プロローグ
二千十五年 二月 十四日 静岡県某所
日が落ちた街は人が暮らす光に溢れ、この日もそれが当たり前のように夜の暗闇を照らし続けている。そんな街中で私は一人夜の星を見ていた。過ぎていく日々も人も世界も見ずにたった一人で待ち続けていた。
「どれだけ待ってたのかな」そうぽつりと呟いて
「待ち合わせの時間には間に合わせたつもりだったが待ったか?」
私の目の前には、長い髪を震わせながら呆れた眼をした女性、全身で気だるいを体現した人が気が付けばそこにいた。
「おろ?いつのまにそこに?」
「5分ぐらいだな、ずっと目の前にいたぞ・・・ボケたか?」
「はい」
「そうか、老け・・・変わらないか」
失礼な! と言いたかったが自分自身が変わらないだろうなと思い何も反論できなかった。
「変わらないと思いますよ、何年たってもね」
私の名前は、朝比奈 潤 立派な中年一歩手前のおっさんです。夢も希望も一切持ってない生活を続けてます。
「変わらないか・・・」
目の前の女性は、呆れた口調で続けて
「とりあえず、いくか?」
「ええ、それで何処にいくんでしたっけ?」
正直、今日ここに呼ばれた理由が良くわからず約半年ぶりの連絡を受けて私はこうしてここにいるのです。今日が何の日かさっぱりと思い当たらない。ただこうして"先生”と待ち合わせしているだけ、それさえなければ最近ずっとやっているゲームに没頭していた。誰かの為に、何かの為に仕事以外で外に出ること自体久しぶりであり引きこもりの状態でもあった。
「別に、面白く無いことしてる生徒がいるという話しを聞いてな、叱りつけようと思っただけだ」
「面白くない?私の何がですか?」
首をかしげて反応してみて
「ああ、全部か?」
◇◇◇◇
待ち合わせの場所から移動して少し寂れた飲食店に入っていった。特にお客も無く適当に注文をして私たち二人は、席についた。
明るい場所で向かい合って改めて目の前の先生を見た。薄茶色の長い髪に簡単な化粧しかしてないのにそれだけのはずなのに年不相応な綺麗な顔、何人もの人を騙せそうなそんな人。対する私は、誰が見ても立派なおじさん、髪も適当で髭も数日にまとめて剃る程度の身だしなみ、お洒落なお店にいるよりも場末の居酒屋の常連のようなそんな格好、今いるこの店もそんな私にぴったりなお店、要するに――
「先生、場違いな姿ですね。」
失礼な言葉に
「そうか?私は気にしないぞ、それにお前を連れて行ける店なんてここ以外ありそうか?」
ぐう の声も返せない。
「それでだが、今何をしているんだ?簡単でいい、話せ、聞いてやる。」
ぶっきらぼうな物言いに素直に従って答えていった。自分の中でまとめて口に出して、訂正して、繰り返し同じことをいってそれで―――
「ゲームやって、仕事も問題なくやって、よくわからないが放送を始めたんだな?」
凄くさっぱりと20分程度説明してた内容をまとめられた。一つも間違ってない。
間違ってないけどそれじゃ
「小説は?」
と隠していた事を言われた。
「・・・書いてません」
そうか と興味も無さそうに返事をされて簡単な料理が運ばれてきた。何を頼んだかもう思い出せない、必死に隠していた悪事がばれて怒られている子供ような自分に驚きながらも自分自身で頭の中に どうして? と繰りかえされた。
いや、違う私は―
「どうして書いてないか?とでも聞かれたいのか」
見透かされたように私の考えていることが先生の口から出された。
「どうして、聞かないのですか」
並ばれた料理に箸をつけながら先生は、当たり前だろ?そんな感じに
「別に書いてないのなら書いてないのだろ?言わないならもう書く気も無いのだろ?」
そう、そのとおりだ、言う必要も無いことだった。もう完結してしまった。そんな物語をどうして今更書く必要があるというのだろうか?でもずっと心に引っかかるそんな針が刺さっているかのような感覚で毎日を過ごしていた。
ほとんど無言のまま食事をし続けていた。この先生はいつも適当に私を呼んでは、何かしら小言を言って叱ってくる。そうしてこの十数年間、私の先生でいてくれる。
「なあ」
「はい、なんですか」
「不味い」
苦笑しながらそれでも食べる先生を見て思わず笑ってしまった。
「どうした。」
少しむっとした顔でまたも料理を口にしている姿に言った。
「昔から変わらないですね、だって―――」
だってあの頃の先生のままだったから、私が書いていたあの頃のまま、私と共に変わらない・・・?
「先生」
「なんだい、馬鹿生徒」
「私は、変わってませんか?」
はっきりと先生は、答えてくれた。
「いつまでも馬鹿なままで変わらないな。ずっと迷いっぱなしで前に進みもしないのだからな」
「馬鹿なままか、どう馬鹿なんですか?」
わからないことは聞けばいい、聞かなければわからないのだから
「普通になろうと努力している事だな、つまらん」
◇◇◇◇
その後もいくつか話をしたが正直覚えてない、会話をしながらずっと頭の中でもやもやとした気持ちをずっと抱えていたからだ。どうして私は、あいつらの事を書こうとしなかったのか?どうして私は、[変わってしまったのか]その日から三月の今までずっと繰り返してきた。
行き着いた先は、そう昔を思い出せばいいだろう それだけだった。普通じゃない世界で普通になれない私だからそれは自然と自分の中で混ざり合っていく。
もう一度仮面を被ろう
「さて、ご来場の皆様、これから舞台は飛びに飛ぶ、記憶の世界、真実かはたまた虚実か判断するのも理解するのも皆様方次第でございます。」
反面ピエロは再び舞台に舞い戻る。反面がピエロ、反面が人の顔、一度は諦めた。
異常な世界の物語
「お笑いになろうとも悲しくもなろうともお客様の自由、それでは開演いたします。」
私たちは、もう一度舞い踊る。そう忘れないそれだけの為に・・・