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見習い従者とメイドくん  作者: arty
第1話:ガーデンパラソルとメイドくん
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1-5. ガーデンパラソル2

 空は高く青い。

 絶好のピクニック日和だった。

 なだらかな若草色の丘を、縫うようにして茶色い馬車道が続いている。

 その先には小さく、ヘイウッド邸の青い屋根が見えた。

 コリン達が居るのは道から少し外れた場所で、芝草も最近刈り込まれたばかりのようだ。


 ガーデンパラソルの下には小さなテーブルが置かれ、紅茶セットが用意されている。

 ランチバスケットは既に空っぽだ。

 キッチンメイド力作のランチメニューは、すっかりコリン達の胃袋に収まっていた。


 荷物運びのコリンは、撤収作業まで特に仕事もない。

 芝生に敷かれたシートに腰掛けて、ぼんやりヘイウッド家の広大な草地を眺めていた。

 美味しいランチで小腹も満たされ、まったりした時間の流れが眠気を誘う。


「平和だねえ。昼寝とかしたら気持ち良いだろうなあ」


「あは。設営お疲れ様だったのデス。膝枕ぐらいなら、するデスよ?」


 欠伸を噛み殺したコリンに、隣のシャルロがにっこり微笑む。

 天使のように柔らかな笑顔。

 ただ、その誘惑に乗るには勇気が必要だった。

 同じシートに座っているメイド長が、殺意の籠もった目で睨んでくる。


「シャルロちゃんに破廉恥なことしたら、あたしが許さないからね。昼寝どころか永眠させてあげるわ」


「ひいっ! まだ何もしてないじゃん!」


「ふん、どうかしらね。あたしが目を光らせていなかったら、危ないところだったわ」


 どうしてこのメイド長が、メイド職などという平和的な職業に就いているのか謎すぎる。

 フローマス騎士団は彼女をさっさとスカウトするべきだ。


「それより試合経過はどうかな」


 メイド長の意識を逸らすため、わざとらしくコリンは首を巡らせた。

 バトミントンの簡易コートは、即席にしては上手く作れたと思う。

 公式ルールは良く知らないのでサイズなどは適当だが、お遊びには十分だ。


 そのコートでは、シェリー嬢とジュニアスタッフ達によるトーナメント戦が開始していた。

 是非、健康的に身体を動かして、シェリー嬢には欲求不満を解消していただきたい。


 ドォンと、とんでもない音がコートから響いた。


「待った待った! 反則よ、それ!」


 バトミントンを構えた妹メイドが、大慌てで抗議する。

 その足下の至近距離では、芝生が抉れてぶすぶすと煙を上げていた。


「え~、何で~?」


「明らかに自然法則を無視してるじゃん! 軽い運動が目的なんだから、おかしな力を使うのは駄目!」


「そんなこと言われても~、体力勝負じゃ勝てないし~」


 クレームに不満そうな顔をする対戦相手は、おっとりとした雰囲気の猫好きメイドだ。

 餌付けされている猫達が、ギャラリーとしてコートの周りに集まっている。


「こんなサーブ打たれたら、返そうとしてもラケットに穴が開いちゃうって! 試合続行そのものが危ういよ!」


「ふむ、そうだな」


 審判役をしているシェリー嬢が思案した。

 厳密なルールは取り決めていなかったが、試合にならなくては意味がない。


「不思議な力は反則ということにしておくか。よし、サーブ権の交代だ」


「ええ~、納得いかない~」


 シェリー嬢の決定に、異議を唱える猫メイド。

 それはそうだろう。

 彼女にとって力の封印は、負けろと言われているようなものだ。

 妹メイドが裏取引を申し出た。


「そんなにヘソ曲げないで。後で、シャルロちゃんの靴下を一枚あげるから」


