その34 ダンディー天道秋彦
教主室に通されて現教主・天道秋彦を見たときに最初に思ったのは、出来る警察署長という印象だ。
高級スーツに身を包み、細身だが、鋭い眼光にオールバックのいでたちは、なかなか迫力がある。
俺と友美と芽衣の三人がソファーに座ると、夏子が飲み物を出してくれた。
秋彦さんは俺たちの前に座り、俺を射抜くような目で見ている。
「はじめまして。私が現教主の天道秋彦だ。気楽に秋彦と呼び捨ててくれて良いぞ、君はイケメンマスターだからね。正直言うと荒川君は友美とかなり固い絆で結ばれているという話だったから、私を避けると思っていたよ。」
俺も軽く頭を下げる。
「はじめまして。俺はイケメンスイッチはそちらの教団が命を懸けて守っていたのだと聞いている。だから俺がマスターになってしまった以上、挨拶するのは当然だと思ってるさ。むしろもっと早く来るべきだったと思っているくらいだ。」
おれは、一応は友美の機嫌を損ねないために、天道秋彦さんに横柄な態度を取ってみた。
秋彦さんは軽く頷くと
「なるほど、だが私に対して余り良い印象を持っていないのでは?。」
俺は首を横に振る。
「いや、むしろ逆さ。今回詳しく調べて秋彦さんを高く評価せざるえない。秋彦さんは先代が急死した教団を、友美と教主争いをしながら同時に建て直しも行った。実を言うと直情型の友美のお父さんよりも、俺と気が合うんじゃないかとすら思っているよ。」
隣で友美が怒った表情をしたのが分かった。
ま、無視しておこう。
そう思った次の瞬間、右肩口に鈍痛が走っった。友美さん・・・・噛み付いてきた。
無視も出来ないのか!
だが俺は、あえて気にしない様子で目の前のお茶を一口落ち着いて飲んで見せた。
秋彦さんは少し驚いた顔をしたが、また鉄火面のような表情に戻る。
「なるほど、先代のイケメンマスターとは随分違うようだな。」
俺は、飲み物を置く。
「かもね。タブン情報は耳に入っていると思うが、国持兵団研究所というところと、今面倒な事になっている。それで力を貸してもらえないかと思っているんだがどうだろうか?。」
秋彦さんは軽く頷く。
「ああ、話は聞いている。だが、あそことは11年前にすこし揉めて居てね。できたら再度の攻撃はしたく無いんだよ。」
俺は、口だけニッと笑った。
「もちろん、そのあたりの事は推理してある。あそこの研究所は35年ほど前に急に規模を拡大した。だから恐らくなんらかの理由で35年ほど前にペルシアの華と協力体制になったもではないだろうかと推理した。房代さんからペルシアの華の主治医や研究機関は、国持兵団研究所が一手に引き受けていた時代があったと聞いている。だが11年ほど前にイケメンマスターが攻撃を仕掛けたのだろう。だから研究所とは11年前から絶縁状態になった。そうではないのか?。」
秋彦さんはまた軽く驚いた顔をした。
「ほお、数日でそこまで調べたか。ならば我々があそこに攻撃をしたくない気持ちも分かるだろ。蒸し返したくないんだ。」
そこで友美が割って入ってきた。
「ほらVさん、この人たちはあてにならないんです。私達だけで戦いましょうよ。イケメンスイッチがあれば勝てますよ!。」
俺は、肩に噛み付いていた友美がやっと噛むのをやめてくれてホッとしつつ、ニコやかに小脇に抱えた。
ガシ!
