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始末書




「ホホ、ついに偉業を成し遂げたか我が孫よ」


「確かに異形ではあるが。人外的な意味で」


「ツマラン! お前の話はツマラン!」


「焼き殺すぞ枯れ木爺!」



 数日後。まだ組織の施設内の傷も癒えていない支部長室で。二人の陰陽師が話し合っていた。外では人間と人外が修繕工事に励んでいる。



「孫は歴代一族の中最も鬼の影響を色濃く受けておったからのぅ……それすら抑え込んでしまうとは」


「抑え込んだワケじゃない。お互いに認め合って、そしてお互いに力を貸しあってるだけだ」


「ホホ、言い方の違いだけじゃろが。さておき孫よ。あの吸血鬼はどうしたのじゃ」


「あぁ、ここだ。こン中」



 魁人が足元の影を指さす。影にしては不自然に黒すぎる。そこから黒い鎖が飛び出し、魁人の手首に巻きつき、手錠の形に変化した



「オラ、出てきやがれ」



 ぐい、と魁人が鎖を引っ張ると、魁人と同じく手首に影の手錠をはめた吸血鬼、ミナ・ハーカーが影から引きずり出された。



「ちょ、痛い痛い引っ張りすぎ! 前もって言ってよ…」


「ホホ、孫の影の牢獄の中はどうじゃ、吸血鬼よ」


「ジジイと話す口はない」


「快適なんだそうだ」


「言ってないッ!」



 あの戦いのとき。光の槍がミナの体を貫いたときのことである。あの槍は攻撃用ではなく拘束用の捕縛術だったのである。ミナを術にて強力に縛りつけ、まばゆい光でサクリの目をごまかし、己の影の中にプラットフォームを作り上げ、そこにミナを幽閉したのだ。


 光は一瞬、それまでの間に魁人は複雑な術式を組みあげ、完成させたのだ。UMトップレベルの力は伊達ではない


 今ミナは魁人の影の中の牢獄に縛り付けられ、魁人の傍を離れられないようになっている



「気が付いたら吸血鬼ですら見えないような真っ暗闇、そうかここが地獄かと思ったよ」


「ミナと違ってお前はなんやら複雑そうだったからな、なにより証拠不十分だし生かしておいた」


「でも裁判なりなんなりせずにサクリ殺してよかったのかしら?」


「言ってなかったな、俺にはその場で裁きを下す権限持ってんだ。初めて会ったとき悪霊滅霊してたじゃないか」


「あぁなるほどね」



 と、ほったらかしにされていた東次郎が口を挟む



「ところで吸血鬼よ、お前は結局どうしたかったのだ? 今の状態と戦いの最中の状態とでは差異がありすぎる。2重人格というわけでも無さそうだしの」



 これが東次郎と魁人、そしてミナ本人も引っかかっているところだ。人外は基本的に強靭な精神力を持っている(感情が不安定な人間なら2重人格も頷けるが)

 ましてや吸血鬼などという長命で精神が安定しきっているといってもいい種族だ。魔法などの力もある程度耐性があるので魔法の類でも無さそうだ



「……自分でもよくわからないの。絶え間なく理性と使命感が前後してたような……?」



 自分で言っていることが支離滅裂なのに気付き、諦めたような、乾いた笑い声を漏らすミナ。



「……ふむ。一種の洗脳か? それとも何かの薬物……かのぅ?」


「魔法性の薬物なら特定は難しいだろうな……時間とともに魔法痕は消えちまう……ン?」



 魁人の頭に引っかかるものがあった。あれは確かファーストコンタクトのとき。少なすぎる荷物、行き場も無くさまよっていた彼女。偶然・・出会ったUM職員魁人と放浪者ミナ。



              偶然?







「なぁミナ」


「なに?」


「お前が持ってた輸血用血液ってまだあるか?」


「どうだったかな……わかんない。なぜかアレだけは大量にキャリーバッグに入っててスゴくかったし」


「…………そうか、帰ったら探すぞ。もしかしたら……」






~~~~~~~~~~~~~~~~





 時は過ぎて夕方。朝番の仕事を終え、買い物を終えて彼らは帰宅。そして自宅を捜索する。探し物はミナの持っていた輸血用血液(吸血鬼の非常食)だ




「……やはりどこにもない…」


「あれ? キャリーバッグの中にもない……」


「…………まぁいいや。今夜はいつもの場所で布団で寝ろ」


「いいの? 犯罪者を外にほっぽり出しといて」


「俺が隣で寝るんだし構わんだろう。どれにしろ影の鎖で逃げることもままならんだろうしな」







                ポクポクポク。チーン!







「なッ?! と、隣で寝るの?! アナタが?! 私の?!」


「やかましい、有無は言わさん。あ、肉と牛乳冷蔵庫に入れたっけ?」


「入れといたわよ。ってか! 待ちなさいって…」



 聞く耳を持たずとっとと夕飯の準備を始めた魁人にミナは何も言えなくなってしまった




