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戦いの結果は

 アンジール革命軍代表アルギスならびに軍指揮官アレス捕縛されるの報は、王国によって瞬く間に広められた。また軍の中核をなしていたアレスの息子カンディスの死と、娘のイオシスを捕虜にしたことも同様である。

 アルギスとアレスは抵抗したものの、慎一を含む王国軍との戦闘やイオシスの身柄が確保されていたことで、王都に連行される運びとなった。

 王都に到着してからの王国側の動きはすばやいものだった。アレス・アルギスは即刻裁判にかけられ、死刑が言い渡される。唯一イオシスはまだ若い女性ということもあり終身投獄に減刑されたが、だからといってよい扱いを受けるはずもない。

 そもそも裁判自体が茶番であった。弁護する機会も与えられず、ただ王国政府の言い分が並べ立てられ、あっという間に判決が下された。かかった時間は三人分を合わせても一時間に満たない。王国側の意図がいやになるほど透けて見える裁判であった。


 数日後にはアルギスとアレスの処刑が執行された。場所は王城の地下室だ。王城の前で行うことも検討されたが、勇者の存在を考えると不信感を抱かれるのは危険として変更された。

 二人は縄で後ろ手に縛られ、魔力を封じる処置をした上で処刑台に現れた。粗末なズボンを履いているだけで靴すらなく、上半身にはいくつもの傷がつけられている。顔色は暗く俯いており、それだけでこの数日間どのような扱いを受けていたか察するには十分だった。

 もはや抗う気力もうせたのか、改めて罪状を告知する役人の口上にもピクリとも反応せず黙って聞く。そして話が終わるとひざまずくように指示されそれに従う。後ろには剣を持った処刑担当官が控える。

 最初にを首を刎ねられたのはアルギスだ。振り下ろされた剣は間違いなく首を捉え、魔力で強化された刃と担当官の技量で骨と骨の間をきれいに切り裂き、のどまで振り抜かれる。とたんに切り口から血があふれるがそんなことはお構いなしに担当官は首を掲げた。

 次はアレスだが、こちらはすんなりとは行かなかった。同じように後ろから首を一刀両断にするはずだったのだが、切る位置が悪かったのか骨に当たり剣が止まってしまった。血を噴出しながらアレスが絶叫する。

 失敗したことに焦る担当官は目の前の反逆者の苦痛よりも、周りの同僚からの非難の目が気になり、冷や汗が流れた。一撃で終われば何てことないが失敗すれば押さえ込んだりしなければならないので、面倒なのだ。

 痛みに暴れようとするアレスを押さえつけ、今度こそはずさないよう狙いをじっくりと定め、剣を振り下ろす。二振り目は成功し、目を見開き唇から血を流した首が切り離されたことでごろりと地面に転がった。


 その後死体はカンディスのものと一緒に王都郊外に埋葬され、首は革命軍に対する脅しとして使われた。彼らが立てこもる館の前で首をさらすことで、事前に流れていたアルギスらの捕縛と処刑を決定付けさせ、革命軍の崩壊を狙ったのだ。

 果たしてその目論見は成功した。代表や精神的支柱であった存在を全員失ったアンジール革命軍は、ある者は脱走し、またある者は破れかぶれに討伐軍に挑み死んでいった。これによってベアウルコ侯爵領における反乱は完全に終結した。主だったものは全員処刑か投獄され、その罪は家族まで問われた。それは言うに及ばずアレスの妻セレミスも含まれている。彼女は王国によって連行され、娘と同じく永久に投獄されることとなった。

 なお、この一連の内容はほぼ全員の勇者には不要な情報として伏せられた。




 王城の廊下を歩く慎一。日はすでに赤くなり始めており、他のクラスメイトはそろそろ午後の戦闘訓練を終えるところだろう。

 実は慎一は最近合同訓練の参加も強要されず、もっぱら一人で訓練をしていた。それは王国からの仕事を受けているので生活リズムが合いにくい、というのもあるがそれ以上に武器の訓練に広い場所が必要なことや他の勇者との実力差があった。動き回りながら銃火器やブレードを使うため合同で訓練するにもスペースが足らず、まして慎一は圧倒的に実戦経験を積んでいる。それも魔物との戦闘だけでなく対人戦闘も含めているので、どうしても一緒に戦うというのは非効率であった。

 加えるならば、情報の漏洩を避ける目的もあった。今回の反乱軍にように外聞の悪い作戦に参加している人物から、国が囲い込んでいる勇者たちにそんな話が流れるのは避けたいところである。もちろん制限しすぎて激発されるのも困るので、接触時間を減らすことで親しくなる機会をなくし、話さないようにしていた。もっともこれについては杞憂であり、慎一自身クラスメイトに良い感情はまるでなかったので、仕事について話すどころか雑談もしない様子であった。


 門に向かって歩きながら、慎一はつい先日のことを思い返した。




 アンジール革命軍が完全に崩壊した後、慎一は前の仕事のときのように部屋に呼ばれて、グリッジから報奨金を受け取った。あの親子を地獄に落とした結果の金だという考えはあったが、ためらいはなくさっさと受け取ることにした。

