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シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
弐乃巻:ダスト

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9/20

絡め取る者(後)

罠が、起動した。


音はない。

光もない。


空気の張り方だけが、変わる。


イトは、それを“いつものこと”として受け取った。

自分が張った糸が、予定通りに締まっていく――そう信じて疑わない。


見えない糸が、層になる。

上下、左右、斜め。

完全な包囲。


シノは、その中心にいる。

動けない。

逃げ場もない。


そう、イトは確信していた。


違和感は、確かにあった。

だが――無視できた。


興奮が、それを上回っていたから。


「……いい」


声が、熱を帯びる。


イトは、ゆっくりと近づく。

糸が、シノの衣服に触れ、裂く。


布が切れ、

上半身が露になる。


イトの視線が、体をなぞる。

露骨に。

味を見る前の、品定め。


手を伸ばす。

撫でる。

肌の感触を確かめるように。


そして――

舌を出そうとした、その瞬間。


彼女の膝が、わずかに落ちた。


「……?」


糸の張りが、落ちる。


一本。

また一本。


絡め取られていたはずの自由が、

静かに戻ってくる。


そのとき。


シノは、すでに動いていた。


一歩も踏み出さず、

ただ、そっと。


イトの頭に、手を置く。


撫でる。


それだけ。


膝をついたイトは、

目を見開いて、見上げる。


「……なぜ?」


困惑。

理解が追いつかない顔。


「……変ね」


その言葉を最後に、

イトは膝をついたまま、動かなくなった。


倒れない。

声もない。


糸の制御が、完全に止まる。


見えない糸が、

力を失い、

夜の中へとほどけていく。


毒は、静かに役目を終えた。


痛みはない。

苦しみもない。


自分が侵されていたことにも、

自分がこと切れたことにも、

彼女は気づかない。


終わりは、あまりにも静かだった。


私は地面に手をつく。


――土遁。


土が、音もなく動く。


イトの身体を包み込み、

そのまま、地の中へ。


覆う。

埋める。


派手な意味はない。

儀式でもない。


敵の心に、永久(とわ)に忍び続ける。

それだけだ。


地面が戻ると、

そこには何も残らなかった。


レイザーは、しばらく動けずにいた。


「……埋めるんだな」


「うん」


短く答える。


レイザーは、視線を落としたまま、呟いた。


「……初めて見た」


「なにを」


「人を、ちゃんと……」


言葉が続かない。


この世界では、

死は“結果”であって、

“扱われるもの”じゃない。


だから、埋める理由も、

感情も、用意されていない。


それでも。


レイザーの胸に、遅れて何かが芽生えた。


――寂しい。


理由は分からない。

好きでもなかった。

むしろ、避けてきた相手だ。


それでも。


「……なんでだろうな」


自分に言い聞かせるように、呟く。


「いなくなったってだけで……

 こんなに、空く」


私は、何も言わない。


忍びは、感情を否定しない。

処理もしない。


ただ、そこにいる。


夜の街は、静かだった。


豆腐みたいな建物の影が、

変わらず重なっている。


「戻ろっか」


私が言う。


レイザーは、顔を上げて、少しだけ間を置いた。


「……そう、だな」


私は歩き出す。


ダスト狩りは、続く。


霧は、まだ深い。

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