「本当? それなら分かった~。約束だよ~?」


「わたしの靴下を、勝手に取引材料にしないでほしいのデスよっ? というか、靴下なんて何に使うのデスかっ?」


 ギャラリー席からシャルロが抗議するが、女の子達には届かない。

 その後の試合展開は一方的だった。

 妹メイドも多少の手加減はしているようだが、運動音痴な猫メイドはそれでも付いていけない。

 あっさりと先制点を取られてしまう。


「うう~、だから体力勝負は嫌なのに~」


「ごめんねー。でもルールはルールだから。ほら脱いで脱いで」


 妹メイドに催促され、猫メイドが靴と靴下を脱ぎ捨てる。

 あまりにも自然な流れだったので、一瞬、何が起きているのか理解できない。


「何で脱いでるデスかーーーーッ?」


 驚いたのは、次試合から参加予定のシャルロだ。

 策略の気配を感じ取ったらしい。


「だってこれ、脱衣バトミントンでしょ~?」


「その通りだ。何か賭けないと盛り上がらないからな」


「わたしは聞いてないのデスよッ? そんなルール、断固反対なのデス!」


 トーナメント参加者は、シェリー嬢、シャルロ、妹メイド、猫メイドの四人。

 保護者役のメイド長とコリンは不参加だ。

 どうやらシャルロ以外の三人は、既に結託しているらしい。


「シャルロ、もう試合は始まってしまったのだ。今さら無粋なことを言うんじゃない。それに、シャルロが勝てば問題ないだろう?」


「うう、道理でシェリー嬢様達がノリノリだった訳なのデスよ」


 三対一では、これ以上ゴネても無駄だと判断したのだろう。

 開き直ったように、シャルロが宣戦布告する。


「分かったのデス! でもそうとなれば、わたしも本気なのデスよ! シェリー嬢様を、ぎゃふんと言わせてあげるのデス!」


「ふふ、そうこなくてはな!」


 第一試合が進行する。

 遊びなのだから、お互いが楽しめないと意味がない。

 妹メイドは少しでもラリーが続くように配慮しているようだ。

 それでも猫メイドは、とんでもない方向に打ち返して自滅する。


 メイドキャップとエプロンも外してしまった猫メイド。

 次のワンピースを脱いだら、いよいよ下着姿になってしまう。

 試合経過を固唾を飲んで見守るコリンに、メイド長が肩を叩いてきた。


「コリン、ちょっといい?」


「後にしてくれない? 今、すごく大事なところなんだよ」


「は? あたしに逆らうの?」


 ギリギリと肩を掴んでくる力が強くなり、肩の骨が砕かれるかと思った。

 仕方なく振り向いたコリンの両目に、メイド長のV字に構えた指先が迫る。


「うおおおおーーーーッ!」


 ぐりんと顔面を回転させて、間一髪で避けるコリン。

 数瞬でも反応が遅れていれば危なかった。

 メイド長が舌打ちする。


「ち! 意外と反応いいわね!」


「危ないな! 失明したらどうするんだ!」


 座ったままでは行動が制限されて、形勢不利だ。

 転がるように距離を取ると、その勢いのまま立ち上がる。

 帯剣していないのが心許ない。

 対峙するメイド長もゆらりと起き上がった。


「この屋敷の可愛いお子様達はね、あたしの所有物なの。許可なくいやらしい目で、見ないでくれる?」


「ひどい理屈だ!」


「ほら、動かないでよ。目ん玉がくり抜けないじゃない」


「怖い怖い怖い! どんだけ猟奇的なんだよ!」


 結局のところコリンは、リボンで目をぐるぐる巻きにされることになった。

 心だ、心の目で見るのだ。

 念じてみるが、もちろん目を閉じたまま光学情報を取得するような能力はない。

 生殺しだった。


 下着姿に剥かれて、猫メイドがギブアップする。

 柔らかそうな体つきは、子供達の中では最も発育が良い。

 青空の下、半裸の少女という非日常的なシチュエーションは刺激的だ。


