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異世界召喚、その現状

説明長い&主人公空気気味

こいつぁひでえや

 教室で光にのまれた慎一は、気が付いたら見知らぬ場所にいた。周りには、同じように教室で巻き込まれたクラスメイト達がいる。床に座り込んでいたり立っていたりとしているが、共通しているのは皆一様に混乱しているということだ。しきりに何度も周囲を見回したり、近くの友人とここはどこなのかと話している。

 慎一たちが今いるところは地下のようだった。窓は一つもなく床から何まで冷たい石でできていて、ひどく無機質な印象だ。明かりは壁に埋め込まれた輝く不思議な結晶と、床に書かれたちょうどもともといた教室と同じぐらいの大きさの魔法陣が放つぼんやりとした光だけだ。


 しばらくざわめいていたが、突如部屋の石扉が開くと一斉にそちらを向いた。慎一も思わず音の方向を見る。

 振り向いた先には十数人の人間がいた。中世の騎士のように全身鎧に身を包んで槍と剣を持った人や、体と顔をすっぽり覆っている、まるで物語の中にしか登場しそうにないいかにも魔法使いといった装いのものもいる。しかし一番目立っているのは、彼らに護衛されるようにして佇んでいるドレス姿の女性だ。

 顔立ちからから察するにおそらくは十代半ばであり、女性よりは少女という方が正しそうであった。金色に輝く髪は腰のあたりまでゆるくウェーブを描きながら流れており、黄金の川があればこのようであろうかといった様子だ。そして何よりその容姿が素晴らしかった。精巧に作られた西洋人形のごとき顔は少女の柔らかな雰囲気と相まって何とも言えぬ気品をもたらし、服の上からでもわかる大きく張り出した胸にきゅっとしまった腰が抜群の色気を醸し出している。加えてきているドレスは派手すぎずそれでいて上品であることがわかるように上質な素材を使い、細かいところに作り手の技術の粋が凝らしてある。


 クラスメイトは少女の雰囲気にのまれてしまい、先ほどまでの慌てようが嘘のように静まり返っていた。それは慎一も同じであり、むしろこの状況で異端な反応をとれるものはいなかった。


「突然お呼びして申し訳ございません、勇者の皆様」


 少女が軽く頭を下げて謝罪する。彼女の声もその姿に合うもので、透き通る清流のごときであった。


「私はリーデン王国王女のウィンディ・エル・リーデンと申します。この度はわけあって皆様を召喚させていただきました」


 そう名乗った少女の声はその場の全員に聞こえた。だが、召喚されたクラスメイト達には話の内容が全く分からないもので、新しく疑問符が頭の中を巡り始めた。


 様子を見て悟ったウィンディは説明は別の場所ですると伝え、ついてくるように言った。生徒たちも、彼らを導く千葉教諭もあまりに不可思議なことが起きて脳がパンクしており、彼女の指示に従ってついていくしかなかった。

 慎一も列の後ろにつきながら続く。とはいえ以前暇つぶしに読んだ、似たような展開のファンタジー小説のことを思い出し、小説の展開をなぞっているように覚えた。勿論だからといって、小説の出来事が本当に自分の身に降りかかるとは考えもしなかったので、他と同様に混乱しているのは変わりなかった。




 ウィンディに連れられて生徒と教師がたどりついたのは、とにかく大きく、豪華な部屋であった。先ほどくぐってきた扉にしても、3メートルの高さはあろう大きなものでしかも見るからに手の込んだ意匠が凝らされていた。しかし部屋の中はそれ以上だ。

 中央には手触りのよさそうは赤いカーペットが敷かれており、終着点には何段かの階段と頂上に位置する玉座があった。玉座は宝石が埋め込まれているらしく、色とりどりの光を反射してみるものを惑わせるかのようだ。そしてその席には、白いひげを蓄え王冠を頂いた初老の男性が座っていた。

 ウィンディはクラスメイト達をその男性の前まで連れてくると一旦そこで立ち止まるようにと告げ、自身は玉座の右側に控えた。左側にはやや神経質そうな顔つきをした細身の男性が立っており、目の前の少年少女を値踏みするような眼で見ている。


 初老の男性がおもむろに口を開いた。


「ようこそ、勇者に選ばれた者達よ。わしはこのリーデン王国の国王であるゴールディー・エル・リーデンじゃ。」


 そう言われて、生徒たちは反応に困る。とにかく偉い人らしいというのは分かったが、リーデンという国に聞き覚えがあるはずもなく、むしろ混乱が増すばかりであった。


「国王陛下、どうやらこの方たちはまだどういう状況か知らされてないようですぞ」

「……どうやらそのようだな、宰相」


 宰相と呼ばれた神経質な顔をした男に国王が答える。少年達の様子を見て、王はウィンディに尋ねた。


「ウィンディよ、召喚についての説明はしておらんのか?」

「はい。ひどく混乱していらっしゃるようでしたので、こちらにお連れして落ち着いてからの方がよいと思いまして……」

「わかった」


 国王は再び正面の、困惑顔の少年たちに向かい、説明を始めた。




 まず、この世界は元の世界とは全く異なっている世界だということだ。特に異なるのは、勇者たちのもとの世界にはない力、魔法が存在することである。

 地理に関しては、大陸が大きく二つあり、一つがリーデン王国が存在するエウルークス大陸、もう一つが大きな海を隔てたところにあるカルメノイ大陸。そこにはいわゆる人間と呼ばれる純人間や、エルフやドワーフ、獣人などを初めとする亜人、そして外見こそ人間に似ているが角を生やし魔法に長けている魔人族が住んでおり、大小さまざまな国や地域に分かれて住んでいる。

