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二千四年十月十日

『十月十日』

 

 それは事件の後、幼馴染が入院して【付き人】がお見舞いにいった日からその僅か1週間後の事だった。

 

名雪は、あの病院を退院し


 俺は、それを名雪の家にいるとある知人から電話で聞いた。


 「外傷もほとんど無く病院での治療もこれ以上は意味はないとの事で自宅に戻されることになりました。」


普通は、こんな短期間での退院なんて無理なことなのだろうな。


「お嬢様は、目覚めて出会った全ての人を覚えてないそうです。」


 そして俺は、先日の出来事から左腕の感覚が薄い…感じないわけではないから俺にとって実は、どうでもいいことで精密検査も受ける気なんてまったく無い。こんな腕の異常なんて彼女の辛さに比べたらどうとも思わないからだ。


 「それを察して自宅の者は必要最低限の者だけを残しています。もちろん直接会える人も限定されますが朝比奈様と春香様は許可が降りております。」


 そう言って電話は切れた。


 窓ガラスを割ったその日に医者が少しの時間、無料で診断してくれた。精神的な異常ストレスによって一時的に感覚が薄くなっている。そんな感じだったか思い出せない。しかも診察もそれっきりだから多分、違うのだろう

 そんな事よりも壊した窓ガラスを弁償する為の資金で財布が空っぽになっていることのほうが泣けてくる。


「意外に高いですね」


 腕の異常と弁償代金のことを同時に聞いてそう答えたのを覚えている。


 怪我をした理由やこの病院の窓ガラスを割ってしまった事など学校や家には知らせないでもらうことができた。それだけがおそらくあの時の救いなのだろう。


 悪いのは自分だから仕方無い、それよりも今日まで…俺が見舞いに行ってから彼女が退院するまで一度も彼女の姿を見に行って無いから気が重く感じる。


 その見舞いに行こうとしない理由は簡単なことで会うとまた自分にいらだちそうだからもしかしたらまた何かを壊してしまうかもしれない。


ガラスのようにグシャグシャにして



自分のように中は、グシャグシャに



 そしてそんな些細な事よりも…俺のことを覚えて無い事のそれよりも僕がなにもできない…何もしてやれない無力な自分が実は許せないからだ。会っても何もしてやれないむしろ知らない奴が知っているかのような態度を取られること自体苦しめてしまう。


 今日、そんな俺は、名雪の家に行く。


あの日以来、敷地にさえ踏み込む事をしなくなって久しぶりに会う事になる。


 時が止った悲しく寂しい世界へと自ら踏み込んで行く


 それはただ信じていたいから【あいつ】が救われる事を心の何処かで信じていた。


 ◇◇◇


 すっかり周りの草木が静かになった頃の高校が休日の日、俺は今、近所の子と名雪家に向かっている。


 ぼんやりと隣の子を見てみる。なんていうか小さい姿で大きめの上着を着ている。その上着の性なのかいつもよりも小さな姿に見える。


 彼女の名前は鈴野春香という俺よりも二つ年下の女の子で来年受験を控えている。


 少し前に一緒に街のほうへ一緒に出かけた時に学友に見つかった事がある。その時に学友から「ロリコン」と言われたのを苦々しく覚えている。


 どうでもいいことである、別に迷惑かけているわけでは無いのだから…弁解しておくのだが俺にそんな趣味は持ち合わせていない。見た目はオヤジ顔ですが俺は、まだ高校一年です。後で言われたことを聞いて見た。


 「ロリコンって俺言われたんだけど…どう思う?」

と春香に聞いてみたら


「他人がどう見ていて感じても私が好きなのだからいいの」

とかなんとかな返事をしてくれた。


 それが嬉しくないって言えば嘘になる、なら気が重くない、それに俺だってそうだ、こいつの事が好きなのだから一緒にいる。好きなのだから彼氏、彼女の関係でいられる。


 さてそれで俺達二人は、名雪がいる家に向かっているところだ。


昼間の道は、少し寒く景色もすっかり寂しくなっている。それは季節で当たり前の風景そして名雪の中は、木に葉っぱが無いように俺の存在が消え失せていて存在しないようなそんな似ている寂しさが胸に詰まっている。


 俺の中だって…そんな感じなのだ。忘れられてしまっていると意識すると自分の中の出来事も嘘になっているだ。


 名雪の家に行く前まだ一度しか名雪の見舞いに行って無いことを春香に伝えた。


「私はまだ,一回も会って無い」


それを寂しそうに言われた。


 俺は、それに驚いた。春香の事だから毎日行っているのかと思っていた。自殺する前から俺が名雪に会っては居ない時でも春香は色々報告するように教えてくれた。その報告も週に何度もしてくれた。一緒に出かけた時も名雪を姉さまと呼んでその話ばかりまるで本当の姉妹のようにしていたと覚えている。