~~~~~~~~~~~~~~~




 夜。夕食を終えてひと段落していた二人。ひと段落というが、ミナの心はひと段落どころか休まる暇はなかった



「おーい、ミナ」


「(隣同士ってコトはどういうコトなの? どういうコトなの?! そういうコトなの?! ちょ、どうなってるの私の思考回路?! 私が何であんな奴意識しなきゃいけないの?! てか意識って何?! 神様タスケテ!)」


「ミナ?」


「ふぇいッッ?!」



 頭痛の原因が平然とした顔でこちらに話してくる。コイツは何も思っていないのだろうか。自分のことを何も思っていないのは、それはそれで腹がたつ



「ビビり過ぎだろ………風呂沸いたぞ、先に入っちまえ。上がったら俺が風呂入ってる間に布団敷いといてくれ」


「えぅ、うん……」



 普段と変わらない彼の態度。自分一人で悩んで、悶えているのがバカらしくなってくる。



「(え?! 布団私が敷くの?! 布団は一組でいいのかな……って違う!! アカンアカンアカン、なにこれ! 普通二組でしょどう考えても! 恥ずかしい! 恥か死ねる! なにこのリア充みたいな……ふぉぉぉ////)」



「なにやってんだあいつ……風呂入れよ…」




 畳の上で悶え始めたミナを魁人は生暖かい目で見るしかなかった。時は過ぎて





「(悶えてて気が付いたらもう寝る時間になっていた、布団は二つだったけど……な、何を言っているか…ry)」


「ホレ、電気消すぞ。お休み」



カチカチカチ




………………………





「「(寝れるかぁぁぁ!!)」」//////


「(ダメだ魁人の息遣いが聞こえるメッチャドキドキする心臓痛い心臓痛いなにこれなにこれ?!)」


「(とっとと寝ろよミナの奴、モジモジ悶えやがって……さて、エモノが出てきてくれるといいんだが)」





コチコチコチ  ボォーーーーン



 数分後、ミナは静かに寝息を立てていた。アレだけもだえていたのにも関わらずだ。通常脳は興奮状態にあると眠りにくくなるのだが。というか人外に人の常識が当てはまるかは不明だが



