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ケース1 ファーストコンタクト

 さて、新作です。今度は人外、つまりは妖怪とか霊とかそんなんです。ホラー? なにそれ美味しいの?


名前長いね。「アンミソ」とでも覚えていただければ。餡味噌ってマズそうな響きだけどね。ではどうぞ

「はぁっ、はぁっ、なんなのよ?!」


 静かな夜だった。辺りを照らすは月明かりのみ、時刻は草木も眠る丑三つ時。時間帯にそぐわない少女が夜道を全力疾走していた



 後ろから迫り来る得体の知れない物体から逃げている。いや、物体と言えるのかどうかすら怪しい。壁を透過して来たり、宙に浮きながら気味の悪い笑い声を上げて、そいつは私を追ってきている。


どうせ捕まったら碌な事にならないだろう。直感的にわかる。


 誰か……来るはずもない助けを乞う。少女は自嘲気味に思った。助けが来るなんて絶望的だが。と、足がもつれて転んでしまった。思い切り体を地面に打ち付けてしまい、肺から空気が抜け、手などを大きくすりむいてしまった。絶望的だった。







「爆導符」


 虚空から飛んできた長方形の紙の札が得体の知れないものに張り付き、次の瞬間爆発した。得体の知れないそれは苦しみもがき、退散しようと空中へ離脱しようとした。



「逃げるな悪霊風情が」



 金色の杖のようなものが、しゃらん、と小気味のいい音と共にそれを切り裂く。形(?)を保てなくなったそれは空中に雲散するように消えた。少女はあっけにとられてその光景を見ていた。じゃり、と人影が履いている履物が地面を撫でる



「これで通算3匹目、滅霊完了。淀みが酷くなってきてやがる」



 先ほど振るった一対の金色の杖のようなものを背中にマウントする。現れたのは奇妙な服に身を包んだ青年だった。背は高く、落ち着いた雰囲気。明るい茶髪が街灯に照らされた。



「あ、あの…」


「………貴様は?……先ほどコイツに追いかけられていたヤツか。もう夜も更けた、ヤツももういない。失せろ」



 氷水に肩まで浸されたが如く冷たい態度。こちらを見る視線もそれと同様に永久凍土を思わせるほどに冷たい視線だった。流石にイラッときたが、お礼は言わないといけない



「助けていただいてありがとうございます」



 青年が興味深そうにこっちを見ている。よくある顎に手を当て、少し首をかしげているあの格好だ



「この感じ………惹き寄せられやすいのか…?」


「な、なにを…」


 謎の言葉を言うが早いが彼は私の頭を撫でる。冷たい態度とは裏腹にとても暖かい手が少女の頭頂部をくすぐる様に撫ぜた。悔しいが、心地よい感覚だった。懐かしい、暖かい感覚



