鉄柵の前にいる男性を凝視する。
高そうな衣類に宝石であろう装飾に身を包み、大きなマントを羽織ったその姿は確かに何処か王のイメージに似ている気がした。
「牢の石戸を開けよ!」
「し、しかし…この者は…」
「よい、開けよ!」
「は、はっ!」
王の言葉で、側に控えていたローブを着込んだ兵士の1人が何やら呪文の様な言葉を小さく発すると、出入り口の無かった牢の鉄柵が天井へと吊り上がり王様と俺を隔てる障害物が無くなる。
周りの兵士達は万が一を想定してか、短剣を腰の鞘から抜き構えている。
そんな中王様は静かな足取りで俺との距離を詰めると再び口を開いた。
「これは娘への行為に対する我からの鉄槌である!!!」
言葉と同時に掲げられ、振り下ろされた拳は寸分違わずに俺の顔面を殴打する。
「っ、ぐがぁっ!!?」
唐突で思いもよらぬ衝撃に不格好な声を上げて吹き飛び、壁に背中を叩きつけられそのまま床に転がる。
「お前、大丈夫かぁ!?」
ダウドが心配の声を上げるが、余りの顔の痛みに俺は声を上げる事が出来なかった。
そして床には、壁に当たった衝撃か、床に転がった為かズボンのポケットに入っていた物が散らばる。
「うむ。娘がお主は暗殺者では無いと強く申す故、疑惑の件については蓋をしよう」
しかし、と。
「我が娘アイリへの傍若無人な振る舞いを父として許すわけにはいかぬ!」
またしかし、と。
「我も極刑は好きでは無い、娘もそれを望んではおらぬ故、この拳でお咎め無しとしたい所ではあるが、それでは周りが納得せぬ故許せ。ただし先の拳は王としてでは無く、1人の父としての怒りと思へよ!」
まだ顔と背中に広がる痛みに耐える俺に王様はゆっくりと続ける。
「明日の夕刻時にお主を死刑とするものとする。正し、公にすることは無いと約束しよう」
「陛下!それでは皆が納得しますか!?」
側に控えていたマントを着た官職が高そうな男が、王に食ってかかる。
「この者は、我らの国の宝でもある姫に辱めを働いたのですぞ!これは陛下の国を侮辱したも同然の行為です!」
それを聞いた王様は…。
「ゆかぬ!」
牢屋に響き渡る大きな声で兵士の言葉をかき消した。
「この者は暗殺者では無い、娘に手を出したのも悪魔の仕業であろう。我がそう申しているのだ、それでよいであろう!」
「し、しかし――」
「元々我は刑とは云え、人を殺める様な事はしたくないのだ。ハイル宰相、お主が騒ぎ立てる為の処置でもあるのだ!」
「いえ、私は…」
ハイル宰相と呼ばれた官職の高そうなマントの男はそれでも面白くなさそうな顔をする。
「それともお主は我のみならず、娘の言葉も聞けぬと申すか。」
王様は凄味を聞かせた声音と強い意志の藍色の瞳でハイル宰相を射抜く。
「…い、いえ差し出がましい申し出を致しました。私もこの国に仕える者の1人、少々熱が入ってしまいました…」
これ以上の発言は通らないと観念したのか、面白くなさそうな表情を無理矢理整え、謝罪する宰相。
「うむ、後の事はよろしく頼んだぞ」
「は、はっ!」
宰相から続くようにその場にいた数名の兵士が礼をし、それを聞いた王様が牢の外に出ようとした時だった。
「ん、これは……」
痛みと戦い会話に入ることが出来ずに死刑の話が勝手に進んでいたので、待ったの声を上げる為に視線を床から前の人物に上げようとした時、自分も床に散らばるそれに気づく。
「あ、これって…」
「これは、丸い…薬…か?」
王様は足で踏んでしまっていたそれを拾い上げる。
丸くて可愛いデザインの袋にラッピングされた小さな飴玉を。
(え?何でアメ玉が!?)
俺は心の中で仰天しながら自分のズボンのポケットの深い所をズボンの上から触ってみる。
そこには確かに感触があった、最後に食べたお菓子の感触が。
「そういえば、俺…」
青白い光に包まれる前の事を少し思い出すと、確かに俺はポケットへと幾つかの小さい駄菓子を突っ込んでいた。
「お主、これはなんだ」
「え、え〜っと…」
王様を床に転がったまま同様に驚いている俺に背を向けたまま。
王様が拾い上げた事で周りも気がついたのか兵士達、宰相を除いてそれを拾い上げる。
兵士は皆口々に『これはなんだ』と未知の物を興味深く見ている。
「なんだと申している、答えよ。」
「あ、甘くて美味しい食べ物です…」
何て答えれば良いか分からない俺はゆっくりと起き上がりながらそう答える。
「…甘い食す物だと…」
王様は再び見慣れない袋詰めの丸い球体を凝視する。
「陛下!真に受けてはなりませぬ、間違っても口にせぬように!」
そこへ宰相は危険と判断したのか、小さい球体を王様の手から取り上げようとするが王様はそれを許さなかった。
「陛下!?」
「まぁ待つのだ、我も死にとうはない。……ふむ少し予定を変更しようではないか」
王様は背中を向けていた俺に再び向き直り、凄味のある表情に少しだけ笑みを浮かべて若干楽しそうに言葉を続けた。
「お主、今から死刑に挑んでみようとは思わぬか」
「………へ?」
王様からの突拍子もない問いに、俺は間抜けな声を出す事しかできなかった……。
次回こそ死刑回のはず…
もっと早く書けたらと思う近頃。。。