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ケース7 幻獣の中の幻獣



魁人たちが気がついたときには、深い霧の立ち込める、森の中の神社らしきところの前に立っていた。その大きな神社は霧も相まって、神々しく神秘的な雰囲気を漂わせていた


黒天狗は長い下駄を、魁人とミナは草鞋を脱いで中へと入っていく



『帰ったぞ!』


『『お帰りなさいませ、黒天狗様!!』』



注意しておくが、今の台詞は顔面いかつい天狗たちが言ったものだ。間違ってもおにゃのこが言うような可愛げのあるものではない。どちらかというとヤのつく職業な感じを思わせる調子だ。


というかこんな発想に直行してしまう自分に少々自己嫌悪を覚えないでもない作者



『ウム。鈿女ウズメはおるか?!』


「うるさいよもぅ。なぁに? アタシこれからハーピーちゃんのとこに行くんだけど…」



奥から出てきたのはおおよそ人間と変わらない少女だった。違うところといえば、背中に黒天狗と同じような漆黒の羽が3枚、生えているところくらいか。可愛い系というよりかはキレイ系である。大和撫子という感じだ。


本当に久しぶりなのか、気持ち嬉しそうに天狗の娘に話しかける魁人



「おぅ、久しぶりだなウズメ。何年ぶりだ?」


「か、かかかかかかいとさん?! お、ぉぉおおぉおおおひしゃしぶりでしゅ!」


「ドギマギしすぎだ、カミカミってレベルじゃねーぞ。顔赤いし、熱でもあるのか?」



ケタケタとウズメをからかう魁人。親戚同士が久しぶりに顔を合わせたときのようで微笑ましいが、ミナの表情は少しだけ曇っていた



「だ、だだだだだだって!! き、聞いてないよこんなの!!」


『突然だったからな。娘よ、少しは落ち着…』


「おとーさんは黙ってて」


『』orz



うなだれる黒天狗。思春期の娘を持つよき父親ゆえ、拒絶された時のダメ―ジは大きいのだろうか。過保護は嫌われるぞ、黒天狗



「しかしほんとに久しぶり。前に見たときはこんなだったのにな」


「あ、アタシだって成長してるんですっ! 何なら証拠を……ハッ?! 私はなんてことを……ゴニョゴニョ……///」


「『?』」



胸の前で人差し指を突き合わせてイジイジしているウズメ。はたしてその真の意味を魁人が理解するのはいつになるだろうか



「(なんだろこの疎外感。そしてなんだろ、この胸のうちに広がるモヤモヤといらいらは……)」



ミナがその心を理解するのも遠い話になりそうだ







天狗の弟子がお茶を持ってきたところで本題に入った。暗い面持ちで語りだす黒天狗



『あれは数ヶ月くらい前だったか。この森には広大な地下空洞があるのは知っておろう』


「ええ。霊的にもかなり面白い場所らしいですね。昔の悪徳陰陽師集団が無差別に殺した人外の死体をしこたま集めてあそこに放り込んで放置してたせいで、ものすごいタチの悪い人外の悪霊が跋扈ばっこしているとか」


『ウム。それを封じるため、そしてその無念の魂を鎮め、祀るためにワシら黒天狗一派がこの森と一緒に守っておったのじゃが……そこにきやつが現れた』



袖の中を探り、中から取り出したものを無造作に魁人たちの前へ投げ捨てる黒天狗。それは何やら大ぶりの鱗だった。魚のようなヤワなものではなく、爬虫類のようにしっかりした鱗



『地下空洞の入り口に落ちておった。不審に思った弟子が中を巡回し、その人外を目撃しての。外に出るように説得しようと近づいたところ炎を吐かれたそうじゃ。


弟子は風障壁で威力を軽減しようとしたのにもかかわらず全身大火傷を負ってしまった。

愛弟子を傷つけられ、そして危険な場所に入り浸る、これはワシとしても見過ごすことはできん』


「ふむ、傷害罪は確定か。あとでお見舞いに行こう。外見的特長は?」


『暗闇でよく見えんかったそうじゃが、見てくれは普通の人間の女のようじゃったらしい。それこそ美人の類だったとか』


「そのお弟子さんってあの弟子1さんですか? 教官」


『そうじゃ。あやつはワシの弟子の中でもひとつ頭飛びぬけて強い力を持っておる。だからあの危険地帯の巡回を任せておったのじゃが……なんにせよ、相当な力を持つ人外じゃな。神獣とはいかないまでも、有名どころじゃろう』


