第2話:神とは何でしょう?
とある町で、3人に出会った。
─第2話:神とは何でしょう?
「ガブリエルア、ラファエール、ウリュエル、良かった。私1人ではあの神をどうしようもできませんでした」
3人はカフェテリアでお茶を飲んでいる最中だった。落ち着いている3人は今後の事を話し合っていたらしく、テーブルに広げられた紙にはいろいろ書かれていた。
紙には、こうなってしまった原因として考えられる事やどうやって天界に戻るかという事が書かれていた。
それを見たミカエラはやはり、オーゼウスよりもよっぽど頼もしいと思った。
「ミカエラ、1人に任せて悪かったわ」
「本当ですよ、ラファエール。あの、あとでいつもの胃薬お願いしますね」
「勿論よ」
ラファエールは医学に詳しく、怪我をした際や病気の際には頼られている。また、姉御肌で面倒見がよい。
ミカエラはラファエールの胃薬をよくもらっていたのだ。4人が側近と雖も、ミカエラが基本的にはオーゼウスの相手をしているのだ。だから、ストレスが日々蓄積されていく。
「顔色悪いぜ? さらに顔色悪くしちまうかもしれないが、オーゼウス様、どこ行った?」
「そういえば、先ほどから姿を見ていませんね。ミカエラ、一緒ではなかったの?」
ミカエラはウリュエルの言葉に青ざめる。ガブリエルアは優しく訪ねてくれたけれど、内容は彼にとって全く優しいものではない。
ウリュエルはそんなミカエラを見て、苦笑いした。
「俺たちも探すから、な?」
「お願い、します……」
ウリュエルは普段、罪人を裁いたり、罰を与えたりしており、恐れられているのだが、この時ばかりはとても優しい。
でも、その優しさがミカエラにとっては辛かったりもする。
「僕が探してこようか? ミカエラは、休息が必要じゃないかな……」
「しかし、ガブリエ――」
「いいの、いいの。いつも任せっきりにしているのは僕らの方だからね」
美青年が微笑んだ。
4人の側近のうち、一番の美形であるガブリエルアが爽やかに言った。ガブリエルアは下界の事、天界の情報などを伝達してくれているのだ。性格も良いため、事を荒げる事が無い。いろいろなところに飛び回る伝達役には最適なのだ。
「じゃあ、俺も行く。ラファエール、ミカエラを頼んだぞ」
「ええ」
オーゼウスを探しに行った2人を見送りながら、ミカエラはドサッと椅子に腰を下ろした。
普段はきちんとしており、椅子にも音を立てることなく、姿勢もきちんとしているはずのミカエラであるが、今回ばかりはそんな事に気が回っていない。
その様子を見てラファエールはそっと、胃薬と水を差しだした。
「だいぶ疲れているわね」
「……もう、私、嫌です」
「やっぱり、原因はオーゼウスなのね」
ミカエラはぽつぽつと話し始めた。
黒の世界の創造神、サタンストとの賭け。そして、オーゼウスがその賭けに負けてしまった事。その賭けの内容まで、全て話した。
改めて並べてみる、自分が仕える主の失態と情けなさに涙が出そうになるミカエラだった。
さらに、この町に辿り着くまで、オーゼウスはミカエラの目の届かないところまで行ってしまう。下界に降りるのは今回が初めてであり、オーゼウスは興味津々なのだ。
下界に興味がある事は非常にいいことであるが、ふらふらとどこかへ行ってしまうオーゼウスにミカエラは頭を抱えていた。
さらにさらに、黒の世界からやってきたであろう、魔族とも遭遇した。
その度にミカエラは精神力と体力を削られていった。
『ミ、ミカエラ~』
『オーゼ……もう! お前、邪魔!!』
神にお前、など失礼な物言いをしてしまった事はミカエラの失態であるが、そんな事言っていられるほど彼の精神的余裕はなかった。
戦闘の事など知らぬオーゼウスは恐怖からミカエラにしがみついてくるのだが、戦闘中は邪魔で仕方がない。お前呼ばわりしてしまった事はきっと、神もお許しくださるだろう、とミカエラは思った。
(……あ、神はこの方でしたね)
ミカエラは無になって戦ったのだった。
そうしてようやく、ここまで辿り着いたのだ。
「……どうにかならないのかしら」
「無理ですね。あの人はああいう人ですから。私たちで何とかするしかありませんよ」
「それで、魔族の侵入はどのくらい? 私たちは出会わなかったから、そんなに多くないと思っているのだけれど」
「は、い?」
ラファエールの言葉に目を丸くするミカエラ。
