機械仕掛けの心
廃墟区画 最深部
「あのー?」
ユナは恐る恐る声をかけた。
「もしもーし?」
返事はない。
目の前には、半ば瓦礫に埋もれた一体の観察ユニットが横たわっていた。
機体表面には無数の傷。
一部の外装は交換されている。
だが完全な残骸には見えない。
むしろ、誰かが長い時間をかけて維持してきたような印象だった。
「死んでる?」
「完全停止状態です」
探索ユニットが即座に答える。
「だよね」
ユナはしゃがみ込み、機体を観察する。
側面には見慣れない刻印があった。
M-47
「聞いたことない型番」
「データベース照合中」
数秒後。
「該当データなし」
「え?」
ユナは思わず顔を上げた。
「そんなことある?」
「登録情報は存在しません」
「余計怖いんだけど」
探索ユニットは気にした様子もなく続ける。
「起動シーケンスを施行しますか?」
ユナは周囲を見回した。
崩壊した天井。
割れた壁。
積み上がった瓦礫。
正直、あまり長居したい場所ではない。
「うーん……」
少し迷う。
だが好奇心が勝った。
「やってみて」
「了解」
探索ユニットが接続端子を展開する。
数秒後。
M-47の胸部に微かな光が灯った。
ピッ。
沈黙。
ピッ……。
再び沈黙。
何も起こらない。
「起動プロセスは正常に完了しています」
「いや、全然起きてないじゃん」
ユナは機体を見つめた。
光学センサーはうっすら発光している。
電源は入っている。
それなのに動かない。
まるで――
起きているのに、起きる気がないみたいだった。
「んー……」
ユナは頬を膨らませる。
「このまま持ち帰るしかないか……」
もちろん返事はない。
だが、見れば見るほど違和感が増していく。
古い。
それは間違いない。
だが古い割に綺麗すぎた。
関節部には補修跡。
外装にも何度も交換された痕跡。
周囲に転がる他の残骸とは明らかに違う。
人の温もり。
そんなものが残っている気がした。
変だった。
ただ捨てられた機械には見えない。
誰かを待っているような。
誰かを忘れられないような。
そんな気がした。
ユナは小さく首を傾げる。
「ねえ」
応答はない。
それでも、ただの機械に向ける言葉ではない気がした。
「あなたさ」
少し考えてから、自然に口を開く。
「あなたの大切な人って、どんな人だったの?」
沈黙。
一秒。
二秒。
三秒。
その瞬間。
カチッ。
どこかで小さな機械音が鳴った。
探索ユニットが反応する。
「異常確認」
「わっ、なに!?」
ユナが振り返る。
M-47の光学センサーが、先ほどよりも明確な光を帯びていた。
まるで長い夢から目覚めるように。
機体内部でシステムが再起動していく。
《観察ユニット M-47》
《起動確認》
《記録媒体正常》
《観察ログを再生します》
ユナは思わず息を呑んだ。
機械仕掛けの心 end...




