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二千四年十月十八日

『十月十八日』


 秋色が冬色へとかわろうとしているそんな外の散歩道を俺は、舞と外出している、春香は家で寝ている。


 何日ぶりか忘れた二人だけの散歩だ。昔から生まれつき体が弱く、そして春香が最近体調を崩す事が多かった。そんな春香を俺たち二人は、心配で会話も途絶えがちで室内で気まずい空気が流れていた。


 お互い口が達者で無いのを除いてみてもこの空気は中々晴れなかった。


 俺は、真面目な状況でないとあまり自分から話そうとしない…そんな自分に責任があるのだけれども。それが頭でわかっていても頭は舞に向けるのに思考が向くことができない。


 それは久しぶりに見た姿が着物でもなく診療着でも無い姿をしているのが妙に記憶に残ってその姿が横にいるからなのだからかもしれない。


 少し時間は戻る。

 

 この嫌な空気を晴らす為に外出をして見る事にした。


青木さんに許可をもらって名雪家から出ようとする時に舞が着物(診療着)でいることを嫌がった、それは昔から彼女が嫌だった事なのかも知れないそして大急ぎで服を探し出す青木さんの嬉しそうな顔も記憶の片隅に残っている。


 にその時に慌てすぎたのか世話係である女性の方々が使用している部屋のタンスを勝手に開けたらしくてそれを見た部屋の主に凄い見幕で追いかけられていた。


 情けない姿を俺達は、茶を飲みながらじっくりと見物させてもらうことができた。


『がんばってください』

と二人でのんびり座りながら応援を送る。


『少しお待ちを』

 年なのかもう息切れしている。後ろからはほうきを持って追いかける見知った姿の女性


そんなことがありしばらくしてわけを聞いたその人から服を借りることになった。


そして

『もう小さくなった服ですからあげますよ』


そう言われて舞は

『ありがとうございます』

本当に嬉しそうだった。


 そして青木さんもボロボロで冬だというのに汗だくになりながらも嬉しそうな顔をしおていた。


 ただ…一人だけ険しい顔つきで見ている人がいた。その人の名前は、名雪瞳さん…舞の…ひとり娘の母親だ、つらそうだった。その心中は、計れないが本当に辛そうでした。舞に辛そうな笑顔を見せて俺には、怒りを込めた顔を向けられていた。



 そんなこともあり舞は、お古のワンピースを着てふらふら散歩しながら…僕は、舞に見惚れていた。さっきまでの事を忘れるぐらいにその姿がまぶしかった。


 それから俺達は、少しのんびりとしながら道を歩いていた。さっきのことは時々思い出しそうになったけど直ぐに忘れた。少し休むように川岸で隣り合わせで座った。右側から流れる川を見る振りをしながら舞の横顔を見ていた。


 「私のこと昔から知っているわけではないですよね?」

彼女の姿に見惚れていたせいもあるのか少し何も聞こえなかった。


時々、突然耳の全ての感覚が止り聞こえなくなる事がある。いつからこうなのか覚えていない。


でも少し経てば思い出したように耳に返って来る、それを聞いたと思ったときに声をかけようとするその前にもう一度

「聞いていますか?知らないですよね」


僕は、そうですと答えながら胸が張り裂けそうに痛んだ。


 彼女との知っている限りの記憶を忘れた事が無いから胸が苦しかった。本当は知っているって言いたいでも言えなくて苦しくなる。言おうとして切なくなる。でも本当は知らないだけだから舞も俺も舞は続けて誰もいない川につぶやくように言った「私、病院からでてみんな私のことを知っているのに私は何も覚えてないから


    辛い


期待に答える事が出来なくて辛い…」

 舞の声の調子は、次第に下がっていった。


僕は、何も答えられずにいた。舞は、彼女を知る全ての人に謝っていた、ごめんなさい、すみません、とお互いを知っていたほぼ全ての人にそういっていた。


 忘れた記憶を思い出して欲しいそんな他人の期待と願いを何よりも辛さとしてうけている。


 「どうしても思い出せないのです、私が知らない事を言われてもわからないんです。本当にそれが私なのか私の周りは本当にそうなのか聞かれるだけで苦しい」


舞は、泣いていた。声を出して泣く事は無かったが涙だけが頬を伝っていた。


 「ねえ、付き人さんあなたも本当は私の事を知っている人ですか?」


嘘の仮面なんて本当はもろいものだと思った。それでも僕は仮面を脱ぐわけにはいかない、少しの間をおいて


「知っているよ」

そう俺は答えた。


「やっぱり…」


「俺の目の前にいる君は、名雪 舞という人だって知っているよ」


「え…」


「君は君のままでいていい、正直俺は、前の君は知らない、でも今目の前にいる君は前とは違う舞なんだろ? それなら苦しむ事も辛くなる事も無い」


「それでも私の周りは皆、恵としか言ってくれない」


「俺は、舞としか見てない、春香だって君の事を二人目のお姉さんって言っていた。」


しばらくお互い何も言わずに流れる川を見ていた。


「私は…」


「ん?」


「私は…舞でいていいの?」


「そうだよ、君は舞でいればいいんだよ、将来思い出すことが来ても今の君は舞でいればいいよ」


 それから舞は答えずに立って歩き出した。


その顔には、もう涙は流れておらず笑顔で満ち溢れていた。


「ありがとうございます。付き人さん」


大降りのお辞儀をしてありがとうと言ってくれた。二人は再び散歩を始めた。


 僕は少し思い出していた。前にも同じような事を言った覚えがある。他の誰でもない名雪恵に僕は、同じ事を言った。そういえば付き人の名前に関して何も言ってくれなかったが…それは、まだ俺が仮面を被っていてもいい事なのだろう


 そんなことを考えながら舞をみていた、その川を眺めていたり花を見ている女の子らしい姿(後で言ったら何故か春香に怒られた)が不思議に思えた。


 以前の記憶が無くなる前の姿が微塵も無い。


「このお花の名前わかりますか?」


深く考えずその野花の名前を答えた。

「紫苑って言う名前だよ」


 昔、恵が僕に教えてくれた花だった。紫色で小さな花が集まっているような切ない花…軽く触れてしまえば散ってしまいそうなそんな誰かの花だ。


 道の帰り春香の見舞いに寄る時の言葉が心に残る。


「私を知っている人じゃなくてよかった」


「どうして?」


「期待も無いから気軽に話せるから」


「…ありがとう」

少し遅れて歩いていた。聞き取れないくらい小さな声でどうしようもなくありがとうと言っていた。


「何か言いましたか?」

 そんな僕の言葉を聞いていなかったようだ。


「なんでもない、春香の様子でも見に行こうか?」話を唐突に変えてお礼の言葉をうやむやのうちに消えた。


「はい、いきましょう」


 今の舞にとってもそれは、かわらない心配する彼女の姿は、本当のお姉さんそのもののようだ。


 この日、がきっと【あいつ】の存在が消え始めた日だろう。それでも彼女は、「気軽に話せるから」


それは誰に言ってますか?俺ですか?それとも【あいつ】ですか?俺には、わかりませんでした。


しかし気軽な気分で話せてもらえてそれが嘘つきから始まった事なのだとしても嬉しく思ってしまうそれが不器用な今の俺の姿です。


ペテン師であろうと俺は君と共にいよう。だけど嘘が後悔へと変わる時、人は生きていけるのだろうか?【付き人】としての緩む事が無い嘘だとしてもこの世界で過ごしていいのだろうか?


この日の帰り道、春香に会えないまま夕日の中で僕と恵は「さよなら」を交わした。

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