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ケース5 憑依




時刻は夕暮れ、光と闇の狭間の時刻。金色の目が暗がりで目を開けた






「くそったれ、まさか2匹同時出現とは……」


「急ぎましょう!」


「! あぶねぇ!!」


「ふぎゃぅっ?!」




 全力疾走中にいきなりミナの横っ腹を蹴っ飛ばす魁人。さすがにもう少しやり方があったのではないか? ミナはノーバンで壁にぶち当たり、停止。


直後、ミナがいたところに鋭い何かで引っかいたような傷が3本、地面に刻まれた




「あ、すまん、ちょっとやりすぎた」



 ミナの襟首を引っ掴んで、ベリリと壁から引っぺがす魁人。つくづく扱いがひどい



「ちょっとってレベルを著しく飛び越えてますよ!! 壁に大の字で激突なんて漫画でしか見たことありませんよ!」


「別にいいじゃんこれでお相子だ。そして話進めるぞキリがねぇ」


「この鬼! 鬼畜! 鬼畜生!」




にゃぁ~




 辺りに響く猫の鳴き声。徐々に暗くなっていく世界、そこはもはや猫と言う獣の狩場に変わりつつある。そこにいるのは二つの獲物。


 猫は動物界でも優秀なハンターだ。息を殺し、愛でられることの多い肉球は足音を殺す消音装置。忍び寄り、次の瞬間には終っている。


 



「ミナ、第一種戦闘配備だ」


「えぇっ?!具体的にはどうすればいいんですか?」


「死なねぇように祈ってろ、以上オーバー


「ちょっwww シャレになりませんよちょっとぉぉ!!」





 魁人が袖の中から複数の札を取り出し、空中にばら撒く。そして胸の前で複雑な印をきりだす。それに呼応するように、空中にばら撒いた札が薄く発光し始めた




「リン・ピョウ・トウ・シャ・以下・省略! 封鎖結界」



 途端に辺りに薄い霧のようなもやが立ち込め、辺りを覆いつくしてしまった。だが自分たちの視界はちゃんと確保されている。これで人目を欺くのだろう。魁人が浄衣の袖の中を探る。




「お前これ持ってろ」



 渡されたのはおよそ20センチくらいの金属。金色に輝くその金属の両端には3本の爪のようなものがついている



「なんですかこれ?」


「金剛杵、ヴァジュラだ。武器みたいなもんだ。今回は研修ということで特に何もしなくていいが、いざというときは自分の身は自分で守れ。来るぞ!」



 魁人は少し腰を落とし、背中の1対の錫杖を解き放つ。眉間に皺が寄り、眼光が鋭くなる


ヒュオッという風を切る音、直後魁人の頬に引っかき傷が3本刻まれる。




「ちぃい! んのぉ!!」



 杓杖を振るが、そこにはもう何もいない。そして魁人が用があるのはとり憑いている悪霊のほう、とり憑かれている体には極力傷をつけないようにしなければならない。


ふと、月明かりがあたりを照らす。たった今魁人に傷をつけた猫耳の少女が極端な猫背で佇んでいた




『ニャフフ…』


「だからイヤなんだよ化け猫の相手はよォ……クソ面倒くさい……おいミナ」


「ふえぇ…なんですかぁ?」



 金剛杵を握りしめ、カタカタ震えながら涙目でこちらを見るミナ。仮にもお前人外だろうが。同じ人外にビビっているのに、なんでこの仕事したいって思ったんだ



「可愛こぶんな。とりあえず囮になれや。さっきは俺がやっただろ」


「やーぁですぅ~~!! むぅ~りぃ!」


「あ、いい忘れていたがその金剛杵の効能は悪霊をおびき寄せるための力を封じ込めてある、要は囮用のデコイだな」


「あぁ~、だから私が持たされて………」







…………………






「ってこらぁぁっぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」


「ちなみにそれは一度手に持つと離れなくなるように、持ち手に瞬間接着剤を仕込んである。安心しろ、安心と実績のアロンダイトだ」


「○ロン○ルファね。胡散臭い説明の割には原始的な手を使うのねってこらぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」


「やかましいなぁ、ほら、来るぞ」






 ヘタレ吸血鬼の叫び声とともに、化け猫少女が一瞬にして姿を消す。悪霊が取り付き、あらゆる身体能力のリミッターが外れ、常人ではありえない戦闘能力を、少女は手にいれていた


鋭い一撃が暗闇に紛れてミナを狙う




「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




バチィィィィィン!!




