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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 第1章 異世界で迷ったら奴隷になった 》 
6/229

<1-5>  「初めての奴隷旅団所属中隊  (後編)」

最新の本文修正日は2015年6月11日です。

 久しぶりに柔らかくは無いがベットに寝られて、とても良い夢を見る事が出来た俺ですが、多分、寝心地が良かったのであろう。


 昨日までは日陰の岩場で寝た為に、当然寝心地は悪かったしあまり熟睡も出来なかった。


 ようやく、そんな可愛そうな俺に神様はご褒美に良い寝心地と良い夢を見せてくれたと思っていた俺であった。






 そう思っていたのは、最初だけで後半は悪夢であった。



 モフモフ天国で柔らかいソファーに横になりながらプイホンさんみたいな可愛いナイスバディな猫娘達が俺をもてなしてくれていた。ある娘は、俺に何かのつまみを口に運んでくれたり、団扇で扇いでくれたり。ああ、決してエッチな事はしてません!!


 そういった至福のひと時を楽しんでいたのだが。突然、俺の傍にジョルジョネさん顔の店長のような姿の男が現れる。




 「お客様。そろそろ、当王立モフモフ天国の閉店のお時間となりました。それで、お会計がですね~、このようになっております!」




 金額を見ると、一、十‥‥‥、百万‥‥‥。百万となっている。


 「百万円?! 百万円は高すぎるよ!! こんな物払えるか!!」


 金額に驚く俺はそう抗議する。しかし、そんな俺に対してあのニコニコ顔を晒すジョルジョネさん顔の店長。最初の口調は優しかったが、段々雲行きが怪しくなってくる。




 「お客様、『円』ってなんですか? よく見てください王国金貨百万枚ですよ! さあ、早くお支払いください!!


 もしかして、お客様はお金をお持ちになれないのに、当方の王立モフモフ天国をご利用になられたのですか? それは困りましたね~‥‥‥」




 どこかで見たような光景に背中に冷たい物が流れる。先程までそこに居た可愛いい猫娘達がいつの間にか消えてしまう。


 代わりにあのいやらしい顔つきで困った顔をしたジョルジョネさんの他に、その後ろに尋問の時に会った怖いエルフ姉さんやゴナベル奴隷長達に複数の年季奴隷達がニヤニヤして俺を見ている。




 「無銭飲食の方。一名様、御案内~」



 突然そんな事を話す店長姿のジョルジョネさん。その言葉と同時に大きな鐘がすさまじい音で鳴り、俺は両腕と肩を抑えられ床に穴が開いた所へ引っ張られて行く。


 俺は床の穴の前に立たさる。その床の穴から見える光景にまたもや背中に冷たいものが流れる。その穴から見えた光景は奴隷らしき人達が鞭を打たれ働かせられている状況であった。



 「あの、ジョルジョネさん? 話とちょっと違うんじゃないでしょうか?」




 「はぁ? 私は言いましたよね? 無銭飲食はんざいは犯罪奴隷になると!


 でわ、いってらっしゃ~い」




 俺は最後にそんな軽い言葉をジョルジョネさんに吐かれて、お尻を蹴飛ばされてしまう‥‥‥。





 どうやら、勢いよく寝袋ごとベットから落ちたようだ。夢落ちで良っかったような、悪かったような複雑な気持ちになりながら起きると、足の違和感に気が付く。


 寝袋を捲ると俺は靴を履いたまま寝たらしい。足元を見ると俺が履いていた黒の革靴ではなく、革製のサンダルのようなもので、革紐で足首を縛ってあった。



 すると、突然「ドッカーン」と、何処かで爆発する音がする。その音にビックリして外に飛び出し、あたりを見回す。すると、空はようやく明るくなってきた感じで、その空に煙が舞い上がっているではないか。俺は、ベットやサンダルの事は忘れ、何事かと思い煙の方へと走り出す。


