その26 遊園地という地獄
今日ほど死ぬかと思った日は無い。
なんだ、この絶叫マシーンとかいう愚かな乗り物は。
俺の隣で、友美はキャーキャー楽しそうだったが、俺は無理。マジで無理。
今日は友美の希望で遊園地に来た。
ここは地獄である。
そもそも、この絶叫マシーンとか言う乗り物の矛盾に、みんな気づいているのか?
どんなに高速に変な動きをしようとも、この絶叫マシーンが「絶対に安全」であれば絶対に怖いと思うことは無い。
つまり絶叫するはずも無い。
だが、安全に怖いなどは、ありえないと俺は考える。
俺はこの絶叫マシーンに乗るたびに「今回、俺が乗ってるときに限って壊れるんじゃないか?」という怖さで寿命が縮む思いをしているのだ。
繰り返すが、絶対安全なら俺は全く恐れない。
俺が怖いのはこんな適当なメンテナンスで日に何回も動かして、いつ壊れる分からないからだ。
こんな無茶な動きをする乗り物が、壊れないわけが無い。ソレが俺の主張だ。
つまり、絶叫マシーンは大嫌い!
朝一で来て、今はお昼の時間だが、はやくも6個も乗らされた。
失敗した。
どうせ来るなら、平日じゃなくて土曜に来ればよかった。
そしたら客が多くて乗り物待ちの列が長いだろうから、こんなに沢山乗らずにすんだだろうに。
もっと考えればよかったなあ。
そんな俺は今、焼きそばだのホットドックなどを大量に買うために食い物屋に並んでいた。
友美は休憩用の広場のテーブルで場所取りをしながら、パンフレットをにらんで次に乗る乗り物を考えている。
あ、イライラしてきた。
友美のせいでこんなに疲労しているのに、なぜ俺が友美のために昼飯買いに並ばないといけないんだ。
友美が並べよー。
遊園地ではカップルが喧嘩するって言うの、こういう時なのかな。
俺、モテた事無いから知らなかったけど、きっとこういう瞬間に言葉がきつくなって喧嘩になるんだ・・・。
そんな事を考えながら並んでいると、食べ物を運ぶために一緒に並んでいる、護衛チームのリーダ、金子孝良が細目で笑いながら声をかけてきた。
「しかしアレですな。イケメンマスターにもどこかに弱点が有るとは思とりましたが、乗りもんに弱いとは思いませんでしたわ。」
俺は疲れた目で金子を見る。
「昔から歩いてばっかりだからな、乗り物って大嫌いだったんだよ。遊園地って乗り物に乗りまくる場所だとは思ってなかったから油断したよ。」
金子はそんな疲れた俺を見て、ヒャッヒャと笑う。
「ほんまイケメンマスターは死を恐れない完璧超人かとおもっとりましたから、人間らいしいとこ見れて安心しましたわ。ええもん見せてもらいました。」
「金子・・・元気になったら後ろから殴る・・・。」
金子はまたヒャッヒャと笑うと
「おお怖い怖い。もっとも元気になったらイケメンマスターはお人好しに戻るやろから、心配してませんけどな。」
そういうと、ニコニコ俺の肩を叩く。
まあいいよ。
俺たちは食べ物を買って友美の居る席に戻ると、友美はこちらに目を向けることなく遊園地のパンフレットを睨んで悩んでいた。
「友美ちゃん・・・まじか?」
友美が食い物に目を向けないとは驚きだ。
俺は友美横に座ると、テーブルに買ってきた大量の食い物を置く。
「友美ちゃん、食い物大量に買ってきたぞ。パンフは後で見ることにしてお昼にしよう。」
しかし、友美はパンフから眼を放そうとせず、「うん」という生返事だけして真剣に睨んでいた。
すると金子は、ポンとおれの肩を叩く。
ふりかえると金子は気の抜けた顔をしていた。
「あの友美様が食べを無視してまで気合入ってますんや。相当楽しみだったんですよきっと。イケメンマスターも乗り物嫌いとか言わんと、もっと楽しそうに付き合わんと友美様が可愛想ですわ。」
俺は返す事言葉も無かった。
「う。そ、そうだけど・・・・いや、頑張ってみる。」
おれは「とほほ」という言葉はこういうときに言うのだと感じた。
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19時 地獄は終わった。
我ながら、よくもこの9時間を乗り越えたと思う。
俺の前を友美が、遊園地で買ったネズミっぽい帽子をグルグル振り回して、パレードのマーチを歌いながら嬉しそうに歩いている。
それをみると「まあ、しょうがないか」という気持ちになるから不思議だ。
世の父親は、みんな子供にせがまれてこの地獄を通るのだろうか。
そう思いながら、遊園地の出口に向かって歩いていると
バババン!
遠くからこの数日で、随分聞きなれた音が遠くで聞こえた。
銃声だ。
金子達が咄嗟にフォーネーションを組んだ。
しかし俺は、慌てずに小声で金子達に言う。
「こらこら、いかにもVIPが居ますみたいな対応はよくないね。信じられない事だけど、あれは俺達への攻撃では無いのは明らかだ。変な動きは敵の誤解を生み、いらない戦いを生むぞ。できるだけ普通を装って遊園地の外に急いで出よう。」
金子は俺に言われて、ハッとし、次に「まいった」と言いたげな顔をした。
「たしかにそうですわ。自分らが後ろで団子になって歩きますんで、イケメンマスターと友美様は銃声に気づかないフリをして進んでください。」
そんな金子に俺は言った
「大丈夫、みてみなよ。友美ちゃんは全然気づかずネズミ帽子を振り回して歩いているから。俺たちも普通に行こう。」
俺が言うと、全員が20メートルほど先を歩く友美の後姿を見た。
友美はまだテンション高く、パレードのマーチを歌いながら帽子を振り回している。
あの危険になれた友美が銃声に気づかないなんて、よほど楽しかったんだな。
考えたら、友達も居ないで先代のイケメンマスターについて危険の中を生きてきたなら、遊園地は初めだったのかもしれない。
いや、もしかすると一日遊ぶという事自体も初めてだったのか。
今日という日を、ただ楽しかった日で終わらせるためにも、俺達が頑張って友美には普通に帰宅してもらおうと思った。
次回はテンション高く行きます。




