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シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
弐乃巻:ダスト

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7/23

イト

夜の街は、昼よりも輪郭が曖昧だった。


広場の光は遠く、

豆腐みたいな建物の影が、意味もなく重なっている。


レイザーは足を止め、何もない空間にアイズを走らせた。


緑の線が走り、

直方体の構造が一瞬で組み上がる。


――豆腐小屋。


一人用の、簡素な箱。

風雨を防ぐだけの最低限の造りだ。


「今日は、ここで」


中に入ると、

レイザーは慣れた動作で追加のアセットを呼び出した。


簡単な椅子。

簡易ベッド。


どちらも、私用ではない。

私のための配置だ。


私は何も言わず、壁際に腰を下ろす。


忍びは、言葉より先に環境を見る。


小屋の中は、狭いが問題ない。

視界が切れる。

外の気配が薄れる。


「……糸使いの情報だな?」


レイザーが、火球を小さく灯しながら言った。


道中でも、少しずつ聞いてはいた。

それでも、まだ吐ききっていない顔だ。


私は、巻物を広げながら答える。


「足りないところを」


レイザーは、短く鼻で笑った。


「十四。女。

 施設を出てすぐ、初心者狩りに巻き込まれた一人だな」


私は、紙の感触を確かめる。


「名前は?」


「イト」


その名を、私は心の中で反復する。


「元々、糸を使ってたやつだ。

 施設内では目立つ、分かりやすい糸のアセットを使っていたそうだ」


派手。

視認性重視。

見せるための構成。


「外に出てから、方向が変わった」


レイザーの声が、少しだけ低くなる。


「見えない糸に、全部振った」


私は、巻物に細い印を入れる。


「視認できない。

 触れて初めて、張られていたと分かる」


「対策が遅れる」


「そう」


レイザーは、火球の位置を調整した。


「何のアセットで対処すればいいか、

 判断してる間に罠が重なる」


一本じゃない。

層になる。


「自由を奪う」


私が言うと、

レイザーは一拍置いて、続けた。


「服を剥がす。

 そして評価する」


空気が、少しだけ重くなる。


「相手の体をなめ、評価をしてくる。

 ……ふざけてるようで、本気だ」


私は、視線を上げない。


奪われるのは、自由だけじゃない。

自分が“物”として扱われる感覚。


心が、削られる。


「Lv2が主だ。

 だが、そろそろLv3を欲しがってる」


「強度は?」


即答が返ってくる。


「異常だ」


そして、言い直す。


「糸の一本一本が、洗練されている。

 切れない。

 燃えにくい。

 引きちぎれない」


ジャンル特化。

それだけに、深い。


「俺は、相手にしたくねえ」


カウンターと相性が悪い。

それだけで、十分な理由だ。


私は、最後の巻物に仕込みを入れる。


アセットではない。

その場で魔法として生み出した紙に、

物理的に加工を施していく。


折る。

削る。

印を入れる。


緑の線が消えたあとも、

巻物は物として存在している。


レイザーは、その様子を黙って見ていた。


「……お前、本当に、そんな準備をするんだな」


声に、わずかな緊張が混じる。


その巻物が、

いつ暴走してもおかしくないことを、

彼は理解している。


私は、最後の一枚を畳む。


「終わり」


外は、さらに静かになっていた。


夜は、糸に都合がいい。


視認性が落ち、

人の動きも減る。


「固定の狩り場は持たない。

 張れる場所なら、どこでも使う」


レイザーの言葉を、頭の中で整理する。


「必ず夜」


私は立ち上がる。


「今夜だね」


レイザーが、目を細めた。


「……ああ」


小屋を出る。


豆腐みたいな建物の影が、

重なり合って、境界を溶かす。


広場は避ける。

人の流れの外へ。


忍びと、狩り手が好む場所。


数歩進んだところで、

空気が、わずかに張りつめた。


見えない。

だが――


張られている。


レイザーが、足を止める。


「……来てるな」


私も、感じていた。


糸だ。


私は、袖の中の巻物に指をかける。

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