 正面で人のよさそうな顔をしているグリッジにふと聞いてみた。


「そういえば、捕らえた人はどうなったんですか?」


するとグリッジは一瞬表情を曇らせたが答えてくれた。


「主だったものは、それぞれしかるべき処置を受けましたよ」


だがこれ以上は言葉をにごらせる。無理に聞くことでもないので慎一も追及しなかった。

 しかし、慎一は実のところ大まかなところについては知っていた。なにせ反乱軍壊滅の報は街の新聞にも載っていたし、第一当事者である彼がからして予想は付くものであった。まして処断の内容については、少し探れば噂程度のものならいくらでも出てきたのだから、ここでグリッジがはっきり返したとしてもそれはより確実性の高い答えにしかならない。聞いたのはそういう可能性もあるかと思っただけなのだから、誤魔化されても落胆することはなかった。


「シンイチ殿には、次の魔人族との戦いにも期待してますよ」

「もう決まっているんですか?」

「ええ、近々他の方にも伝える予定ですがね」


 早くも次の作戦のことを話すグリッジに、慎一は食いつかずにはいられなかった。

 彼によれば勇者を連れてついに国境を越え、魔人族の住む領地に攻め込むとのことだ。ルートは国境沿いの街を出て山脈を貫く道を経て、旧リーデン王国領でもあるソルアンに橋頭堡を作るという計画らしい。これには騎士団にも大々的な動員をかけて行われ、きわめて大規模な奪還作戦になるそうだ。

 心配されていた勇者の練度についても、ここ最近は遠征や訓練で目覚しい成長を遂げており、以前のように魔物の大軍団に囲まれてもまったく問題ないレベルになっている。それゆえ、いよいよ作戦が始動することになった。

 熱く語るグリッジを慎一は無表情にみる。まさしく聖戦という言葉に酔ったたちの悪い宗教者を連想し、ぴたりと当てはまると思った。その後冷静になったグリッジからある程度具体的な話を聞きだしつつ、双方とも部屋を出て行った。




(場所が先に把握できたのは、有益だな)


 考えても、実にそう判断できるものだった。言いふらすつもりなどないが、かといって利用しないという手もない。城や街のありとあらゆる書籍がある場所をめぐり、ここ何日かはその情報を頭に叩き込んでいた。案の定使えそうな地形があったので自分で資料をまとめ、それに基づいていくつかの計画を練っていたほどだ。


(あとはテオドールの首尾次第か)


 もっとも慎一単独でできることではないので、外部の力が必須となる。そのための資金や時間は用意したし、後は協力者の動きとそれに合わせた最終調整だけであった。


 門までの道の途中で訓練から部屋に戻るクラスメイトたちとすれ違う。言葉を交わしたりはせず、むしろ避けられながら慎一は素通りする。後ろからひそひそと話しているのが聞こえているが、どうせ益体のないことなのでスルーである。

 だがある一団の話はそうではなかった。建物の陰にいたその一団は、慎一をいじめていた大塚と都木を筆頭とする手下数名だった。なにやら不穏な雰囲気に陰に隠れて様子を伺ってみる。

 どうやら大塚と都木が口論しているようだ。しかも普段大塚に付き従っているはずのほかの生徒も、今は都木の側についているように見える。


「だから、もう俺たちは高見にちょっかいを出すのはやめるって言ってんだよ。分かる? 大塚くん」

「てめえ、なんだと……!?」


 挑発的な物言いに大塚が都木の襟元をつかもうとするが、ひらりとかわされる。にやついた表情で都木は言い放った。


「そういう訳で、もうあんたとは一緒にいられないから」

「じゃあな」

「バーイ」


 手下だと思っていた存在の裏切りに怒りが頂点に達したのか、大塚は専用武器である剣を召喚し、切りかかった。都木もそれに応じて自身の固有武器である刀を出す。周りの生徒も呼応して武器を取り出し、大塚は呆気なく取り押さえられた。


「いくらなんでも、多勢に無勢だってのがわからないかな? それとも、そんなに悔しかった?」

「ちっくしょう……!」


 大塚はすぐに解放されたが、都木たちが立ち去っても地べたに這いつくばったままだった。

 なぜ自分がこんな惨めな目にあっているのか、大塚には理由がほしかった。元の世界似たときにはクラスに君臨し、手下もいた。高見慎一というちょうどいいサンドバックまで用意されていた。他人から見ればどうかは知らず、彼にとっては順風満帆な生活を送っており、それはリーデン王国に召喚されてからも変わらないはずだった。事実聖剣という強力な専用武器を手に入れ、勇者の中でも最高の戦力として見られていた。

 それがいまや、慎一はサンドバックどころか明らかに大塚を超える実力を保持しており、クラスメイトからは距離を置かれ、ついには手下からも見放された。


(なんでだ、何でこうなった?)


 自分のやってきたことのつけであると認められず、大塚は自分にとって納得のいく答えを探す。そしてそれに思い当たった。


(高見……あいつが弱いままなら、俺はこんなことにならなかった。あいつが、あいつのせいだ!)


 調子に乗ってるとみて彼の相方を使って侮辱しても、返ってきたのはどこまでも大塚を軽視する答えだった。そして今までのように暴力で格を教えてやるつもりが、逆に反撃を受けて間抜けをさらすことになった。手下からあからさまに距離を置かれ始めたのも、思えばあのときからである。


「ひ、ひひひ……高見め、殺してやる……殺してやる……」


 ぶつぶつと怨念の言葉をつぶやきながら、大塚は城の中へ戻っていった。


 そんな様子を慎一はしっかりと見ていた。思った以上に、というよりは不満の捌け口になった結果相当恨まれていることに、しかし多少の不快感はあっても恐怖はなかった。それどころか大塚の状態を見て、新しく計画に使えないか考える始末である。


(今夜の話し合いで詰めるとするか)


 王城を出た慎一は、真っ直ぐ街の繁華街へ歩いていった。

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