「今度も戦わないといけないのかな…」



不安そうな面持ちでミナがつぶやく。対化け猫戦のことが効いているのだろうか。その恐怖は化け物に対する恐怖か、戦いに対しての恐怖か



「さぁな。だが会ってみないことには始まらん。黒天狗教官、地下空洞への道を教えてください」


『よかろう。ヤタガラス、案内してやれ』








「「「地下空洞なう」」」



数十分後、3人はくだんの地下空洞入口前にいた。神浄魁人、ミナ・ハーカー、そして黒天狗鈿女。



「ってなんでウズメまで付いて来てんの。面白半分で来るもんじゃねぇぞ。遊びでやってんじゃないんだし、いざというときお前を守り切れるかすらわからねェんだからな」


「こ、これも修行の一環です! お父さんの娘たるもの強くなければなりませんから!」


「やめておけ、生半可な気持ちじゃ死ぬほど痛い目にあうだけだぞ。おとなしく滝に打たれる荒行とかしてろ」



人外の耐久力は解らないが、とりあえず流れる水が苦手なミナはツッコミを入れる



「あれも大概痛いんじゃないですか? 私に至っては死んじゃいますし。ここは私たちプロに任せて!」


「無い胸の張るな、そもそもお前もほぼアマチュア同然じゃねぇかこのド素人が」


「おい今無い胸っつったかテメェ」


「あ、アタシはある方だから胸張っても大丈夫ですね!」



外見的年齢に対して大きめの胸部を強調しながらウズメは胸を張る。魁人の方をチラチラ見ていたのに気付いてるのはミナと本人だけだ。魁人はどこ吹く風と言わんばかりに洞窟の方をぼーっと見ている




「色々論点ズレすぎだろ。まぁここまで来ちまったんだし、覚悟してついてこい」


「はい♪」



ミナがすごい勢いでムスーっとしていたのに魁人は気付いていなかった





魁人が手に鬼火を入れたランタンを持ち、先頭に立って歩く。その後をおっかなびっくり付いていくミナ。普通に歩いているようで、目がやたらと泳いでいるウズメ。洞窟内に3人が歩く音が反響する。


カツーーン…  カツーーン…




「こういうとき明かりがランタンだけってのもある意味情緒があるよな。こう、アンディ・ショーンズみたいな」


「どう考えてもいらない情緒ですよそれ……あっちは冒険ですけどこっちはどっちかっていうとホラーですし……」



吸血鬼のクセに暗闇が怖いとか本当にどうなのよ。それを見て茶化すウズメ



「あら? さっきまでの威勢はどこへ行ったのかしら? 吸血鬼(笑)さんwww」


「ぐぬぬ…」



余裕ぶっこいてたウズメの頭頂部に洞窟の天井から降ってきた雨水がぴちょんと落ちる



「うきゃぁっ?!」



ウキャァ ウキャァ…



 ウズメの悲鳴が洞窟内に反響し、コウモリが数匹飛び交った



「あれれ~? さっきまでの威勢はどこへ行ったのかな~? 天狗(笑)ちゃん?ww」


「ぐぬぬ…」


「(なにこいつらめんどくせぇことこの上ねぇ)」









 ふと、開けた場所に出る一人と2匹 (?)。ランタンの明かりが開けた場所全体を明るく照らす



「開けたな。それにしても鍾乳洞がきれいだ」


「さすが、着眼点がいちいちズレてます」


「じゃかぁしい、勝手にそこにシビれて憧れてろ。しかしこの鍾乳石、凄いもんだな」



 何万年という時の流れが生み出した自然の芸術。加えてこの洞窟は霊的な力が高密度で漂うところ。その影響のおかげか、この鍾乳石の欠片には霊的パワーが込められているようだ。欠片を手に持ち、興味深そうにに魁人が眺めている