自分は魔族とかなり遭遇しているのに、ラファエールたちが一度もあっていないという事が信じられなかった。ミカエラはついにテーブルに突っ伏してしまった。
「何で、何で、私だけ……」
「ミカエラ、本当にお疲れ様」
「オーゼウス様は本当に、神なのですかね……」
「私に聞かないで」
2人はため息を吐いたのだった。
一方その頃。
「オーゼウス様、何をしていらっしゃるのですか?」
「ガ、ガブリエルア!?」
爽やかな笑顔なはずなのに、ちっとも目が笑っていないガブリエル。その表情にオーゼウスは思わず固まって動けなくなってしまった。
「俺、罪人裁く事専門ですけど、どうされます?」
「わ、私がいつ、罪を犯したと!?」
ウリュエルはオーゼウスの肩に手をのせて、力を込めていた。ギリギリと込められる力にオーゼウスの顔には汗がにじむ。
「ミカエラに迷惑をかけた罪ですよ? 身に覚えがありませんか?」
「そ、そ、それは、だな……」
ウリュエルが手をのせたのとは反対側の肩にガブリエルアも手をのせて笑顔のまま力を込めた。オーゼウスが持っていたルークがコトッとチェス盤に落ちる。
「へぇ、チェスで賭博ですか? 何を賭けているんですか?」
「よ、よくぞ聞いてくれた! この男性が持っている30年物のワインだ。ワインを作っている方なのだが、それを賭けているんだ。勝てたらお前らにもわ――」
「「帰りますよ?」」
2人の絶対零度の眼差しを受けて、オーゼウスはこくりと頷くことで精一杯だった。
2人は固まって一部始終を見ていた男性に丁寧に一礼すると、オーゼウスを両脇でがっちりと捕まえて引きずって行った。
『ワイン、か』
『興味があるのかい?』
『いつも世話になっている者への詫びの品にでもしようかと、ね』
『そうかい、これなんかどうだい?』
『おお! ……おぉ、いいのだが、生憎と持ち合わせがなかった』
『……お主、チェスは知っているかね?』
『ええ』
『私に勝ったら持っていきなさい』
つい30分ほど前の会話を思い出して、男性はその後姿を見ていた。
ラファエールとミカエラに合流したのち、オーゼウスがこっぴどく怒られたのは言うまでもないだろう。
「すいませんでした」
「何度も言っているように、私の目の届く範囲に居てください。面倒ですから!」
「……はい、ミカエラさん」
全く頭が上がらないオーゼウスは、一応、神様です。
「サタンストに直接話をしにいけたらいいと思うのだけど」
「そうですよね。私もそれが一番かと思います」
「……そうだけどな、今一番しなきゃいけないことがあるんだな、これが」
ウリュエルは指をどこかに指していた。
その指を残る4人は辿って行った。
うごめく、黒い影。
散らばる人と、悲鳴。
まっすぐ向かってくる、何か。
どんどん増えて、5人を取り囲む。
「来たな、魔族。私を誰だと思っている。このオーゼウスを狙った事、後悔させてやる。神の光!」
……。
「あ」
何事も起きず、黒い影は一瞬ひるんだが、またじりじりと距離を縮めてくるのだった。
「うわーーーーん! 魔力がーーーー!」
オーゼウスは格好つけたことの恥ずかしさと、黒い影が迫ってくる恐怖で身をかがめてしまった。こうなると、オーゼウスは全く使い物にならない。
「オーゼウス様、五月蠅い! 3人とも、魔族です。協力してください」
「私はオーゼウス様を守るわ」
「僕とウリュエルは動くよ」
魔力を持っていなくても、魔族と戦える4人は慌てることなく魔族に対処していくのだった。
「バカだなぁ、オーゼウスは。見ていて楽しい、愉快だよ」
「サタンスト様、ご機嫌で何よりです」
サタンストは下界の様子を見ながらゲラゲラと笑っていた。
「下界にやって正解だった。あの者たちが悩む姿、実に、愉快だ。白の世界をこちら側に取り込むのも面白いが、それではつまらない。普段魔力を持つ者たちがそれを失い、どう足掻くか、それが見ていて一番楽しい」
サタンストは白の世界に魔族を放つことは放つのだが、オーゼウスをピンポイントで狙っていた。だから、ミカエラたちに出会う前の3人は魔族に遭遇しなかったのだ。
「俺もそろそろ、行こうかな」
そう言って笑うサタンストは酷く、恐ろしかった。
彼の笑い声は黒の世界に響き渡っている。
第2話です!
そして、明日がこの更新最後になると思います。
私はオーゼウスさん好きですよ(笑)
ミカエラの苦労を思うとちょっと微妙ですが(^_^;)
では、また明日。
2014/11 秋桜空