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ケース3 ミナ初めてのお仕事

皆の者、元気にして負ったか? 東次郎じゃよ。え? モブの名前など覚えておらんと? ヴぁっかもぉぉん!! 精進が足りぬわ! そこに直れェ! 説教して……って前フリの時間がぁ?!





「おう、顔見せに来たのは久しぶりだな魁人、わが孫よ」



 仕事開始数十分、魁人は建物の中心にある微妙に豪華な造りの部屋に呼び出されていた。そこには年老いた男性がちょっとだけ凝ったつくりの椅子に座って雑務をこなしていた。UM頭領、神浄 東次郎トウジロウ。彼は魁人の祖父にあたる人物である。



「あぁ。出来れば貴様の顔など死ぬまで見たくはなかったのだがな、ジジイ。報告だ。この辺りを徘徊してた悪霊は昨日全て駆逐した。だが淀みが酷くなってきてる、とっとと元から断たないと死体から湧き出るウジのごとく増え続けるぞ」



身内にすらこの態度。歪みないものである。ダメな方向で



「今調査班に探し回ってもらっておる。彼らも必死で探しているが、出所はいまだ不明じゃ。奴等やつばら、霊体は探知するのに精いっぱいなのでの。探知した瞬間には大体別の場所に逃げおおせておる。現場の者の足で探すほかないのじゃよ」


「まぁ相手が相手だししょーがねーか……」



 不意に目を伏せ、考え込むような仕草をする魁人。その表情は硬く、影を含んでいた




「……俺のせいか? 俺に惹かれて出てきてんじゃねぇだろうな」


「ホホ、文面だけならハーレムセリフじゃの」


「直火でゆっくりこんがり黒こげになるまで焼いてやろうかこの俗物が」



 冗談を交えながらも、よくわからないその問いに対して爺も考察する



「確かに主の性質が悪霊を引き寄せていると考えられんこともないが、主については主が一番よく知っておろう? それに主の力と気配は、主の感情の一部と引き換えに封じられておる」


「まぁな。だが無意識下なら? 巨大すぎる力が俺の知らない間にタレ流されてるとしたら?」


「それなら主が一番わかることじゃろうて。もっとも、垂れ流した時点で妖怪大戦争勃発は免れられんじゃろうしの」


「そうだな。この件は保留ってことか。爺、仕事無いの?」


「ホホ、そうじゃの。では……」



 一通り議論し合った後、爺は机の上の100均の引き出しをあさる。と、同じく机の上にあった、木製の女性像付の時計に異変があった。



『クケケケケケケケ!!密輸入国者ダ!! 密輸入国者ダ!! クケケケケケケ!!』



 突如としてけたたましい音で吠え出した、爺の部屋に置かれた古めかしい時計。付喪神ツクモガミというものをご存知だろうか。長い間人間に大事にされてきた道具がなるもの。だがこの時計は少し他の物とは勝手が違っていた。




「やかましいぞ! 時付喪トキツクモ!」



 ぺしりと神浄が時計を叩く。と、女性像の表情が歪み、目から水分が滲み出す



『くゲッ?! ふえぇ……っぐ……えぐっ……』


「だぁあそうだった! もう泣くな! ホラ、ナデナデ……」


『ふぇ……えへへ……』



 魁人が女性像の頭を撫でると、女性像は心地よさそうに顔を弛緩させた。



 特殊な能力というのは、この時計は人外の気配を感じ取り、警報を鳴らすという珍妙な力が、この時計には宿っているのだ。100歳は越えているのにもかかわらず、子どものように感情の起伏が物凄い激しいのが唯一の欠点だが



「詳しい情報はわかるかの? トキツクモ」


『コノ町ノ南南東……小サナオ店ノ近ク………カテゴリー吸血鬼ッポイヨ。ソノ………気ツケテネ』


「ありがと、トキツクモ。行ってきます。帰ってきたらお詫びとして磨いてやるよ」


「ホホ、仕事に人生を食い尽くされんようにの~」


『………エヘヘ…////』


「ホホ、若いってイイのぅ」




 頬に手を当て、クネクネし始めた時計を見やりながら、ジジイは呟いた







~~~~~~~~~





 UM地下倉庫。ここには局員が利用している足が置いてある。13番パーキングスペース。そこが魁人に割り振られた、彼個人の愛車の置場


 浄衣の袖の中のポケットからキーを取り出す。そして愛車である大型2輪駆動車が停めてあるところまでいき、エンジンをかける。今日も愛馬は凶暴でご機嫌なようだ




ドルルルン!! ドルルルルルン! ドルルルルルルルル……



 さぁ~て、今日も楽しいお仕事と洒落込みましょうか。ご機嫌なエンジン音を響かせて神浄と愛車は仕事場へと向かう。浄衣のバイク男が車道へと躍り出た










