狩り
街は、管理されすぎていた。
施設の外に出て最初に感じたのは、
危険がないことでも、自由があることでもない。
雑然としているのに、切実さがない。
衣食住は、すべて自分で用意できる世界。
それはつまり、
「生きるために、選ばなくていい」ということだ。
通り沿いには、四角い建物が並んでいる。
高さも形も似たような、
直方体をそのまま置いたような建築。
――豆腐。
誰かが、思いついたまま作ったのだろう。
壁も、屋根も、最低限。
装飾はないか、途中で止まっている。
住んでいる気配のある建物もあれば、
扉が開いたまま、誰もいないものもある。
中を覗くと、内装はさらにばらばらだった。
途中まで凝った形跡のある部屋。
壁の色だけ変えて、満足したような空間。
家具だけ置いて、使われていない居室。
キッチンがある家もある。
でも、料理に本気な人がいるというより、
「作れるから作った」だけの痕跡に見える。
(……生活してる、というより)
(思いついたことを、形にしただけだな)
豆腐の建物は、まとまって並ぶこともあれば、
道端に唐突に現れることもある。
計画性はない。
でも、制限もない。
だから、街は広い。
無意味に。
目立とうとしたのか、
意味もなく高い塔を建てている者もいた。
眺めはいい。
それだけだ。
誰かが集まる理由には、なっていない。
――例外を除いて。
人の流れを追うと、
自然と辿り着く場所がある。
広場。
円形だったり、
やたらと開けていたり、
最初から“見せる”ことを前提に作られた空間。
そこでは、必ず魔法対戦が行われている。
派手な光。
観戦者向けの演出。
歓声。
(……やっぱり)
この世界では、
人が集まる=魔法対戦だ。
でも。
私は、その広場には近づかなかった。
理由は単純だ。
目立つ。
記録される。
ログが濃く残る。
忍びが立つ場所じゃない。
私は、人の流れから少し外れた場所に腰を下ろし、
アイズを開いた。
目的は、参加じゃない。
観測だ。
魔法対戦のログは、誰でも見られる。
娯楽だから。
共有されることが、前提だから。
画面に並ぶのは、
勝敗、Lv、アセット封印。
放出直後。
対戦Lv:2。
敗北。
また、敗北。
また、同じ相手。
(……)
数を追う。
一人。
二人。
三人。
全員、初心者。
全員、短時間。
全員、同一人物。
「……娯楽じゃないな」
声には出さない。
これは、狩りだ。
派手な広場ではなく、
人目につかない場所で、
安全な範囲で、
折る。
殺さない。
でも、続けられなくする。
(合理的だ)
この世界に、よく合っている。
ログの詳細を開く。
対戦者ID。
――レイザー。
その瞬間、視界の端で通知が点灯した。
「……は?」
レイザーは、違和感を覚えた。
いつも通りだ。
新人に声をかけて、
「練習だよ」「死なないから」
Lv2で合意。
恐怖で判断力が落ちた相手ほど、素直だ。
――そのはずだった。
【対戦Lv:3 合意申請】
「……誰だよ」
即、却下。
Lv3なんて、やる意味がない。
娯楽の外だ。
数秒後。
【対戦Lv:3 合意申請】
「……?」
バグかと思った。
システムの不具合。
却下。
さらに数秒。
【対戦Lv:3 合意申請】
「……ッ」
申請元は、同一。
しかも、位置が動いている。
レイザーは、周囲を見回した。
見慣れた街。
豆腐みたいな建物。
安全な光。
なのに。
集中できない。
申請は拒否できる。
成立しなければ、何も起きない。
それでも、
思考にノイズが残る。
(誰だ……)
(なんで、こんなことを)
レイザーは知らない。
Lv3を、
戦うためではなく、
相手を削るために使う発想を。
私は、霧の向こうからそれを見ていた。
広場から離れた場所。
人の流れの外側。
ログと、現実が一致する。
(……いた)
ここは、目立たない。
でも、人は流れ着く。
狩る側にとって、
ちょうどいい場所。
忍びにとっても。
私は、もう一度だけ、申請を送った。
Lv3。
通らなくていい。
合意されなくていい。
これは、
遊ばないという意思表示だ。
「本気だすだけだよ」
声は、街に溶ける。
豆腐みたいな建物の影で、
霧は、静かに広がっていった。




