その50 俺、生きて帰れたら結婚するんだ。
戦闘が始まって2時間ほどたった。
「よし、味方を10階まで後退させろ。」
俺は対麻薬組織戦では、いつもこうやって指示をすることで戦っていた。
俺の指示で敵も味方も死ぬ。
部隊に居た頃でも、俺も銃撃戦に参加することはあったが、それは最後の追い込み直前だ。
だから、実はこういう部隊戦になると俺は強い。
また部隊を指揮をする日が来るとは思わなかったが。
屋外チームは、見事に大型武器を持った連中を素早く見つけつぶし続けた。
一番怖いのは、ホテルそのものを破壊されてしまうことだから、外の大型武器の殲滅は最重要事項だ。
エスパー部隊には、予知や索敵に優れたタイプも居るので、先読みするようにたたけてめちゃくちゃ有利に潰してくれている。
エスパー部隊と俺が戦ったとき、こうやって、それぞれの特性を生かして攻められていたら、勝利はできなかったろう。
指揮官が無能という事がどれほどの罪か、このエスパー部隊の活躍をみれば一目瞭然だ。
おれは頃合だと思い、友美に言う。
「友美、緑面のスイッチだ。」
言われて友美は1秒ほどでルービックキューブ状のイケメンスイッチの緑面を合わせた。
緑の面からニューとスイッチが出てくる。
スイッチには「イメージ」と書いてあった。
このスイッチは、想像しただけでその想像に該当するイケメンを爆破するスイッチである。
そこで俺は金子に確認を飛ばす。
「金子、現在味方は1~9階にはいないな。現在の9階までの侵入人数は分かるか?」
すこしして金子は
「戦況分析システムによると、敵戦死は52名。1~9階に侵入している人数は803人。ウチの兵隊は10階以上にしかいません。」
おれは金子とチャンに伝える。
「各員に伝えろ。いまからイケメンスイッチを使う。死にたくないやつは指示があるまで1階から9階には近づくな。」
そしてチャンをそばに呼んだ。
「チャン、もしも怒ったら断ってくれても良いんだが・・・、その・・・。」
チャンは悟ったような顔をして俺に返事をした。
「わたしに死ねいうですか?いいですよ、イケメンマスタのために死ぬは本望。なんでも言いつけてください。」
だが俺はきまづい感じで返した。
「いや、そうじゃなくて・・・その、チャンはイケメンスイッチを押す係りをしてみる気はある?ここのホテルの1階から9階までの各階に集中して計9回スイッチを使う。そのためにわざと敵をホテルに誘い入れた。だからその・・・スイッチャーを頼まれてくれないかな。」
つまり、ここでお前が一番不細工だから、イケメンスイッチを使ってと頼んでいるのだ。
怒られてもしょうがない話だ。
だが、チャンは手を震わせながら、目に涙を浮かべて俺に答えた。
「おおお、それは私をそこまで信じてくれているということか。私にスイッチャーの栄誉を与えてくれるですか。私にとって人生最大の名誉。感動です。」
そう言って、いきなり土下座するように膝を突いて俺にひれ伏せようとするので、おれは慌ててそれは止めた。
「チャンは、友美を助けるために命をなげうってくれた。だから信頼の証としてスイッチャーを頼む。宜しく頼む。」
と、適当なことを言ってチャンのテンションに合わせてみた。
チャンに向かって、嬉しそうにリンダが中国語で何か叫んでいる。
たぶん、『よかったね』とでも言ってるのだろう。
さすがに俺もちょっと心が痛む。信頼はもちろんしているけど、チャンが一番不細工だから頼んだのに。
俺は、イケメンスイッチの出現したスイッチをチャンに向けると言った。
「まずは1階だ。しっかりイメージしてやってくれ。」
チャンは頷くと、震える手でスイッチを入れた。
カチン
ドガアアアン
鉄筋コンクリートは振動はよく響かす。
20階に居ても、1階の爆音は届いた。
すぐに友美に俺はスイッチを渡す。
「友美、緑面だ。」
友美はまた1秒ほどで面を合わせ俺に渡す。
