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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第1章 異世界で迷ったら奴隷になった 》 
7/229

<1-6>  「彼らの事情と俺の問」

最新の本文修正日は2014年10月13日です。

 この世界に来てから1週間前後のまだ何も解らない俺ですが、何故か年季奴隷になってしまう。2日目の早朝、奴隷旅団所属中隊と呼ばれた11台の荷馬車の列は俺を乗せて何処かに向っていた。


 そんな目的地さえ知らないで先頭の1号車の荷台の座席で何から聞いていいか考えをまとめる。


 あれだけ神様にお願いをしていた俺。いざ助かると神様の存在なんて忘れてしまう。まるで、餌を貰った後のプイッと、そっぽを向く猫のような俺であった。






☆  ☆  ☆






 その頃、目的地も何故この世界に居るのかも分らない阿佐賀を運ぶ1号車の2台後を進む3台目の箱型馬車に乗っていた2名の尉官、隊長のジョルジョネ大尉とアミュネス少尉は彼について話をしていた。




 書類を見ていたジョルジョネ大尉が唐突に、正面に座って同じように書類を見ていたアミュネス少尉に話しかける。




 「なぁなぁ、俺達。すんなり彼に接触できたし、彼を言いくるめて旨く保護できた。なんか俺達ついているよな、アミュ」




 「はぁ、そうですね、死に掛けていたようですが。彼があのまま動かないでじっとして居てくれれば、よかったのに‥‥‥。そうすればもっと早く接触できたかもしれませんわね」




 「俺達以外の中隊がどうなったか知っているのか? 三ヶ月前の一番最初に召喚されてきた奴はこれと同じ規模の中隊はほぼ壊滅したって聞いたか?」




 「王都を出る前に旅団本部長のザルツベ大佐はそんな事を言ってましたわねぇ。」




 「それを踏まえて、あの頃合迄、様子を見たんだぞ?!」




 「えっ? そうなの? 知りませんでした。私はてっきり、斥候兵の名前を聞き忘れた大尉が連絡出来ずに闇雲にあの場所に向っていたかと思いましたわ!」




 本当の事かは分らないがジョルジョネ大尉はアミュネス少尉から目線を外すと違う話に持っていく。その様子を見て彼女は確信したようだが、本当の所はジョルジョネ大尉のみが知る所であろう。




 「ああ、そうそう。その中隊を全滅した奴以外に一月半前だったかに、二人目の接触が有ったらしい。しかし、その二人目は意識不明で今は学院の方へ護送中って言ってたな~」




 「それは初耳ですわ! じゃあ、彼で3人目って事ですか? まだ他にいるのでしょうか?」




 「いや、彼で最後らしいよ。王都を出る時にザルツベ大佐はこれで最後だとか言っていたけどな」




 彼女は口を手で押さえながらジョルジョネ大尉に顔を寄せ小声で話す。




 「大尉、これって。あの、噂されている『王家の血の呪い』が召喚したって奴ですか?」




 彼も小声でそのままアミュネス少尉に向けてこう切りだした。




 「ああ、そうだ、あまり口外するなよ。消されるぞ‥‥‥。まあ、俺は呪いとは思っていないけどな。


 何処に耳があるか分からないからこれ以上はその事については話さない方がいい。この隊にも奴隷組合の関係者いるし、俺の知らない通報者が居るかもな」




 そう彼が言うと慌ててアミュネス少尉は自分の仕事である主計長として隊の事務処理作業を始める。



 そんな彼女の慌てた様子を横目に、ジョルジョネ大尉も自分の書類を見ながら「リョウジ」の事を考えていた。




 結構強引に年季奴隷にしたのは成功して、思わず喜んだ。しかし、彼はこの王国の人間でもないし、この大陸の北にある創世大陸ゴダの人族でもなかった。


 4百年程前に異世界から来たヒノモトのムサシの国の勇者と同じ人族だという。勇者が召喚された時よりも時間が経っていたのか、資料とはいささか着ている物や所持品が違がっていた。



 彼に取付けた翻訳首輪が発動すると彼の言葉によって「ヒノモト」から来た事は確認は出来た。まあ、時々分らない言葉が出るが概ね通じる。後は、彼にどうやって説明するかだが‥‥‥。


 しかし、枷はやりすぎたかな? 命令で仕方が無かったが、翻訳首輪の付ける時は震えていたな。それに、メルディムの奴がクナイの曲芸を見せたのは正解だった。まあ、あの彼に渡した物に書かれた文章は本物だし、実際の事だから良いだろう。



