別冊ファイル 夜空に咲くはウタカタ花火
お知らせ
魁人の衣装・弐、参が追加されました!(浄衣+ジンベエ(落書きつき))
ミナの衣装・弐が追加されました!(藍色の花柄浴衣)
人外祭り当日
「ということでいつもの神社に来たわけですけど、誰もいませんよ?」
「おいおい何勘違いしてやがんだ。お前ら人外の夏祭りだぞ? 下手に鬼火とか出そうものなら新聞沙汰だ。
だから祭り自体は丑三つ時以降、今来たのは不可視の結界張る準備のためだ。壮観だぞ?人外共がこの神社に一堂に集まって騒ぐんだ、それこそお祭り騒ぎだ」
「そのまんまですね」
「そのままだ」イソイソ
胸の前で複雑な印を切りながら魁人は片手間に答えた。
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草木も眠る丑三つ時、この町一番大きな神社は奇妙な静けさを保っていた。だが鳥居を越えるとそこは騒々しい祭囃子の音が響き渡る、人外の夏祭りが始まっていた
ピーヒョロヒュルリラー
新しく買った浴衣を着込み、手に鬼火の提灯を持ったミナは目をキラキラさせていた。隣には同じ提灯を持った魁人。落ち着いた青を基調とした浴衣に身を包み、わずかに口角を上げている
「はわわー…」キラキラ
「(めっちゃキラキラしてる) さて、まずはどこから廻るか」
騒がしい境内を見回していると不意に隣から低音が響いた
グギュゥ~
「……まずは夜食だな。健康上あまり褒められたことではないが、今日は無礼講だ」
「私元々夜行性ですけど」
「すいません、たこ焼き一つ」
『300円になります』
蛸のような頭にコウモリのような翼をつけた人外が魁人にたこ焼きを渡す。10個入りで300円はかなり安い。
しかも大玉、外はカリカリ中はトロトロでかなりクオリティが高い。余談だがその人外は、どこかで伝説の傭兵として名を轟かせた蛇の声に似ていた
「スルーですかそうですか、後私の分残しといてくださいよ」
「お前には輸血用血液の弁当だ」
「でも食べます」
「吸血鬼としての設定はどこいった」
今夜だけは無礼講。あらゆる人でなしが笑いあい、騒ぎ、楽しんでいるのだから。二人は夜店を見て回る。ごった返すほどでないにしろ結構人外影は多い。ミナは魁人の浴衣の袖を指先でつまんで行動していた。
「へ、別に魁人さんが迷子にならないように私が見張ってるだけなんだからっ!」
「なに言ってんだお前」
「な、なんでもありません! あ、魁人さん、金魚すくいですよ金魚すくい! 名ばかりで泳いでるのは魚人ですけど!」
やたらでかいビニールプールの中で魚顔の人外やシービショップなどの魚人外がビチビチ跳ね回っている。1回500円、「魚人救い」。確かに救うので間違っちゃいないのかもしれないが
「とっとと店片付けろ、水しぶきが迷惑すぎる。早くしないと三枚に下ろすぞ」
『ギョギョッ?!』
余談だが、魚人の声は魚の帽子をかぶった人の声に似ていたような。「~クン」ではない、「~さん」をつけろ!