~~~~~~~





ドドドドドドド……カチッ


 エンジンを切り、辺りを探す。某鬼次郎みたいな髪の毛アンテナなんて便利なものはないので、自分の足で探すというアナログな手段をとっている。なにより、自分の目でしか俺は信用しないのでこっちのほうが俺にとっては都合がいいのだ。手間はかかるが





ん? あの駄菓子屋の前にいるマントきて涎垂らしながら駄菓子見てる子どもって…







「………」


「どれがほしいのかね?」



 愛想のいい駄菓子屋店主のおばあちゃんが子どもに話しかける。話しかけられるとは思っていなかったのか、ビクッと体を震わせた子ども。遠慮がちに言葉を紡ぐ



「………おかね、ない」


「ホホホ、じゃあこれをあげよう。今回はただでいいよ。今度はお母さんと一緒に来てね、坊や」



 おばあさんが愛想のいい笑顔をしながら駄菓子をひとつ、子どもに渡す。満面の笑みでヲれを受け取ろうとする子ども



「ありがと!」


「そこまでだ」



 店の老婆からでかいチョコバーをもらった瞬間に俺がそいつのマントの襟首を掴んで持ち上げる



「すみませんね、これ、料金です。ほらいくぞ、弟」


「はなせー!」


「まいどー」



 この間10秒足らず。おばあさんは変わらず愛想のいい笑顔を振りまきながら手を振っていた。代金の百円を置いて早々に俺たちは立ち去る。不法入国者はこいつか








襟首をつかんだまま魁人は人外を問いただす。職務質問だ



「よう。珍しいなショタ吸血鬼とは。これも需要か? ン?」


「お前は何だ?! 早く下ろせ! でないと泣くぞ?! いかにも誘拐されてますって感じで泣くぞ?!」


「やかましい。俺はUM職員の神浄。お前たちのような人外を監視・管理・時には駆逐する人でなしだ。不法入国の疑いでお前を事情聴取する」


「知らないな。家でゴロゴロしてたら頭から布をかぶせられて、気がついたらココにいた。ココはどこだ? 少なくとも僕の母国ではないな」



 なぜか尊大な態度で辺りを見渡す少年。明らかに不自然だが、これからそれを明らかにしていけばいい




「………そうか。ややこしそうだ、話は本部で聞こう。身元証明の必要手続きとかもあるしな。乗れ」



 そうして俺はこの妙に態度のでかいショタ吸血鬼にヘルメットを渡し、愛車の後部に乗っけて本部へと帰還した








~~~~~~~~




 ミナを連れて入った時と同じ手順でガキを本部に連れてはいる。だが先ほどと違い、転移したのは取調室っぽいところである。そして部屋に踏み入れた瞬間にショタに拘束の呪符を張り付ける。


この呪符は相手の動きを止める ものであり、貼り付けられれば心臓や瞬きなどを除いてほぼすべての動きを封じることのできる優れものだ。警官で言うところの手錠である




「な、何をする! 僕は男の子だ! 男の娘ではない! やめて!」



 なんだかよくわからない方向へ勘違いしている少年吸血鬼。一体日本はどういうイメージを持たれているのだろうか。何とも複雑な気分である



「ナニを想像したか想像もしたくないが、俺はノーマルだクソッタレ。ところでお前、最初からココが目的だったろ。少なからず、ただの迷子じゃねェな」


「な、何を言っているんだ?! わけがわからないよ……」


「某感情のない外道の真似をするんじゃない。なら何故最初から日本語を喋っていた?」


「ッ!……」


「いかにも『しまった!』って顔だな。ちなみにここにいる職員は全員化け物と素手で渡り合ったりできるやつらばかりだ。変な気を起こさないほうが身のためだな。一応聞いておこう、渡航目的は何だとっとと吐けさもないとぶっバラす」



 少年吸血鬼をじろりと睨む神浄。その圧倒的威圧感に少年は自己防衛本能から己がしようとしたことを語りだす




「……目的はここだよ。この組織を潰せば僕たち一族はこの国を支配できる。それを皮切りに世界中の化け物戦闘集団を潰していく。僕らに逆らう組織が全滅したとき、この世を混沌と暗闇の世界に変え、僕たち吸血鬼の天下が訪れる!」



