その12 ムスカンはイタリア語がお好き
俺とチャン達は慎重に4階に上がる。
ゆっくり上がると、敵の一行は悠然と待ち構えていた。
狭い室内に自動小銃を持った10人以上の男達が壁を作り、その後ろにボスとおぼしき男と、縛られた美少女・天道友美が見える。
突撃も狙撃も難しそうだ。
敵のボスと思しき男はかなり不細工なイタリア人風の顔つき。
一目で上等のスーツと分かる服装をしていて、時計や靴なども高級でおしゃれなものを身に着けているが・・・
ヤバイレベルで不細工だ。
ボスは、左手にイケメンスイッチを持ち、右手で銃を友美の頭に向けている。
この前衛を皆殺しにしても、あのボスまでたどり着く前に友美の頭は吹き飛ばすというメッセージなのだろう。
チャンは俺の耳元で、小さな声でささやく。
「イケメンマスタ、この状況ではしょうがないです。マシンガンで皆殺しにするしかない。友美様も目が殺せといっている。私と部下がマシンガンで突っ込んだら、イケメンマスタは私達を盾にして、イケメンスイッチを奪ってください。」
俺はその言葉にぎょっとして、一瞬チャンを見た後に友美を見た。
たしかに、友美の表情は覚悟を決めている顔だった。
おいおい、勘弁してくれよ。
俺は友美を助けに来たんだぞ。
友美を殺してどうするんだよ。
チャンが俺の後ろで動こうとしたのを感じたので、俺はすぐにチャンを制した。
チャンは不満そうな小声で言う。
「なぜ止めるデスか。チャンス長くない。いまやらないと。」
だが俺は、わざと敵のボスにも聞こえるほどの大声で言った。
「チャン、俺はイケメンスイッチのために友美は殺せない。友美を放すなら、イケメンスイッチのことは諦めて俺たちは帰る。」
すると友美が急に叫だ。
「Vさん、馬鹿なこと言わないでください。私にかまわずイケメンスイッチを!私なんかよりもイケメンスイッチを守ってください!。」
チャンも小声で後ろから俺に言う。
「そうですイケメンマスタ、あなたとスイッチが大事。友美様はあきらめるです。」
だが俺は二人の言葉を無視して両手を上げて、ゆっくり進んだ。
「俺は、世界中のイケメンよりも、俺になついてくれた一人の少女のほうが大事だ。俺を殺そうがどうしようが好きにすれば良い、だから友美は放してやってくれ。」
チャンと部下の若者は俺の後ろからマシンガンを構えて敵を威嚇しているが、俺にとっては関係ない。
さらにゆっくり進む。
すると敵のボスは大笑いをして、外人鈍りの日本語で言った。
「わはっはっは、そんなにこの娘にご執心か、不細工君。私はこの中隊の隊長をしているムスカンという。勇敢な君の名前を聞いてもいいかな?墓標に書く名前が不細工君では悲しかろう。」
くっそ、余裕かましやがて。
だが、調子に乗って話し始めてくれたのはありがたい。
せめて友美だけでも助けてもらえるよう交渉しなくては。
印象として、こいつイタリア系かな?
だったら、すこし試してみるか。
人は母国語を話す外国人には、子供を相手にするような気持ちで話をする。
うまくいけば譲歩が引き出せるかもしれない。
俺は下手なイタリア語で友美だけでも助けてくれるよう説得をすることにした。
「“俺の名前は荒川武威。ムスカンの母国語はイタリア語かな?”」
ムスカンは明らかに驚いた顔をすると、嬉しそうに笑い出し、イタリア語で返してきた。
「“わははは、私がイタリア人だと見抜いたか。イタリア語が分かる日本時とは珍しい。”」
やはり、外人が母国語で話しかけてくると上機嫌になるようだ。
「“交渉したい。俺は偶然に友美が襲われて居る場所に居合わせて助けただけで、そっちのルービックキューブには興味は無い。友美を開放してくれ。”」
俺はあえてイケメンスイッチという単語を使わず、ルービックキューブと表現した。
おれがイケメンスイッチについてどこまで知っているか隠すためだ。
イケメンスイッチについて詳しくない第三者のフリをすることで、やつの中での俺の重要性を薄められるかもしれない。
ムスカンは少し神妙な顔をする。
ムスカンが考えるように黙り込んだので、自動小銃をかまえているムスカンの部下たちは困惑気味だ。
ははーん、ムスカンの部下たちはイタリア語が分からないな・・・・
これは使えるかもしれない。
そのまま数秒待つ。
少し考えたムスカンはイタズラでも思いついたような顔をする。
「“荒川君、では賭けをしようではないか。私が銃を構えて撃つよりも早く、この小娘がスイッチの面を揃えられたら小娘は助ける。だがスイッチの最初の犠牲に、お前を爆破してやるよ。どうだ面白いだろう。”」
まいったね、それぜったい俺は死ぬって事じゃん。
まあ可能な限りあがくつもりだから、ヤツの銃弾を避けられるように飛びのく準備だけはしておこう。
「“わかった、それでいい。だが必ず約束どおり友美は助けろよ。”」
ムスカンが頷くのを確認し、俺は友美には日本語で話しかける。
「友美ちゃん、今からコイツと賭けをする。こいつが銃を抜いて撃つまでに、そのルービックキューブの面を揃えられたら俺たちを助けると言っている。やってくれるかい?」
「Vさん・・・。分かりました、全力で面を揃えます。」
ムスカンは友美を手放しイケメンスイッチを地面に置くと銃を腰のホルスターに仕舞う。
友美を縛っていた手のロープだけほどくと、懐から一枚のコインを取り出した。
「では諸君ゲームを始めよう。私がこのコインを投げたら小娘は動き出して良い。コインが地面に落ちたら私は武威君を早撃ちでしとめる。それより速く小娘がスイッチを揃えられたら撃たない。では始めるぞ。」
ムスカンはコインを親指で跳ね上げる。
キーンという音と共にコインはクルクル回りながら天井近くまで跳ね上がった。
同時に友美は地面のイケメンスイッチに飛びつく。
まあ間に合わないだろうな。
俺もムスカンも相手を目の正面で捉えつつ、耳でコインの音に集中した。
地面に落ちた瞬間が勝負だ。
コインが落ちた音がしたら、恐らく一瞬で俺を撃つだろう。
俺も一か八か飛びのいて避けなくてはいけないな。
だがコインが落ちる音が聞こえるよりも速く声が聞こえた。
友美の声だった。
「揃えた!」
そのあとコインが落ちるリャリンという音が響いた。
驚いて俺もムスカンもお互いから視線を外して友美を見た。
速っ!
友美の手にあるイケメンスイッチは確かに緑色の面が揃えてあり『意識できる範囲』と書かれたスイッチが面から生えている。
友美ちゃん、まじ天才的なルービックキューブ使いだな。
ムスカンは友美からイケメンスイッチを奪うように受け取ると嬉しそうに笑う。
「わははは、素晴らしい!素晴らしいぞ。」
ムスカンはしばらく笑うと、今度は笑顔のまま俺の方を向く。
・・・ですよねー。
そして俺ははじめて神様に祈った。
どうか俺がヤツよりも不細工でありますように!




