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見習い従者とメイドくん  作者: arty
第1話:ガーデンパラソルとメイドくん
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3-8. メイド長4

 使用人ホールに戻ると、スージーからドアサインのプレートを渡された。

 見てみると、『ドント・ディスターブ』と書かれている。

 入室禁止という意味だ。


「コリン様のお部屋は、フレデリカ様のお部屋の隣に用意してあります。お休みになる際には、そちらのプレートをご利用下さい。あたし達は決してお二人の邪魔は致しませんからご心配なく。何かあればベルでお呼び下さい」


「え? 意味が分からないんだけど」


 スージーが目を逸らして、少し頬を赤くした。


「わざわざ言わせないでよ。これってセクハラよね?」


 本気でスージーは恥ずかしがっている。

 ようやくにして、コリンも隠された意図を察することが出来た。


「ものすっごい誤解されてるーーーーッ!」


「だってフレデリカ様とは恋仲なんでしょ? それぐらいの気遣いはするわよ」


「ねーーーーよッ! なにその発想、気持ち悪い!」


 焦りすぎて思わず叫んでしまった。

 ちらりと想像しただけでも寒気がする。


「本当に勘弁してくれないかなッ? 俺と先輩との間に、そーいうのは一切ないから! どっちかと言うと俺は、先輩の保護者とかそんな感じだよ!」


<人がいないと思って、好き勝手言うのは止めたまえ! 誰がボクの保護者だよ! 逆だよ、逆!>


 脳裏にフレデリカ先輩の声が割り込んできた。

 通信法術だ。

 どうやらコリンの聴覚は共有されたままだったらしい。


「先輩、無断で接続しないで下さいよ。俺にもプライベートの時間ってやつが欲しいんですけど」


<は! 君にそんな自由がある訳ないだろう! とにかく君の暴言については、深くボクの心に刻みつけておいたからね。この件は後できっちり教育しなおしてあげよう。覚悟しておくことだ>


 ぶつり、と通信法術が一方的に切断される。

 しかし監視されている気配は残ったままだ。

 恐ろしい。

 こんな規格外れの相手に、恋愛感情を抱くなど有り得なかった。


「せっかく立派な寝室を用意してくれたのに悪いんだけどさ。出来れば俺も、みんなと同じような部屋に泊めてもらえない? どうせなら徹底的に、使用人の生活に馴染んでみたいんだ」


「本気ですか? 後になってからクレームを付けて、あたしを陥れるつもりじゃないでしょうね?」


「そんなに俺の性格、悪くないからね! 自分の言葉には責任持つよ!」


「はあ、仕方ないわねー」


 嘆息するスージーは、明らかに気乗りしない様子だ。

 しかし、思ったより抵抗はされなかった。

 あらかじめ使用人向けの寝室も用意はしてあったのだろう。


「分かりました。それではコリン様の寝室は、シャルロちゃんと相部屋でお願いします」


「わあ! 本当なのデスか! わたしにもようやくルームメイトが出来るのデスよ!」


 無邪気に喜んだのはシャルロだ。

 本来なら下級使用人は二人部屋が基本となる。

 ところが今までは男性使用人に端数が出て、シャルロはずっと一人だったらしい。

 一方のコリンは、思いも寄らない展開に戸惑っていた。


「あれ? え? ちょっと待って、それってマズくね?」


「マズいわよ。あたしは大反対ね。でも、男性使用人の部屋割りはミスタの管轄だし。あたしも口出し出来ないのよ」


 憎々しげにスージーが説明する。

 中間管理職であるメイド長の職権は、コリンが思っていたより限定的なのだという。

 男性部門はバトラー、キッチン部門はコックと、同じ使用人でも責任区分は縦割りに分かれているそうだ。

 不満顔のスージーはコリンを睨み付けてきた。


「いい? シャルロちゃんに手を出したら、あたしが許さないからね? 変な気起こしたら、その股間を蹴り上げてやるわ」


「ひっ」


 スージーの脅しに、コリンが青ざめる。

 冗談を言っているようには見えなかった。

 フレデリカ先輩もそうだが、コリンの周りには凶暴な女性ばかりが集まってくる気がする。

 癒やし系のシャルロだけが、コリンの心の支えだった。


「早速、客室に届いている荷物を、屋根裏まで運ぶのデスよ。スージーお姉ちゃん、おやすみなさいなのデス」


「シャルロちゃん、気を付けるのよ? 身の危険を感じたら、相手が公爵家だからって遠慮しなくていいからね?」


「あは。そんな心配はいらないのデスよ。コリン様は紳士なのデス」


「甘い! 甘すぎるわ! 貴族の連中には、特殊な性癖を持ってる輩が多いのよ! 子供だからとか、男の子だからとか、そんなの襲われない理由にならないわ!」


「いやいやいや。それはゴシップ記事の読み過ぎだから。貴族にも色々だからね? 全員が変態ばかりじゃないからね?」


 スキャンダルで誌面を賑わす貴族には、変わり者が多い。

 貴族に偏見を持たれる一因だ。

 スージーもすっかりそうした偏見に毒されているらしい。

 もちろん貴族本人であるコリンの抗弁など、聞いてくれるはずもなかった。


「それではコリン様、お休みなさいませ。あー、明日になったら、あんたの存在が消えてないかしら」


「おやすみ、スージー。明日からもなるべく穏便に頼むよ」


 乾いた笑みを浮かべながら、コリンは返事を返した。

 洗濯室で彼女の上司であるハウスキーパーに相談しなかったことを、少しだけ後悔しそうになる。

 どうすれば凝り固まったスージーの心を溶かすことが出来るのか。

 解決策はすぐには思い浮かびそうになかった。

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