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訓練風景、落ちこぼれの扱い

 武器召喚から実に二週間がたった。慎一は今、城内の野外訓練場に急いでいる。


 晩餐会のあと、王国の近衛騎士団長から説明があり、クラスの全員に部屋を与えるとともに、翌日から戦闘訓練を始めるとのことだった。一部の人間からブーイングも出たが、魔法の講義や武器の使い方をじっくり教わるとのことであまりきつくなく済みそうであった。それ以上に勇者としての力をふるえるということで、気分が高ぶっている物の方が圧倒的多数であった。魔法が使えるということもあり、これぞファンタジーというべき力をいよいよ使えることに、ほとんどが楽しみでならなかった。


 訓練は、近接型と魔法使い型とに分かれている。前者は主に訓練場で身体づくりと武器の使い方を身に覚え込ませ、後者は講義形式で魔法について理論と使用方法を徹底的に覚えてもらうというものだ。それ以外にも異世界の地理や国家関係、魔物や魔法についての講義もありこちらは一般教養として全員が受けいている。


 ところで慎一だが、彼は一応近接用の訓練を受けることになった。一応というのは、武器がいまだに分かっていなかったからである。一度、宰相の指示で王国の魔法使いが見たこともあったが、何かの持ち手・取ってだろうということは分かっても、それ以外のことは何とも言えないとのことだった。

 仕方なく慎一には護身用の短剣を渡して、それを当分代わりの武器にしろということだった。


 訓練場に着くとすでにほとんどの生徒が集まっている。なるべく集団の隅の、遠すぎず近すぎない場所で始まりを待つことにした。

 それでも、全員の注目を避けるのは難しい。案の定近くにいた男子生徒に絡まれる。


「よお、高見。相変わらず、訓練には(・・)参加するんだな?」

「お前みたいな役立たず、いてもなくても変わんないんだから、来なくてもいいんだぜ」

「そうそう。どうせ魔人族と戦っても、後ろの方をうろちょろするだけだろ」

「いやもしかして、それが狙い? おこぼれの手柄を期待しちゃってたりして」

「馬鹿お前、高見がそんなことしたって、俺らの知らないうちに死んじまうだけだろ?」


 男子たちは自分たちでいってるネタにうけたのか、ギャハハハハと笑い声をあげる。そのせいで更に周りの生徒も慎一の存在に気付くと、ひそひそと話し始める。もちろん内容は慎一の陰口だ。


 最近の慎一の状況とはまさにこの有様であった。異世界で神の武器を召喚してもらったにもかかわらず、唯一なんの力も発揮しない出来損ない。クラス全員にそう認識されたことで、慎一の地位は一気に最底辺に突き落とされた。

 今まで傍観者だった人間もこぞって慎一をいじめてくるようになっていた。


「おい、訓練を始めるぞ!」


 いつの間にか訓練の監督を務める騎士が来ていたようだ。生徒たちは騎士のもとに集まっていく。慎一も遅れるわけにもいかず、彼らについていく。ただし、眉には深い皺ができていたが。




 訓練が終わると、三々五々に解散する。すぐに部屋に戻ったり、訓練場で友人とだべったりなど様々だ。

 慎一は当然ながら前者だ。友人と呼べるものがいないのだから選択肢はない。それに体は先ほどまでの運動で汗をかいているし、早く拭き取りたかったのもある。

 しかし対照的に、他の生徒はあまり汗をかいていない。どうやら勇者は武器を召喚することで常人のとは比べようもない運動能力を手に入れるようで、巨大なハンマーが武器であっても楽々振る者がいるのはそうせいだそうだ。

 だがどういうわけか慎一はその身体能力を得ることができていなかった。魔法使いの話によれば、武器をまともに扱えていないのが原因ではないかといわれた。すなわち、例の二つの「取っ手」の正しい武器としての使い方をしない限り、慎一の体は一般人と大して変わらないままだというのだ。


 「取っ手」を念じて取り出す慎一。しかし手中のそれは相変わらずまったく反応を示さず、使用方法もさっぱりである。あれから使い方を色々と試はした。ある時は持ったまま壁を殴ってみたり、またあるときは座学で教わったばかりの初級魔法で作った炎を当ててみたりもした。しかしどれも空振りで、手を痛め、徒労に終わっただけだった。


 「取って」を消して、自室への足を速める慎一だったが、目の前に数人の男子が立ちはだかった。大塚や取り巻きの都木といった、いつもの不良グループだ。


「高見さあ、ちょおっと付き合ってほしんだけど」


 大塚はそういって建物の裏を示す。そこに行ったらどうなるかは容易に想像がついた。


「今は先に――」


 部屋に戻るから、とは続けられなかった。取り巻きの男子たちが慎一の体を抑えたからだ。

 慎一はろくな抵抗もできず、ニタニタと笑う彼らによって否応なく連れて行かれた。




「げほっ!」


 腹部の強烈な痛みに、その場にうずくまってしまう慎一。ただでさえ体格のいい大塚に腹をけり上げられば無理もないことだった。


「お前さあ、いつまでいじめられたいのさ」

「こっちに来ても無能なんだから、救いようがないよなあ」

「ホントどうしようもねえやつ」


 さまざまな罵倒を言い放ちながら、地べたの慎一をけり続ける不良たち。傷が残っても分かりにくい腹を集中的に狙ってくるのが、実にいやらしかった。

 こうなっては反抗することはできず、ただひたすら身を丸めて、暴力が過ぎるのを待つしかない。のどのあたりまでせりあがってくるものを必死に耐えながら、全身の痛みを歯を食いしばって耐え抜く。しかし何度目かに腹を強く蹴り上げられ、軽く体が浮いた。ついに耐え切れず、口から胃液と未消化の食べ物を吐き出してしまった。