「………冷たい…まるで死人のようだ。冷え性ではここまでこないだろう。………それにほのかに漂う異国の妖力……貴様……」



これが奇妙な少女と奇妙な青年のファーストコンタクトである



「何者だ?」


「私は吸血鬼。吸血鬼 ミナ・ロリエス・ハーカー」






~~~~~~~~~~~~~~




「吸血鬼……確か、死にぞこない、不死者ノスフェラトゥ夜族ミディアン、生きた屍。それが何でこの町にいる? 渡航目的は何だ? 餌場探しか? それにしても日本語上手いな」


 顔の半分は覆おうかという大きな眼帯で左目を隠した青年は言う。心底面倒くさそうな態度を隠そうともしていない。とんでもなく失礼である



「いえ、観光です。観光のために頑張って勉強したんだよ」


「そうか。ならいい。ほな、さいなら」



なにこれヒドイ。



「ちょっと、私が名乗ったんだから貴方も名乗ってよ! なんかアレなんでしょ、普通じゃないんでしょ?! さっきのなんかよくわからないもの退治したんだし」


「あー…………………まぁ」



モノスッゴイ嫌そうな顔で頭を掻く青年。もうなんか出会って数分で心が折れそうになる



「俺は神浄かみじょう。神浄 破魔宮ハマノミヤ 魁人カイト。人外統括機関にてイロイロモソモソやってる陰陽師だ」


「ふーん……なにそれ、陰陽師って」


「詳しくはネットとかでカチカチすればいい。んじゃ俺は帰る」


「ち、ちょっと待ちなさいよ!」


「うるさいなぁ、日本は時間外労働にうるさいんだよ……」



 ヒドい。そそくさとその場を立ち去ろうとする男。だが吸血鬼ミナにとっては青天の霹靂、なぜなら彼女には彼を必要とせざるを得ない状況にあったからだ



「待って!」



 彼の奇妙な服の袖をつかむ。俯き気味、目を少しウルウルさせ、上目遣いで彼を見やる。大体の男はこれでイチコロとか聞いたので早速実践する。屈辱的だが、人気のない夜中に彼が現れたのは渡りに船だったのは間違いない





「………迷いました…」


「……そうか。警察署はここから一直線に100メートル進んでそれを右にグイッと回った所のL字カーブをS時に曲がりぐわぁーっと左に行ったところの公園を突っ切って…」



 勝手に説明しだした神浄。なんだかよくわからない抽象的な説明を遮る。正直全く分からない。非常に滑稽なボディランゲージも相まって、正直変質者にも見える



「違う!」


「なにが?」


「……実は私、帰るとこないんです………お金も、落としちゃって……」



青年は無慈悲に言葉を紡ぐ



「随分と不用心だな。だがそういうのはマッポの仕事だろう、俺の管轄ではない。まぁいい、ならばこれをくれてやる。絶対隠密スニーキングアイテム、ダンボールだ。これを活用すれば悪漢にも気付かれずにかつ夜の寒さも緩和できさらにこれで空腹まで満たせ」



 危ないセリフを遮る。それは人としても人外としてもどうなのだ



「だから!!」


「もうなんだよ。人の話の腰は折っちゃいけないもんだ」


「……あなたの家に泊めてください」



 なぜだろうか、自分でもわからないうちに口走っていた。だがこの場では一応最善の選択だったと思う。帰ってきた返答は




らば、死ね。市ねじゃなくて死ね。童貞のまま死ぬセミのごとく死ね、処女のまま死ぬミノムシのごとく儚く無残に死ね」



 まさに外道。この一言に尽きる



「ひどい……いくら人外とはいえ女の子を放って置くなんて……無一文だよ私……てかさ!! 吸血鬼とはいえ女の子だよ私!! 何その態度?! この鬼! 鬼畜! 鬼畜生!」



「ヒスるな、みっともない。まぁあながち間違ってはいないんだが。俺に貴様を助ける道理などない、どうせそのうち同僚が来るだろう。さらに言えば俺は貴様のような人に仇名すものを駆逐する立場だ。見逃してやってる分だけありがたいと思え」


「めんどくさがってるだけじゃん!! ぐぬぬ……ならば最終手段……」


 目を瞑り、精神を集中して自分の中にある力を呼び覚ます。吸血鬼が持つ異能の力、相手の精神を思うがままに操る術



「チャーム!」


「なにしや……が…………る」



 ミナの目から飛び出したキラキラした星が魁人の目に飛び込む。魁人の目の虹彩が消え、急に脱力する。魁人の精神はミナの管理下に置かれた



「……………ゴヨウハナンデショウ、ゴシュジンサマ」


「私をあなたの家に泊めてくれる?」


「カシコマリマシタ、ゴシュジンサマ」


「ちょろい♪」





はずだった



「……とでも俺が言えば満足か? 吸血鬼ミナ・ハーカー。俺は今俺の意思でここに立っているぞ」


「え?」


「ん?」






「なんで?! 何で効かないの?!」


「何でって……まぁいいじゃん面倒くさい」


「なにそれこわい」


「そういうことだ、じゃ」



 踵を返しそそくさと立ち去ろうとする魁人。こうなればヤケだ



「こうなったら……泣くぞ?! 私泣くぞ?! さもヤバいコトされてますって感じの声で泣くぞ?! マッポのお世話になりたくなければ私を泊めろ!」


「………ハァ」



 魁人は思った、これから非常に面倒くさいことこの上ないことが立て続けに起こりそうな気がすると。良くも悪くも彼の予感は当たってしまうのが皮肉な話だ




さて、1話目です。ドSですね、魁人君は。ミナちゃんの胃に穴が開かないことを祈りましょうか

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