 ザルツベ大佐が「4百年前の召喚者は王国の不手際で、消息を失って大騒ぎになった」と、言っていた。


 今回は万全の対策をしたにも関らず、三名の内二名確保できたがその内一名は意識不明、残る一名をお前に託すって言ってたな~‥‥‥。「リョウジ」は守らないとな‥‥‥。例え俺が死んでも‥‥‥。一応軍人だし死は覚悟できている。



 今の所、この広大なアラレスティ大陸を治めるアラレスティ王国や王家には心配する問題はない。何が起こるかは何れ分るだろう、一介の大尉が考える事ではない。もっと上の人に考えて貰い、自分は目の前の事に集中しよう‥‥‥。その為にザルツベ大佐はこの俺に任せてくれた。後は、俺が旨くやればばどうにかなるだろ。




 そんな不安を押し隠すようにニコニコしながらジョルジョネ大尉はアミュネス少尉を見ていると、突然言葉の一撃が!




 「大尉! 気持ち悪いです。そんな目で見つめても何も出ませんよ?! その目をそらさないと槍で刺しますよ!」




 そんな言葉を言い放ってからアミュネス少尉は思う。


 ほんと、この人。戦闘と計算意外の時はへらへらして気持ち悪い。まぁ、戦闘と計算している時は凛々しくて良い上司なんだけど、普段がね~‥‥‥。


 それに本当に「リョウジ」が王家を救うのかしら? 伝説の勇者じゃなさそうだし、賢者でもなさそう~‥‥‥。一番貧乏くじを引いたのは大尉と私だったらどうしよう‥‥‥。




 中隊の事務処理作業をしていたアミュネス少尉はそんな事も考えていた。






☆  ☆  ☆






 この王国の王都にある王宮の国王執務室では、国王が奴隷組合の組合長から「リョウジ」の話を聞いていた。組合長だが実質国王の配下である。長年国王に仕え国王の目と耳になり、国内の情報を直に教えてくれる数人の内の一人である。


 奴隷組合は全国に支部や出張所があり、主に国王の財産である奴隷を管理している。情報はその時に収集しているようである。


 国王はこの奴隷組合からの情報を参考にして朝議に臨む、朝議に参加している官僚が上奏してきた事と整合性が取れるか確認する為である。過去もそうだが今のところは整合性は取れているようだ。この国の官僚組織が、正常に機能しているのであろう。まあ、疑い出したらきりがない‥‥‥。




 「国王陛下、朝議の御時間となりました。皆、朝議の間に集まっております。どうぞお越しください‥‥‥」




 恙無つつがなく朝議が終り、皆が下がる前に宰相が主な者の名前を呼び、国王以下別室へと足を進める。別室に入り部屋の周囲が立ち入り禁止となった。そして、国王と重臣達の密談が始まる。




 「今回の召喚者について、御報告があります。三名の内、一名は死亡し、死体の損傷は激しいものでしたが確認して有ります。また、もう一名は意識不明で原因究明の為、王立魔素術学院へ護送中。最後の一人は無事保護して確保したと、報告を受けました。


 いよいよ、王国と王家に降りかかる災厄の前兆を示す召喚者が来ましたが、過去には何も起きなかった事例もありました。しかし、一応万全の対策を今回は取ってあります」




 最初に宰相が皆に説明すると、次々に他の担当のものが報告を始める。




 「王国軍が責任をもって残りの2名の安全は確保しますが、各地の不穏な動きや予兆の報告はお互い密にお願いします」




 「天変地異の予兆は今のところ出ていないようで、作物も大豊作と言うわけでもないし不作でもないようで平年並みのようです」




 「もう一つの懸念事項は国王陛下にお任せしてあります。それに北東にある創世大陸は今のところ、不穏な動きはございません。」



 最後に宰相が懸念事項の件を話すと、皆国王陛下の方を向き意見を聞く準備をする。





 「いや~、皆固いよ~、もっと柔らかく。なっ! なっ! ほら、気楽にやらないとこれから何か起きたら大変よ~。


 ああ、皆が心配している事は手を打ったし~。それに、何か不満があるならいつでも軍隊引連れ王都に向ってくるといいさ! いつでも相手してあ、げ、る!」




 国王は最後までふざけた調子で周囲に微笑む。




 宰相は「この国王陛下が重鎮を前にすると、必ずこの口調になる癖が頭痛の種で、これが無かったら完璧な明君だが」と、眉間に手を当て考え込む。まあ、皆は国王陛下を敬愛しているからいいが、頼むからもう少し威厳を持ってほしいと願うのであった。