 拘束された身でありながらものすごいドヤ顔である。いるんだよなぁ、こういう身の程を弁えない人外共。自信過剰というべきか。そういう輩をどうにかするためのこの組織だが



「ふぅん……貴様一人でこの組織を潰せるとでも?」


「違う。僕よりももっと強い、現時点最強の吸血鬼がこの国へ潜入している。お姉ちゃんが本気を出したらお前たちなんか丸まったティッシュのごとく屑篭に放り込んでくれるだろう!! はーっはっはっは!!」



 やっぱり外見のとおり子どもだ。涙目になりながら必死に強がっているが、ちょっと怒鳴ったら泣き出しそうな雰囲気満々である



「ほう、貴様のお姉ちゃんなのか。その最強の吸血鬼というのは」


「ッ!……」


「いかにも、『やっちまったぁぁぁぁ~!!』…って顔だな。とりあえず貴様からもう少し話を聞く必要があるな、ヴァンピール!」



 取調室の扉を開けて入ってきた容姿端麗な男。俗に言うイケメンである。腰には銀の銃剣とか、黒い銃とか銀の銃とか、いかにも吸血鬼に効きそうな装備をしている。アンデット専門の殺し屋。吸血鬼殺しのエキスパートである



「呼んだか異能者」


「あぁ、このガキの取り調べ頼む。色々とややこしいことになってるからな。その後名前等々吐かせとけ。あ、そうそう後で俺のデスクに来てくれ。お前に渡すものがあったんだ、俺特性の自家製のトマトジュース」


「おぉ!! 恩に着るぞ………ゴホン。すまない、感謝する。来い、ガキ」


「だから襟首掴んで運ぶなーーー!!」



「……お姉ちゃん、ね。どうしたもんか」





 拘束されたまま襟首を掴まれ、ズルズルと運ばれていく少年。その姿を見やりながら魁人は思案する。と、思考を遮って館内放送が響いた



『業務連絡、業務連絡。神浄さん、至急支部長室までお越しください。繰り返します……』


「……今はこっちを優先するか」







~~~~~~~~~~~~~~~~





「来てやったが、何すればいいんだ爺。書類整理で忙しいんだが」


「手厳しいのぅわが孫は。今日から新人が入る、世話をしてやりなさい」



 支部長室の後ろの扉から誰かが入ってきた。悪い意味で見覚えのある姿。魁人の嫌な予感的中一つ目。美しい金髪、赤い瞳、死んだように白く、きめ細やかな肌




「おねがいしま…あーー!」


「あぁめんどくせぇことになった」


「ちょ、ヒドいよ! せめて心の中で言ってよ!」


「………」


「露骨にイヤそうな顔しないでよ!」


「どうしろってんだよ」




 目の前にいる新人はうちに一時的に転がり込んできた居候吸血鬼、ミナだった。吸血鬼が巫女服て。和洋折衷っていうのか? 言葉の使いどころを激しく間違ってるような気がするが



「人外雇用促進法案は審議中だったんじゃねぇのかよ」


「この娘でテストするんじゃよ。受付のニンフからこの仕事のことを聞いたらしくての、仕事に対する熱意があったので採用してみた」



 大雑把極まりない。極度にめんどくさがりで省エネ主義の魁人が言えた義理ではないのかもしれないが。何事もやってみなければわからない、ならやってみようという魂胆なのだろう



「まぁいいか。新人、同僚に挨拶回りしとけ。俺はちょっと爺に話がある」


「はーい」



 とてとてと部屋から出ていくミナ。絹のように艶やかで美しい金髪が部屋から消えたとき、魁人は切り出した





「先ほど豚箱にぶち込んだショタ吸血鬼のことだ。なんだか面倒なことになってるかもしれん」


「というより、すでに面倒なことになっているのではないかの?」


「まぁな。流石クソにジジイが付いたもの、察しがいい」


「あんまりじゃ……」



 先ほど捕えた少年吸血鬼から聞き出した情報を頭領に報告する。これは早急に対策を練るべき問題だ。他国の人外による日本侵攻などは比較的日常茶飯事ではあるのだが、用心することに越したことはない



