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王城からの初依頼、テスト

 翌日、慎一は王城の庭で訓練を受けていた。クラスメイトと合同であり、変わらず騎士団の監視下で体術やトレーニングを行っている。


(どうにかならんかな、この状況)


 そう思う慎一はクラスメイトには遠巻きに見られながら、あちらこちらからの視線にさらされているのを全身の肌で感じていた。しかしその質は変わっており、いじめを受けていたころのような嘲笑やあからさまに見下しもあるが、加えて疑念といくばくかの好奇が混じっている。

 帰還から実に一週間、慎一を取り巻くものといえばこれであった。彼らから話しかけてくることはなかったが、毎日この状況なので、いい加減しびれを切らした慎一の方から話しかけようとしたこともある。だがそうすると生徒は逃げてしまい、そもそも会話すらできなかった。

 立ち話を偶然聞いたところ、どうやらちょっかいをかけてきた大塚を、逆にのしてしまったことが広まっていたらしく、今までのように無抵抗のサンドバックのごとく扱うことができないでいるようだ。中には報復しに来るのを心配する生徒もいるようだが、慎一にその気は少なくとも現時点ではなかった。当然、これまで受けてきたいじめを忘れる気はさらさらなかったが。


 ところで件の大塚だが、今のところ何かしようという気配はない。取り巻きも同じようで、陰で嫌味を言うくらいはしているようであるが、直接手を出すことは背負い投げの一件以来、一度もなかった。


(とはいえ、安心はできないな)


 ちらと大塚を見ると、慌てて目をそらされた。だが慎一は大塚の粘つくような視線に前々から気づいていた。コケにされたのがよほど腹に据えかねたらしく、何かしようとしているのは注意するまでもなくわかることだった。表立った行動はないとはいえ、警戒は必要にちがいない。




 その日は夕食の後に、勇者全員でまた魔物狩りをするジョアンから通達された。生徒たちは遠征のことを思い出してざわめく。とりわけ山賊に襲われた男子生徒などは、分かりやすく青ざめている。


「静かに!」


 ジョアンの一声に、場が静まり返る。


「今回は長期間ではなく、王城から近くの魔物発生地点に向かう。予定は3日、基本は全員で行動し護衛の騎士も増やす。よって安全面で諸君らが気に病むことはないから、安心してほしい」


 再び抑え気味にざわめきはじめる。ほっと胸をなでおろすのもいれば、やはり不安な面持ちのもいる。


「それと」


 ジョアンが続ける。そして次の言葉に、少なくない数の人間が驚いた。


「シンイチ・タカミは諸事情により、今回の遠征からは外れてもらう。詳しいことは連絡するので、あとでこちらに来てほしい」


(……どういうことだ?)


 疑問符が頭に浮かぶシンイチだったが、ひとまず解散となる。

 そして先ほどの指示から他の生徒は下種の勘繰りをしていた。


「なんであいつだけ外されたんだろな」

「そりゃあやっぱり、帰ってきたはいいけど戦力として数えられないからじゃない?」

「そうなんかねえ」

「結局役立たずじゃねえかよ」


 陰口のつもりだろうが、慎一の耳にははっきりと聞こえてきた。声から察するに大塚一味も、陰口のたたき合いに参加しているようだ。だが慎一は一瞥することもなく、ジョアンのところへ歩いていく。それを見たその生徒たちは「生意気な奴」「やせ我慢している」などとまたけなしていた。


 食堂では話しづらいということで、ジョアンに連れられてきたのは応接間の一つだ。そこには面識のある人間がいた。


「やあシンイチ殿、またお会いしましたな!」

「……その節はどうも」


 それは武官のグラッジであった。以前のように無駄に明るい。軽くあいさつを交わすと、慎一は勧められるままにソファに腰かける。


「それで、私だけ遠征を外されるとのことですが、なぜでしょうか」


 聞くと途端にグラッジから能天気さが消え、一気に厳しい顔になる。


「実はシンイチ殿にぜひやってもらいたいことがありまして、それで遠征から外したのです」

「やってもらいたいこと?」

「こちらをご覧ください」


 そう言って書類を差し出してきた。何枚かの紙で構成されたそれを手にとって読んでみる。そこにはやってもらいたいことの中身、条件、報酬が細かく書かれていた。


「依頼として私に頼むのは分かります。が、内容が内通者の処分というのはどういうことでしょう?」

「言葉の通りです。文官に北の隣国、ノリンジ王国に情報を売り渡しているものがいるのです。しばらくは泳がせておいたが役目はもうありません。そこでノリンジの人間と密会する場所に赴き、最低でも全滅、可能であれば生け捕りにしてもらいたいのです」


 グリッジは探るような眼で慎一を見ている。その眼と依頼の条件で王国の真意は見当がついた。


(条件は「監視役の騎士がいて、なおかつ仕事は俺一人で行う」こと。……実力か忠誠か、あるいは両方を試験する腹積もりか)


