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ケース4 化け猫





「ここ?」


「あぁ」


「んじゃ私はコレとコレとコレと」


「菓子買いに来たわけじゃねェぞボケ。付いて来い」


「ふえぇ、私の駄菓子ぃぃ~~……」




 魁人に襟首掴まれ、引きずられながら到着したのは駄菓子屋の裏手の空き地。そこにはたくさんの野良猫や野良犬がたむろしていた。人に慣れているのか、機嫌よさそうに犬猫がよってくる。すり寄ってきた野良たちを軽くいなしながら魁人は辺りを見回す



「どこに居るかな…おーい、猫又―ぁ」


「呼んだかね陰陽の子よ」


「きゃぁぁぁぁぁ喋ったぁぁぁぁ?!」



 足元に寝転がっていた黒猫が急に口を利きだす。よくよく見れば2尾だ。猫は40年生きると人語を話し出し、妖力を使い出すという。それが猫又なのだ



「おう、久しぶりだな。ほれ、お近づきの印にたまたま懐に入っていた鰹節をやろう。悪いがそのままでもいいか? 削り器忘れちまったんだ」



 カロン、と小気味のいい音を立てて鰹節を取り出す魁人。鰹節特有の香りが少しだけ漂う。それにつられてか猫がたくさん寄ってきた



「外国出身だけどそれ、たまたま懐に入っているものじゃないよね?」


「流石陰陽一家の末裔よ、私の好みも筒抜けか。で? そこの御嬢さんは誰かね? それにおや、お譲ちゃんは……外のにおいがするね。さしずめ入国者かね?」


「は、はい!」


「あぁ、新人ですよ。ただ今絶賛新人研修中です。ホラ、名乗れ」


「あぁハイ! ミナと申されました?!」


「噛みすぎだろアホかお前このボケ」


「な?! 一言に2回も罵倒語入れましたね?! 言いすぎだと思います!」




 誰が見ても分かるくらいに緊張でがちがちになっているミナ。声も所々裏返っている。お得意様ほったらかしでぎゃいぎゃい同レベルで喧嘩する先輩後輩。微笑ましいものを見るような目で二人を見ながら猫又は鰹節を頬張った




「ホレ、夫婦漫才もその辺にして、儂は何をするのに力を貸せばよいのかね?」モシャモシャ


「「夫婦じゃない(です)ッッ!」」



ここまでテンプレ通り。本当にありがとうございました。と、魁人が真顔になり本題を切り出す



「とまぁ冗談はさておき。この辺りで化け猫が出始めたっていうんで、探してるんだが……何か心当たりはないか?」


「確かに不穏な空気を感じてはいたが……現代では心に傷を抱える子どもが数多く居る、とり憑く体には事欠かないだろうな」


「何とか霊体のまんまで捕縛したいんだがな。もし誰かにとり憑きでもしたら……面倒この上ないことになる。とり憑かれた子にも霊傷が残ってしまうし」


「手がかりみたいなものはないんですか? その……霊圧っていうんですかね?」


「どこぞの死神漫画かよ」




ミナがおずおずと意見を述べる。それに対して猫又が答える



「ふぅむ……化け猫はとり憑くまでは普通の猫の霊だ。とり憑きやすい対象が近くにあるときに本性を現す。私でも見分けはつかぬ」


「片っ端から猫の霊を捕まえて回るっていうのも非効率的だ。大体霊なんてその辺に腐るほどたむろしてるって言うのに」


「そ、そそそそその辺に、いいいいいっぱい?! ちょっと前のアレみたいなのがその辺に?!」



 聞きたくなかった真実を聞かされ動揺しまくっているミナ。人外としてそれはどうなのだ。やはり吸血鬼でも怖いものは怖いのだろうか



「手詰まり…か。すまない、邪魔したな」


「ふむ、かまわんよ。力になれなかったワビとして、友人に見回りをしてもらうよう頼んでおこう。力になれんのは悔しいのでな」


「恩に着る、猫又」


「ねぇ?! その辺にいっぱいってどういうことですかちょっと!! 無視しないでぇ~~~……」









~~~~~~~~~~




 その後、辺りに霊圧を感知すると警報を鳴らす札を張り付けて回り、魁人らは極東支部に帰還した。社員食堂で夕食をとる。ミナは輸血用血液とナポリタン、魁人は鶏のから揚げ定食である


 

 阿修羅のおばちゃんが作る社員食堂は、名だたる美食家人外にも一目置かれるほど美味と評判で、レシピ本がUM内でのみ発行されているほどだ。から揚げを頬張りながら魁人は、食道備え付けの大型液晶テレビを見ているミナに話しかける。



 放送されているのはニュースで、各地のパワースポットについてだ。巨大な石が置かれた石塚には善良な鬼の魂が祭られており、それが幸運をもたらすとか




「ところでお前は観光に来たとか言ってたよな」


「うん。そのはずだよ」



ズチューと血液を飲みながらミナが適当に答える



「そのはず?」


「記憶がないんです。日本に来たばっかの時、なんか頭を強く打ったみたいで。名前とか、生活する上でのことはおぼえてるんですけど。手荷物見る限り観光かなって」


「(記憶喪失にしては精神が安定しすぎている……)ちなみにその手荷物って何だ」


「乙女の手荷物探るなんて! デリシャスの欠片もありませんよね!」


「それを言うならデリカシー、な。お前ホントに外国出身かよ? 語彙が足りなかったな、なにか変なものは混じってたりしなかったのか? たとえば不自然な片栗粉とか、バッグが2重構造になってたりとか」


「それはないから安心して。うんそうだなー……もしものときの輸血用血液くらいかな。あとは下着とか着替えとか」


「日本の四字熟語でこういうのがある。本末転倒ってな」


「え?………あぁぁ~~~~/////」




アホの子なのかコイツ




「(記憶がない、ねぇ……一時的なものか、それとも……どうしたもんか…… 面倒なことになってきやがった…)」



 胡麻ドレッシングを少したらしたサラダをかき込みながら、魁人は思案する。今はまだ証拠が足りない。もう少し様子見をせざるを得ないだろう








