その25 友美を守って死んだイケメンマスター
俺達は、銀座に来ていた。
服を買うために。
うっかり気づいていなかったけど、奥多摩を出てから三日間、俺も友美も全く着替えてない。
だからデパートで友美の服を揃えることにしたのだ。
本当は、もっと若者向けなオシャレなところで友美の服を買いたかったけど、渋谷、原宿、新宿方面はまだまだ復興していないので今回は銀座でいいだろう。
俺の着替えはもう買い揃えた。
けど、友美の方はまだまだ時間が掛かるだろう。
今日から新しく女性の護衛を補充してもらったので、彼女達に付き添ってもらって友美の着替えを購入してもらっているから。
なんか、女性護衛たちは「しっかり女の子らしい服装を揃えます!」と言って服を選びだしたので、相当吟味してるっぽいんだよね。
しょうがないので俺と金子は店の外でアイスを食べながらしゃべっている。
友美がいないと平和だなー。
そうだ、丁度いいから気になっていたことを聞いてみよう。
俺は隣でアイスを食べる金子に聞いてみた。
「なあ金子、丁度良いから聞いておきたいんだけど、イケメンスイッチや友美ちゃんと関る上で、最低限知っておかないといけない事とか、思いつくまま教えて欲しいんだけど。」
金子は少し考える。
「そうやねー。あ、では友美様の地雷的な話は知っておいた方がええかもしれませんな。」
「ほー、詳しく。」
言うと金子は急いでアイスを食い尽くす。
何をしているのかと一瞬分からなかったが、アイスを食い尽くすとこっちを向きなおした。
「ではお話させてもらいます。長くなりますが、我慢してくださいな。」
どうやら、アイスを食べながら気楽に聞く話ではないようだ。
俺が軽く頷くと金子は半年前の事件を語りだした。
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今から半年前。
ある孤島で激しい戦いがあった。
そこにあった秘密教団「ペルシアの華」の支部に「イケメン爆滅団」が総攻撃をかけてきたのだ。
戦いの理由は「ペルシアの華」が保有するイケメンスイッチを奪い取るため。
イケメンスイッチは神秘のスイッチで、使用者以上のイケメンを全て爆破させる事が出来る。
不細工な者がこのイケメンスイッチを手にすれば、この世のかなりの人数の男達は爆死する事になる。
そのため、世界の平和のためにも「ペルシアの華」はイケメンスイッチを守りきらなければいけなかった。
だから、いつまは圧倒的な軍事力で、どんな相手でも返り討ちにしてきた。
だがその日はいつものようにはいかなかった。
「イケメン爆滅団」の攻撃は凄まじく、ブサメンばかり2万人近い軍隊だったといわれている。
その軍団と戦ったのは513人の美男美女達。
いかに優秀で勇敢と名高い「ペルシアの華」の戦士と言えども、この奇襲に耐え切れるわけもなかった。
この支部には丁度イケメンスイッチのイケメンマスターである、天道春雄が視察に来ていたのだが、どうやらその情報が「イケメン爆滅団」に漏れていたため、今回の奇襲となったらしい。
肩に大きなカラスを乗せた天道春雄は、本部の支部長室で妻と二人の娘を呼び寄せた。
天道家以外には、乳母の田島房代と、親衛隊が12人。この親衛隊の中には若くして親衛隊に昇任した金子孝良も居た。
春雄は家族を前にして言う。
「俺はこれからあの下劣な『イケメン爆滅団』を迎え撃つ。お前達はシェルターに隠れていろ。」
それを聞き、春雄の横に立っていた、妻の房江は言った。
「わたしも一緒に戦います、娘たちだけをシェルターに隠しましょう。あなたにはスイッチを出す私が必要でしょ。」
春雄は申し訳なさそうな顔をして言った。
「すまない。本当にすまない。」
房江は黙って首を横に振ると、そっと春雄の手を握る。
すこし沈黙が続く。
そのあと、春雄は娘達に向いた。
「お前達にもすまないと思っている。今日の戦いが終わったら、これからは静かな場所で一緒に暮らそう。」
すると春雄の長女、冬美は父に歩み寄り言う
「お父様、私たちを残して死ぬ気ですか?」
春雄は優しい目でそれに答える。
「生きるさ。生きてお前達を一生守らないといけないからな。俺はイケメンスイッチのために今まで生きていた。だが今日生き残ったら、残りの一生はお前達を守る騎士として生きるよ。」
次女の友美は、父に抱きつくと泣きながら言った。
「一緒に隠れましょう。敵は不細工ばかりらしいじゃないですか。戦ったら殺されちゃいますよ。」
春雄は友美の頭をなでる。
「安心しろ、俺は生きてお前達と暮らすさ。俺の一生をお前達にあげるためにな。」
友美は泣き叫ぶ
「いやです、だったら私も一緒に戦います。わたしが一番イケメンスイッチを上手に使えるんですから、私が戦います!。」
春雄は困ったという顔をしながら友美を見つめた。
すると、部屋の入り口が勢い良く開く。
「イケメンマスター!ここに居るのは分かっているぞ、俺たちにイケメンスイッチを渡せ!。」
見ると、驚くほど不細工な老人と自動小銃を持った6人の敵が部屋に入ってきた。
明らかに、全員が春雄よりも不細工だ。イケメンスイッチは頼れそうも無い。
とっさに、親衛隊が天道家の前に立ちはだかるが、あっという間に掃射されてバタバタ倒れていった。
春雄は刀を抜いて敵に飛び込もうとした。
そのとき娘の冬美が春雄に飛びついた。
「グハ!・・・お前・・・なんで?」
よく見ると、冬美は春雄の腹にナイフを突き刺していた。
冬美は目を見開く。
「イケメンスイッチは、真に不細工な者がもって初めて世界を一つに出来るのです。お父様のように小さく犯罪者をさばく程度の人が持つよりも、ブサイクな理想主義者がイケメンスイッチを持つほうが世界の平和のためになるんです。」
冬美はイケメンスイッチを春雄から奪うと、不細工な老人に走りよった。
冬美を止めようと乳母の房代が走りこむ。
すると、冬美は華麗に飛び上がりつつ、ハイキックを入れる。
「邪魔するな、房代さん!」
ズガ!