 メイド長も大興奮。

 シャルロなどは顔を真っ赤にさせて、そっぽを向いたままになっている。


 第一試合の勝者は妹メイド。

 続いて第二試合。

 入れ替わるように、シェリー嬢とシャルロがコートに立つ。

 コイントスの結果、先攻はシャルロ。

 シェリー嬢がシャルロにラケットを突き付けた。


「さあ、来いシャルロ!」


「行くのデス! 手加減はしてあげないのデスよ!」


 シャルロの放ったサーブが、コートの端で跳ねる。

 全く反応の出来ないシェリー嬢。

 これでもシャルロは、かなり運動能力が高い。

 屋敷に引き籠もりがちなシェリー嬢では、万に一つも勝ち目はなかった。


「このまま一気に決めるのデスよ!」


 脱衣が賭かっているだけあって、シャルロの本気度は充分だ。

 シェリー嬢は羽根付きボールを拾い上げると、シャルロに投げ返した。

 先制されたというのに、シェリー嬢は勝ち誇ったような顔をしている。


「さて、どこから脱ぐ? シャルロが決めてくれ」


「え?」


「いやあ、負けてしまったからな! とっても恥ずかしいが、ルールだから仕方ない! ほら早く、私を脱がすといい!」


 生き生きとして、凄く嬉しそうだ。


「シャルロは、靴下は最後まで残しておくタイプか? ノーパンにしてチラリズムを楽しむか? さあ、何なりと申し付けるが良い! どんなリクエストにも応じよう!」


 これこそが、シェリー嬢達の仕組んだ秘策。

 試合に勝てばシャルロの半裸を堪能できるし、負けたところで羞恥プレイを楽しめる。

 どちらに転んだところで、実質的な勝ちはシェリー嬢のものだった。


「罠だったのデスよーーーーッ」


 シャルロが参戦したことを後悔するが、もう遅い。

 スポーツで負けるはずがないという慢心が、策に気付けなかった敗因だろう。

 最初からシェリー嬢は、試合の勝敗になど興味なかったのだ。


 打開策を見つけられないシャルロだったが、そのまま試合は進む。

 リボン、靴、ハイソックス、手袋。

 そしてついにはドレスまでも脱ぎ捨てて、シェリー嬢はキャミソール姿になってしまった。


「ふふ。どーした、シャルロ。顔が赤いぞ!」


「あ、あまり激しく動かないでほしいのデスよ!」


 シェリー嬢がラケットを素振りするだけで、胸元やパンティがちらりと覗きそうになる。


 シャルロはシェリー嬢の下着姿ぐらい、毎朝のように見慣れている。

 それでも屋外というシチュエーションが、気恥ずかしさを倍増させていた。


 目のやり場に困ったシャルロは、最早、シェリー嬢の姿を直視することも出来ない。

 試合の流れが大きく変わる。

 シャルロのサーブが、コートから大きく外れた。


「おお! 私が勝ったぞ!」


「不覚をとったのデスよ……ッ」


 相手の姿を見られないのでは、ハンデにしても大きすぎる。

 シャルロとしては、目隠しのまま試合しているのと変わらなかった。

 今度はシャルロ側の負けが重なり、一枚、また一枚と脱がされていく。


「うひょーーっ、シャルロちゃんの脱ぎたて靴下ー!」


「一枚は、わたしがもらう約束よ~」


「ギャラリーの二人! 後でちゃんと返して下さいなのデスよッ?」


 妹メイドと猫メイドが、シャルロの脱ぎたて靴下をくんかくんかと堪能する。

 そんな美少女達にシャルロは戦慄した。


「やばいわー! 乱れる金髪と銀髪! 躍動する幼い肢体! 幸せすぎて、あたし死んじゃいそう!」


 本来なら抑止する立場であるメイド長までも、完全にトリップしている。

 ヘイウッド邸のメイド達は、とんでもない変態ばかりだ。

 外面だけなら美少女揃いなだけに、本当に残念なことだった。

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