「意外だな、どうしてなんだ?」


聞くべきではなかったのだと言ってから少し後悔した。


「病院には行ったけど私は会わせてもらえなかったの、それでも電話くれてね自宅に戻ったら大丈夫って聞いたけど…」


 軽く笑うその姿がせつなかった。どうみても無理して笑っていた。


 「今の状態を聞いて、怖くて一人じゃ行けなかった」


「…ごめん」


 当たり前の事だ、聞かなくても本当ならわかっていた。俺だってあの状態を聞いて普通に居られなかった。


「そんなことよりも姉様は、どんな様子だったの?」


「…」


 思わず無言で終らせてしまった。本当のところよくわからないから


「…ちょっとはなんか言ったら?事故にあっても綺麗なままだったとか」


「うん、綺麗なままだったよ」

 【事故】確か交通事故で通されてたんだけ情報の隠蔽工作、それならそれでいい知らないほうがいい。それに、表情が無くてもあいつは変わらず綺麗だった。


「そう」


春香は、少し膨れ顔になって怒っている。まともに答えてあげられなかった性なのだろう


「ごめんな」

心配なのは知っている。だからこそ少しでもわかっておきたいのもわかっている。けどそんなことさえも俺は自分自身の悩みの欠片としか今の自分は扱うことができない。


「謝るぐらいなら早く会いに行こうよ」


 そう言って俺の着ているジャケットの裾を引っ張られた。


 その姿は、まるで犬の散歩をしているようだ。行きたくないのに引きずられながら進んでいくそんな姿だ。


「ああ、行こう」


 でも謝る事は大切なことだよ…そう心の中でそう呟いた。


 名雪の家はちょっと俺達の住んでいる地区から離れている。歩いて二十分分ぐらいだ、それがちょっとという距離なのかわからないけど俺には短すぎる。


 こうやって風が吹いてきて寒かろうが急がずに歩いていてすぐ着いてしまうぐらいに着いてしまう


 俺は、ある日を境にこの名雪家には近寄らせてはもらえなくなっていた。しかし事態は急変した。


 どうしてだか俺は、知りたくもわかりたくもない。


 そして今、俺達二人は、名雪家の敷地内に足を踏み入れている。


懐かしい地面の感触、それにともなって風と共に色々な事が脳内に浮かびだして目線に移り出す。家の中の空気がギリギリの所で保っている。そう肌で感じとった。


 和の門の玄関、ここを潜るのは久しぶりだ



 大きな石と池それだけの立派な庭、毎日手入れがされているその姿は変わらない



 武を鍛える為の道場なのに無人の気配で今でも昔もここを使っていたのは、あいつと俺たちだけ、だから今は、誰にも使用されない無意味な建物



 離れに何か建っていた形跡が残っている。少しの材木が残されていた。ここには確か何かあったはずだが忘れてしまった。俺にはあまり関わりが無かった場所なのだろう


 この広い庭…ここで昔三人で遊んでいた時奥さんに怒られた想い出や道場内で名雪が弓に力をこめ矢を放つ姿が目に映る。


そんな思い出に浸っている場合ではなかった。


「こんにちは、お久しぶりです。」

 俺達二人を迎えてくれたのは世話係の青木 秀道さんだった。彼から名雪の退院の事も入院のことも隠さず教えてくれ人である、僕がこの家の人達と知り合ってからの付き合いよりも、そう年は離れているが僕にとっては幼馴染の一人と同じであった。


 そんな昔から知っている人なので無理やりな笑顔を作っているのがわかってしまう。


 この人はどんなに苦しくても悲しくても笑顔で人を迎える。けどそれが逆に迎えられる立場の俺にとっては最高の苦痛である。きっと俺も同じ事をいつもしているからなのだろう。


「久しぶりです」「こんにちは」


 俺たちは軽い挨拶を済まして名雪の部屋に向かう、青木さんからは、挨拶以外何も話してくれなさそうで軽くお辞儀をして歩き出していた。


 歩きながらふと先程見つけた。何かがあった場所を眺めている自分に気がついた。


「………」

黙って俺のほうを見る春香。


「………」

俺も黙ってその場所を見ながら立ち止まっていると


「懐かしい?」

 そんな言葉が春香の口から流れ出す。その口調はなにかの感情が込められていた。


「さあな…どうだろうな」

 思い出せない事を考えていても仕方がない今は名雪に会いに来ただけだから。でも気になる何故忘れているのだろうか?正直な話、俺の記憶は結構あやふやであったりする。俺が名雪恵の幼馴染であり本気で友人と言える同年代の友達さえ彼女とこいつしかいないとか学校帰りには必ずここに通ってたとか、俺の生きてきた時間の半分近くここで過ごしてたりとかで要するに