 走り出したはいいが、周りの人もちらほら起きていて、背伸びや体操みたいなことをしている人もいる様子が視線に入る。その人達の何事もなかったような感じで平静を装っている様子を見て、途中で走るのを止めてしまう。首を傾げながら歩き出し、煙の場所を目指す。



 煙の場所は五分も掛からない場所にあった。プイホンさんが最初に教えてくれた箱型の馬車の奥の方でそこから300mぐらい離れた場所のようだ。


 箱型の馬車から100mぐらいの所に人影が2つ見える。50mほど近寄るとジョルジョネさんが剣の型を練習しているように見える。剣を振りながら、左手を出し何かを打ち出すような動作をしている。



 一方、もう一人はアミュネス少尉で、彼女は奇妙な事をやっている。右手には1.5m程の先が尖った真直ぐな棒を地面に対し垂直に持ち、左手は昨日の夕方俺がなにやら検査でやらされた動作をしている。


 左手を天に上げ手の平を広げ、何かを掴む様に手を握り、その握った拳を心臓の所に持って行く。そして、今度はその拳を突き出すかと思いきや、右手に持った棒の方に突き出し何かを放出するが如く左手を棒にかざす。



 そうすると、左手が何かを放出した直後に右手に持っていた先が天に向けていた棒が「バシュッ」と、音がして勢いよく空に向って上昇していくではないか。


 俺はそれを呆けた顔で見ていたが、20m程上がったかと思うと、次第に真下に落下する。それを右手でアミュネス少尉は投げた場所を動かずにその場でキャッチする。


 棒をキャッチしたかと思うと左手は一連の動作は完了していて、キャッチした時には左手を当てていた。また、「バシュッ」と、音がして勢いよく空に上がって行く。



 そんな事を連続4回ほど続けると、今度は右手の棒を地面に平行に持ち挙げ軽く投げる動作をする。2、3歩。助走とはいえ無い距離だが、それを2回程行う。


 次に投槍を投擲するのか、右手の棒を地面に平行に持ち挙げ助走前にさっきの左手の一連の動作をして棒に左手をかざし、2、3歩軽く助走して棒を投擲する。


 ああ、あれは投槍なのかと俺は一人納得してしまう。



 しかし、そんなんで投槍か飛ぶかよと見ていたら、予想と反して「ビューッ」と音がして200m程先の大きな岩目掛けて一直線に飛んで行きガラガラと大岩が砕け散り、「ボフッ」と音を立て投槍が地面に突き刺さる。


 音が少し遅れて聞えたように感じたが彼女はオリンピック出たら金メダルだねと内心呆れてしまう。その彼女は目標に当たって喜ぶでもなく、自分の投槍を取りに黙って歩いて行ってしまう。




 アミュネス少尉の横で先程、剣の型の様な動作をしていたジョルジョネさんが再び剣の型の後、また左手を突き出す。


 今度は、手の平から火の玉っていうか、バスケットボール大の火球が出現する。その火球が出現したと同時に勢いよく放出され飛んでいってしまう。


 先程の投槍が刺さった地面近くに向って飛んで行くようだ。丁度、投槍を拾いにアミュネス少尉が向っていたがお構いなしでぶっ放しやがった。爆風と破片が彼女を襲うかと思い、思わず「危ない!」と、俺は叫んでしまう。


 しかし、先を歩いていた彼女は左手で素早く動作を行い、そ知らぬ雰囲気で歩いて行く。その横近くを先程飛んでいった火球が「ドッカーン」と、轟音を立てながら周囲を吹飛ばす。


 あの、その、なんていうか。吹き飛んだ爆風と破片が彼女を襲ったはずなのだが、見えない壁? に、爆風が避けて流れて行き、破片が跳ね返りあらぬ方向に飛んでボトボトと落ちて行く。



 視界が開けると彼女は何食わぬ顔で投槍を手にこちら側に歩いてくる。彼女は埃まみれでも無さそうで綺麗な格好であった。



 その状況に俺の理解をチョッと超えすぎて、なんていうか物理法則完全無視っていうか。ああ、これが「魔法」か? と、いうことでしか自分を納得させるしかなかった。今ので訓練か修行? その修行は終わりのようだ。その証拠に彼らはこちらの方に向って歩いて来る。