 「じゃあ終わりにするね! 何かあったらまた召集するね~」




 国王は最後までそんな口調で皆に話したかと思うと席を立ち、一同に手を振り部屋から出て行く。


 王国の重鎮は一同席を立ち退席する国王陛下を見送り礼をする。そして、各々退席して行くのであった。






☆  ☆  ☆






 そんな事が起きている事なんかまったく何も知らない俺は荷馬車の中で一人悩んでいた。


 荷馬車の中は電車の座席のように進行方向に対して横向きに6人座り、対面には7人が横向きで座っていた。プイホンさんは隣で絵本らしい物を読んでいる。



 そんな彼等を他所に何を悩んでいたかというと、何から質問するかを一人悩んでいた。質問する事柄が多すぎてどれから質問するかということだ。ものには順序が有り、ただ質問すれば良いというものではない。そんな事で自分なりに色々と悩んでいた。


 その内、そんな俺を心配して、プイホンさんが声を掛けてくる。




 「兄ちゃん、どうしたの? 具合悪いの? それとも腹減ったの?」




 「あぁ、ごめん、ちょっと考え事をしててね。そういえばプイホンさんも『魔法』が使えるようだね。あれって誰でも使えるの?」




 「あれは『魔法』じゃないよ。『魔素術まそじゅつ』って言うんだ! おいらは水と土と風の3種類使えるぜ!」




 「へぇ~、すごいな~‥‥‥。『魔法』じゃないの? 『魔素術』っていうのか~」




 「水を出すのは簡単だよ! 今教えようか? こうやってこうやれば出るよ!」




 そうやって簡単に出来れば聞かないのだが、この子に難しい事を聞くんじゃなかった。彼は多分、本能的に『魔素術』を使える気がしてきた。


 質問を変えるか? それとも確信をついて聞いて見るか?



 「ねぇ~、プイホンさん。この王国の近くに魔王がいて、王国を攻めるとかないよね?」




 「えっ? 魔王が攻めてくるの? どうしよう?」




 「否そうじゃなくて、魔王はいるの?」




 「?」




 この頓珍漢なやり取りに助け舟を出してくれた人がいた。プイホンさんを挟んで隣の人であった。いつの間にかその席にいたこの馬車の責任者、ドルバンティスことドルバン一号車長である。どうやら、この人は俺の質問に答えてくれると思い2、3質問してみる。



 「ドルバン車長、ちょっと教えてほしいのですがよろしいでしょうか?」




 「ああ、移動してる今は暇だしいいよ。君があまり難しい質問さえしなければ答えるよ。で、何かね?」




 「あのですね、この『セカイ』って、あ、じゃ無くてこの土地って一般になんて呼ばれてますか?」




 「へっ? 『セカイ』? ああ、この土地・・ね。ここはアラレスティ新大陸と呼ばれ一般には『アラレスティ大陸』と呼ばれている。


 その北東に創世大陸ゴダというのが在ってね。王家は今から千五百年前にそこから移住して来て、この大陸に新しいアラレスティ王国を建国した。


 そして、北西には暗黒魔大陸という大陸がある。そこには君がさっき言っていた魔王陛下と呼ばれる魔人族まびとぞくを束ねる長がいるらしい。いるらしいというのは人族で彼に会ったものは皆無という事だからだ。


 その彼は自分の大陸以外は興味なく、代わりに魔王王女殿下が窓口としてこの大陸の暗黒魔大陸側にある総領事館に居る。



 あとは、三大陸に挟まれたところが中央大海、後は名も無き海かな? なにせ、大陸同士の海峡以外は未開の海で探検なんかしても帰ってきた奴がいないそうだよ。海には海獣がいたり、無風な所や船を飲み込む渦があって進めないらしい。


 こんな所かな。えっ、海の先だって? う~ん、一般にはそのまま滝になってるから帰ってくるものが居ないと言われてるしね、王国も積極的には海に出ないよ。


 詳しく知りたいなら王立の魔素術学院に行くといい、あそこは『魔素術』だけではなく、色々な事を調べているからね」




 どうやらこの世界は平らな土地か球体を知らない世界らしい。地面が球体とか言ったら笑われちゃうのかな? まあ、魔王はいるがこちら側には攻める気配がないようだ。よかった、魔王を倒してくださいって言われたらどう断るか悩むところであった。


 そうすると世界の危機とか無いのかな? こんなのんびり馬車で移動だし‥‥‥。当面の危機はなさそうだな。



 「あと二個ほど質問いいですか? この国に『暦』と『時計』とかありますか?