 「懐かしいというよりよく思い出せない感じ」


 「なにそれ?見た目とあわさってボケてきたの?」


 こいつは、チビで病弱で傍から見ればそれはもうおとなしそうな雰囲気がそれなりにします、加えて人見知りもそれなりにして自をあまり出しませんよ、でもですね。


 「実年齢だけは若いんだからもっとしっかり記憶してなきゃダメだよ?」


 「なぁ、なんでいつも俺にだけそんな性格なの?」


 そう、何故かこいつは事あるごとに俺を虐める。


 「姉様にも同じ感じだよ?二人揃って受け専門な黙り状態なんだから私が引っ張らないといけないの!感謝してください」


 エッヘン と大威張りに何か考えるのもめんどくさくなりそうな気がしてならないので


 「あー、うん、そうでしたね、いつも口下手二人を引張てくれてありがとうございます」


 深々と頭を下げてチビ頭をわしゃわしゃとする。


  わしゃわしゃとしながらつぶやく声が聞こえた。


 「でも、ごめんなさい、今日はちょっと無理かも」


 どんだけ罵倒されても弄られてもわかってることがある。この子はただ色々な事にただ“強がってる”だけの普通の女の子だ。

 

 歩き慣れていたはずの廊下を進む。春香が知っているのは本当の事らしい案内されているように俺は後ろから着いて行く。やっぱり何かを知らないでいるようだ。名雪に忘れられていた事が本気でショックだったのか思い出がとても虚ろだ。


 実はここに来る少し前に

「部屋に行くのは、初めてだな…」

そう俺はぼやいて


「私、前によく入らせてもらっていたよ?」と春香

 そうかと苦笑いをして先に進もうとする。


幼馴染として情けなくなる。考えてみると俺の部屋にも入れたことが無いからお互い様ということだろう…ただもうそれさえもはっきりとしてない。もしかしたら俺は、入ったことがあるのかもしれない。


 そんなことがあり俺が勝手に進んだ先とは逆のほうに春香が進みだしていたりする。何回か注意されやっと名雪の部屋に着いたようだ。


 それがわかると自我とは勝手に手が動き襖の取手を掴んで今すぐにでも会いたくなって入ろうとしたら…


「…!」

 いきなり横にいた春香から肘で刺された。


「痛…なんだ?」

 本当は、あんまり痛みは無い


「始めて入るのにノックもしないの?」

 小言で睨み付けてくる春香の顔は、本気で不機嫌そうだ。何を焦っているのだろうそんな初歩的なことさえも忘れていたなんてどうかしている。


「さて…入ろうか」

 取りあえずは無視だけど後が怖いどうも俺は、無礼な印象があるようで何度も注意を受けてる。その度に怒られていたのだ。


 軽いノックの後に俺たちは部屋に入った。今更ながら襖にノックするよりも声かけて開けるべきだと思った。


 初めて入るのであろうこの部屋に入った瞬間思ったことは、ほとんど病室と変わらないほどすっきりしていた。



古ぼけた箪笥

詩や小説が入った棚

壁にかけられた濃い緑色の着物

障子から入る光

驚くほどの広さに少ない物

敷いてある蒲団

光を見つめながら手に持っている扇子を弄んでいる人形の姿



 その光景に息苦しさは、感じられない、むしろ寂しげで気持ちがいいくらいだ。春香が近づいて名雪の横に座ったまま何も言わずただ横に座っている。


 人形が僕たちを見て気がついたようで不思議そうにしている。


「はじめまして、えっと…その…どなたでしょうか?」


 人形らしくなくそして彼女らしくない言葉を出していた。そして僕達の姿を見てもなんとも思ってないようだ。


 ふと気が付くと涙混じりの声で必死に自分の事を話している春香がいた。

「私は、春香、鈴野春香だよ…わかる?」


 名雪は、あの病院の時の表情とは違ってとても、不安と困惑が入り混じった表情をしていた。


少し、ほんの少し時間が経って名雪から

「ごめんなさい、わかりません」


 春香は、名前から始まって初めて有った時の事や過ごしてきた思い出など色々な話をした。俺は、その春香の話の半分以上そんな二人の姿を知らなかった。


 最後に春香は、聞いた。


「本当の妹みたいって言ってくれた事も忘れちゃった…?」


 本当の妹のようにしてくれたことは、誰だって見てればわかる事でそれを見ていた俺は、知っている。だけどその返事は無かった。困っているのをわかっていて俺は、何も声をかけることが出来なかった。


 さっきまでのいつもの陽気で元気な明るい姿の春香はそこにはいなかった。


 最後には泣き出して、名雪の胸に抱きついていた。


悲痛な泣き声が響く中

「ごめんなさい」


 静かな空間だから聞こえた声、それは泣き声越しでも僕の耳にも聞こえた。

そして春香は安堵からなのか悲しみからなのかわからないそんな泣き方をしているのだった。


 俺は、それをただ呆然と眺めていた。


 僕は、彼女達らしくない姿だと感じて苦しかった。

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