シービショップ 出展・ゲスナーの動物誌
いわゆる魚人。どちらかといえば魚に近い姿である事が多い。足はあるが歩けない。足なんて飾り。大きさは人間大から大型船まで幅広く取り揃えております
「魁人さん魁人さん、あっちにから揚げの店がありますよ! …『特性マンドレイクのから揚げ、今夜はビンビn…~~~~~ッ////」
『…………(よく来たなぁ、お客さまぁぁ!!)』
「「(こいつ、直接脳内に?!)」」
かぴかぴのミイラの姿をした不死身の魔法使い、リッチが神社の敷地内を盛大に畑として掘り起こし、人型の植物を犬を使って引き抜かせている。
「なんつーモン出そうとしてんだ。あとせっかく耕してるとこ悪いが、そこはウチの組織の私有地だ。罰金」
『…………(オ・ノーォォォォォォォレェェェェェ!!)』
「「うるせぇぇぇぇ!! 脳内に直接シャウトしてくんな!!」」
マンドラゴラ 主な出典 「プリニウスの博物記」
根茎が人の姿のような形をした植物。引き抜くと悲鳴を上げ、その悲鳴は人を殺す。その根は万能薬になり、不老不死の薬の材料となる……らしい。某ガキ大将以上のデスボイス使い
リッチ 主な出典 「ダンジョン&ドラゴンズ」
自らの体をミイラにし、自ら死に底ない(アンデッド)となった魔法使いの成れの果て。死ぬことはないので、永遠に魔法の研究を続けているガリ勉。最近の悩みは乾燥肌と唇のアカギレ
小一時間後。少々疲れた様子の魁人と、買い食いした何かを食べているミナとウズメがいた
「とまぁ小一時間で補導が数十件あったわけで、ほぼ俺は平常運転だったわけだが。無礼講もほどほどにして欲しい」
「アルラウネのから揚げも意外と美味しいのね」モフモフ
アルラウネ 主な出典 「ドイツ民間伝承」
マンドレイクの一種で、こちらは薬効などではなく予言などをすることで所有者に益を与えるとされている。その為にはいろいろと世話をしなければならない。めんどくさい
「あ、レモンいる?」モフモフ つレモン
「ごめん、私すだち派なの」
「珍しいわね……試してみようかな」
「いつの間にかウズメも合流していた、な、何を言っているか分かると思うのでこのネタは打ち止めだ。まぁ楽しめているようなんで良しとする。もうメンドクサイ」
大体魁人が言ってしまったが、現在魁人、ミナ、ウズメの3人でお祭りを回っていた。ウズメはどこからか取り出したレモンを自分のから揚げにかけてから揚げをほお張り、ミナは同じくどこからか取り出したスダチをかけてから揚げを租借している。
魁人はというとどこからかかってきたリヴァイヤサン焼きという巨大なたい焼きのようなものを味わっていた。少々無作法かも知れないが。今日だけ無礼講ってことにしておいてほしいものだ
ヒュ~~~~~~~~~~~~~~ ドッバァァァァァァァン!!
不意に、空に凄まじい破裂音が響いた。花火だ。美しい火花が夜空を照らし、散って消えていく。魁人曰く、人外にしか見えないしこの音も人外にしか聞こえない都合のいい花火だそうだ。実際は霊力を爆発させてるとか何とか
赤、黄、緑、多彩なパターンで夜空を彩る花火。ふと、ミナは魁人のほうを見る。これまで見たこともない微笑を浮かべた魁人が嬉しそうに空を眺めていた。子どものようにあどけなくて、でもどこか寂しそうで。ウズメも魁人の顔を見入っている。
「魁人、こっち!」
「んん? んおぉ…」
ミナ、ウズメの二人にちょっとだけ距離を置くようにして立っていた魁人さんの手を引っ張って、二人の間に座らせる。両手に花だよ、もうちょっと嬉しそうにしたほうがいいんじゃないか? 次々爆ぜては消えていく花火を眺めながら魁人は少し寂しそうに呟いた
「…………夏も終わり、新たな季節がやってくる、か」
「寂しいんですか?」
「いや、涼しくなったらなったで雪女とか氷を司る人外が活発になるだろうさ。退屈なんてこの仕事じゃ無縁なんだよ。こうやってボーっとしてるとさ、お前らとただ一緒にいるだけの時間ってのも悪くないなーってな」
「(ミナちゃん、これ……)」
「(えぇ、間違いないわ。デレよ)」
「(こいつら、直接脳内で会話してやがる……)お、もうスパートだな」
夜空を真昼のように明るくするほどの花火が上がる。3人は声をそろえて決まり文句を叫んだ
「「「たーまやー!」」」
夜空に一際大きな花火が上がった