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シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
参乃巻:旅

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31/34

湖のことは、誰も振り返らなかった。


レイザーは一度だけ、


「……あそこ、戻るか?」


と言ったが、

私が首を振ると、それ以上は言わなかった。


シンは、何も言わない。


ただ、西へ歩く。


湖は背後に消え、

湿った匂いも消え、

再び乾いた大地だけが続く。


そして――


それは唐突に現れた。


一歩、進んだ瞬間だった。


視界の端に、影が差す。


さっきまで何もなかったはずの地平線に、

黒い線が立っている。


「……?」


レイザーが足を止める。


私は、ゆっくりと顔を上げた。


塔。


天を貫くほどの、高さ。

途中から輪郭が霞む。


「……見えてたか、あれ」


シンが低く言う。


「いや」


レイザーが即答する。


「さっきまで、なかった」


私も頷く。


湖を越えてから、視界は開けていた。


遮蔽物もない。


なのに。


この高さの構造物を、今まで認識できなかった。


(制御されている)


誰かが、

“見せない”設定にしていた。


一定距離を越えた瞬間、

可視化された。


塔は、近づくほど異様だった。


階層。


螺旋ではない。


積層。


禍々しい段差が、無数に積み重なっている。


各層に、黒い窓。


窓というより、穴。


そこから、何かがこちらを見ているような錯覚。


「……入るか?」


レイザーが訊く。


シンは塔を見上げたまま言う。


「急ぐ理由はない」


私は、塔の根元を観察する。


足元は、均された大地。


異様に整っている。


戦場にも、祭壇にもなりそうな広さ。


(罠)


あるいは、

舞台。


だが、私は袖を直した。


「お腹減った」


レイザーが笑う。


「塔の前で飯かよ」


「何か問題が?」


「いや、別に」


シンが、淡々と豆腐建築を出す。


いつもの、簡素な箱。


内部は空。


椅子も、机もない。


レイザーが追加で椅子を出す。


「強者に相応しい椅子は必要だろう」


いつものやり取りだ。

私は小さく息を吐く。


塔は、すぐそこだ。


見上げれば、首が痛くなる。


だが。


三人は、その足元で食事を始める。


湖で覚えた魚料理を応用する。


レイザーが塩をアセット化する。


シンが火を制御する。


私は串を回す。


塔は、沈黙している。


何も起きない。


風もない。


不気味なほど、静か。


「……襲ってこねぇよな」


レイザーが言う。


「襲う必要がないのかもしれない」


私は答える。


塔は逃げない。


私たちも、今は登らない。


西へ向かう旅の途中。


これはただの“風景”。


異常な風景。


だが。


忍びは、

意味の分からないものに、すぐ飛びつかない。


塔の黒い窓のどれかが、

わずかに光った気がした。


気のせいかもしれない。


私は魚を一口かじる。


「……明日、どうする」


レイザーが訊く。


私は塔を見上げる。


「決めてない」


本当は、決めている。


だが、今は言わない。


塔は、そこにある。


見える範囲だけでも、禍々しい階層。


あれは――


登るものだ。


だが、今は違う。


今日は、食べる。


そして、眠る。


そして、西の果てを目指すだけだ。

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