~~~~~~~~~~~~~~~~




「急げ、あいつらに感づかれる前に引き上げる」




暗闇の中、ひとつの人影が複数の人ではない影に指示を出している。何かが、確かに蠢いていた。









~~~~~~~~~~~~~~~~~







 時刻は9時過ぎ。辺りは闇に包まれ、街灯だけが辺りを照らしている。今夜は曇り、月の光は届かない




「とりあえず化け猫が動き出すのを待つしかあるまい。それまでパトロールだ。気休め程度だが、やらないよりましだろう」


「そんなことしてたら確実に誰かがとり憑かれてしまいすよ?!」


「ではどうしろってンだよ。化け猫はこの組織で扱われる人外でもかなり厄介な存在だ、なぜなら発生の仕方が不規則で予測できないからだ。まぁ霊圧探知と感知札をバラまいたから、現場に急行はできる」


「でも……」




 ミナが悔しそうに目を伏せる。だが、仕事というものはえてしてそういうものなのだ。割り切らねばこれから先はやっていけない。霊体なんて実体がなく、掴みどころのないものを相手にしている以上。


この仕事だからこそ余計に、だ




「たかが人の力で全部守るなんて不可能だ。だからこそ、俺たちは手の届く範囲のことは全部守る。やれることをこなすんだ、割り切れ。不条理に慣れろ、出来なければやめろ」


「……私に秘策があります! やらせてください!」



 随分と熱のこもった眼で見てくる。失敗しようが成功しようが、どれにしろ糧になるだろう。ここはやらせてみることにする






数分後


「これです!」









 そこには悪霊拘束術式を組み込まれた、動物園とかでよく見る大きな檻。そしてその檻の中には魁人がいた








「おい」


「パーフェクトゥです!」



 サムズアップするミナ。本気で殴りたい。どうしてこうなった? 画面が切り替わった瞬間気が付いたらここにいた。な、何を言ってるかry



「早く出せ。何で俺が餌なんだ」


「なんでって……見るからに病んでそうな感じですから。っていうか実際問題病んでるじゃないですか。大丈夫、私貴方のこと信じてますから! 疑似餌的な意味で!」


「ぶっ殺すぞクソッタレ覚えてろ忘れても思い出させてやる」



 結構しっかりとしたつくりなので、こじ開けることはかなわないようだ。なんでこんなに凝った造りしてるの? 相手は霊だよね?



「大丈夫です、もしとり憑かれたとしても、男の猫耳も需要ありますって」


「やかましいわ。というか無駄な予備知識身に着けてんじゃねぇよ。マジお前ら何なの? 人外の世界でもいかがわしい文化が浸透してるじゃねぇか。もうヤダこの国」













ヂリリリリリリリ!



 魁人の袖の中から化け猫が現れたことを知らせる警報が鳴り響く。辺りの街灯がブツン、ブツンと次々消えていく。現れたようだ





「ほら来た」


「マジで?!」ガガン!



 ふと、檻のすぐ隣を通り過ぎる影。外見は猫だが、どうも様子がおかしい。よくよく見れば下半身が透けている。猫は魁人のほうを見ると、ニタリと笑った


『ふしゃーーー!!』




 檻の中に飛び込んでくる化け猫。まだ実体は持っていない、幽霊状態の儚い悪霊。そんな弱い悪霊がその道のエキスパートである魁人に敵うはずもなく



「霊封結界!」



 一瞬にして構成された霊体用の小さな檻にあっさりと拘束される化け猫。魁人の術式構築から展開までのその早業。



「ふぅ。まさか……とは思ったが。こんな手口で捕まえられるとは」



 姑息だが、高速に、迅速に拘束する。猫が暴れても結界が壊れないのを確認した後、携帯電話でどこかに連絡する。おそらく報告だろう



「ジジイ、化け猫は拘束した。これより連行する」


『ご苦労じゃった。帰ったら報告書書くんじゃぞ~。その娘さんに書き方を教えてやれ』




 いつもどおりだ。こういう作戦も悪くはないのか? 支部に戻って調べる必要があるかもしれない。実用性があればこの一軒は、ミナのお手柄ということになる。疑似餌扱いされたので少々報復しなければならないが




「へいへいっと。開けろミナ。そして行くぞ」


「はいは~い………あれ?」




巫女服の袖の中をガサゴソと探るミナ。あれ? これ凄い嫌な予感がする




「今俺の中に凄まじく嫌な予感が駆け巡ってるんだが」


「え~~~~~~~~っと。鍵どこ行ったかしりません?」





オワタ。




「まぁいい、そこどいてろ。ちょいさぁぁぁぁぁぁ!!!!!」





 檻の端っこのほうまで歩を進め、深く腰を落とす。足に気を集中させ、思いっきり蹴りだす。渾身の一撃が檻の鉄格子にヒットした







バゴン!












「………………あの~?」


「………鍵探してくれ」ジンジン




開きませんでした。やっぱ人間じゃムリ




フニャーォ






「「……………は?」」




 暗闇に響く猫の声。背中に走る怖気。鳴り響く警報の音。そしてその直後、



キャーーーーーー!!!






「しまった!!」


「ウソ?!」


「「もう一匹いたのか(なんて)?!」」



悲痛な声が辺りに響いた





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