 「おはよう、リョウジ。よく眠れたかね。質問はまとめて後で私の指揮車で聞くから、早く支度して朝飯にありついた方がいいぞ」




 色々聞きたかったがまたしても出鼻をくじかれてしまう。そういえばプイホンさんが移動日は朝が早いって言ってた気がして、自分のテントに向ったがどれがそうだか解らなくなってしまう。


 早朝の寝ぼけた頭に轟音、現場に着てみれば物理法則完全無視の「魔法」である。自分が歩いてきた道などすっ飛んでしまうよね?


 自分のテントをウロウロして探していたら、直ぐ横からプイホンさんが出てきて俺を呼ぶ。




 「兄ちゃん何処へ行っていたんだよ?! おいらは兄ちゃんの事を任されているから探したじゃないか~」




 「君は夕べ俺を置いて熟睡してたよね?」と、突っ込みそうになったが困って不安になった尻尾が垂れ下がった様子を見て「ああ、困った時も可愛いな」と、思い目に焼き付ける。若干、尻尾が小刻みに振れているのはストレスも堪ったようである。



 「ごめんよ~、いやあのね。突然、大きな音がして『ビックリ』してね~。音の方へ様子を見てきたんだよ~、それでチョット道に迷ってね」




 「『ビクリ』? ‥‥‥。なんだよ。こんな近くで道に迷うなんて、そんなんじゃ荒野で死に掛けるのも納得できるな~‥‥‥。あぁ、隊長と姉ちゃん少尉の朝の目覚ましだろ。おいらも最初は驚いたよ!」




 つい、彼が体中の毛を逆立て驚いた時の光景を思い浮かべてしまった。それに、彼にチョッと馬鹿にされてしまったので、脳内の「モフモフ貯金」の残高にモフモフを2回ほど追加する。更に親密度を上げてから、貯まった「モフモフ貯金」の利子をチョコチョコ使わしてもらう事にする。


 彼にも色々と聞こうとしたが朝は色々と忙しいので馬車に乗った時にと言われてしまう。実際そうなのであろうが、彼には違う理由な気がする‥‥‥。多分朝飯であろう。




 1号車の場所に来ると外に簡易ベットが出してあり、皆でテントを畳むべくあちらこちらの留め紐を解いていた。


 俺は慌てて朝の挨拶をして、新入りが手伝わなかった事を謝ったが彼らは気にするなと笑いながら流してくれた。と、いうか、新入りが訳も解らずにテント、彼らは「宿営用天幕」と、言っていたが、それを素人に触られると旨く収納できなくなるから初めは見学していてくれとやんわり断られてしまう。



 まあ、確かにその通りであった。でもタダ見ているのもあれなので、自分の寝袋を畳んだりしてテントをばらす様子を横目に見ながら簡易ベットの足を畳んで一箇所に集めてしまう。俺は貧乏性っていうか自分でまじめっていうのも恥ずかしいが、手持ち無沙汰にタダ見学しているのが出来なかった。




 新入社員で始めての工事現場に配属された時の現場事務所に数人いた先輩の中に凄くというか、ねちねちと嫌みを言う先輩が居た。当時、暇では無いが色々と、どうしていいか分らず現場事務所内の周囲を見ていると、そこまで言わなくても良いじゃないっていう感じの嫌みを数多く言われていた。



 幸いにもその嫌みな先輩は直属の上司ではなかったが、その先輩からの防衛策でその先輩がいる間はやることが無くても図面を見たり、現場でうろちょろと奴に隙を与えないよう振舞ったお陰で変な癖が身に着いてしまい、手持ち無沙汰にタダ見学するという事が出来なかった。




