その2 無駄才能コンビ
俺は自分のオッサンゆえの限界を感じながら、逃げる少女を追う男達を追った。
走る一団との距離はだいたい200メートルくらいだろうか。
建物の多い渋谷では少しでも走る速度を落としたら見失ってしまいそうだ。
まじ・・・まじ疲れているんだら速度落としてくれないかな。
なんか息が切れて吐きそうになってきた。
、、、俺、もう諦めてもいいよね。
そんなこと思い始めていたら、逃げる少女は行き止まりに迷い込んでしまったようで、男達に追いつかれたのが見えた。
「追い詰めたぜ、さあ!そのスイッチをこっちによこせ」
不細工な男達は6人。
少女を壁に追い込むと、ジリジリと近づいていく。
少女は手に持った、小さい箱を守るように、強く抱きしめながら、怯える目で男達を見た。
少女は振り絞るように叫んだ
「お前達になんかに渡さない。これは私達の教団のモノなんです。お前達が教団からコレを奪いださなかったら、こんな悲劇は起きなかったですよ!。責任は感じないのですか!」
少女の叫びなど無視するように先頭の男は目を血走らせながらジリジリと近づきながら言った。
「どうせ死んだのはイケメンだけだ。俺たち『イケメン爆滅団』には好都合なことだ、スイッチを奪うついでにお前も俺たちの戦利品にしてやるぜ。」
「イヤアアア、向こうに行ってよ不細工変態!」
少女の絶叫がこだました。
しかしその時、男達の後ろから俺登場!!
「ハアハア、話は聞かせてもらったよ。ハアハア・・・・この騒ぎに乗じてて少女の持ち物を奪い、・・・さらには少女の体まで奪おうとは言語道断。ハアハア・・・逃げ帰るならば見逃すがどうするよ。」
カッコよく奴らにそう言い放ってやったぜ。
走ったので息が切れているが。
6人の不細工は一斉に俺を見ると
「うるっせい。邪魔するなら貴様もぶっ殺すぞ!」
そういうなり、俺に襲い掛かってきた。
ちょ、まって。おい、躊躇なしかよ。
もう少し口論してから暴力に訴えようぜ・・・俺、今猛烈に息切れしてるんだからさ。
だが、ちゃっかり反応した俺偉い。
俺はお尻のポケットに手をつっこむと、素早く金属製のボールペンを出す。
そして迷わず一番近くに居た男の目を突き刺した。
「ぎゃあああ、こいつ刺しやがった!」
目を指された男は、仰け反りながら倒れた。
この血まみれの世界の中での護身だ、小さいことに躊躇する気は無い。
俺は、目を刺されて倒れた男のアバラを踏み抜きながら、残った敵のほうを向く。
あと5人。
そこで俺は少し可笑しくなっってつい呟いてしまった
「まったく、平和な現代社会で会社勤めしていた俺にとって、武道の心得など無駄な才能の最たるものだと思っていたのにな。まさか使うときが来るとは思わなかったよ。」
そして素早く敵を待たずに踏み込んだ。
こちらに警戒して、様子を見てしまっていた5人に俺は先制攻撃をかけたのだ。
まず、立っている5人の中で一番近い奴を、素早く両手押しで後方にふっとばす。
これで吹っ飛ばされて倒れる奴に巻き込まれる形で、その後ろの奴らが分断された。
倒れた奴の右側に一人、左側に三人。
俺は迷わず右側に走りこみ、手刀を打ち込む。
しかし、敵はコレを受けた。
むむむ、こいつも武道の心得があるのか?