房代は、一撃で吹っ飛ばされて倒れ、失神した。
そして、不細工な老人は部下に命じた。
「やったぞ、とうとうイケメンスイッチを手に入れたぞ。あとはここに居る連中を皆殺しにしろ!」
部下は、「死ねや!」とか「くたばりやがれ!」など口々に叫びながら、天度春雄、天道房江、天道友美に一斉攻撃をかけた。
ズガガガガガガガガガ!
その瞬間、房江は咄嗟に娘の友美を抱きしめるように捕まえ、勢い良く窓に巴投げをかけた。
その場に居た全員が「え?」と一瞬驚く。
しかし、小柄な友美は綺麗に飛ばされ、窓を突き破る。
イケメンマスターは銃弾を浴びつつ、飛ぶ娘の盾になるように両手を開いて友美をかばう。
友美は窓を破り、外に飛び出した。
空中で一瞬だが
友美は投げた後の房江が、銃弾をくらい頭から血を噴出すのが見えた。
盾となってくれた父が、がっくり膝を突くのが見えた。
「お・・・お母様!!!お父様!!!」
そのまま友美は窓下の海に落ちていった。
建物としては9階相当の高さから落ちたため、友美が着水すると同時に水柱が数メートル立ち上がった。
友美が投げだされた後の部屋の中は悲惨だった。
銃撃がやむと、部屋の中は血で真っ赤になる。
春雄と房江もすでに絶命していた。
冬美は悲しい顔をしたが、ぐっと堪えるような表情をし、醜い老人にイケメンスイッチを差し出した。
「矢島さん、これを・・・・」
矢島といわれた老人は、震える手で興奮しながらプルプルとイケメンスイッチを手にしようとした。
しかし、その瞬間
カーー!
春雄が連れていたカラスがパクリとイケメンスイッチを咥えたのだ。
そして素早く、友美が投げ出された窓から飛び去ってしまった。
海から陸に向かって泳いでいる友美にもイケメンスイッチを咥えて飛び去るカラスが見えた。
「カラ丸・・・・」
全員が数秒硬直した後、老人は激しい表情で怒鳴った
「しまった!急いであのカラスを追え!ここの攻撃などもう良い、カラスを追え!」
そう叫び、走り去っていった。
2時間後
イケメン爆滅団はカラスを追って全員が撤退していった。
しかし、イケメン爆滅団の遺体は1万9千体以上。
おそらくもうイケメン爆滅団の団員は500人も残ってはいまい。
ペルシアの華の被害も大きかった。この支部の人間は30人程度しか生き残っては居なかった。
あと少しで全滅は間違えなかっただろう。
海から上がった友美は、死体のじゅうたんを超えて、どうにか支部長室に着く。
入り口の近くには、親衛隊の死体が沢山転がっていた。
しかし、うめき声も聞こえる。即死しなかった者も居るようだ。
部屋の隅っこで、まだ気絶している房代は倒れている。
イケメンスイッチを守るために鍛えられた冬美に蹴られたのだ、一たまりも無かったのだろう。
うめき声を上げながら、はって春雄に手を伸ばす金子孝良もみえた。
金子の手を伸ばす先に・・・
父・春雄と母・房江の血みどろの死体が転がっていた。
友美はフラフラとしながら、まず母のもとに歩み寄る。
頭から脳が噴出し、口と目を大きく開いて死んでいる。
いつも優しく微笑んでいた母が苦痛の顔で死んでいる、直視できなかった。
友美はしばらく震える手で母の頭に手を置くと、目と口を閉じた。
母が最後に、何かの冗談みたいに巴投げをかけてくれなかったら、自分も死んでいたに違いない。
「お母様、友美は生き残りました。あ、ありがとうございます。」
声が震えた。体中が震える。
しばらく放心してから勇気を出して父を見た。
父も血みどろで、目を見開いて倒れている。
友美はゆっくり近づくと、やはりそっと父の目を閉じさせた。
強く、不器用で真っ直ぐすぎるほどだった父が、こんな最期を向けないといけない理由が分からなかった。
死体の腕を掴むと、両手を胸の上に組ませる。
しばらく父の死体を見つめると、友美はいきなり空に向かって叫んだ
「うわああああああ!うああああああああ!」
友美の目から涙が溢れてきた。
ここで急に感情が現実に追いついたのだろう。
数秒叫んだ後、友美は勢い良く父の遺体にしがみつく。
「お父様の嘘つき!何で死んだんですか!私を一生守るって言ったのに!私とずっと暮らすって言ったのに。嘘つき!私を・・・私を一人にしないで・・・お願い・・・。」