 あれば教えてほしいのですが」




 「この王国にも『暦』と『時計』はあるよ。まずは一年は三百六十日、季節月が四つあり、秋から始まり冬、春、夏で、その季節月にそれぞれ上月かみつき中月なかつき下月しもつきと三つに分かれている。全部で十二ヶ月ある。


 王国が北東の大陸に在った時は春から始まっていたが、どうもこの大陸に王国が移ってから季節が逆転していて、建国時に秋上月あきかみつきから年始としたそうだ。今は王国歴一五四八年冬上月下旬じゃないかな、詳しくは大尉に聞けよ暦なんか持ち歩ける身分じゃないしな。


 あと、『時計』か? あるが大尉の馬車に一台あるぞ。え~と、『サラム様』が一番高く上った時を基準に次の日に同じ高さに上った時を基準にしている。それを十二分割してそれぞれを一つ時、二つ時てな具合で呼ぶ。えっ、二桁の時はどう呼ぶかって? 普通に十時、十一時、十二時、『ジ』じゃないよ『とき』だよ。


 一つ時を四分割してしたのを一刻といい、4刻で一つ時だ。解ったか? 後、この世の中の動きとかは大尉の方が詳しいぞ。それに時計なんか誰も持っていないからあんまり気にしてるやつは居ないと思うよ」




 「あの~『サラム様』ってなんですか?」




 「えっ? 『サラム様』って何かだと。あの上で俺達を照らしてくれるお方だよ。正しくは『大サラム神』と言ってな、昔の神話時代からそう呼ばれている。俺ら人族は『サラム様』って呼んでるぞ。ひょっとして夜空に光臨する『双子月』も知らないのか?


 まあいい、あのお方はだいたい三月毎に御二方がこちらを向いてくださる。少し大きい方が姉の『ルナシー様』、彼女は一月ごとにこちらを向いて下さる。姉より小さいのが妹の『エレシー様』、彼女はのんびりで一月半でこちらを向いて下さる。これも神話の時代からそう呼ばれている。


 俺等は彼女が出ている時は寝てるか酒飲んでるからな~、あまり気にしてないよ」




 「すいません、色々と世間知らずでして、そういえば昔聴いた覚えがありました。色々ありがとうございました」



 危なかった。そんな常識知らないが合わせておかないと色々面倒だ。いろんな情報が手に入った。お礼を言って考える事にした。



 季節が逆転するのはここが南半球にあるのかもしれないな。今いる場所は赤道に付近なのかもしれない。だから冬上月って言っても雪が降らないのであろう。だが、南半球と解ったところで異世界だし‥‥‥。何も変わらない。



 いや、次は、え~と。1年はほぼ地球と同じようだな。時間は後で自分の時計と大尉の時計の測り合いしてみれば正確に解るのかな?


 まあ、1年は360日のようだし、1日24時間とすると一つ時は2時間ぐらいか1刻は30分ぐらいであろう。時計は大尉の馬車にしかないという事は、そんなに時間は厳密じゃないのかな?


 そういえば誰も時計を持っていないしあんまり気にする必要ないか。



 ああ、やっぱり俺は間抜けなんだなと自覚し、最後の2個の質問はあまり役に立ちそうに無かったことに今更気付いた。今度聞く時はもっと身近な物にするか。


 現代人は情報が溢れ何時でも手に入る事に慣れている。いざ情報が入らないと、どんな事も聞きたくなり不安になる。そんな事に今頃気が付いた俺であった。




 そんな自分の間抜けさに気付いた俺は、ふとプイホンさんに目をやる。すると、彼は絵本を一回読み終わりもう一回読む状況であった。


 「プイホンさん熱心に読むね~、その本面白い? 一緒に見てていいかな?」




 「いいけど、おいらはこの文字の読み書きも、練習しているから読むのは遅いよ。それでもよければいいよ」




 俺は頷いて彼と本を読む事にした。どうせやる事ないし。彼が勉強熱心なのは驚いたが学校が多分ないのだろうか? 有っても食べるのに必死っていうことか‥‥‥。



 なになに、「奴隷王を倒した王子と勇者と賢者の物語」だと? 普通はドラゴンとか魔王とかじゃないのかよ。


 最初は「昔々、奴隷は大変な目にあっていました」と、書いてある。いきなりディープな話になって来たぞ、これって子供の絵本だよな? 描かれている絵が奴隷が鞭打ちにあっている絵である。



