白の子供
マリアは、笑顔のまま少年の前へと歩んで行った。そして一言……
「貴方の顔が見てみたいな。これから、仲間になるんだもの」
そう言った。
少年は、少し躊躇する素振りを見せたが、覚悟したのか自らが纏う薄汚れたローブを脱ぎ捨てた。
その場にいた全員が硬直した。少年の姿を見て。
まず目がいくのは髪。白い純白の髪。その髪は、穢れなき無垢な天使の翼を彷彿とさせる。その清さは、何者にも犯されることは無いかのよう。
そして、それに相反するかの様に顔に彫られた刺青。それは、何を意味するのか全く解らないが、唯そこに存在するだけで解る禍々しさ。すべてを飲み込んでしまいすそうな闇を感じさせる。
相反する二つを併せ持つ少年。
その場にいた者が反応したのは、少年の髪の方だった。
「白の子供だ!囲め‼」
わめく騎士。騎士の声に反応し、少年に各々の武具を向ける兵士達。
そこに、マリアの叱咤の声が飛ぶ。
「待ちなさい、近衛騎士団長。彼は、七神よ。私の仲間なのよ」
その言葉を聞いて、少年は嬉しそうに少し微笑んだ。
「姫様、お離れくださいませ。そやつは偽物に決まっております。我らを救う存在であるはずの七神が、白の子供であるはずがありません」
偏見と侮蔑に満ちた目を、少年に向ける近衛騎士団長。
少年は、周りの者達のその行動を意に介するでもなく、自らが背負っていた弓を持ち、全部で25射“ほぼ真上に向かって”射た。
兵士のほぼ全員が、失笑した。こう思ったのだ。
(血迷ったか?上に射たところで、何にもならないというのに。)
しかし、少年は血迷ってなどいなかった。ただ冷静にその場に居た者達、自分を攻撃しようとしてきた者達から、自分を守ろうとしていただけだった。
『風よ』
少年がそう呟いた瞬間、矢の速さが変わった。突如として、音速に近い速度になったのだ。
そして……
「ぎゃっ」
「ぐえっ」
「ぐうっ」
多者多様の反応を示した兵士達の声が、その場に響いた。
「貴様っ。やはり魔神の手先だったのだな。しかしもう、貴様の正体は暴かれている」
そういきり立った近衛騎士団長に、少年は冷静な声で返した。
「俺は今お前達に囲まれて武器を向けられて、身の危険を感じた。そして、自分の身は自分で守らなければならない。そう教えられた。だから反撃したんだが、何か間違っていたか??」
少年は心底不思議そうな顔をしていた。
「ぐっ」
近衛騎士団長は唸った。なにも言い返せなかった。
何故なら、少年の言ったことはとてつもなく、完膚なきまでに、正しかったからだ。