 まず最初に、テントの短辺方向の入り口になっている壁部分の紐をはずし、そのままテントの屋根に紐で結んで、反対の壁もテントの屋根に紐を結んだようだ。



 次に馬車とは反対方向のテントの屋根と壁を支える支柱で両端に立っていた棒をはずし2本を一本につないでしまう。その1本になった棒を芯に、まずは屋根と壁が繫がったテントを器用に壁の下側から両端に1名、真ん中に3名、計5名で壁から屋根へと巻いて行く。


 途中に馬車の上の方まで巻くと今度は台に乗った人に手渡し、さらに巻いて行き荷馬車の上の方の皮ベルトで止めていく。皆は軽々と巻いて行く。



 テントの生地は結構厚手で絨毯ほどじゃないが長辺方向に6mはあると思うし、屋根で短辺方向に3mはある、更に屋根から下がった壁のテントも同じような長さがある。



 そして、芯になっていた棒を少しひねり両側から支柱を引き抜いてしまう。次に床と荷馬車の側壁の方に垂れているテントを先程と同じように支柱を繋げ芯にして、先ほど巻いた下辺りまで巻いていきベルトで6箇所ほど留めていく。今度は芯は抜かないでベルトで固定されていた。



 固定した頃を見計らって重さを聞いたが、俺が「間抜け」であったことを思い知らされる。




 「ああ、そんなに重くねぇよ、これ一本で『十キラ』もないぞ」




 そうである、単位を言われても重さが分らない事に気が付いたのである。だが軽いのは解ったので好しとしよう‥‥‥。間抜けなのは生れ付きだ。しかし、数字が漢数字に置き換わって聞えたの勘違いだろうか?



 そうしている内に反対側も同様に行い両方で30分も掛からないでテントは荷馬車の上部に丸められベルトで固定されてしまう。馬車を後ろから見ると2段のカールが掛かった頭のように見えて何か面白い。



 テントの収納が終わって近くの人が魔技箱の扉の一つかと思われる細長い扉に手を当て「解除」と、一言。扉が自動に手前側に倒れ、中に足を折りたたんだ簡易ベットを収納していく。


 俺は収納されたベットがどうなるか確かめるべく馬車の反対側に行ってみたり荷台を覗くが、ベットがはみ出て来る事はなかった。ベットをよく見ると幅は70cmから80cm、長さは2m前後、それが12台全て収まってしまう。



 魔技箱の中を覗こうとしたら直ぐに閉められ「施錠」と、言われ閉められてしまう。抗議をしようかと思ったが「そんなに珍しかったら自分のを見るといいぜぇ」と、言われてしまう。そうすると彼は自分の丸めて小さくなった寝袋を持って、荷台の方へ上がってしまう。



 何? 個人のもあるのか? ああ、私物が見当たらないからそうなのかも知れない。急いで、荷台に上がるべく自分のリュックと寝袋を持って馬車の後ろに回りこみ荷台に上がる。


 昨日は薄暗くよく見えなかったが、荷台にあったベットが長手に中折れしてベンチになっていた。クッションがそのままベットのマットになるようで、結構ふかふかして長時間座ってもお尻にやさしそう。背もたれも付いているし。なかなか座り心地は良さそうだ。


 その上部に例の個人用魔技箱が壁に取付けてあり、天井のみ明り取りの為か白い布で出来ているようだ。どれが俺のだ?! と、探していると扉に名前が書いてあり、学校の下足入れのように30cm×30cmぐらいの大きさであった。


 荷台の壁の上部に8個、両側合わせて16個分あるようで、荷台入り口左側から順番に探していると、無い。反対側を見ていく一番右側の端っこの入り口側に「リョウジ」と名前が書いてあった。右から探せばよかった。



 早速、皆の真似をして、扉に手をあて「解除」と叫んだが開く気配がない。試しに扉の取っ手を摘んで引っ張ったが開かなかった。後ろで見ていたプイホンさんが「何やってんのこいつ?」ってな感じで俺を見ていたが、ここは大人の対応で聞いてみる。