そう叫ぶと、友美は春雄の腕に顔をうずめるように泣いた。
いつまでも。
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「というのが、半年前のお話ですわ。自分もあの時は死んだと思いましたわ。あとからあの襲撃は仲間が裏切って内通していたからってわかって、友美様は誰も信じなくなりはったんですわ。」
友美の境遇に同情して、少し涙がこみ上げてきた。
涙を誤魔化すために、俺は腕を組んで、空を見上げる。
「な、なんかイロイロ納得いったよ。そっか・・・・。あの娘が良く俺の腕に顔をうずめて甘えるのは、父親へ甘える替わりなのかもな。房代さんにも随分と我侭言ってたし。そういうことなのね。」
金子もシンミリとした顔をする。
「こういっちゃなんですが、正味な話イケメンマスターはどこか先代に似ておりますわ。顔も似てはらんし話し方も全然違うんやけど、・・・なんて言うんですかね・・・魂の根っこみたいなもんが同じな気がしますわ。」
俺は、うっすら答えに困ったが
「俺はそんな立派じゃないよ。でも、友美ちゃんが父親の持っていたイケメンマスターの称号を俺に与えてくれたんだから、俺もそれを自覚して頑張るかな。」
金子は細い目でニッコリしてから
「自分は先代のイケメンマスターを心の底から尊敬しとったんですよ。だからVさんをアッサリとイケメンマスターと認めたくなかったんです。だから最初のいけずは許してください。」
なんだ、まだ気にしていたのじゃ?真面目な奴だな。
「だから気にしてないって、もうそのことは忘れなよ。俺だって自分が命を賭けてイケメンスイッチと友美ちゃんを守る側なら、どこの馬の骨とも知れない新イケメンマスターには素直に接する事は無理だからさ。」
「さらっと水に流すんやから、さすが男が大きいですわ。今はもう、自分は誰がなんと言おうとVさんがイケメンマスターだと胸を張っていえますわ。」
俺は調子の良い事を言う金子に苦笑いをしつつ言った。
「それに姉の冬美ちゃんか。その裏切りが友美ちゃんの心を孤独にしたのかな・・・、そのことはこれからも触れないほうがいいかもね。」
「それ大事ですわ。自分も冬美様に関わりそうな話は、NGにしとります。」
そこに友美が衣服を買いそろえてユニクロから飛び出してきた。荷物を護衛に持たせて。
「あ、Vさんアイス食べててずるいですよ!私にも食べさせてください。」
そういうなり、飛びつくように俺の手の中で溶けたアイスを奪い取り、一気に飲んだ。
えええ、それ食べる(飲む)んだ・・・
「友美ちゃんは相変わらず食いしん坊だな。ちゃんとしたの買ってあげるよ。」
友美はえへへと笑うと、ハンカチで口を拭き、俺の腕に顔をうずめるように抱きついてきた。
見ると金子は、自分の娘でも見るような優しい目で、俺の腕に抱きつく友美を見ている。
そういえば金子は前に嫌味のように俺に
『Vさんはホントに友美様のお気に入りやね。羨ましいわ。』
といったことがあった。
今思うと、あれは本心だったんじゃないかと思う。
友美は、姉にまで裏切られて誰も信じなくなったのなら、俺が代わりに信用できる人を見つけて信用していこう。
麻草議員、チャン、房代さん、金子・・・・
世界には、俺以外にも信用して良い人間が居る事を教えてあげなくちゃ。
だから見本として俺が彼らを信用して生きよう。
そんなことを思ってしまった。
友美はニコニコ顔を上げると
「あーいーすー。さあ私の分のアイスを買ってください。アーイースーたーべーたーいー。」
と、お得意の我侭の言い方でねだってきた。
この娘の最初の騎士である先代のイケメンマスターは死んでしまった。
だから、おれは第二の友美の騎士として、そして友美と共に生きるイケメンマスターとして、この娘のために進もう。
おれは友美に腕を抱きつかれたまま立ち上がると
「わかったよ、買いに行くよ。ただし走ってナ!」
そういうなりダッシュした。
「え!なんでですか?!待ってくださいよVさん!。」
友美も慌てて俺を追って走り出した。
俺はアイス屋へ向けて走りながら思った。
やっぱ、友美はニコニコしていると可愛いぜチクショウ。