 とはいえ、だからといって拒否してもメリットは何もない。報酬も金貨5枚とそこそこであり、素直に依頼を受けることにした。


「わかりました、この内容で引き受けます」

「……協力感謝します」


 あっさり承諾したのが意外だったのか、グリッジは少し目を丸くしたものの、頭を下げて礼を言う。


「この書類はもらっても?」

「ええ、もちろんです。見ての通り地理や目標、護衛の予想戦力も書いてありますので、必ず目を通しておいてください」


 そうして、慎一たちは部屋から出ていった。




 翌々日の深夜、慎一は目標地点である谷底の道に、その一角に隠れていた。武器も用意して息をひそめ、じっとその時を待つ。今回は地形が広くないため中近距離に対応できるように、右手にはサブマシンガン、左手にはレーザーブレードの発振機を召喚している。

 サブマシンガンはバナナ型の弾倉を持つタイプで、銃身はライフルより切り詰められており、近距離射撃で弾をばらまくのに使うつもりだ。発振器は、一見するとダガーにも見える。違うところは握りが腕に対して垂直で腕の延長としてふるうことができること、ダガーなら刃にあたる部分に大きなへこみができており、ブレードの射出口があることだ。

 後者は王城に戻ってからも続けていた、夜の運用テストで編み出したものだ。テオドールの剣捌きを見て、銃だけではなく近接戦闘用の武器も必要に思えたのだ。そしてできたのが、魔力の弾丸を撃つのではなく、その魔力を刀身の形状に固定して使う、ブレード発振器だった。


 しばらく隠れていると件の内通者が現れ、ほどなくしてノリンジの人間と思しき一団も到着した。ノリンジの方は案の定護衛がいるらしく、金属が音を立てているのが耳に届いた。

 ここまで見ていて、慎一が気付かれた様子はない。一団が内通者と合流したのを確認すると、慎一は跳躍し一気に彼らの前に躍り出た。

 突如現れた慎一に対して彼らの対応は驚くだけだった。あまりにも予想外すぎたのか、本来反応すべき護衛も目を丸くしている。


(好機か)


 サブマシンガンで大凡の狙いをつけ、乱射する。目標は内通者とその相手をしている人間の足だ。

 銃弾がばらまかれ、二人の人間の足を掠め、貫通する。うぎゃ、と声を上げて二人は倒れ込む。これで少なくとも、すぐさま逃げられることはなくなった。


「貴様!?」


 ようやく護衛が慎一に向かってくる。一人は剣を抜き、斬りかかってくる。鋭い一閃を後ろに下がりギリギリのところでかわす。見れば目の前の剣士の後ろには、更に三人の剣士と二人の後衛がいるのが見えた。


(前情報とほぼ一緒だな)


 二つ目の斬撃が襲い掛かろうとしている。と同時に他の剣士は慎一を囲むように動き始めた。慎一はその場でジャンプし、剣が足の下をすり抜ける。相手が振り抜くのに合わせて左腕のレーザーブレードを起動、凹みから青白く光る刀身が出現し、目の前を横に薙いだ。正面にいた剣士は、口から上が切り離され即死した。


「こいつ!」


 他の剣士は仲間をやられたのを見て激昂しながらも、冷静に取り囲む態勢を作った。魔法使いともう一人の詠唱もそろそろ終わろうとしている。まさに袋叩きにしてやらんとする準備は整った。

 そしてそれを察知していた慎一は、地面に倒れ伏そうとしている頭無しの死体をつかみ、魔法使いたちとの直線上にいる一人に投げ飛ばした。


「ぐふっ」


 死体が直撃した剣士は、軽く重量80キロを超える物体を受けとめたせいで、肺の中の空気を無理やり吐き出す。他の二人も慎一の常軌を逸した行動に、一瞬反応が遅れた。

 足をばねのように曲げ、強化した跳躍力で瞬く間に魔法使いの前に出る。


「ひい!?」


 悲鳴をあげるが遅かった。慎一が左腕を振るうと、魔法使いの体は上下が泣き別れになった。盛大に血が吹き上がり、斬られた腸が糞便をまき散らす。用が済んだ人間だったものには目もくれず、二人目の魔法使いに右手の照準を合わせる。

 だがまさに射殺しようとした瞬間、魔法使いの顔がにやりと歪む。地面に巨大な魔法陣が現れ、大きく光り輝き始める。魔法が完成してしまったのだ。


(ワンテンポ遅かった)


 とりあえず魔法を止めるために、魔法陣を迂回して跳躍する。まずは右斜め前、もう一回は左斜め前。そして、さっきまで不気味に笑っていた術者の側面に出る。


「あ?」


 とぼけた声を最期に、魔法使いは側頭部から蜂の巣にされた。銃弾は脳をぐちゃぐちゃにかき回し、貫通した数発は反対側にも穴をあけ、そこから赤い液体とピンクの物体がまじりあったものが流れでる。

 これで止まるはず、だったが魔法陣は術者の死亡にも関わらず、光が増していく。形状と特色をよく考えると、慎一には心当たりがあった。座学で教わったものだ。


(さっきの、召喚術師だったのか!)


 そして光が頂点に達し、収束していく。


ギィィィィィイイイイイィィイイイ


 耳障りな、悲鳴にも摩擦音にも似た鳴き声を上げて出てきたのは、全長10メートルはあろうかという巨大なクモだった。

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