「でも綺麗ですよね……自然が創り出した造形美っていうんですか? この美しさが解らないとは、心にゆとりないんじゃない? 吸血鬼サン?」


「カッチーン! あったまきちゃったわ表出なさい」


「上等よそれよりカッチーン! とか口に出しちゃうてwww」



 仲の悪い姉妹の喧嘩を止めるように魁人がたしなめる



「てめぇら黙れ。全身の間接360度動くように稼動範囲広げられたくなければな」




 魁人の脅しに抱き合って震えだした人外二人。少々やりすぎなたしなめ方だが。一々どうでもいいことで喧嘩おっぱじめるこの2匹。間に挟まれるほうはたまったものではない。ともかく奥へと進む。と


 さぱん、と水と戯れる音が奥のほうから響いてきた。この音の大きさ、おそらくはそうだろう。水浴びの途中らしい



「ミナ、ヴァジュラ出しとけ。ウズメ、風神の団扇持ってたよな? 出しておけ」


「魁人さんは武器を出さないんですか?」



 ウズメは腰につけていた短刀のようなものを振る。すると刃の部分が5つほどに分かれ、鋼のヤツデの形となった。鉄扇と言われるタイプの武器だ



「対話に来たのに武器抜刀してるってのもアレだろう。お前らは俺と違ってこういうのに慣れていないからな。聞け、お前ら。こんな閉鎖空間の中だ、何が起きても不思議じゃねェ。いざとなったら俺を捨てて出口へまっしぐらに逃げろ。いいな、これは確定事項だ」


「「……わかりました」」


「よし。ミナ、もし最悪の場合洞窟の外に出たらこの札を携帯電話に貼り付けて通話ボタンを押せ。霊的な場所じゃロクに電波は通らんが、それがありゃ普通に通話できる。掛けたらジジイのとこの内線にまっしぐらにつながるからな」


「了解です」



魁人から手渡された札を懐にしまうミナ。ここからが本番である





LOADING…  カリカリカリカリ



―――地下空洞最深部―  嘆きの湖――









 開けた場所のさらに奥地、そこには広大な地底湖が広がっていた。底まで見える透明度の高い水に満たされてはいるが、暗さのせいでぽっかりと大きな黒い穴があるようにも見える




「ここだな。焦げ後がある、おそらくここで弟子1がウェルダンにされたんだろう」


「魁人さん薄情です……まぁ個人的にあの人苦手だったんですけど。私に言い寄ってくるから鬱陶しくて……」



 魁人の方をチラチラ見ながらアピールするウズメ。魁人は興味無さげに足元の石を転がす



「まぁ年頃だし、しょうがないっちゃしょうがないだろう。気が遠くなるほど先の話とはいえ、それが親心なんじゃねェの? 知らねェけど。行き過ぎるようなら相談しろ、迅速かつ早急にことを収める……」



 そこまで言ったところで魁人が急に辺りを見回す。その反応に人外娘たちが困惑する。抱き合って辺りを見回し始めた



「「な、何か出たんですか?!」」


「さっきから見られてる。確信に変わった」


「「?!」」




………………………………………………





「…………嘘だ」


「「ちょっと!!」」







なんやかんやで最深部に到着した3人。今度こそ魁人の眼が鋭くなった




「……来る」



 刹那、地下空洞全体が揺れる。天井からパラパラと小さな石が落ちてくる。湖の中央に小さな波紋が浮かぶ。徐々に大きくなる波紋、水底から水泡が浮き上がり水面で弾ける


やがて波紋の中央から一人の美しい女が静かに現れた



『…ふぅ。やっぱり居心地いいわここ。アタシのお家にふさわしいわね。あら? 誰かしら。アタシの家に何か用?』



 湖のほぼ真ん中からほぼ静止した状態で話しかけてきた、ルビーのような深紅の瞳の女。顔だけ出して、気持ちよさそうに髪を後ろに流している。立ち泳ぎするならもっと水面が蠢いている筈なのだが