「ふむぅ……ここ最近入国したカテゴリー吸血鬼といえば」


「そういうことだ。あいつしかいない。というかカテゴリー吸血鬼自体が最近少ないからな。大体は自分の住んでる土地を守ってるし」


「じゃがあの娘と話していても、なんら邪悪な気配は感じられんかったぞ。隠し事をするようなタマではない。なにかがあったと考えるのが妥当じゃろうの」


「とりあえず俺は彼女の監視を行う。爺は対吸血鬼・および対西洋妖怪兵装の準備とかしたほうがいいな。あと入国者を規制したほうがいいかもしれない。これ以上は捌ききれん」


「元よりそのつもりで主に押し付け………なんでもないぞ? そうじゃの、掛け合っておく。それはそうと、突如転がり込んできた美人の同居人が侵略者! 果たして神浄はどう攻略していくのか?!……それなんてエロゲ? うらやまけしからん爆発しろ、なんての」



あまりにも場違いでヒドいセリフ。一瞬の沈黙


バンッ!! と思い切り魁人がデスクを叩く。衝撃で頭領のデスクの上にあった花瓶が倒れ、書類を濡らす




「黙れ!!! 枯れた爺が…何をほざく」



カッカッカッ……バン!



「引き戸を手荒く扱うでないぞ孫よ……レールからずれて開かなくなってしまうではないか」




 余計な物言いをするあたり、頭領の遺伝子がうつったのだろうか。魁人も違う意味で歪んだ言葉遣いをするあたりが



「言い過ぎたかのぅ………何もしてやれんというのは、辛いものよのぅ……ってああーー! 書類がぁぁぁぁ!!!」






~~~~~~~




 魁人が鼻息荒くデスクに戻ると、そこにはあいさつ回りを終えたミナが手持無沙汰に魁人の椅子に座って待っていた。机の上の飴を勝手に食べている



「あ、ほふぁえんははい」


「口の中のモン片づけてから喋れ。いや、飴は頬袋に入れとけ」


「今日は何をするんですか?」



 喋るたびカラコロと口の中で飴玉が転がる音を響かせながらミナは問う。仕事をなめてんのかコイツ。舐めてんのは飴だが、なんてくだらないことを思いついてしまう



「付いてこい。今しがたジジイから新しい仕事の依頼が入った」


「(ガリボリゴクン) わかりました行きましょう」


「噛み砕くんじゃねェよ、歯ァ折れんぞ」








~~~~~~~~~~~




 駐車場へと歩を進めながら今回の仕事のあらましを説明する。




「最近化け猫がこのあたりに出だしたって情報が入ってる。この辺りじゃ見かけなかったんだが……」


「化け猫ってなんです?」


「化け猫っつーのは親や周りの環境にストレスを感じてる、多感期の子どもに取憑く悪霊みたいなもんか。いろいろと始末が悪い、めんどくせぇ人外だ」


「ふぅん……」


「今回はそれをとっ捕まえてできれば豚箱にぶち込むのが仕事だ。まずはエキスパートに話を聞きにいこう。乗れ。ほら、メットだ」


「カッコいいバイクだね…ってかどこに乗るの? サイドカーとかないの?」


「バイクに二人乗りっつったらここしかねぇだろアホか死ね」



 バイクの後部をパンパン叩く魁人。そこに座れということなのだろう



「ヒドイ……この鬼! 鬼畜! 鬼畜生!」


「全部同じじゃねぇか。てかお前も鬼だろ」


「テヘペロ☆」


「一発でいいから全力で殴っていいか、歯ァ喰いしばれ人でなし」


「ちょ、返答と謝罪の時間を!!」






「(バイクに二人乗り→不安定、危ないのでガッチリ捕まるところがほしい→掴まる所は運転手の腰のみ=嫌でも密着状態になっちゃうんだけどな……気付いてんのかな)」


「あ、ケツんとこ塗装剥げかけてんじゃねェか……また修理工だすか」




 冗談交じりにじゃれ合いながら、ミナはこう思っていた。内心ドキドキしていることはミナだけの秘密だ



そうして魁人は先ほどの駄菓子屋へとバイクを走らせる。






私だ。ヴァンピールだ。おそらくこれで私の出番は最後だ。まぁいい。次回はミナ・ハーカーと神浄魁人が化け猫と対決する。楽しみにしているといい。ではな

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