 それ以外には魔物も存在する。魔物は外見が獣だったり虫だったりと様々だが、総じて動物や人間を襲うことが多く、何でも魔力の高い生物を食べることで生きているらしい。当然これに対抗すべく各国の騎士団や、全世界に拠点を置く傭兵ギルドの力を借りて対抗している。彼らの活躍で、昔に比べると被害はごく小さい規模に抑えられている。


 そんな風にしてある時までは大きな戦争もなく平和な時代が続いていたが、今からおよそ百年前、突如として魔人族が結託して純人族や亜人の国々を襲うようになった。しかも同時期に魔物の活動も活発になり、数が増えたり、今までより狂暴かつ強力になっていたりと対処が難しくなっていた。

 人類は魔人族の攻勢に耐えられず、ついにはエウルークス大陸の西部が全く魔人たちの手におちてしまった。現在リーデン王国は大陸中央部のウーリ山脈を挟んで睨み合っている状況だ。

 そして、何とか打開策を見つけようと血眼になって調べた結果見つけたのが、魔人を総べる魔王の存在とそれを打倒する異世界の勇者であった。もともとリーデンは長い歴史を持つ国であり、そういった伝承には事欠かなかった。半信半疑ではあったものの、魔王については潜入していた調査員により確認されており、彼がすさまじい力を持つことも分かっていた。ゆえに、魔王を倒すべく勇者召喚の儀式を行い、召喚されたのが慎一たちのクラスであった。




 国王がここまで説明すると、さすがに話し疲れたようであった。一方生徒たちは、一気とんでもない話をされてすぐに信じろというのも無理のないことで、口ぽかんとあけていた。


「どうじゃろう、勇者としてぜひとも戦ってくれないかのう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 異世界って……魔王って……てかそもそも、俺たち元の世界に帰れないのか!?」


 焦った声で男子生徒が訊く。当然だ、彼からしてみれば現状は誘拐されたのと大差ない。家族のことを思えば、帰還可能かどうかは気になるだろう。


「お主たちをすぐに返すことはできないが、その使命を果たす、つまり魔王を倒せば元の世界に帰ることが可能なはずじゃ」


 王の返答に男子生徒はほっと胸をなでおろす。しかし今度は千葉教諭が割り込んできた。


「王様! それはこの子たちをその、魔王、とかいうのと戦わせるということですか?」

「ハッハッハ、その点は心配ないぞ。勇者として召喚されたものには特別な武器が神から与えられてな、その武器はどれもこれも超一級品。おまけに勇者の身体能力・魔力は武器によってかなり強化されるでな。なったばかりの勇者一人でも、魔物100体くらいは軽く倒せるぐらいじゃ。なあに問題ない」


 千葉の心配に、王は能天気とも思える反応だ。重ねて何か言おうとした千葉だったが、それは宰相にさえぎられた。


「では、準備も整ったことですし、武器召喚の儀を始めてはいかがですかな」

「おおそうじゃな」


 機先を制された千葉は、それ以上言葉を続けることはできず、しょぼくれて口をつぐんでしまうのであった。




 慎一は最後尾にいたため、後方からクラスメイト達の様子を観察できた。また他人の反応を見ていたせいか、冷静になって考えを巡らせることもできた。


(皆、浮足立ってるのか……?)


 後ろから見る限りではクラスメイト達は皆不安がっているように見える。だが不安だけではなく、どうにもこれから起こることへの期待感も持っているようだった。突如降ってわいたファンタジーな世界での英雄譚、その主役に自分がなるということがわかって高揚しているのかもしれない。


(一番前は――なんか如何にも魔法に使いますって感じの道具が出てきたな)


 集団越しに見える場所では、巨大な水晶球が乗った台やらが用意され、王女が何やら準備しているようだ。これが武器召喚の儀式とやらなのだろう。


(さっきまでの話を真に受けると、俺にもいきなりすごい武器と力が手に入るらしいけど……)


 魔王を倒す存在として絶大な力を持つ勇者。そんな勇者に与えられる武器が、弱いはずもない。さぞかし便利で強力なものが召喚されるのであろう。


「どうにも、嫌な予感がするな」


 ぽつりと呟く。呟かずにはいられなかった。

 そして、慎一ただ一人が不吉な感覚をぬぐいきれないまま、武器召喚の儀式が始まった。

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