「いや、アンタの家にふさわしいとは思わないな。他人の土地に土足で踏み入り挙句他人外を傷付けるなど……情熱思想その他もろもろ、そして何より品格が足りない」


「端折りすぎです、ちゃんと最後まで言ってください!」


「うるせぇ」


『あらあら、初対面の相手に失礼極まりないうえ、そんなものを見せ付けに私のところに来たって訳? しかも両手に花で。わかったわ、アナタ顔立ちいいからミディアムレアで容赦してあげようかと思ったけど……灰になるまで焼き尽くしてあげる』



 謂れのない嫉妬のはけ口として3人は選ばれてしまった




 突如、水面がざわりと蠢く。湖からロケットのような勢いで飛び出し、姿を現したのは人間の女性の上半身に鷲の後肢を持つ人外だった。ミナが驚愕の表情に変わり、魁人は焦ったような表情を浮かべた





「この人外……まさかヴィーヴル?!」


「なによそのヴィーヴルって」



ミナが慌てているのを見てウズメは怪訝な顔をする。



「だとしたらかーなーり、マズいな……」


『何十年何百年たっても出会いのない私に見せ付けてくれやがって、ぶっ殺してやる!! ヴァージンで悪いかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』


「話を聞け、ヴィーヴル! 俺たちは戦いに来たわけじゃ……」


『黙れェェェ!』


「「「ダメだこりゃ」」」



 出会って一発目にケンカ売った魁人も悪いだろ。ミナは心の中で思っていた






LOADING…  カリカリカリカリ


エネミー   ヴィーヴル・第一形態





問話休題・ミナによる! ヴィーヴルとぅは、なぁぁぁぁぁんぞやぁ?!



「ヴィーヴルっていうのは平たく言えばドラゴンの一種だよ。城跡や修道院で財宝を守るドラゴンっていわれてる。男どもが喜ぶような設定の中にすべてがメスだっていわれてるね。


時には女性の上半身にワシの後肢を持つ精霊とされることもあるみたい。両目が赤いルビーやガーネットといった宝石で出来てて、取られると失明するばかりか死に至ることもあるんだって


普段は地下で生きてるんだけど、時に地上に出て人間を食い殺すということもあるみたい。その時には体全身が紅蓮の炎で燃え上がるんだって」


注意・この講義はヴィーヴル編以前に収録されました









 ゴォッ! っと炎が風が空を切る音。そしてその直後にパリン! とガラスの類が割れる音が地下空洞最深部に響き渡る。


 ヴィーヴルが魁人の持っていたランタンを焼き尽くしたのだ。唯一の明かりであったランタンの火が数秒と立たず消えてしまい、辺りは数センチ先も見えない真っ暗闇に変わる



「マズイ、式神・蒼朱雀!」



 杓杖を回転させ、印を描く魁人。そこからまた前回と同じように蒼い炎の鳥が大量に飛び立つ。洞窟内に妖しい青い火の玉が展開され、先ほどより視界はよくなる。


だがそれはヴィーヴルに攻撃の隙を与えたということに他ならない




『小賢しいんだよぉ!!』



 尋常ではない速度で接近、鷲の後肢で魁人の頭を掴み、ギリギリと締め上げ、勢いづけて洞窟内の壁に叩き付けるヴィーヴル。魁人が叩き付けけられた岩壁の一部が崩れ、魁人に降りかかる



「がはぁ?!」


「魁人さん!! クッ、喰らえ黒風刃!!」



 鉄扇を構え、ヴィーヴルに向かって仰ぐウズメ。団扇から発生した微風はあっという間に竜巻のように渦を巻き、そこから半月状の衝撃波を大量に飛ばす



『若いだけが取り柄の小娘にィ! アタシが倒せると思ったかぁぁl!!』



 芸術的とも呼べる身のこなしで衝撃波をすべて紙一重で避わすヴィーヴル。正直旗色が悪い。玄人一人はダウン、素人2人では太刀打ちできない。思ったより戦闘慣れしているらしい。年の功、とでもいうのだろうか。



