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奴隷から始まる異世界旅行記  作者: 三之山勝
《 プロローグ 》
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< プロローグ >

最新の本文修正日は2014年10月11日です。

 突然、何かが俺の顔が舐められているような気がして目が覚める。




 目を覚まして起き上がると、そこには見たことも無いような大きさのシベリアンハスキーのような犬?


 その大きな犬がこちらを見下ろし、お座りをしているではないか!


 良く見るとお座りしているのに上から見下ろされている。


 背中に冷たいものがスゥーっと、流れる。


 そして、子供の頃に目の前にいるような犬とは違うが、同じような大きな犬に追いかけられた恐怖が甦る。


 とっさに枕にしていた愛用のリュックサックを右手で静かに引き寄せ、中に入っている物を左手で手探りで探し始める。


 その仕草に不思議そうに馬並みの犬は首を傾げ、俺のリュックの方を見ている。


 「あった!」と、内心で喜びながら、リュックに右手も静かに入れてその包み紙を静かに取る。


 そして、リュックからゆっくり右手を出しながら立ち上がると、自分の目線が丁度犬の口元に合う。


 俺は右手に持ったそれを鼻先でフラフラさせながら、勢い良くベンチの後ろの方へ投げる。


 俺は自分が投げた物の行方を確認せずにリュックを左手に持ったまま一目散にその場から走って逃げ出してしまう。




 暫く走って様子を見る為に振り返ると犬はベンチを軽く飛び越えて。いや、ゆっくりと跨いで投げた物の方に歩いて行き、頭を下げて匂いを嗅いでパクリと食べてしまう。


 どうやら気に入ってくれたようだ。


 俺がビールのつまみに良く食べるセロハンに包まれた長さ5cmぐらいのサラミであった。


 う~ん。しかし、あの犬が食べ終わってこちらに向って歩いてくるではないか。


 急いでまた同じようにしてサラミをリュックから出すと、それを明後日の方向に投げ、また急いで走る。


 そうしたやり取りを3回ほどして気付く、おびき寄せているよね? 


 ‥‥‥。俺は馬鹿か?



 それからの記憶はあやふやになるぐらい走る事になる。


 こんなに走ったのは高校生以来だ~、ヘトヘトになりフラフラ歩いていると前方に灰色の道路らしき物が見えてくる。


 小走りで近寄ると綺麗に石が敷き詰められた石畳の道路? 


 石畳の道路のようなものであった。


 その道幅は結構広いし、細い溝が4本入っている。


 溝の幅は自動車のタイヤ幅より広く俺の身長より有りそうで、まるで2車線の線路のような間隔で溝が掘ってある。


 俺はその道路を眺め、その事ですっかり犬の事など忘れてしまっていたことに気付いてしまう。


 慌てて道路から少し離れた岩山に身を隠し犬の様子を伺うと、どうやら諦めてくれた様で犬の姿は見えない。


 途中から餌を与えなかった作戦が成功したのか?


 息を整えようやく周囲の状況に目を疑う。



 そこは荒野であった。時々、深夜テレビでやってるアメリカの西部劇に出てくる様な荒野である。


 赤茶けた大地に、所々にある巨大な赤茶けた岩山とサボテンらしき植物。


 絶句して思わず座り込む。


 なんでこんな所に? と、頭を抱え考え始める。


 確か、昨日は公園のベンチでビールを飲んでいたことを思い出すがその後の記憶が‥‥‥。






  ☆  ☆  ☆






 俺は阿佐賀亮二あさがりょうじ、歳は25で中堅ゼネコンの社員である。


 昔、と言っても五年ほど前だが、建築系の専門学校に来ていた求人票を見て、面接のみという好条件に飛びつき見事就職できた会社であった。


 世の中は不景気で大卒でも就職難のようなので、手に職をって事で高校卒業後に建築系の専門学校に進んだ‥‥‥。あ~、嘘です。俺の頭の出来が悪かっただけです。


 俺は余り考えないでその会社に入社したが、世の中はそんなに甘くない事に後から気付かされた。


 その会社は所謂、評判のブラック系で社員は社畜と噂があった会社であった。


 なぜ気付いたのかというと会社で使う事務仕事の殆どはノートパソコンで、新人研修の時にノートパソコンが配布される事から始まる。


 そこで研修担当者が一言。


 「皆さんもご存知の通り、面接時にも説明した会社で使うノートパソコンは個人購入になり来月の給料から分割で引かれていきます。」


 等とサラッと言い放った。周囲の40人ほどの同期は誰一人不平を言っていない。


 諦めて、新人研修を受けながら会社のLANに繫がれた自分のノートパソコンを見る。


 研修が進み、ネットで自社の情報を調べる話になった。



 会社のホームページを開く為に検索サイトで会社名を入力すると、最初のページではなく何気に捲った二ページ目の下の方に小さく「入ったらやばい地元企業一覧」と、いうものに目が行く‥‥‥。結果「アウト」であった。