 次のページに移ると「ある日、そんな奴隷の中に鞭打つ奴を倒して奴隷を解放する奴隷王が出てきました」と、書いてある。えっ? 奴隷王って良い奴じゃないか? でも、絵では鞭打つ人間を切り殺してる。


 更に進むと今度は奴隷王はとある教会の人達と組んで、奴隷商人や貴族、王族まで殺して、最後に王様まで殺した。そして、王国の王『奴隷王』になってしまったと書いてあった。



 しかし、王族が皆殺しに会う前に、その時の王国で五番目・・・の王子が城から逃げ出した。逃げた王子は王国中を旅して勇者様、賢者様と各地の先住民族の族長達と共に奴隷王を倒す。そして、奴隷が鞭打ちされる事が無いように王子が新王になり、奴隷を王国の財産にして奴隷を守って王国を再建したと言う話であった。



 へっ? なんじゃこりゃ? 最初の方は奴隷王って奴は良い奴と思っていたがその後が駄目であった。まあ、奴隷王を倒すのは良いが最後は普通奴隷解放だろ?! と、そう思いプイホンさんに聞こうかと迷ったが、結局聞いてしまう。



 「ねえ、ねえ、プイホンさん、最後に奴隷はなぜ解放されなかったのかな?」




 「え~、だって鞭は打たれないし。ご飯と住む所と着る服も貰えて、更に働いてお金も貰えるんだよ~。ほら、この絵の人達も幸せそうでしょ?」




 「あ~、いや、そうじゃなくてね‥‥‥」


 ドルバン車長が苦笑いしながらこちらを見て話をしてくれた。




 「それ四百年前にこの王国で起きた事なんだな~これが。事実・・はちょっと違うけどね。確かに奴隷制度を止めれば済んだのかも知れないが、一つの王国だけが止めても解決しないよな? 周りの国は通常の奴隷制なのに一国だけ止めると、どうなるか考えてみるといい。


 まあ、当時の王子様、勇者様と賢者様は色々考えて急激に奴隷を解放するのではない道を選んだってことかな。まあ、俺は『奴隷』って言葉はそろそろ変えたほうが良いと思うよ。


 ああ、そういえばこの絵本は大尉が子供の年季奴隷用に文字の読み書きをさせる為に作ったっていっていたな~」




 ジョルジョネ大尉って結構まめな性格らしい、俺の似顔絵も旨かったし‥‥‥。俺はドルバンさんに苦笑いするしかなかった。まあ、その国によって各々の事情があるって事かなと俺は一人納得する。



 俺が育った世界の事を考えると、確かに奴隷解放で解放された人達は自由になった。しかし、今度は低賃金で働かされて以前と変わらない生活が続いてたよな。直接暴力から間接的なお金の暴力へ、現代でも対して変わらない。




 新入社員の頃を思い出す、初めての現場事務所で一月過ごし、一月分の出勤簿を会社にFAXする前に上司の現場所長に確認して貰った時の話である。俺は正直に残業時間を付けて提出したが、所長曰く。


 「会社の規則で残業時間は月30時間と決っている。それを越すのはお前の能力が無いと証明すると言う事であり、如いてはこの私が部下の管理能力を問われるのだよ!」と、仰いました。



 まあ、建前はわかった。しかし、与えられた仕事をこなすとどうやっても無理である。しかし、先輩達も俺がつけた残業時間と同じだけ残業してるし、所長も居たよね。と、いう事は貴方も無能・・って事を証明してるような? ああ、理由を付けてお役所に提出する為の数字合わせか、彼の上司からも暗黙の了解状態なんであろう。



 そんな事を彼に言える訳が無い、俺は小心者。新しい用紙に適当に書いた30時間の残業時間を書いて所長の判子を貰う。


 そして、会社にFAXを出していると、例のいやみな先輩がニヤニヤして俺を見て嫌みを言ってきた。「阿佐賀君は大物だね~‥‥‥。不満なら辞めれば良いじゃねぇ?」と、仰りました。俺はヘコヘコしながらFAXを送信する作業に没頭するだけであった。