俺はそれをチャンに向ける
「頼む、次は2階だ。」
するとチャンは
「2階の敵は死ぬよろし!」
そういって、スイッチをいれた。
カチン
スイッチが入った瞬間
ドガアアアアアン
かなりの人数が爆発した。
それは9階分まで続けて俺は指示を出す。
「外に待機している中国部隊、突入して残存している敵を殲滅せよ。」
―――
センサーで戦況を把握しデーター化する。戦況分析システムによると、このホテル内だけで敵の死亡は863人。
ホテル近くで殺害された敵は204人。
取り逃がしたと思われる敵人数は19人。
それに対して、こちらの被害は
死亡は中国部隊の9人
負傷が全体で18人
圧倒的な勝利であった。
ホテルの通路のようなところに密集した敵には、イケメンスイッチは効果的だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。
近くにイケメンが居れば、不細工でも爆発に巻き込まれて怪我をする。ぴったりくっついていれば一緒に命を落とすことも充分考えられる。
外で待機していた部隊が突入すると、ホテルの中は真っ赤で内臓や死肉が絨毯のように敷き詰められていたそうだ。
数人生きている者はいたが、ほとんどが目や耳が機能を失っていたのでたやすく殺せたという。
それにして、こちらの被害が少ないのは嬉しい誤算だった。
エスパー部隊が屋上から上手く敵の動線をコントロールしてくれたり、必要に応じて不利な味方をバリアで守ってくれたのが大きかった。
いやほんと、なんでこんな優秀な部隊が俺一人に負けたの?
ありえないよ。
敵の指揮官が無能だったという俺の運のよさに感謝だな。
そして今おれは、本部を襲撃した夏子から電話で報告を受けている。
「あのですねえ、あんまり人が居なかったんですぐに占拠できましたよ。いまは調査部隊がこちらに向かっています。PCの情報とかも結構残っていたんで、残存人員もすぐに追えそうです。」
今頃、各国支部の連中は怒っているだろうな。
集められた精鋭たちが実はおとりだったんだから。
まあ、情報管理もできないでスパイを腹に抱えた各国の支部が悪いんだ。そこはしょうがないとあきらめてもらおう。
で、
俺たちは、血みどろのホテルをチェックしながら降りてきて、今5階に居た。
勝利した後の詳細なチェックは重要だ。
だが今回は見た目も、血の生臭い匂いもグロすぎて辛い。
この光景はどうしても、渋谷での惨劇を思い出してしまう。
あの時は酷かった。地獄というのはこういう状況なのだろうと思えるほど。
その光景が今また俺の目の前にあらわれたのだ。
恐ろしい。こんな恐ろしいものを先代のイケメンマスターは、適当な感情で振り回していたのか。
そりゃあ、敵もうようよ出きるわけだ。
そう思いながら歩いていると、芽衣が急にゲロゲロと吐いた。
あ、いけない。芽衣は訓練された兵士ではなかったんだ。
ここまで我慢していたのだろう。悪い事してしまった・・・・
それに釣られるように、チャンやリンダ、金子たち護衛チームもゲロゲロ吐いた。
訓練された兵士でも辛かったのか・・・そうだよね。
うん、みんなスマン。俺って無神経だよね、ごめん。
平気な顔をして歩いていたのは、どうやら俺と友美だけだったらしい。
友美はすぐに芽衣に駆け寄る
「芽衣、大丈夫?はやくここから出よう。」
そういって芽衣の背中をさすってあげてる。
おれは全員に言った。
「あとのチェックは俺だけでやるから、みんなは外に出てていいよ。」
普段の金子たちだったら
『何言ってるんですか!自分らがやりますから!』
と食って掛かってくるのだが、今日はさすがに口を押さえて素直に下に降りて行った。
俺は降りる連中に背を向けると、一人でホテルの状態をチェックするために進む。
しばらくすると、後ろかペチャペチャの血の水溜りを小走りに俺を追ってくる足音が聞こえた。
敵か?
