その1 大黒玄太という天敵
今回から第二部です。
私は天道友美。14才。
色白、小柄、長い黒髪でロリコンの心を掴むために生まれてきた人造人間です。
得意技はルービックキューブ。
Vこと荒川武威ちゃまに助けれて、両親の仇であるイケメン爆滅団と死闘を演じたけど、Vちゃまの活躍により、みごと私たちは勝利しました。
あれから三ヶ月しか立っていないけど、もう随分昔の出来事のような気がする。
実は私、今目を覚ましたところ。
前は一人で寝て、ひとりで起きる生活を続けていた私だけど、最近は私って根は寂しがり屋だったのかもしれないと思う。
だって今日も目を覚ました時、隣のベッドで芽衣が小さく丸まって寝ているのを見て、ちょっとホッとしたから。
この歌田芽衣はエスパーとして改造されて、殺し合いの世界で戦い続けてきたのに、すっごく良い娘です。
まだ寝ている芽衣を起こさないようにリビングに行くと、Vちゃまと冬美お姉ちゃまが、武道の技で遊んでた。
お姉ちゃまは、みんなから何を考えている分からないってよく言われるの。
言葉がたらないし、無愛想だし。
少しウェーブのかかったショートカットの髪は、タブン洗いざらしで放置しているからウェーブがかかっているんだと思う。
時々ドライヤーを掛けてもらうと真っ直ぐになっているから。
そんなお姉ちゃまとVちゃまは、腕を掴まれた状態からどうやって反撃するかの技を掛け合って遊んでいるみたい。
お姉ちゃまもVちゃまも170cmくらいの身長だから、技が掛けやすいのかな。
この二人が気が合うというのは、私にとっては意外というかなんというか・・・・
絶対お姉ちゃまがVちゃまと距離をとると思ったのに、今は生まれたてのヒヨコが親鳥を追いかけるみたいにVちゃまの後ろをついていきながら、時々唐突に変な会話をしているみたい。
この間も、トイレに入っているVちゃまにドア越しに『いま急に火事になったらどうします?』とか話しかけてたし。
私から見ても、お姉ちゃまが何を期待して会話をしているのか分からないけど、Vちゃまはいつも根気よく会話に付き合っています。
そんなVちゃまだから、お姉ちゃまは心を開いて、ちょこちょことついて歩いているのかも。
そんな事を考えながら二人を見ていると、Vちゃまは私を見つけてニコリとしてくれた。
「おはよう、友美ちゃん。今日は早起きだな。」
「おはようございます、Vさん。お姉ちゃまもおはよう。」
お姉ちゃまにもおはようを言った私に、眉毛だけ少し下げて、小さく手を上げた。
お姉ちゃまは、気分が乗らないと口を開かないので無表情で何を考えているか分かりにくいです。でも、急に宝塚の男役のようなしゃべり方で社交的になったりする。接し方が難しい人です。
今は口を開くのが面倒な気分みたい。
で、お姉ちゃまはすぐに、急にVちゃまの腕を掴み「これでどうよ」みたいな挑発的な表情をする。
・・・お姉ちゃま、何がしたいか分からないよ。何か言えばいいのに。
でもVちゃまは、そんなお姉ちゃまの言いたいことが理解できるのか
「甘いな、そんな極め方では俺は止まらないぜ。」
というなり、腕を動かしてお姉ちゃまをカクンと前のめりにしてしまった。
そこからすばやくお姉ちゃまの両腕を掴むとVちゃまは
「こんどは冬美の番な。これは逃げられないだろう。」
と言って楽しそうだな。
お姉ちゃまもそこから逃げようとするけど、Vちゃまがうまく力をいなしてお姉ちゃまに力を入れさせないようにして逃がさない。
お姉ちゃまは無言だけど、Vちゃまの掴みから逃げるためにイロイロやってる表情は楽しそうに見えます。
いいな、私も割って入りたいな。
でも武道に関しては割って入れないんですよね。
あの二人のレベルが高すぎて、私が割って入ると明らかに二人の表情が「ハイハイ、わかったから邪魔しないでね」って感じになるし。
でも少しずつ覚えて、そのうち「おお、友美ちゃんすげえよ」とか言わせてやるんだから。
そこに房代さんが現れました。
「あら、今日はみんな早いですね、今すぐ朝食を作りますから待っていてください。」
そういいながら、キッチンに入っていく。
田島房代さんは、私の乳母だったのですがお母ちゃまの妹、つまり叔母ちゃまでもあります。
私のもう一人のお母ちゃまです。
アゴで切りそろえた髪の毛をサラサラ揺らして歩く姿は、私が見ても美人さんだ。
そこに芽衣が目をこすりながら起きてきた。
「Vっち、友美っち、冬姉、房代さん、おはよう。あ、房代さん、朝食作るの手伝うよ。」
そう言いながら、キッチンに入っていく。
いい娘だ、芽衣。
Vちゃまもキッチンに手伝いに行こうとしたけど、いきなり殴りかかってくるお姉ちゃまに邪魔されて足止めされてますね。
あのお姉ちゃまの殴りかかり方は「今度はパンチで遊ぼう」って意味だと思う。