 「あの、プイホンさん見てないで使用方法を教えてほしいな~‥‥‥。確かゴナベル奴隷長に私の世話を頼まれてたよね?」




 「あっ! そうだった! ごめん、ごめんね。ゴナベル奴隷長には内緒でね!」




 プイホンさん、尻尾が正直である。最初はブワット尻尾の毛が広がりその尻尾が次第に垂れ下がり股の方に入っていく様子が見れた。そして、耳が横に垂れながら辺りをキョロキョロしてる。


 「あの、プイホンさん? ご飯の時間が始まってるのでは? 早く教えてね」




 「ハッ! ごはんごはん~。最初に登録しないとだめだよ‥‥‥。えっ? ああ、左手を扉に当てて、「登録」と話して。次に「開錠」と話してみて。でね、物を入れて扉を閉めて左手を当てて「施錠」と話せば終わりだよ」




 ほう、その通りにやると登録時に左手の紋章が光った。音声認識と左手の紋章で個人認証できるようだ。扉が開き、扉の中を覗くと明らかに奥行きがあるロッカーのようだ。リュックはそのまま入りそうも無かったの衣服など嵩張る者を先にいれリュックを後に入れる。


 そして、何の抵抗も無く寝袋が入った。幾らでも入りそうである。しかし、もう入れるものがない。扉を閉め「施錠」と言うと何かが「カッチっ」と、音がする。試しに扉の取っ手を摘んで引っ張っても開かなかった。


 「でもこれ不便だよね? 奥に入れた物を出す時は全部出さないといけないよね?」




 「大丈夫だよ『開錠』を言う前に出したい物の名前を言えばいいよ」




 プイホンさんが言った通りに左手を当てて「リュック、開錠」と言う。扉が開くと、なんとリュックが一番前に来ているではないか。一人で感動していると、プイホンさんが泣きそうに「ご飯が無くなる」と、言っていたので慌てて、リュックを仕舞い扉を閉じ「施錠」と言いその場を離れる。



 急いでプイホンさんと共に昨日のテーブルのあった場所に行ってみると。テーブルは全部セットしてあり、半数近くの人が座って朝飯を食べていた。朝飯を配膳して貰うのに10人程の列の後ろに並び待っていたが、どうやら俺が一番最後なようである。



 俺の番が近付くにつれて妙な事を言っている事に気が付いてしまう。




 「はい、次」




 「俺、芋八分の一、少なめ」




 彼のスープ皿を見ると結構大きめな芋の切れ端にスープをかけている。芋八分の一って言っても普通の拳の大きさより大きめな芋のようで、元の大きさが気になる。



 自分の番になって気が付いた。芋がサッカーボールぐらい大きい。急いで何等分ぐらい食べれるか計算したが朝の俺が8分の1は無理である。


 「俺は芋十六分の一で『スープ』あ、う、『汁』は普通でいいです」




 「はぁ? 若いんだからもっとお食べよ、昼は出ないよ。そんなに食べれない? じゃあ仕様が無いわね。ところで新人さんだよね? あたしは料理長のギムネーヤ、よろしく頼むよ」




 俺は慌てて自分の名前を言い、挨拶をする。そして、席に着こうとすると彼女から「移動日の昼はご飯が出ないから芋を多目に頼んで、テーブル上のパンを二枚持って、昼飯の代わりにするのが普通」と、いう事を教えて貰った。2枚という事は特に強調された。多分残りのパンが彼女達の朝食兼昼食になるのかな?