 絶句したが、今更再就職は不可能に近いし、またブラックな所に行くのが怖いので泣く泣く諦めた。


 5日程の研修が終わり、配属先が書いてある辞令と分厚いマニュアルと共に配属先の建築現場に向かう俺であった。




 あれから5年、今は6年目で違う現場だが、就業規則や労働基準法など「なにそれ、美味しいの?」状態が続いている。



 しかし、今日は現場の新築オフィスビルが完成し建物を引渡す日であり、午前中に引渡しが終わり上司は会社の部長と施主とで、今の現場の追加工事の打合せに行っている。


 都合のいい事にそのままの面子で引渡祝いの接待という感じだ。


 もちろん俺は参加はしなくていいし、まさか俺も呼ばれる事はまず無いだろう‥‥‥。多分、無いはずである。


 しかし、過去の経験で帰宅時に急に携帯で呼ばれ、駆けつけ三杯のビールを飲まされた挙句に余興にと裸踊りをさせられた記憶が甦る。




 そんな考えを巡らしていると事務所の電話が鳴り、恐る恐る電話に出ると上司である。


 追加工事が決まり、また暫く一緒に仕事をする事を告げられる。


 しかし、追加工事の話だけで肝心の接待のお呼びではなかった。


 胸を撫で下ろし現場近くのマンションの一室で、事務所にしている部屋に置いてあるホワイトボードを見る。


 現場の工程表が書いてあり一ヵ月前から上司の了承を得て、ホワイトボードに書込んだ俺の3連休についても特に何も言っていなかった。




 嗚呼、引渡しの前。最後の二ヶ月は地獄であった。



 完成間近の一ヶ月前に、現場に居た主任が次の現場の準備があるとかで引き抜かれ、俺の下に居た大卒の新人君は入社3ヵ月で頭にきたらしく主任が引き抜かれた時に会社に辞表を出した。


 彼は主任が居なくなる日に現場事務所に来なくなって、入社後3ヶ月で辞めて行った。


 まあ、入社して初めての現場が突貫現場で、突然そんな所に放り込まれても困るよね?


 俺も新人の時は先輩でいやな思いをしたから、なるべく当たり障りの無いように接したつもりだったけど辞める日の前日の夜だったかな‥‥‥。



 「はあ? まだ建物も完成していないのに現場の主要メンバーを会社が引き抜くなんて、こんなのは許されるのですか!?」 



 そんな事言って所長に食って掛かってたな‥‥‥。最後にあんな事も言っていたなー‥‥‥。


 「先輩も、よくこんな会社にいますね! 僕は明日会社を辞めますので! 社畜はごめんです!」



 その言葉を最後に彼は次の日は来なかった。そんな言葉を言っていなくなった彼に対して主任はこんな事も言っていたな‥‥‥。



 「あれ~? アイツこの会社に親のコネで入ったって自慢してたはずだよな?」



 あの時、移動の準備で荷物の整理をしていた主任は所長と顔を見合わせて笑っていた。



 しかし、その主任は、今回は当たりであった。


 怒鳴りつけるでもなく黙々と仕事をこなし、そっと俺の机に図面や書類を載せ、それぞれにはあれこれと付箋が貼り付けてあり、細かい指示が書いてあった。


 その付箋には期日を切って「いついつまでに処理するように」と、必ず書いてあった。


 俺は出来そうにもない事をその付箋の指示書を見て主任に話すと、必ず「俺も手伝うからお前もがんばれ!」って言ってくれる人であった。



 あっ、その主任は有能だから途中で引き抜かれたんだな~と、しみじみ思う。



 まあ、完成間近っていっても施工図はほぼ完成していたし、建設現場内が修羅場で各作業員の交通整理と施工管理だけであった。


 ああ、施工管理っていっても結構大変で安全は元より工程と品質を管理するので打合せや手配、現場確認もするので朝から晩まで休む時間はなかった。


 昼飯は弁当を食いながら打合せの書類や作業指示書など書き、午後1時の打合せに間に合うようにしていた。


 午前も午後も現場や事務所を行ったり来たり、現場と施工図が違うから直ぐ来いだとか、打合せに出なかった業者が勝手に仕事を始め、打合せに出た他の業者が怒鳴り込んだり、泣きついて来たり、もうどうにでもなれ~ってな事があったりした。


 そんな時はお互いをなだめたり、担当業者の責任者に連絡して現場に来てもらったり兎に角やる事が多すぎて、落ち着くのは何時も夜7時頃であった。


 遅めの晩飯を夜の8時頃食べていると、残業している作業員の若い衆が「俺らも飯食ってくるから現場閉めないでね?」と、事務所に情けない顔で言いに来る。


 「悲しくなるのは俺のほうだよ!」と、声に出したいが机には所長がいるので飯を食い終わった後に黙って施工図を直したり、書類や写真の整理をノートパソコンで処理していく。



