表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙を救え!高校生!!  作者: 葦藻浮
第1章 高校生起動する
8/14

第7話 両親の記憶

 僕、飛鳥大和に家族はいない。


 いわゆる天涯孤独というやつだ。


 勿論、木の股から生まれたわけでも、コウノトリが運んできたわけでも、キャベツ畑で生まれたわけでもなく、五歳まではちゃんと人間の両親がいたのだ。


 遺伝子研究の第一人者として世界中を飛び回る父、真之助と、同じ研究者として献身的にそれをサポートする母、愛花との愛の結晶として僕は生まれた。


 僕の誕生を、両親はとても喜んで、カンファレンスや講演会、そして研究所と、ありとあらゆる場所へ、まだ乳飲み子の僕を連れて行き、自慢したそうだ。

 まぁ、子供なのだから当然泣くだろうし、しかも元気な男の子・・・・・・連れて来られた方はさぞや迷惑だっただろうに。


 大和という名前も、日本人のルーツである、大和国にリスペクトした父がつけてくれた名前だという。


 三才になった大和には、「同じ年の友達が必要!」という母の強い願いもあり、長期の出張などの場合は、託児施設や知り合いの家に預けられたりするようになる。


 僕の両親に身内はいなかった。


 一人っ子だった父の両親は、とっくに他界していたし、母は研究所生まれの研究所育ち、つまりクローン人間だったのだ。

 クローンであった母には家族が無く、だからこそ暖かで幸せな家庭や友達といった、人間同士の親密な関係に強く憧れていたのかもしれない。


 幸せだった僕の幼児期が一変したのは、両親を乗せた地球行きのシャトル便が突如として消息を絶ったことによる。


 今から十二年前の四月。火星発、地球行きのシャトル便、コメット717便は順調に航海を続けていた。火星と地球間のシャトル便は週に三便あって、新型ロケットエンジンの搭載、新航路の発見などでかなり時間は短縮されていたが、それでも片道にまる三日は必要だった。


 あと少しで、たシャトル便が、地球の軌道に入るというまさにその時に、それは起こった。

 突然何の前触れもなく、シャトル便は忽然と消滅したのだ。

 全く何の痕跡も残さず、跡形もなく消えてしまったのだった。


 事件が起きた直後は様々な憶測が飛び交った。


 突如現れたブラックホールに飲まれた。隕石が衝突した。何らかの機器トラブルがあって、どこかの小惑星に不時着した。といった比較的まともな説から。宇宙人に連れ去られた。

 はては、そんなシャトル便はもとから存在していなかった、などの陳腐な意見に至るまで、ありとあらゆる可能性に対して検証とデータ解析が行われたが、結局のところ何も分からなかったのだ。


 僕の両親を含む、乗客百五十人を乗せたシャトルが忽然と姿を消したという、たった一つの事実を除いては。



 こうして僕は、五歳にして天涯孤独になってしまった。



 しかし、その事を知らされていなかった僕は、いつまでも帰ってこない両親を待ち続けた。


 僕は両親のことが大好きだった。


 長い出張から、両親が帰ってきたら話したいこと、一緒にしたい事が山ほどあったのだ。

 新しく覚えた文字のこと、好きな食べ物のこと、背がのびたこと、初めて見た昆虫のこと、気になる女の子のこと、一緒にお風呂に入りたい、一緒におやつを食べたい、一緒にゲームをしたい、一緒に絵本を読みたい、一緒に・・・・・・・沢山したかったのだ。


 僕がその事件を知り、そして両親が二度と帰らないことに気付かされる日は直ぐに訪れることとなる。


 天涯孤独の存在となってしまった僕は、引き取り手の定まらないまま、託児所で暮らしていた。

 託児所には子供が自由に遊べるプレイルームがあり、そこには様々な遊具や絵本、ゲーム、楽器、テレビなどが有って、子供達が好きに使えるようになっていたのだ。


 その日の午後、僕はテレビを見ていた。


 大好きな戦隊ヒーロー物を毎週決まった時間に見るのが楽しみだった。その日も託児所の園児数人と、テレビの前に仲良く座って大好きなヒーローの活躍を、時に歓声を上げながら仲良く見ていたのだった。


