眠り王子
授業中、いつも寝ている子がいる。
頬杖を付いて教科書で顔を隠しているから先生には見えていないけど、私からはしっかり、ちゃんと、綺麗に見えている。
だって、私の前の席だもん。
席替えまでにこの眠り王子を何とかしないと!
作戦その1、直接起こす。
3時間目の社会の授業、いつもの体勢になった所を後ろから鉛筆で背中を突いてみた。
「ん、どうしたの?本田さん」
眠り王子は目を擦りながら授業中である事すら忘れてしまったのか、至って普通に私の名前を呼びながら振り返ってきた。
「あー…えっと…」
焦った所で時はすでに遅し、先生が
「授業中に喋らない!」
と注意をしてきた。
私は悪くないのに!
作戦その2、先生に注意してもらう。
4時間目の数学の授業、いつもの体勢になった所で手を挙げた。
「この問題が分かる人は…はい、本田さん。前に出て」
え…?
えぇ!?
「あー…えっと…」
分からない。そもそも眠り王子に集中し過ぎていて授業内容すら聞いてない。
「分からないのに手を挙げないの!」
ぐぬぬ…。
昼休みが終わって5時間目は体育、眠り王子の運動神経はあまり良くない。
ボールをドリブルしながら運動場を走ると言う準備運動中、運動場を走っている時間より蹴ってしまったボールを追いかけている時間の方が長かった位運動神経がない。
もうね、途中から走ってすらいなかったよ。
作戦その3、寝る前に注意する。
6時間目は生物の授業。
眠り王子は体育の後はいつもより早めに寝てしまう。だからそれよりも早くに行動を起こさなきゃ!
小さく消しゴムを千切って眠り王子の頭部に向かってペチンと投げると、
「ん?」
上から何か降って来たと勘違いしたのか上を向いた。
軽く首を傾げたまましばらく止まっていた眠り王子だけど、ゆっくりといつもの体勢になって行く。そこを狙って2回目の攻撃!
ペチン。
今度は窓の外から何かが入ってきたと思ったのか、窓の外を眺め始めたから、釣られて窓の外を眺めると眠り王子と目が合い、ニコリと笑顔を向けられた。
「風が気持ち良いね」
だから、今は授業中なんだって!
「あー…えっと…」
風に揺れる前髪と、私の視界から教室内を隠すようにフワリと舞うカーテン。
「ね?」
正面に見えるのは眠り王子の笑顔だけ。
「うん…」
次の席替えまでに、なんとかしないと。