 所長は大体夜9時ごろ帰宅し、主任がいた頃は彼は10時ぐらいまで付き合ってくれていた。


 しかし、俺は作業員が夜の10時頃まで残業するので、彼らが帰った後に現場の確認と戸締りをする頃には何時も終電直前に近かった。


 ああ、終電に間に合わないと事務所で寝ましたよ? なぜか寝袋常備していたのでね。


 マンションの一室なんで風呂も入れたし、洗濯だけは出来なかったが住込みに近かったな~。俺は帰れる時は自分のアパートに帰るようにはしていたが最近はここで寝起きしている。



 現場の最後の方は見覚えの無い作業員が何処かの現場が終わってから、この現場に応援に来て夜中の2時ぐらいまで仕事をやっていたけど、街中の現場で良かった~。


 住宅地でやったら抗議の電話の嵐だ! あれは精神的に参る。




 そんな事を回想していると、もうすぐ定時。今日は現場の戸締りをしなくて良いし、俺を監視する上司や事務員さんもいない。


 しかし、残務整理や完成図の修正などが残っているが「どうせ休み明けもこの事務所だ!」と、自分に言い聞かせる。


 通勤用のワイシャツとネクタイ、スラックス姿に着替えて愛用のリュックサックに汚れたタオルや作業着などを詰め、帰り支度をすると定時の6時になる。


 そろそろ買い替えないと電池がやばい携帯をドライブモードにして、会社で買わされたノートパソコンを引き出しに仕舞い鍵をかける。


 俺はノートパソコンを事務所に忘れた事にする。


 準備は万全、これで連絡が来て書類がどうのこうの言われても「引き出しのノートパソコンを見てください」と、言い訳が出来る。


 引出しの鍵を別の引出しに入れ、警備のパネル操作をして事務所の鍵を閉める。


 鍵を掛けてから気付いたが、机の鍵を閉めて「PC忘れました」はないよな? ‥‥‥。まあ、いいか。


 急いで事務所として使っているマンションの建物から出て、電車に乗る為に駅へ向かう。




 ようやく自分のアパート近くにあるコンビニに着くと、携帯の着信とメールが無いことを確認し、コンビニで今日飲む分のビールと明日の朝飯、水やジュース、つまみなどを買う。


 それを袋ごとリュックに詰め込む。



 久々に癒されようとアパートに向う前に近所の公園へ寄り、癒しを得る為にベンチに座る。


 ネクタイを取り、リュックに仕舞い、代わりに猫缶を出し蓋を開ける。


 そうすると、どこからか野良猫が2匹寄ってくる。


 時々餌をやっている彼と彼女である。


 彼は赤毛の虎猫で毛は短いが立派な尻尾を持っていて真直ぐ長い、雑種の雄猫である。


 彼女の方は白黒の毛で少し中途半端に長い毛の猫で尻尾の方は短い、雑種の雌猫である。


 彼は餌を貰うと直ぐいなくなるが、彼女の方は餌を貰うとまるで「美味しかったわよ!」と、いう感じに擦り寄ってきてモフモフさせてくれる。


 やっとここまで手なずけた! ここまで来るのに何ヶ月掛かった事だろう。


 暇を見つけては餌付けして、ここ一ヶ月はここに来れなかったがどうやら覚えていてくれたようだ。


 久々にここに来たから忘れて近寄ってこないかと思ったが二匹は違ったようだ。


 まあ、彼の方は相変わらず餌を貰ったら「はい、さよなら」だったが、彼女は何時も通りにモフモフさせてくれたのだが‥‥‥。


 一通りモフモフして頭を撫ぜ、首の方に手の平を滑らせると首に違和感を感じてしまう。


 毛で隠れて見えなかったが毛を掻き分けると真新しい首輪が目に入る。



 何処かの家の子になったらしい。


 「幸せになるんだよ!」と、呟くと彼女は何処かに行ってしまう。



 祝杯なのか、傷心なのか分からないがビールを開けて飲み干す。


 あ~、明日は猫喫茶にでもいこうか‥‥‥。最近のニュースのお陰で男の猫好きの肩身が狭い事を思い出す。


 俺の見た目は短髪だがめがねを掛けていない。


 しかし、体の見た目が太めで猫喫茶に行ったら世間の視線に耐えられそうにも無い。


 あのニュースのお陰で同類と見なされるのが怖くて、あれ以降猫喫茶には行っていない。



 まあ、公園で猫に餌をやっている時点で十分に不審者なのだが‥‥‥。




 そんな事を思い出した為に、風呂上り用のビールも飲み干してしまった。


 あ、酔うと眠くなるのをすっかり忘れていた。



 寝てはいけないと思いつつベンチで残りのつまみをリュックに詰め込んだ記憶を最後に意識が無くなってしまう。






 こうして、俺は深い眠りに着き、気が付けば公園のベンチごと異世界へ招待されてしまうのであった。




 次話へつづく

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