Vちゃまもそれを一瞬で理解したのか「しょうがないな」という表情をして
「俺の受けは柔らかいぜ!」
とか言いながら、楽しそうにお姉ちゃまのパンチをさらりと受け流して、反撃をいれている。
この二人の関係は、なんかよく分からないです。
でも楽しそう。羨ましいな
こんな感じの光景が最近の朝の日常です。
―――
朝食の後、私はVちゃまに聞いてみた。
「そういえば、Vさんて彼女居ない暦ってどのくらいなんですか?」
「うぐ・・・。友美さん、人には聞いていいこと悪いことがあるんだぞ。そこのところを良く考えてから聞かないと駄目だぞ。」
そう言いながら、Vちゃまは少し不機嫌そうに食後のコーヒーを飲む。
ああ、やっぱり彼女いたことないんだ。
そう思っていると、一緒にコーヒーを飲んでいた房代さんが楽しそうにVちゃまの肩をパシパシ叩いた。
「駄目ですよ友美様、Vさんに彼女がいるわけないんですから、そんな事聞いたらVさんがかわいそうじゃないですか。ふふふ。」
そう言いながら「ねえ」とVちゃまに微笑みかける。
「げ、房代さんまでひっどいな。いいの、俺は彼女が居ないんじゃなくて作らないだけなんだから」
そう言いながら、ちょっとふてくされながらVちゃまは、グビグビとコーヒーを飲むのでした。
たしかにVちゃまは、どちらかといえば不細工かもしれないけど、そんな事は関係なく思えるくら素敵な人です。
現に、私にさえ心の距離を置いている房代さんが、こんなに楽しそうにVちゃまをからかうんだもん、私も驚きました。
Vちゃまはそういう風に、人の心を開く素敵な人なのです。
すると、冬美お姉ちゃまが、さっきとは別人のようにハキハキとした感じになっていた。
「いいのさ、Vさんは一生私達の家政夫さんなんだから、彼女なんて邪魔なだけさ。そうでしょVさん。」
気分が乗ると、お姉ちゃまの話し方は宝塚の男役の人みたいな感じです。
「冬美まで!もう、いいよ俺は一生彼女なんて作らないよ。彼女が出来ないんじゃない、作らないんだ。そこを勘違いするなよ!」
Vさんは、そう言って怒った口を尖らせちゃった。
でも目が怒ってないので私達も安心してからかえます。
もっと、からかっちゃおうかな。
そこで、呼び鈴が鳴りました。
ピンポン
芽衣が小走りに玄関に向かう。
玄関を開けた音がすると、芽衣が急に叫んだ。
「げ、豚太じゃん!何しに来たのさ!」
『豚太』というのは芽衣が大黒玄太というVさんの友達につけたあだ名。
玄太が太った秋葉系の気キモオタだから、豚太と呼んでけ嫌っているの。
私も玄太はキモいから苦手。
するとVちゃまは立ち上がり玄関に向った。
「あ、玄太クン。じゃあ俺の部屋に行こうか。」
そう言って、玄太を手招きする。
玄太はキモい笑いを浮かべながら房代さんや私達に挨拶しながらリビングに入ってきました。
すると房代さんがパタパタと居間のテーブルを片付ける。
「Vさん、あの新しい装備を見せびらかすために大黒さんをお呼びしたのでしょ。でしたら自室に行くよりも、ここでお店を広げたほうがよろしいのでは?。大黒さんもそちらにお座りになってください。」
そう言って、お茶とお菓子の用意にキッチンに行ってしまった。
「それもそうだな。玄太クン、今もって来るからそこに座って待ってて。」
Vちゃまもそういうと、お部屋に行ってしまった。
「ほふほふ、それでは失礼します。」
玄太は二人座れるソファーを一人がけのように座る。
デカ太い。
身長が180以上ありそうなのに、まるでまん丸に太ってる。
ソファーが壊れちゃうよ。
芽衣と私は明らかに嫌がりながら豚太を監視した。
「余計なもの触らないでよ、豚太。」
そう言いながら、ちょっと離れます、だって玄太はキモいんですもの。
そこに房代さんがお茶とお菓子を持ってきた。
「友美様は、どうして大黒さんにはそんなに手厳しいのですか?。そこのラーメン屋の西遊軒の店長も太ってますが、嫌そうにはしませんのに。」
「何いっているんですか、房代さん。西遊軒の店長は男らしい人だから太っててもカテゴリーは『かっぷくがいい』なんです。でも豚太はキモいからカテゴリー『デブ』なんです。だから嫌なんです。」
芽衣も「そうそう、そういう事ですよ」と私に同意してくれている。
房代さんは玄太に申し訳なさそうに眉を下げる。
「申し訳ございません。この年代の子は気難しくてご不快な思いをさせてしまいまして申し訳ありません。なんと言っていいやら」
そう言いながら、玄太の前にお茶を差し出した。
でも玄太は嬉しそうに顔の汗を拭ぬぐう。
「いえいえ、こちらこそ女性ばかりの宅にお邪魔してすいません。こんないい香りのお部屋に来て美人とお話してるので緊張してしまいます。ほふほふ。」
キモい!玄太キモいよ!