 不意に、画面が切り替わり臨時ニュースが流れ出した。


 ニュースの内容は、突如消滅した火星発のシャトル便、コメット717便についての物であった。

 化学者、技術者、政治家、宗教家などか垣根を超えて対策チームを組織して早期解決に取り組む、と言った内容だったと思う。


 アナウンスされるニュースに時折挿入される映像の中に、行方不明者の代表者的な扱いで僕の両親の写真があったのだ。


「あれ? パパ、ママ。なんでこんなとこにいるの」

 僕は立ち上がると、テレビの巨大なモニターの前で立ちすくむ。


「あたち、知ってるよ」

 そう答えたのは、僕より一つ年下の女の子、悠里だった。


「うちのパパとママが言ってた! 大和ちゃんのハパとママ死んじゃったんだって。かわいそーねって」

 無邪気な顔で悠里は言った。


「うそだー!」

 僕は悠里に駆け寄ると、悠里の左の頬を力いっぱいビンタした。


 その力があまりにも強烈だったため、悠里は床へ勢い良くゴロンゴロンと転がってしまった。


「・・・いたい! うわーん、うわーん」

 突然起こった事態に一瞬戸惑った後、悠里は勢い良く泣きだす。


 その声を聞きつけて、保育士のおばさんが慌てて飛んできた。


「あらあら、いったいなにがあったの?」

 床に突っ伏したまま大泣きしている悠里を抱き起こしながら保育士が尋ねた。


「だって、こいつがパパとママが死んだって嘘つくから悪いんだ!」

 興奮状態の僕が、悠里を指さして叫んだ。


 その僕の言葉と、テレビ、悠里を交互に確認した保育士は、直ぐに状況が理解できたようだ。


「・・嘘・・じゃ、なび・・もん・・・」

 泣きながら自分の正当性を主張する悠里に。


「黙れ! 嘘つき!」

 げんこつを頭上で握りしめ、再び悠里に殴りかかろうとする僕を制して、保育士は諭すように話し始めた。


「大和ちゃんね・・・本当なの・・・大和ちゃんのパパとママが、お亡くなりになったかどうかは今は誰にも分からない、でも突然消えてしまったのよ・・・・・いつかはちゃんと話さなくちゃいけないと思っていたのに、遅くなってしまって本当にごめんなさい・・・・・」


