新社会人~泥にまみれることもある
前回の終わりで『遭難した』と書きました。
ご安心ください、彼は元気です。
突然ですが、ごみの分別って自治体によって差がありますよね。
地元を離れて就職する場合、分別に戸惑う方も多いでしょう。
私の住む地元は比較的ざっくりした分類です。
指定ごみ袋は「可燃ごみ」「不燃ごみ」の二つだけ。
他の空き缶・空きビン・白色発泡スチロールなどは白または半透明な袋に入れて出せば良い、というおおらかなルールです。
一方、息子が配属された自治体はより細かく分けられていました。
指定ごみ袋の種類も多く、二つや三つではありません。
引っ越し時に用意したごみ箱は台所用の蓋つきが一つだけ。
そこには可燃ごみを入れるとして、他のごみ類をどうするか。
息子が選んだ選択肢、それは……。
「ごみ袋、床に直置き」
でした。
台所の流しの前にポイポイと無造作に置かれた、半分中身の入った色とりどりの透明ごみ袋……。
足の踏み場もないとはこのことです。
生ごみではないから臭くはないですし、概ね清潔そうではありましたが、目の当たりにした時、親としては衝撃を感じました。
これは最適解ではない、他にもっといいやり方があるはず……と。
思うに、床に置いてあるのがよろしくない。
床は人が歩く通路なのですから、余分なものが置いてあると通行の邪魔になります。
こういったごみ袋を回収に出すまでどのように保管するのが適切か。
縦型収納がいいのではないでしょうか。
カラーボックスでもいいですし、メタルラックでもいいでしょう。
人の身長ほどの高さのある五段程度の収納に入れてしまえば良いのです。
それなら場所を取りません。
平面的に並べるより立体的に積み上げましょう。
扉付きの収納か、布をかけるなどして目隠しできれば尚良し。
そんな感想を抱いた私ですが、息子の家事を視察しに出向いたわけではありません。
SOSを受けて出向いたのです。
『転んで作業着汚れた。洗濯手伝って』
ある日届いた短いLINEに首をかしげながら、彼のアパートに行ってみると……。
汚れたなんてもんじゃありませんでした。
・靴:中も外も泥だらけ。砂や腐葉土が付いている。
・作業着下:これも泥だらけ。裾の折り返しやポケットの中まで泥が入っている。
・作業着上:これは比較的マシ。やはりポケットの中に泥が入っている。
・作業着ベルト:これも比較的マシ。
これでは救援を求めるはずです。
こんなのを洗濯機に入れたら排水口が詰まってしまうでしょう。
下洗いが必要ですが、風呂場やベランダでも排水口が詰まる恐れがあります。
詰まると厄介ですから、ここは一工夫が必要ですね。
私は風呂場の排水口に排水口ネットを取りつけました。
台所の流しで使うものですが、これを付けておけば風呂場で泥んこを洗い流してもそうそう詰まることはないでしょう。
こうして泥んこを洗い流しながら私は息子から事情を聞きました。
「三人で山に行った。山にある設備の点検で」
「うん」
「帰りに道に迷って、沢に落ちた」
「一緒に行った先輩も道知らなかったとか?」
「いや、何十年もやってるベテラン」
なんだそりゃ、と思いました。
「しょうがないから三人で沢を下って、三時間くらいかかって車が置いてある所までたどり着いた」
「怪我は?」
「ここと、あと見せられない場所に打ち身が少々」
ここ、と見せてくれた手のひらは擦りむいていましたが、表面がささくれた程度で出血もなく、程度は軽いものでした。
見せられない場所ってお尻とか太ももでしょうか。
普通に動けていますし、骨や筋は痛めていないようです。
思えばこの子が山で転んだ(?)のは人生で三度目です。
一度目はまだ幼い頃、近所の山に遊びに行って転びました。
二度目は小学生の時、ハイキング的な登山で転びました。
そして三度目がこれです。
体、丈夫で良かったね!
でも君、山と相性が悪いんじゃないかな!
もう登らない方がいいね!
彼は日ごろからカルシウム摂取に熱心です。
幼い日、火葬場でおばあちゃんの骨を拾った時のこと。
稀に見るほど立派に形が残った骨を係の人に褒められて、鉄骨おばあちゃんの印象が深く心に刻まれたようです。
『火葬される時、きっちり喉仏の骨が残るのが目標』と言って毎日牛乳を飲んでいました。
その成果が沢への滑落時に発揮されたのだと思います。
息子、遭難するも、ほぼ無傷に近い軽傷で生還。
それは良い。
だがしかし。
『この会社、大丈夫か……?』
どうでもいいことですが、腐葉土洗ってて出てくる葉っぱって、ほうじ茶とかの淹れた後のお茶っ葉に似てますね。
色合いとか柔らかく湿った質感が。
すすいでも、すすいでも、無限に出てくる茶色い水と腐葉土に悪戦苦闘しながら、私の脳裏に息子の就職先への懸念がよぎるのでした。
この懸念はやがて現実のものとなります。
また違った角度からの試練として……。(続く)




