プロローグ
「――失敗ですね」
目を覚ました瞬間、最初に聞こえたのはそんな言葉だった。
そこは、上下左右の感覚がない真っ白な空間。 目の前には、事務的な顔をした美女が一人。彼女は俺の方を見もせず、手元の書類に何かを書き込んでいた。
「……あの、失敗って?」 「あなたの人生のことです」
間髪入れずに返ってきた言葉に、俺――ユウトは息を呑んだ。
俺は日本のどこにでもいる高校生だった。 勉強は平均点、運動は苦手。特別な才能も夢もない。 『自分は物語の脇役だ』と自覚して生きてきた。
だからだろうか。 夜の交差点。突っ込んできたトラックの白いライトを見た瞬間も、走馬灯すら見ずにこう思ったのだ。 (ああ、やっぱり俺の人生、こんなもんか)と。
「トラックに轢かれて即死。享年17歳。……まあ、よくある『可もなく不可もない』人生でしたね」
女神らしき女性は、まるでゴミの分別でもするかのように書類を投げ捨てた。
「ですが、問題はそこではありません。あなたの『転生処理』も失敗しました」
「……は?」
「本来なら『勇者候補』として高レアスキルを付与し、異世界へ送り込む予定でした。ですが、あちらの世界の管理システムに手違いが生じまして」
女神は面倒くさそうに指を鳴らす。 すると、空中にノイズ混じりのウィンドウが浮かび上がった。
スキル:《■■■■(エラー)》
効果:不明
備考:開発段階の削除漏れデータ
「えっ」 「見ての通りです。正規のスキルデータが破損し、代わりにシステム上の『ゴミデータ』が付着してしまいました」 「ゴミって……。じゃあ、チートは? 無双スキルは?」 「ありません」
女神は事もなげに断言した。
「不良品を正規ルートに乗せるわけにはいきませんから、あなたには『廃棄枠』として転移していただきます。生存確率は……まあ、限りなくゼロに近いですが」
「ちょっと待て! 廃棄ってなんだよ!? ふざけんな!」 「おやおや、騒がないでください。次の業務が詰まっていますので」
女神が冷ややかな視線を向ける。 その目は、人間を見ている目ではなかった。ただの処理すべきデータを眺める目だ。
「それでは、良き終焉を」
「待てって言ってんだろ――!!」
俺の叫びも虚しく、足元の白が砕け散る。 視界が強烈な光に塗り潰され、俺の意識は強制的にシャットダウンされた。
良ければ感想や評価よろしくお願いします。