 そいえば、テーブル上の「パン」の事を違うカタカナの文字に聞えたが‥‥‥。「パン」という名前じゃないのかな? と、首を傾げながら歩き考える。


 そういえばパンは英語でブレッドと呼ばれ、インドではナンと呼ばれているよな。地球の各地で色々呼ばれているから、こっちでもそうなのかなと一人納得する。そんな事を考えていた為、結局何て言っていたか忘れてしまう。


 そんな、もやもや感でテーブルに着き、それらを食べ始めたが。この芋、大味かと思ったがなかなか旨い。中までホクホクして、サツマイモよりは甘くは無いがジャガイモよりは甘くて美味しい。ちょっとの塩とバターを乗っけて食べると最高だと思う‥‥‥。パンの事はどうでもよくなってしまう。



 芋の味に感心していると、周りの人がボツボツと、例の皿を傾ける動作をし始めて席を立つ。俺は、慌てて残りの芋とスープをかき込み同じ動作をすると、確かに調理場の後ろの馬車の陰からの視線を感じてしまう。


 その陰の人物は俺の方を見て急いで何かメモを取っているようだ‥‥‥。セーフのようだ。パンを懐に入れ食器を下げ終わり、ふと見上げると隠れて居なくなってしまう。



 何か良く分らんが、急いでトイレに駆け込む。周りには人影が無く、並んでいないようで直ぐに目的を果たす事が出来る。事を果たしてほっとした所に忘れていた事を思い出す。そう、髪がないのだ。違う、紙がない、周りを見渡すと箱にトウモロコシの周りに着いている葉っぱのようなものがあるだけで後は何もない。



 ああ、食事をしながら読んでる人がいたら謝る。仕方なくそれをチョット揉んで使用したが、あまり良いとは言えない。なんていうかお尻が悲鳴を上げてる感じでヒリヒリしてきた。


 ズボンを上げようと立ち上がると、かすかに何かの音がする。どうやら堆肥置き場に転送しているのかなと首を傾げる。しかし、上げようとした下着が今まで履いていた物と違っていた事に気が付く。ああ、気を失っていた時に丸裸にされたようだ。まあ、本人は起きていなかったから良しとしようと、自分に言い聞かせる。



 下着は綿製だと思うが紺色のトランクス型である。ゴムは無いようで紐で縛るようだ。同じようにズボンを上げ同じように紐で縛る。ついでに懐のパンを確認したところセーフであった。馬車に戻ったらリュックに入れよう。



 便所を出て自分の馬車目指して歩くとプイホンさんが俺を探していた。




 「あっ いたいた~。探したよう~、早く馬車にもどろ~」




 はいはいと俺は彼に頷く。こいつ、馬車から向う途中俺を置いて走り出したよな? そして、お盆に朝飯を貰うと脇目も振らずに食卓に着いて、飯を食い始めたよな~‥‥‥。


 まあ、飯を食ってから探しに来たからよしとするか‥‥‥。もしかして馬車に戻ってゴナベル奴隷長に俺の事を聞かれ、慌てて捜しに来たのじゃないよな?



 「悪いね~プイホンさん。先に馬車に戻って‥‥‥。奴隷長に言われて探しに来たの?」



 さりげない俺の誘導尋問にこいつは見事に引っかかった。ウンと頷いたのである。途中で気が付いたのか、耳が横に垂れてこちらを向いていない。尻尾が股の間に行きだした。ああ、その、仕草も可愛いなと目に焼き付ける。



