《500文字小説》飛火の祭
私の家の隣には、古い小さな社がある。幼い頃、そこにある石像の狐に「草太」と名をつけて遊び相手にしていた。
あの日も一人で遊んでいると、晴天なのに突然激しい雨が降り出した。濡れる事も構わずに空を見上げていると、どこからか大きな御輿を担いだ行列が現れた。白い作務衣に白い足袋、そして狐の面をつけた人々が鳥居を抜け、本殿の中へと消えていく。私は怖いとも思わずに、後について行った。
そこは深い森で、しかも夜だった。御輿を中心に沢山の飛火が揺れる中、狐の面の人々が楽しそうに踊っている。その時、不意に手を捕まれた。
同い年くらいの男の子が面を外して、私を見つめると、突然走り出した。その強い力に声を上げる間もなく、森を抜けるとそこはいつもの社だった。
「あそこは命のある人は来ちゃダメなんだ」
振り返ると、その子の姿は消えていた。
明日、私は入院をする。両親は何も言わないが、この場所もこれが見納めだろう。
その時、晴れているのに小雨がパラパラと降り出した。その雨の中、狐の面、白い作務衣の少年が立っていた。
「……草太?」
彼は面を外し、にっこりと笑って手を伸ばす。
「行こう」
その声に引かれるように、私は彼の手を取った。