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プロローグ

新作ラッシュでごめんなさい。

のんびり更新をモットーに平行で書いていきますので、気が短い方にはオススメしません。

 剣と魔法と異能の世界ゼルジスト。


 唯一神が創造したと言われるその世界は、肥沃な大地と恵み豊かな大自然で溢れる冒険の世界である。


 数千年の時を経て文明が栄え、大陸に様々な思想を掲げる国家が建国されていく横では、魔獣や死霊といった人に害を与える種も増えていく。


 多種多様な幻想が蔓延る争いの絶えない世界でもあった。



 伝承曰く――

 世界の創造と同時に、唯一神はその御身を十二の存在に分離させたと云う。



 ――その十二の存在とは始祖。



 始祖は自らの属性を持つ種族を生み出し、未来永劫それら子孫を見守り続けると囁かれている。



 竜皇帝バハムート、大海の覇者リヴァイアサン、魔獣の主フェンリル、不死の王リッチなど、始祖と呼ばれる存在は伝説の中でのみ崇められ、信仰されていた。



 強大な力を持ち、世界の均衡を保つと言われる始祖。



 その中でも最大の謎に包まれた"癒し"を司る者、最も小さく最も数の多い種族を統べる黄金の女帝。



 その始祖の一柱は、蜂の姿だったと云う……



◆◇◆◇◆◇


「どうにかなりませんか?」

「……そんなものがあれば、とっくに実行している」


 魔法王国アルシュレイム。


 大陸の南に位置する最も歴史のある伝統的な王国である。

 この国は『魔法王国』と呼ばれる程、他国と比べて魔法技術が進んでおり、小国ながらも少数精鋭の強国として名を馳せていた。


 王宮に隣接するように造られた後宮の一室で、二人の男女が言い争っていた。

 両者とも並々ならぬ佇まいをしており、独特の威厳と品格が漂っている。


 男性は己を律することに全力を注いでおり、湧き上がる感情を殺し冷静に努めていた。

 それに対して、女性の方は一向に踏ん切りがつかずに、何とか事態を好転させようと、落ち着きなく歩き回っている。

 女性の腕の中には小さな赤子がおり、汚れ一つない上等な衣にくるまれて無邪気に眠っていた。

 震動を与えないように配慮された女性の動きからは、赤ん坊をいかに大事にしているかが窺われる。


 男性は女性と同様に優しい瞳を浮かべており、その目の輝き具合いから苦悩が滲み出ていた。

 それでも尚、男性は女性を諭すように慎重に持論を並べていく。


「魔法の才能が低いだけならば何とか言い訳も立つだろう。しかし、全く才能が無いとなれば話は別だ」

「しかし、陛下……」

「ここは"魔法王国"なのだ。分かってくれ、王妃よ」

「……うぅ……」


 予想していた結末に、王妃と呼ばれた女性は言葉に詰まり、悲しげに俯向いた。

 連動するように男性――国王陛下が王妃の肩を抱き寄せ、慰めるように髪にくちづけを施す。


 二人の心情を代弁するかのような沈黙。

 その空間に終わりを告げるかのように、扉から遠慮がちなノック音が二度響き渡った。


 途端に国王の表情が引き締まり、強い口調で扉の先の人物を招き入れた。


「入れ」

「失礼致します」


 頭を下げて入ってきたのはメイド姿の女性。続いて騎士の格好をした妙齢の男性が入ってきた。

 女性の流れるような礼儀作法に比べて、男性の動きは油断のない守護者のものであり、鍛え上げられた戦士の振る舞いを感じる。


 メイドは国王夫妻に近づくと、恭しく次の予定を促した。


「国王陛下、そろそろお時間で御座います」

「――!」

「ああ、分かっている」


 淡白な言動の国王に対して、王妃は絶望的な面持ちで視線を上げた。

 普段国民から羨望の眼差しを受ける美貌も、今は死人のように蒼白な様相をしていた。


 国王はあくまで静かに、メイドの後ろの騎士に声を掛ける。


「今回の損な役目を引き受けてくれて感謝する」

「ハッ、第一魔法騎士団の副団長の名に掛けて無事お送りして参ります」

「本来であれば秘密裏に誰かに託すべきなのだが、先見の魔女の予言だ。俺もあんな森に置いてくるなど反対なのだが……」


 苦い顔付きで国王は言葉尻を濁した。

 余りの残酷な現実に若い騎士は、国王を支えるかのように正論を述べ始める。


「それでもこの国で魔法が使えないよりはマシでしょう」

「……こんなことなら他国と仲良くしておくべきだったのかもしれんな」

「僭越ながら、我が国の魔法技術を広めることは侵略を許すのと同じです。歴代陛下のご決断は最良の選択と存じます」

「……そうだな。先見の魔女を信じよう。この選択が娘にとって最高の幸せに繋がると、な……」


 最高の幸せ――赤子の未来に最も重要な意味合いを持つ言葉を聞いて、その場にいた皆の決意が定まった。

 暗い顔をしていた王妃も胸を張り、最後のワガママを言い放つ。


「わたくしも付いていきます」

「しかし王妃様……」

「良い!」

「……道中は危険です。私の指示に従って行動してください」

「ええ、分かったわ」


 話し合いの結果、騎士と王妃、そして赤ん坊の旅が決定した。

 一同は森へと向かう。



◆◇◆◇◆◇


 八の月に出発して三廻り後――十一の月の下弦の旬、アルシュレイムから遠く離れた辺境の地に一団はいた。


 王妃と赤子に加えて、副団長を筆頭にした第一魔法騎士団の面々が数人、護衛として付き添っていた。

 一行は長い旅の道のりを表すかのように、汚れと日焼けが目立ち、打ち払ってきた盗賊との死闘を思わせる傷跡をその身に残している。

 無論王妃に被害はなく、共に行動する面子の優秀さを物語っていた。


 皆は過酷な旅路の目的地、魔獣溢れる「秘境の森」と呼ばれる禁止区域の入り口に立っている。


「ここは今の季節でも暖かいのね」

「王妃様、残念ですがここまでです。これより先へは行けません」


 森に誘われるように近づく王妃に、副団長が注意を促す。

 赤子の将来を一足先に体感したのか、望郷の念を込めたような面持ちで、王妃は森を見上げていた。


「どうか、この子をお願い致します。どうか、健やかに元気に……それだけで良いのです」


 穏やかに眠る我が子を愛しげに見つめながら、宝物を扱うかのように、木陰にそっと手を下ろす。

 今だ何も知らずに夢を見ているのだろうか。

 この子の先に待つのは、あっけない"死"なのか、それとも奇跡の"生"なのか。


 何もしてやれなかった我が娘。

 成長すれば自分と夫に似た、笑顔の似合うお転婆娘にでもなっただろう。


 儚げな笑みを浮かべながら自責の念にかられて、王妃は最後にポツリと呟く。


「ごめんね、リリアナ……」


 その染み入るような感情を残して、王妃一行は去っていった。


 静寂が返った森にやって来るのは複数の獣が交じった遠吠えのみ。

 この近辺に人の気配はない。


 生まれてまもなく捨てられた、哀れな王女リリアナ。

 その赤子の周りには色とりどりの蜂達が舞っていた。


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