 よく考えれば、態々FAXで送る自体がおかしい。ノートPCがあるのだからメールでいいじゃん。たぶん直筆の証拠にするんだろな~と、考える。



 まあ、一般的なサービス残業であるが結局は企業の利益の為に低賃金で働かせている奴隷と変わらない。こちらには辞める権利があるが、この不景気である。あの時はその一ヵ月で40人居た新入社員は30人に減っていた。



 地球での事を考えると暗くなるが、仕事自体は面白かったし、事務所は否な先輩が居たりしたが、作業員と馬鹿話してるのも楽しかった。建物が出来ていく実感を直接体験できるのは今でも忘れられない。




 などと、一人躁鬱状態だったが、どうやら馬の休憩らしい。馬車の速度が落ち、突然何かを乗越えるような大きな音がして暫く馬車が揺れながら走り、馬車が停車した。プイホンさんが荷台から飛び降り、他の人が荷台の煽りを下げると梯子が下りる。



 俺は外に出て背伸びをして目線でプイホンさんを探す。すると、彼は少し大きな魔技箱から馬にやる水を入れる為の台を出すようで、俺も手伝い一緒に運ぶ。馬の前の方に行くと目の前に置き、例の様にプイホンさんが水を台の容器に注ぎだす。



 横から見ていても手の肉球からではなく空中から水が注がれている。肉球は可愛いが不思議な光景だ。


 馬は馬で俺が見た事のあるサラブレットのような馬ではなく、農耕馬のような筋肉質で各部位が凄く太くて力強い感じであり、更に大きく2頭も居る。そいつらが水をがぶがぶ飲んでいて、これで色が黒かったらあれである。だが実際は茶色に白の斑であった。


 馬をよく見ているとプイホンさんが俺に注意してくる。




 「兄ちゃん、馬のお尻のほうは危ないから近寄っちゃ駄目だよ!!」




 あんなのに蹴られたら怪我ではなく昇天ものだと思う。周りを見ると他の馬車の馬も同じように水を飲んでいる。すると、3台目の箱型の馬車の御者台に乗っていた御者? が、中に呼ばれる。暫くすると、外に出て来る。そして、俺の方に走ってくるではないか。



 御者っていうか、どう見てもプイホンさんと同じような背丈であり、小学生か? と、いう感じの人族なんだが。その彼が俺の所にやって来て話しかけてくる。




 「大尉が次の野営地までコッチに来てと、言っているよ」




 俺は彼に頷くと、彼は外で馬車の点検をしていたドルバン車長にもそのような話をして俺が大尉の馬車に乗る事を説明したようだ。



 俺はプイホンさんに大尉に呼ばれているから行って来るよと話し、大尉の馬車に向って歩き始める。すると、後ろの方でプイホンさんと御者の少年の話し声がする。




 「プイプイ先輩、相変わらず凄いです!!」




 振り向くとプイホンさんが手の平から水を出して水芸をしていた。何やってんだあいつは‥‥‥。仲良しなんだな。




 再び前を向き大尉の馬車に向う。すると、今度は箱馬車の屋上には例のオレンジ色の瞳のエルフ姉さんが立って居るではないか。その彼女が馬車に入る前に声をかけてくる。




 「あら、坊やもこの馬車に乗るの?」




 「ええ、大尉が何か話しがあるそうで、呼ばれましてね」




 彼女に返事をすると彼女は興味がなくなったのか馬車の上に寝転がってしまう。


 彼女を明るい所でよく見たが姉さんっていうか年下で俺より若い10台後半の女性に見えた。坊や呼ばわりされたがこっちの方がお兄様って感じだと思うのだが。



 さて、箱型馬車の扉らしき物を開けようと扉の取っ手を探す‥‥‥。取っ手が在りませんでした。


 扉の周囲をよく探して見たけれど何処にも無かった。扉を押したり手をかけて引っ張ったり。あっ! もしかしたら横に引くのか? と、やってみたがどうにも開かない。




 そんな事をしていると中の大尉が気が付いて扉を開けてくれたのだが、丁度俺は扉の下を見ていて勢いよく頭を打ってしまう。



 目がチカチカして倒れそうになったが、頭を撫でながら馬車の中に入る俺であった。




 次話へつづく

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