そこにガチャガチャと沢山機械を持ったVちゃまが戻ってきた。
「玄太クン、これが新しい装備なんだよ。」
そう言いながら、Vちゃまはうれしそうに、床に新しい装備を並べ始めました。
Vちゃまは、この玄太にはイケメンスイッチのことや『ペルシアの華』の事を話してあるんだけど、ほかには家族にも伝えてないみたい。
会社も辞めてしまったし。
だから、こういう新装備とかを見せびらかす相手は玄太しかいないのです。
だから私は我慢しなくちゃ。
芽衣もVちゃまが楽しそうだから我慢しなくちゃって言っていたもの。私も我慢しなくちゃ。
いくら玄太が嫌だといっても、女の人を連れ込まれるよりはほんのちょっとだけマシだもの。そう思えば我慢できます。
装備を並べ終えたVちゃまは楽しそうに説明を始めます。
「玄太クン、今度のはすごんだぞ。たとえばコレは普通の人のESPを増幅させて電話のように通信する装置なんだ、コレがあれば距離も電話代も関係ないという優れものさ。強相関電子系のイノベーション4という技術と、ヘリウム3の技術を応用した高効率電池と低付加回路の相互効果で。3年は充電がいらない通信機なんだぜ。でコレが・・・。」
Vちゃまの説明に、玄太はすごい興味津々に聞き入っている。
たぶんこの二人は、興味を持つポイントが似ているんです。
だから、このVちゃまのわけの分からない説明を楽しく聞ける玄太は、Vちゃまにとっては貴重な理解者なんだよね。
それが分かっているから、私達は玄太を受け入れるしかない・・・・。
そこに冬美お姉ちゃまが、キッチンからアイスを咥えながら居間に来た。
来るなり、何も言わずにいきなり玄太を蹴る。
ドガ!
蹴ってから、アイスを手に持った。
「うちはいつから養豚場になったんだ?Vさんの趣味の悪さにはあきれますよ。」
そう言って、Vちゃまの後ろにペタリと座る。
あ、Vちゃま、玄太に謝ってる。
けど、何故か玄太は「女子の生キックはむしろご褒美だから」とかうれしそうに言ってるし。
キモいですよ。でも我慢です私。
するとVちゃまは、お姉ちゃまに意外なことを教えてた。
「冬美、そうは言うけど玄太クンはお前の好きな武道家なんだぞ。」
お姉ちゃまは玄太をジロジロ見ている。
「これがですか?嘘でしょ。だってデブだよ。」
ズバリ言い放つ。ナイスお姉ちゃま。
でもVちゃまはさらに驚くような爆弾発言をした。
「太っているのは武器でもあるんだぞ。それに玄太クンは俺が10人くらいで襲いかかっても倒せないほど強いんだから。」
それを聞いて、お姉ちゃまはいきなりキレた。
私もキレたけど、お姉ちゃまは凄いキレたのです。
手に持っていたアイスを勢いよく床に叩きつける。・・・あ、それはダメだよお姉ちゃま。
「Vさんより強いなんて有る訳ない!Vさんが最強だ!今すぐ私がこいつを叩きのめして、Vさんのほうが強いことを証明してやります!」
そういうと、Vちゃまが止めるまもなく玄太の顔に飛び込むように膝を放った。
ボヨヨーン
お姉ちゃまの全力の膝蹴りをくらった玄太の顔が、不思議な波打ちをしたのが見えた。
でも玄太はまったく微動だにせず。
手に持っているお茶すら揺れない。
うそ・・・何が起きたの?
そして玄太から出た言葉は屈辱的だった。
「うわあ、女の子の生膝だよ。今日はすごくいいひだよ。ほうほう。」
なに?なんで?お姉ちゃまの膝蹴りでビクともしないですって?
うそでしょ。
お姉ちゃまの膝蹴りは、人を殺せるレベルなのにビクともしないなってありえないでしょ。
Vちゃまは満足そうに玄太の肩を叩いた。
「さすが玄太だ、なんともないぜ。」
そういうと、玄太もうれしそうにVちゃまの肩を叩く。
「デブとはちがうのだよデブとは。」
二人わははと笑いあうのでした。
なるほど、さすがはVちゃまが親友と呼ぶだけはある。
ただのキモオタではない。
玄太は強いキモオタだったのです。
お読みくださりありがとうございます。