「なっ?! 避けられた?!」


『ウフフ、鳥モドキ風情が竜に勝てるとでも思ったのかしら? トチ狂ってるんじゃな、いッ?!』



 見事なストレートキックがウズメの腹部にめり込む。その衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされるウズメ。このままでは先の尖った岩に串刺しになってしまう



「っ! はッ……」



ガシィ! ズザァァ



 横からミナがウズメを抱き抱え、岩への衝突を免れさせる。



「ありがと、助かった」


「うぅん、いいよ別に。それより…」


『美しい女同士の友情ってヤツ? いいわねぇ。アタシにはそんな友達も居なかったんだけどねぇ!!』



 ボッチのはた迷惑な、八つ当たりの強力な竜の火炎が二人を襲う



「式神・白玄武ハクゲンブ!」




 不意に出現した光球が大きな6角形の盾となり、火炎からミナとウズメを守る。炎はまるで湖に薪を放り込んだかのようにジュッ、という音を立てて消えた。



「ったく、女の嫉妬ほど醜いものはないな。白玄武、受けた攻撃を相殺し、打ち消すための防御結界を発生させる式神だ」


「「魁人さん!」」



 頭から血を流した魁人が煙の中から現れる。浄衣のあちこちが破け、露呈した肌からは赤い血が滲んでいた



『あら? 全身の骨が使い物にならなくなる程度にブン投げたつもりだったんだけど?』


「あぁ、浄衣がなければ即死だった」


「あれってそんなに強度あるものだったんですか?!」



 陰陽師たちが来ている浄衣には邪を弾き返し、衝撃などを和らげる力が込められている。浄衣を仕立てる人外様々だ





『ちょっと耐えたからって調子に乗らないでくれる?』


「まぁな、調子には乗ってないさ。そろそろ伏線回収しようかと思って」



 と、洞窟の湖の水がにわかに震える。真っ暗だった水面には、魁人が先ほど設置した蒼朱雀の灯篭が映っている。不意に、蒼朱雀が水面へ向かって突入する。浄化の蒼炎は消えることなく水の中で徐々につながり、大きな、蛇のような形を形作る



「こいつは俺の使う式神のなかでも一番メンドクサイやつでな。場所も選ぶし、ローディングも長い、さらにこうやって準備してやらないと出てきてくれないんだ」



湖の水面の下で燃えていた蒼い炎が、紅蓮の赤色に変わる。



「目には目を、埴輪には埴輪、庭には2羽ニワトリ、そして竜には竜を!来たれ、紅青龍ベニセイリュウ!!」



 水面から、燃え盛る炎のような赤色をした水が立ち上がる。周りに飛び散る水はその赤さでマグマにも見えるが、肌に触れるとそれは水だ。この赤い水を見ていると、心なしか勇気が出てくるようで、すこしだけ素人二人がビクつかなくなった



『な……なによこれ?!』


「説明は後でする、とりあえずくたばれ。お前は龍のエサだ」



 大口を開けた竜がヴィーヴルに向かって突進する。ヴィーヴルが断末魔をあげる前に、紅の龍はすべてを飲み込んだ




「……ふひぃ…」



 その場にへたり込む魁人。杓杖がカラン、という音を立て地面に落ちる。大きな力を使った後の代償だ。見たこともないような疲労の表情が見えてとれる



「「大丈夫ですか?!」」


「あぁ、ちょっと疲れただけだ、精神的にな。体力は大丈夫だが」



 魁人が視線を向けた先には、大きな赤い水の固まりが浮いている。その中ではヴィーヴルが赤色の水の中でもがいていた。時折こちらに向かって親指を下に向けたり中指を立てたりしている。



「強力な人外用の拘束術式。力の制限術式と、破ることは至難の技の水の檻の重ねがけだ。そう簡単に出られはせん」


「どうするんですか、彼女」


「とりあえず特殊任務執行妨害は適用されるな。後のことは本部まで連れ帰ってからだ……な……」



 魁人の表情が凍りつく。急に立ち上がり、周りを見渡し始める。怯えるように




「ど、どうしたんですか? いきなり立ち上がって…」


「………マズイ」




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