そのまま持ち上げて出口に向う。
「ななな、なんですか!ちょっと、はーなーせー。はーなーせー。」
「友美ちゃん、今は大事な話しをしているんだ。うるさいから芽衣ちゃんと外に出て行きなさい。」
そういって、俺は友美を部屋の外に抱え出した。
芽衣は、俺と友美の周りを心配そうにうろうろしながら部屋の外まで着いてくる。
エアブレイカー夏子も都合よく一緒に外に出てきた、ラッキー。
俺は二人に言った。
「友美が中に入ってこないようにお願いする。本当に大事な話をするのに邪魔は困るんだ。いいね。」
俺はそう言って、廊下で友美をポイと投げ捨てる。
どさ
友美はお尻から落ちて痛がっているので、俺は素早くドアを閉めて鍵をかけた。
ふう疲れた。
再び俺はソファーに座る。友美が怒ってドアをガンガン蹴ってる音がするが気にしない。
その様子に秋彦さんは、驚いて俺に言う。
「友美が随分子供のような行動を取っているな。それに荒川君も遠慮が無いし、人間関係の距離はそうとう近いようだな。」
俺は軽く微笑んでみた。友美も居なくなったし、ここから敬語でいこうかな。
「まあ、なんとなく仲良くやってます。そうそう、先に一つ大事な事を言わないといけませんでした。俺はイケメンマスターとして周りに祭り上げられて、教主になる気はないし、友美にもそうなってほしくないと思ってます。」
唐突な俺の言葉に、秋彦さんはまた驚いたようだが、すぐに鉄仮面のような表情に戻る。
「ほお、それは面白いな。ココにきたと言う事は、てっきり友美と共に教主の座を奪いに来たのかと思っていたよ。」
俺は肩をすくめてみた。
「友美と引き離されなければ俺はそれでいい。それにペルシアの華はイケメンスイッチを守る教団なのでしょ。だったら俺が教主にならなくても俺たちを守ってくれるんだから、教主にならなくても一緒です。いや、組織運営の労力やリーダーの責任を負わない分、スイッチマスターと教主は別々のほうが良いと思いますね。スイッチマスターが教主だったら自分を守るために組織を動かすのは体面的にも難しいですし。」
秋彦さんは、俺の話しにまた驚いた顔をした。
・・・結構この人は油断すると感情が顔に出るタイプだな。
だから無理して鉄仮面を作るのだろうか。
「驚いた。本当に驚いたよ。荒川君は先代のイケメンマスターとは大違いだな。ははは、確かに私と同じような考え方をするようだ。」
俺は、そんな秋彦さんに遠慮なく言葉を続ける。
「イロイロな情報を集めてて俺が引っかかったのは、情報としての先代のイケメンマスターは英雄とは言えない直情型の男だったことです。
なのに若い連中は英雄視している。そこに違和感を感じて調べていたら、意外な結果を推理せざる得なりました。
秋彦さんは先代のイケメンマスターを本気で諌めた唯一の人だ。
だから俺はこう考えた。
イケメンマスターを英雄視して、おかしくなっていくペルシアの華のなかで、実は秋彦さんだけが『正常』だったのではと。
今話をしてみて俺は確信しましたよ。勢いだけのイケメンマスターが戦い続ける事が出来たのは、大会社の経営者のような感覚を持った秋彦さんが支えたからではとね。
そのあたりは先代イケメンマスターの活動は金子に調べてもらった資料でわかりました。先代はまったく資金調達の苦労をしていない。」
秋彦さんは目を見開き、大きく頷く。
「そこを見てくれてうれしいよ。私の苦労など兄さんは気にもしなかった。あの何でも爆発させれば良いと言う考えも乱暴だった。」
やや興奮してきた秋彦さんに対して俺は、できるだけ落ちついた声で言った。
「ええ、過去のスイッチマスターはスイッチを隠す事に努力したため、イケメンスイッチはめったに姿を現していません。だが先代になってから急に正義の名の下に多用され始めた。その結果『イケメン爆滅団』のような狂信集団を作ってしまったのではと思いました。」
秋彦は大きく頷く
「そのとおりだ。私もそのことについて何度も兄さんに諌言を繰り返したが、全く聞いてもらえなかった。その結果襲撃を受けて殺されてしまった。私はやるせなさのあまり、つい友美にいらぬ事を言って嫌われてしまったがね。それは私も心底反省しているんだよ。」
そう言いながら秋彦さんは目をつぶった。
俺は、良い頃合だと判断し、このプレゼンの締めに入る。
「俺たちは先代と同じミスはしてはいけないのです。だから俺は国持兵団研究所を金で囲い込みたいと思っています。力で言う事を聞かせるよりも、追々かならず良い方向に行くと思うのです。」
秋彦さんはその言葉に軽く眉をすくめると
「いや、それは難しいぞ、荒川君が調べたとおり研究所はイケメンスイッチの攻撃を受けている。しかもコチラに裏切られる形でだ。荒川君の考え方の方向性は悪くないが無理だと思う。」
「もちろん俺もそこまでは予想しています。だがあえての買収です。難しくてもやるしかない。意見が違うからという理由で簡単に人を爆発させていい道理は無いのですから。可能な限り非道な殺され方をした人たちの仲間に性をもって接するのは大事です。先代と違うんですから。罵られようが恨まれようが、限界まで誠意を持って接する必要があると思うんです。贖罪の為にも。」
すると秋彦さんはしばらく腕を組んで黙り込んだ。
もうちょっと説明の補足をしたかったが、今補足するのは蛇足だろう。
俺は、秋彦が口を開くのを辛抱強く待った。
2~3分ほど待って、秋彦さんは口を開く。
「わかった、最悪の場合は芽衣という少女を見捨てる事も考慮に入れるなら、無理を承知で我々も手伝おう。荒川君の手腕が見たい。」
俺は満面の笑みで右手を差し出した。
「ありがとう、頼りにさせてもらいます。」
秋彦さんは俺の手を力強く握ると言った。
「まかせてくれ。我々ペルシアの華は、新たなイケメンマスターのために力を尽くそう。」