 保育士の話を聞く僕の顔から徐々に血の気が失せていき、そして、話しが総て終わる頃には、膝はガクガクと揺れ、唇は紫色になっていた。


「・・・・・・・・・・・・うそだー!」

 暫く放心状態が続い後に、突然大声で叫ぶと、涙を流しながら、僕は保育士の二の腕にガブリと力いっぱい噛み付いた。


「ギャー!」

 僕が口を開くと、半袖だった保育士の腕から血が滴り落ちた。


 見境の無くなった僕は、次のターゲットを近くに居た別の子供に絞ると、迷いを見せずに飛びついた。


 まるで追い詰められて狂った野生の猿のようだった。


「キャー! キャー!」

 恐怖で逃げ惑う子どもたちの悲鳴と足音が。混乱の酷さを物語っていた。



 その後どうなったかを、僕は覚えていない。



 緊急事態に駆けつけてきた、警備の大人数人によって取り押さえられたらしい。


 僕の暴れっぷりは凄まじく、噛まれて出血した大人と子供が八人。

 殴られた子供が十二人。

 テレビの破壊とおもちゃの破壊。

 それでも止まらなかった僕の暴走に、大人たちはネットを使い、まさに獣を捕獲するかのようにやっと取り押さえたのだ。




 気がつくと、僕は見知らぬベッドの上に寝かされていた。


 白い天井に白い壁、窓はなく、ベッドも含めて総てが白い部屋。


 どの位眠っていたのか分からなかったが、起き上がると体中のがギシギシと痛かった。


 ゆっくりとベットから起き上がると、一つだけ有るドアのところまで歩きノブに手を掛けたが、外側か鍵がかかっていて開かなかった。


「あたまがいたい・・・・・・」

 額には包帯がまかれていて、頭の中心がズキズキと傷んだ。


「ぼくは・・・だれ・・・・・・・・・・」


 何も思い出せなかった。


 自分の名前も、歳も、住所も。託児所で起きたことだけではなく、それ以前の『過去の記憶』もほとんどすべて失っていたのだ。


 記憶喪失だった。


 医師の診断は、あまりに辛い記憶から自分自身を守るために記憶を封印した、というものであった。


「ここ・・・どこ? だれか・・・・・・パパ、ママ?」

 ドアをドンドンと叩きながら両親を呼ぶ。両親がいた事は覚えているのだか、名前も、顔も、思い出そうとしても、その部分だけがまるで靄がかかったように思い出せなかった。


 暫くすると、白衣を着た優しそうな中年男性と、黒く大きなメガネを掛けた若い女性が、ゴロゴロとワゴンを押しながら部屋に入ってきた。


「こんにちは、大和君。ええと、自分の名前、分かるかな?」

 ペン型のライトで僕の瞳を照らしながら覗きこむと、メガネのおじさんは優しい声でそう尋ねた。


「ううん・・・・・ボク、大和っていうの?」

 ベッドの縁にちょこんと座り、もじもじしながら僕は聞き返した。


「そう。君の名は大和君、飛鳥大和君だよ」

 医師? らしきその男は、検査の手を緩めて僕の顔を暖かく見つめた。


「ねえ、ここはどこなの? ボク、おうちにかえりたいんだ」


「えーとね、大和君。ここは病院の中なんだよ」

 男は、最初の質問だけに答えた。


「ボク、びょうきなの?」

 病院と聞いて、僕の表情は曇った。


「いや。病気じゃないんだよ。検査のためにちょっとだけ入院しているだけだから」


「よかったー」

 それを聞いてほっとしたのか、すぐに晴れやかな顔になる。


「けんさはいつおわるの?」


「うーん、もう少しかかるかなー」


「それがおわったらおうちにかえれるの」


「・・・・・そうだよ・・・・・」

 男は、優しく微笑むと僕の手を握った。


 暖かく、大きな手だった。


「おじちゃんは、ボクのパパなの?」


「・・・ちがうよ。おじちゃんは大和君のパパのお友達なんだよ・・・」

 感情を押し殺すように男はいった。


「ふーん・・・じゃあパパとママはどこなの?」

 男は僕のその質問に、どう答えるべきか迷っていた。


「おむかえにきてくれるかな?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 男は、何かを考えていたが、大きくうなずき僕の頭をそっと撫でると言った。


「大和君が元気になったらきっと迎えに来てくれるよ」




 男は嘘をついていた。


 包帯も取れて、すっかり元気になった僕は、外の景色が見える大きな窓の有る、明るい部屋に移されていたが、何日待っても両親は迎えに来てはくれなかった。


 代わりに僕を迎えに来たのは、天王寺財閥の人間だった。


 身寄りの無い僕の引き取り手として、シャトル便の運航会社の母体であった天王寺家が名乗りを上げたのだ。被害者遺族に対する償いの意味も有ったとは思うが、天王寺家の当主と僕の父が親友同士であったことが大いに関係していた。


 こうして僕は天王寺家で、この後、中学三年まで暮らすこととなった。


 莉子とは、小学校へ進学した時に初めて出会い、友達になったのだ。


 失われた過去の記憶は少しずつ蘇り、そのほとんどは小学校時代に取り戻していたが、父と母の記憶だけは相変わらず曖昧なままだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