「うわっきも」

「吐いてやんのこいつー」

「もうこいついいだろ、戻ろうぜ」


 むせ返りながら地面に吐しゃ物をまき散らす慎一を見て、大塚たちは笑いながら去っていく。慎一はしばらくその場で倒れ込んでいたが、少し回復したところでよろよろと起き上がり、何とか自室に戻ることができた。




 部屋に戻った慎一が一番最初にしたのは、治癒魔法だ。これも魔法の講義で軽く教わったもので、極めて初歩的なものでしかなかったが、今の慎一にはありがたかった。効果は軽い鎮痛作用とせいぜいが擦り傷を治すのが限界で、腹の痛みは引かなかったが、それでも少しは楽になることができる。

 腹に手を当てて短く詠唱すると、手のひらがうっすらと光り、わずかだが痛みが引いていく。もちろんそれだけでは不足だが、これ以上は処置しようがない。慎一はごろりとベッドの上に転がる。


(治癒魔法特化の杖を召喚した女子がいたっけか)


 そんなことを思い出したが、だからと言って頼みに行けるはずもない。クラスメイト全員から以前よりましてさげすまれているのだ。十中八九門前払い、最悪逆に傷をひどくされる危険性すらあった。


「あの『持ち手』がもっと武器らしい武器だったらな……」


 言ったところでなにも変わらないが愚痴らずにはいられなかった。元の世界ではいじめられ、こちらの世界に来ると更にいじめが悪化する、慎一にしてみれば踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂である。


 その日も夜遅くまで「持ち手」をいろいろと試したが、結果は今まで通り、徒労に終わるだけだった。もはや癖になってきているため息をつきながら、慎一はベッドに入った。


(どうするかな……)


 寝床に入りながら今後のことを考えるが、やはり武器の問題が解決されない限り状況は改善されない、という答えに行きつく。


(駄目だ、完全にループしてる)


 同じことばかりの思考と、自分をそうさせている問題に嫌気がさし、より深く毛布を被り直した。




 さらに一週間後、騎士団長は生徒全員と千葉教諭を集めた。集合場所のホールは、何が起こるのかとざわついている。慎一も当然集められていて、やはり定位置の隅の方で騎士団長の到着を待っていた。


 バタンと扉が開く音とともに近衛騎士団長ジョアン・アベイルが入ってくる。と同時にホールが一気に静まり返った。

 ジョアンは最近50になった老年といっていい人物だが、きたえられた体からは生気が溢れてくるようであり、重厚な手練れの騎士の理想像ともいうべき人間だ。その彼が近衛騎士団専用の鎧をつけてきたものだから、皆緊張してしまうのは当たり前であった。


 ジョアンが生徒たちの前まで歩み出てくると、告げた。


「勇者の諸君にはここまで訓練についてきたことに感謝している。ついては明日、諸君に実際に魔物と戦ってもらう」


 ふた大ざわめく室内。ついに実戦を経験するということで、心が躍っている。端にいた慎一には喜色に染まった顔から、その心情がよく見えた。そしてそれは決して生徒だけではなく、教師の千葉も同様であった。彼女も後衛向きの魔法使いであったが、ここ最近で目覚ましい上達を見せていることは、同級生の中でも噂になっていた。

 であれば、彼女が心躍るのも仕方ないことかもしれない。魔法という空想の産物を操ることもさることながら、彼女のサポートには若手の顔の良い騎士がついていたからだ。慎一も何度かその騎士を見かけたが、なるほど女性に受けるのもうなずけた。少女漫画にでもいそうな甘いマスクにさりげなく女性を気遣える心配りもあり、千葉はすっかり惚れ込んでしまったようだ。

 慎一という第三者から見れば、どう考えてもハニートラップの対女性版だったが、当人が盛り上がっているうえに、慎一が横から口を出したところで疎んじられるだけに違いない。そう思って触らなかったのだが、どうやら20代半ばの女性には思いの外、効果は抜群だったらしい。


「静粛に! ……初の実戦であるので、当然我々騎士団も護衛として付き添わせてもらう。なので安心してもらいたい。場所は国境近くの森で、一週間かけて遠征を――」


 ジョアンがこまごまとした説明を続ける。それを聞きながら慎一は懸念する。それは取りも直さず、自分のことである。特に戦闘に関しては、クラスメイトからなじられたように役立たずになる可能性が高い。

 腰につけた短剣の入った鞘に自然と手が伸びる。訓練中に散々使ったが、へたることなく刀身と刻み込まれた王家の紋章の輝きを維持している。

 実は慎一は武器の覚醒や身体能力の向上こそなかったものの、短剣の扱いや体術に関しては才能の片りんを見せていた。実際、騎士団の一人とマンツーマンで教わった時には、筋がいいといわれたこともある。しかし悲しいかな、その才能はすべて召喚武器がいまだ使い道すらわからないという大問題を前にして、ほぼ無意味と化してしまった。いくら体術が上手くなったところで、基本スペックで慎一を優に勝るほかの勇者には、とてもではないが相手にならない。


 しかし、だからと言って今回の魔物討伐遠征は初の実戦なのだ。何もしないわけにはいかない。再び指が短剣に向かう。


(とりあえず、今回はこいつが俺の武器になるわけか……)


 以前ジョアンの説明を聞きながら、慎一は短剣の収まる鞘をいじっていた。

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