 ミナを引き裂こうとその爪が迫った瞬間、謎の力に阻まれ猫は弾き飛ばされる。数メートルほど転げ飛ばされ、やがて止まった。猫は気付いた、体の自由がきかない。



『にゃ?!』


「それは結界だ猫。貴様ら悪霊にぃ、それを突破することは不可能だァ。おォとなしく捕まえられろ、ヴァけ物め」


「(声低っ!)」



 UM組織内の技術開発局局員が特殊な祈祷を込めた金剛杵は妖怪をおびき寄せる特殊な妖力を込められている。だがそれに反し、手に持っていると不純な妖力をはじき返す効力が付加される。



「これって…」


「囮になれや、とは言ったが誰も死ねとは言ってねぇ。さぁ~て、オイタはここまでだ化け猫。人に仇名すし世を乱す人外は豚箱へ、低俗な悪霊に過ぎない貴様らは黄泉へ帰れ」



 結界に触れ、痺れて動けない化け猫に悪魔の足音がゆっくりと、しかし着実に歩み寄っていく





「歯ァ喰いしばれクソ猫。お仕置きの鉄拳!!」


『ふに゛ゃ?!』



 男女等しく振り下ろされる、正義の鉄拳が化け猫少女の頭に降り注いだ









~~~~~~~~~





「…っと、こんなもんか」




 気絶した化け猫少女の周りになにやらお札を配置する魁人。何かの儀式でもはじめるのだろうか



「これから何するんです? はっ?! まさか動けないのをいいことに幼気いたいけな少女を……」


「言わせてたまるか、そしてやってたまるかこの耳年増め。幸いこいつはとり憑かれて間もない。まだ引き剥がせるかもしれない。化け猫を引きずり出して滅霊する。滅霊陣・浄化結界だ」


「あぁ、要するにボク○イのパイルドラ」 


「皆まで言うな。ともかく、人外であるお前には少々危ないものだ。ヘタに悪影響出て倒れられても困るし、そこで待ってろ」


「もうちょっと言い方考えてくださいよ!! 」


「行くぞ。オンキリキリオンキリバサラシイラムシイラム……」


「そしてこのスルースキルだもん…」





 淡い浄化の光があたりを照らす。だが光を見つめるミナの表情は硬い。それもそうだ、これは人外を滅するためのもの、自分があの中に入ったら苦痛にのた打ち回ることになるだろうとミナは直感的に思った。人に取憑いた化け猫はともかく、正真正銘純正の人外であるミナは無事では済まないだろう


 日の光に背を向けた、死にぞこない(アンデッド)に成り果てた自分に、もう二度と日の光は振り向いてはくれないのだ




 辺りを散るように照らしていた光が収束し、化け猫少女のほうへと集まりだす。とたん、化け猫少女が急に苦しみだす



「あぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁaaaahaaaa?!」



 集められた光が、フライパンの上で肉を焼くがごとく少女の身を焦がす。身をよじり、その苦痛から逃げ出そうともがくが、体の自由がきかない。先ほどの金剛杵の結界には人外の行動を制限する術式も組み込まれているのだ



「安心しろ。その痛みは化け猫が受けているものだ、決してお前が受けているものではない。気をしっかり持て。お前は助かる、俺が助けてやる。お前が気をしっかり持っていれさえすればな。だから祈れ。生きたいと祈れ。自分は助かると祈ればいい」



 その言葉が届いているかはわからない。だが、ミナは結界の中の少女が、わずかに反応したように感じた


刹那





『ギニャァァッァァッァァーーーーーーーーーーー!!』






 少女の体から本来彼女の体にないもの、不純物が吐き出される。悪霊が姿を現した。禍々しい、獣そのもの。体長おおよそ8メートル、これはもはや猫というよりは獅子という方が近いのかもしれない。体を覆う毛のようなものが、煙が吹き上がるように辺りに発散している