振り替え居ると、友美と芽衣だった。
「友美ちゃん、芽衣っち、二人も外に出ていな。無理はしないで良いよ。」
だが、友美にささえられた芽衣は真剣な顔である。
「もう全部吐いたから大丈夫だよ。Vっち一人でこんな気持ち悪いところに居させられないもん。こんな幽霊でも出てきそうな場所でも、みんなで居ればVっちも少しは楽でしょ。」
俺は、胸が詰まるような気持ちになった。
なんか、優しくされるのは慣れていないからどんな顔で答えていいかわからない。
だが、俺は無理してでも普通に返事をすることにした。
慣れない事をするのは、失敗の元だ。
「ありがとう。でも俺は幽霊とか信じていないから大丈夫だよ、人は死ぬと電気が切れたパソコンみたいにプツンて切れて終わると思ってるから。いままでたくさん人の死にに関ったのに、一度も幽霊にあったことないしね。むしろ幽霊が出たら死後の世界に希望が持てるから出会いたいくらいさ。だから、芽衣は無理しなくて良いよ。友美ちゃんも芽衣をつれて先に降りな。」
すると友美は困った顔で言った。
「だめですよ、こういう所での別行動は、一生の別れになる事だってあるんですから。こういう時だからこそ一緒にいないと駄目なんです。」
友美が何を言いたいのか俺には分かった。
もう、素直に二人の意思を受け入れることにした。
「ありがとう、それほど急がないから無理が来たらすぐに言うんだよ。」
そこで、急に俺の携帯電話が鳴った。
友美と芽衣は面白いくらいビクッとした。
超可愛い反応ではある。
おれはスピーカーモードにして電話に出る。夏子からだった。
スピーカーモードにしないと、また友美がギャーギャーいうから、まあしょうがない。
「夏子か?どうしたよ」
すると夏子は、いつもと同じのん気な声で
『大変なんですよ。いま爆滅団の本部のデータを調べていたらビックリンコなんです。彼らはイケメンスイッチから逃げられないという結論に達していたらしく、むしろ死後に戦う方法を模索していたらしいんです。死んだ後に悪霊となって戦う「鬼神の法」という修行をつんでいたようなんです。もしも彼らの死体が近くにあるようでしたら、念のため離れてくださいねえ。』
夏子がそう言ってるそばから、壁に無数の影のような手が見え始めた。
天井といわず床といわず、そこらじゅうから人の影のようなものが浮き始めていた。
俺は声を少し裏返しながら、夏子に答えた。
「今、860人の死体のど真ん中だよ。急いでそっち系の応援をこっち要請してくれ、・・・おい聞こえてるか?おい」
『プーーーーーー』
あう、知らないうちに電話切れてるじゃん。
俺は急いで電話の通話モードを切る。
しかし
すぐにオルゴールのような不気味な着信音が俺の携帯から流れです。
その着信音を聞いて、友美が絶叫した。
「着信アリの着信音とかやーめーてー!」
言うなり、伸ばした如意棒で俺の携帯を打ち壊してしまった。
バキ!
確かに『着信アリ』の着信音だが
じつはこれは房代さんからかかってきたときの着信音として設定しておいたものなんだよな。
壊すことないじゃないかと思うが、でもまあ、なんだ・・・・気持ちは分かるので許す。
言ってるそばから、どんどん壁から影が這い出てきている。
俺は二人に叫んだ。
「6階の結婚式場に移動だ!。」
「Vっち、まさかコレが終わったら友美っちと結婚とか言い出すの?。」
落ちつけ芽衣。
今は逃げることだけ考えろ。
お読みくださりありがとうございます。
あと一息で第1部完結です。