敵はまだ5人もいるのだから、こいつだけに時間をかけては一人だけ俺は不利になる。
時間をかけるわけには行かないから、そのまま次の技に変化した。
受けられた手を利用して、合気道のように相手の体重を崩し素早く相手の後方に回り込んだ。
「悪いね、急がないといけないからさ。」
相手の耳元でそうささやくと、一気にそいつの首をへし折った。
敵は俺の腕の中で急に重さを増し、どさりと地に倒れる。
自分でもココまで躊躇無く人の首を折るとは思わなかったので驚いた。
タブン、この血みどろの世界で感覚が麻痺しているんだろう。
残り4人。
俺が首を折ったヤツを離すと同時に敵は一斉に襲い掛かってこようとした。
俺は大きく回るように走り、壁に追い詰められた少女のところに走った。
そこなら後ろは壁で前方に集中できる。
近くまできて少女を改めてじっくり見る。
年は12~14歳位くらいだろうか。
白いワンピースを着ていて、日本人とは思えない色白。長い黒髪が人形のような印象を与える。身長は150くらいか。
アニメでも見かけないような美少女と言える顔立ちだった。
その少女がルービックキューブを大事そうに抱えて不安そうな顔で俺を見上げている。
う、ちょっとドキっとした。でも俺はロリコンじゃないから大人の対応をしなくては。
「大丈夫かい?俺は偶然君が逃げているところを見つけて追ってきたオッサンだ。俺が暴れているうちに早く逃げなさい。君が逃げたら俺もうまく逃げるから。」
少女はコチラを少し見つめると小声で言った
「助けてくれてありがとう。私は天道友美。あなたさっき自分の武道を無駄な才能っていってましたよね。」
俺は、敵から目をそらさずに答えた
「あはは、よく聞いていたね。そういえばそんな事を言ったかもな。武道の才能なんて無駄もいいところ。実際に今ままで使うことは無かったし。」
少女・天道友美ちゃんはその言葉を聞いて、何か一人で納得するように頷く動作をする。
そして俺の横で少女が何か決意するような目で俺を見たのが分かった。
「実は私も無駄な才能が有るんです。それはルービックキューブ。この才能だけは天才的なんですが、一生誰かの役に立てることは無いと思っていました。」
ここで敵がつっこんできたので、ペンで威嚇しつつ、蹴りで押し返した。
俺はこの状況で少女が何を言いたいのか分からなかった
「才能のことはいいよ、俺が無事なうちに早く走って逃げろ。やつらは俺がココで食い止める。走れるよね。」
しかし少女は逃げずに俺に話しかけてきた。
「私は、この才能のためにこのイケメンスイッチの番人に選ばれました。あ、イケメンスイッチっていうのは私が持ってるこのキューブの事なんですけど、このイケメンスイッチは面を揃えるとスイッチが出てきます。」
敵がまた踏み込んできたので、俺は敵の目を狙うようにペンを横なぎに振って威嚇する。
でも友美は遠慮なく話を続ける。
「このスイッチは男性が使うと使用者よりもイケメンの相手を爆発させることが出来る神秘の力があります。私ならこのパズルのようなイケメンスイッチの面を揃えるのは自由自在です。私は女なのでスイッチを使用することは出来ないのですが私がスイッチを出します。ですから、あなたはスイッチを使ってください、敵を倒してください。」
俺はこの少女が何を言ってるのか分からなかった。
そういえば会社の上司も、最近は娘と話が噛み合わないってボヤいてたな。
今ならその気持ちがわかるかも。
ここでまた敵が突っ込んできた。二人同時だ。
俺は咄嗟に一人はペンで足を刺し頭突きでふっとばし、もう一人は体当たりで吹っ飛ばした。
だがこの状況にお構いなく、少女は手に持ったルービックキューブをカチカチと数秒凄いスピードで回すと、あっというまに青の面をそろえてしまった。
するとルービックキューブからスイッチが出てきた。
スイッチには「意識できる範囲」と書かれていた。
少女はルービックキューブを俺に差し出しながら言った
「さあ使って下さい、他人のために危険を犯す、あなたを信じることにしました。」
ごめん、少しイラっときちゃった。美少女だけどこの状況じゃしょうがないよね。
「イケメンスイッチて・・・なにその妄想。そんなことよりも早く逃げるんだ。」
少女は俺の言葉に従う気は無いようで、さらに話を続ける
「この街の惨状を見てどう思いました?人間業ではないことくらいわかりますよね。街では妙に女性の生き残りが多かったことに気づきましたか?男だけが死に女性はだれも爆発していないんですそれをどう思うんですか?信じてください!」
どうやら俺は、バカに関わってしまったらしい。
しかしもう引けない。
「うるさい、とにかく今は走って逃げろ、話はソレからだ。」
少女は、さらに何か言おうとしたが、俺が信じないのを悟ったのかすぐに諦めた顔をして
「わかりました、でも後でハチ公前の交番まで来てください。そこで待ち合わせしましょう。」
おいおい、敵の前で待ち合わせ場所を言ってどうするんだよ・・・。
でもまあ、警察がいる前で無理は出来ないだろうから、それほど間違えた判断ともいえないのかな?
「わかったから俺が道を作るからすぐに走り出すんだぞ。」
息を整えた敵は俺たちにまた向ってきた。
俺は先頭のヤツの腰にタックルをかまし、そのままタックルしたヤツを浮かせて敵を全員巻き込むように押し倒した。
「いまだ走れ!」
「はい、必ず待ち合わせ場所に来てくださいね!」
そう言って、やっ少女友美は走り出した。
あわてて不細工な4人は起き上がり少女友美を追おうとしたが、当然俺はその前に立ちはだかった。
「おいおい、ここは通行止めだぞ。」