 人外拘束術の鎖が巻きつくが、力任せに引きちぎられる。



「チッ、引きずり出すだけで精一杯か。切り離して、滅する……さぁ~ておいでなすったぜ。今宵もクソッタレた宴を始めるか」



しゃらん、と小気味のいい音を響かせて魁人は背中の2本の杓杖を解き放った






「爆導符!」



 魁人が杓杖を勢いよく振りぬくと、霊体に張り付くと爆発してダメージを与える特殊な札がたくさん飛んで行く。


 

だが軽快かつ身軽な動きで呪符をよける化け猫。暗闇の中を軽やかに、優雅に飛び回る化け猫


 化け猫の指から隠されていた爪が飛び出し、魁人を狙う。魁人はそれを杓杖で受け止める。普通の人間なら勢いに押し負けて押さえつけられたと同時に潰れてしまっただろう


 数メートル後ろに押され、地面のアスファルトがバリバリと捲れあがっていく。



「っ……くそがぁぁ……ナメんなよクソ猫風情が!」



 力のベクトルを横に受け流し、飛びかかってきた化け猫を弾き飛ばす魁人。化け猫は浄化結界の壁に勢い余って衝突した。対してダメージはないようだが


 霊体に質量とかヤボなことは突っ込まないにしろ、かなりの衝撃を魁人は受けた。だがそれを彼ははじき返したのだ。もはや人としてのコトワリを外れているような気さえする



「式神・蒼朱雀ソウスザク! 」



 右手の杓杖の中ほどを持ち、指で器用に1回転。すると空中に描かれた円に複雑な字が浮かび上がり、魔方陣のようになる。そこから蒼い炎が鳥の形をして無数に飛び出し、化け猫を追い立てる。漆黒の宵闇に美しい蒼炎が無数に舞う



 俊敏な動きで鳥を回避していた化け猫だったが、やがて一羽の炎の鳥が化け猫にヒット、瞬く間に化け猫は炎上する。よこしまの塊である悪霊の体を、穢れ無き浄化の蒼炎が焼き尽くす


邪なる魂を燃料として、さらに炎は勢いを増す



ャーーーーーー?!



 もはや泣き声ですらない、喉の奥から出された音は虚しく結界の中に響く。ゆっくりと化け猫に歩み寄る魁人。これから裁きを下すのだ。




「罪状・罪無き人に取り付き私欲のために暴れようとした、一般人への憑依罪。加え俺に対する特殊任務執行妨害。上記二つより情事酌量の余地なしと判断。滅霊執行」



頭上に掲げた2本の杓杖を振り下ろす魁人。今回の仕事はこれで終わりだ








~~~~~~~~




「た、助かったぁ…」


「助かってもらわなきゃ困る。どうだ? これが仕事ってやつだ。常にくたばるか死ぬか、もしくは己の業に苦しみながら生きていくか。そんなクソったれた環境で俺たちは戦ってんだよ」


「……でも、まだ判断材料が足りません! 引き続き指導のことお願いします」


「…………チッ。あと敬語はいい」


「え? でも仕事上一応上司だし……」


「堅っ苦しいのはキライなんだ。これは上司命令だ。いいな?」


「……了解♪」




辺りを覆っていた結界の効力が消え、霧が晴れる。同時に、朝日が地平線から昇り始めていた












リザルト


滅霊・および逮捕


逮捕  化け猫(霊体)×1

滅霊  化け猫(憑依体)×1


総合ランク評価・B



時計『今回ノ報酬ダヨ! チョット苦戦シタミタイダネ…次ハ頑張ッテ!』


化け猫の霊毛×2

化け猫の霊爪×1

化け猫の霊牙×3






リザルトは完全にお遊びです。早くGE2でないかなー


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