「(寝たか? 予想以上に時間がかかったな、枕に吸血鬼用睡眠芳香洗剤仕込んどいてよかった。こっからが本番だ)」





~~~~~~~~~~~~~~~~~



ズリュリ


 部屋の隅で何かが動いた。輪郭が絶え間なく蠢いており、原形といったものがないかのようにうねっている。それはゆっくりとミナの口へと忍び寄る




ズルリ




「そこまでだ」



 電気が点けられると同時に人外拘束用の結界が不定形生物を拘束した



「ほう、珍しい。ブロブのほうだったか」



 結界の中に閉じ込められた赤い液体状の人外を見やりながら魁人は呟いた。サクリはミナの輸血用血液の中にブロブを紛れ込ませ、感情をコントロールしていたのだ



「魔法を込めたブロブを精製、実質支配下に置き殺意を暴走させ戦わせる、か。手の込んだことをしやがる……液体状のモンの輸入の検問、強化せにゃならんな。さて……」


「んぅ……ウヘヘ…」


「起きろミナ。仕上げだ」


「んみゅぅ……」



 口をω←こんな感じにしてまだ寝ているミナ。心地よさそうだが、起きてもらう事にする。中指を折りたたみ、筋肉のバネを使ってミナの額に一撃



「起きろというのにコラ」


「ンアッ?! なにすんのよぉ……あふぅ…」


「まぁいっか、そのまま動くなよ」



 ふいにミナの頬に手をやり、顔を引き寄せる魁人。不意を突かれかつ寝起き、体に力が入らないミナはされるがままだ。この体制はまさか



「うぇ?! ちょ、近い近い!」


「おとなしくしてやがれ、すぐ終わる」



 刹那、ミナが感じたのは己の唇になにか柔らかいものが重なっている感触だった。






「んむぅ?! ………んぅ……」




 どくん、どくんと遠い昔に忘れていた心臓の鼓動が耳元で聞こえるような気がした。


と。







 体の中に違和感を感じる。まるで……何か液体が血管の中を這いまわっているような……と、魁人が手に札を張り付け、拳を握っているのがチラリと見えた。これって…



ドッ!



 無情にもその拳の行先は、ミナの腹部だった。襲い来る軽い衝撃、体の中の違和感がひどくなる。と、食道の奥のほうから何かが上がってくる感じがする…



 その気配を察したのか、口をつけたまま魁人が大きく口を開き、何かを吸い込んだ



「モゴ……ペッ!!」


ベチャッ!



 消失した体の中の違和感、改めて辺りを見渡す。結界の中に閉じ込められた赤い液体、そして先ほど魁人が床に吐きだした同じような赤い液体。ミナの脳が答えを導き出すのに時間はかからなかった




「なにこれ?!」


「あぁ、お前の体の中に仕込まれてたブロブを吐き出させた。これでお前はもう本当に自由だ。鑑識に回せばお前がサクリに無理やり動かされていた証拠になるだろう」


「ぇあ……うん……ありが……」




 そこまでミナが口にした瞬間、先ほどまで自分たちがやった行為を思い出す




「あぁぁぁぁぁ~~~~~?!//////」


「さて寝るぞキリキリ寝るぞ明日は午後から出勤だが俺としてはサボタージュしたい気分なんださてジジイに電話入れてくる」


「か、かかかいとさん?! 貴方今自分が何やったか…」


「もう寝ろ、あと4時間で日が昇るぞ」




 そそくさと枕を持って部屋を出ていく魁人。だがミナには見えていた、彼が耳まで赤くなっているのを








20XX年発生  吸血鬼日本侵攻事件



容疑者  吸血鬼 ミナ・ロリエス・ハーカー  

吸血鬼大公  サクリ・ラルベルグ・ハーカー

吸血鬼    ルーク・ガチベーア・ハーカー



 容疑者 ミナ・ハーカー   


人外界で最も恐れられている神浄 魁人を監視、暗殺を受け取って日本に渡航。容疑者サクリによって精神操作のブロブを体内に仕込まれていた模様。のちに鑑識によって証明される。 


主な罪状 公務執行妨害等




 容疑者  サクリ・ハーカー  


事の元凶。今回の事件を起こした犯人であり、ミナ・ハーカーやアジ・ダハーカ容疑者等とともに日本を攻撃する。暴動はUMらによって鎮圧、魁人によって死刑が執行され没する




 容疑者  ルーク・ハーカー  


サクリ容疑者にそそのかされ組織内に潜り込み、監視カメラの位置や重要データ等を手下のコウモリ等を使って探らせていた模様。組織内のシステムダウンに関わり、自身も組織を蹂躙しようと奮戦するもヴァンピールにげんこつで沈められる



主な罪状  公務執行妨害等








 この世には人知では測れない不可思議なことがたくさんある。金縛り、ポルターガイスト、心霊現象等々。それは昔はもっと身近にあったはずのものだったが、時代の流れとともに最も遠いものになってしまったのかもしれない。




「さぁ~て、今日もお仕事お仕事ッと」



 だが彼らは違う。混乱を防ぐため闇の中、粛々とスマートに動き続ける生きた都市伝説たち


人外統括組織、『UM』



 今日もどこかで組織の一員と、外国人外のコンビなどが動いているのだろう。夜中、窓が急にガタガタなったり、知らないうちにモノが壊れていたりするのは彼らのせいかもしれない





「おうジジイ、朝から呼び出しとはどういうことだ」


「あぁわが孫よ。先ほど気になる情報が入っての。祓魔師の一派、覚えておるか?」


「……あぁ、イヤでも覚えてるよ」


「あやつが帰ってきおったらしい。しかも狙いは…」



魁人はこれから起こるであろう面倒事を思い、盛大にため息をついた



「吸血鬼王族第一子、ミナ・ハーカー。今おぬしが影の中に捕えておる女その人じゃ」






はい、終わりました。長かったー(棒)


次回作っぽい伏線してますが、次回作は不明ですww

長々とお付き合いいただきありがとうございました

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