 だけど、ビンゴのようだ。まあ、そこは大人の余裕を見せ、さりげなく頭を撫ぜて「探しに来てくれてありがとう」と話し、ニッコリ笑い表面上は無かった事にしてあげた。


 さりげなく頭を「ナデナデ」出来たから好しとしよう。スキンシップはさりげなく徐々にだ! 第一歩は成功した、これで良い。


 しかし、彼は俺の手の匂いを少し嗅いだようで「手洗った?」と、聞き返し「手洗ってから頭撫でてよね」と、注文してくる。俺は苦笑いするしかなかった。



 馬車に戻るといつの間にか前の方に馬がつながれていて御者に同じ年季奴隷の人が御者台に座っていた。



 荷台に上がり俺の魔技箱からリュックを出してパンを仕舞う。そういえば、朝の雑多な事が起きて顔を洗っていない事に気が付き、ついでにタオルを出した。


 その時、タオルが綺麗に洗濯してあるのに気付く。若干、石鹸の匂いがして、たぶん調べた時にあまりの匂いに洗濯してくれたのであろう。


 他の洗濯物も調べると洗濯してあった。しかし、いつ洗濯したのであろうか? まあ、どうでもいいや、感謝だけはしよう。



 顔を洗う為に馬車の外に出て周りを見渡す。水が入っていそうな物を探したが見当たらない。


 プイホンさんに聞くと「おいらが出すから手を出して」と言い、例の左手の動作をして左手の辺りから水がチョロチョロ出てくる。慌てて、それで手を洗い水の匂いを嗅いだがプイホンさんの体液ではなさそうだ。


 顔を洗い、タオルで拭うといつの間にか水は止まっていた。プイホンさんにお礼をいい、ついでに頭を撫でる。


 頭を撫でるのは嫌いじゃないらしい、今回は目の前で手を洗ったし文句無しに成功した。


 いやいや、そうじゃないだろこんな小さい奴も使えるの? ひょっとして全員使えるの? ああ、馬車が移動してから聞いてみるか。




 そろそろ、出発の時間らしい、時間が分からないのがもどかしいが、奴隷長の大きな声が「出発一刻前」と響き渡る。すると、1号車長のドルバンさんも声を張り上げ、次々にあちこちの馬車の方から大声が聞えてくる。



 それを合図に周りが慌しくなり、皆荷馬車に乗り込むようである。俺も荷馬車に乗り込み席を何処にすればいいのかと迷っていると、プイホンさんが席は自分の魔技箱の下だよと教えてくれる。


 ああ、当然だよな、新入りが中の方がおかしい。俺は正面右側の自分の魔技箱の下に座り、奴隷長が乗り込んで合図をするのを待っていた。


 すると、続々と外に居た他の人達が荷台に上がって来て各々の座席に座り出した。ああ、何か電車通勤で何時も見ている風景のようだ。横向きに座って対面の人が腕を組んでいる。新聞でも有れば読んでいる人も居そうだと思ってしまう。



 それから、感覚的には結構待った気がする20分か30分ぐらいだろうか? 時計を出して確認すればよかったかな? いや、もしかしたらこちらではオパーツ的な物で周囲の目も気になる。なのであまり出すのはまずいかもと考える。そんな時に奴隷長が乗り込んで、荷台のあおりを上げ留め具を架ける。




 え~と、荷台の煽りとは荷台の床と荷台の後ろ側の高さ30cm程の側板のことでそれが荷台の床と蝶番で留めてあり稼動できるようになっている。




 ああ、話が反れたが、驚く事に煽りを上げた途端に煽りの中央に取付いた荷台に乗る為のはしごが折りたたまれた。へ~、仕掛けがあるようだ。梯子の小口に蝶番とその対面に小さな穴が開いているので、煽りを下げたときにピンが出て中折れしない仕組みかもしれない。



 俺はてっきり奴隷長が出発の合図をするかと思ったが違ったようだ。奴隷長は座ったまま荷台の壁に寄りかかったまま目を閉じていた。すると、何処か遠くでロケット花火が上がったような音がして、弾ける様に「パンッ」と音がする。そこで、1号車長のドルバンさんが前にいる御者に「出せ」と言い、馬車が動き出す。



 多分あの花火のような音はジョルジョネさんであろう。後続の馬車は、1号車と同じ馬車のようで約20mぐらい離れて後を突いてくる。


 色々と聞きたいことが山のようにあるがどれ一つ解決してない。理解できない現象はもう「魔法」と言うことで脳内処理をした。そうしないと俺の足りない頭では処理オーバーである。


 急にガタンと言う音がして外を見ると石畳の道に出たようだ。先程よりはあまりガタガタしない。次第にちょっと早くなり外の景色が流れて行く。人が走る程度ぐらいであろか?




 さて、まずは、プイホンさんが答えてくれそうな質問を探そうかな‥‥‥。



 景色を見ながら考えをまとめる為に腕組をした俺であった。




 次話につづく

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