表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
参乃巻:旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

西へ向かう旅は、いつの間にか会話が減っていた。


足音と、風と、土の匂い。

豆腐建築の残骸はもうほとんど見当たらず、視界にあるのは、均されたようで均されていない大地――ただの広がりだけだ。


「……ほんと、何もねぇな」


レイザーが欠伸を噛み殺す。

シンは返事もしない。歩幅も、呼吸も、一定で、まるで旅そのものが“作業”になっている。


私は、空を見上げた。


ここには宇宙がない。

雲の向こうも、星の向こうも、地球の常識みたいに広がっていない。

なのに空は青くて、風は冷たくて、妙に“正しい”。


(正しい、って何だ)


考えがそこまで行った瞬間だった。


風向きが変わる。


湿った匂いが、鼻腔に入った。


「……水?」


思わず声が出る。


レイザーが、目を細めた。

シンが、初めて歩みを緩める。


そして――視界が開けた。


そこにあったのは、境界のない青。


地平線が、途中から溶ける。

空と地面の境が、ひとつの線になって揺れている。


湖。


巨大な湖。


「……なんだよ、これ」


レイザーが、声を落とす。

驚きよりも、理解できないものを見たときの苛立ちが混じっている。


シンは一歩、前へ出た。

湖畔まで近づき、足元の土を蹴る。


湿っている。

だが、泥ではない。整えられた“湖の縁”だ。


「……不自然。この世界に湖はない」


私が言うと、シンは頷いた。


「ああ。少なくとも、俺が知る限り湖という単語は聞いたことがないな」


「何のために誰が作ったんだろうな?」


レイザーが問う。

暇な奴もいるもんだと笑って見せる。


私は湖面を見つめた。


波がある。

風に合わせて、規則的に揺れている。


そして――見えた。


水の中を、銀色の影が滑る。

一匹、二匹じゃない。群れだ。


「……あれは、魚か?」


レイザーが、子どもみたいに口を開ける。


シンも、眉をわずかに動かした。

この男が“驚く”のは珍しい。


私は、背中が冷えた。


(おかしい)


魚が生きるには、環境が要る。

水だけじゃない。餌が要る。循環が要る。

そして、ここは――微生物が存在しないはずの世界だ。


少なくとも、私が施設で聞いた“マジックアース”の説明では。


フェムトデバイスが世界を構成している。

必要なものは生成できる。

だが、自然の連鎖は基本的に存在しない。


なら、これは何だ?


誰かが、

“魚が生きる湖”という物語を、丸ごと埋め込んだのか。


(管理者……?)


この世界全体の管理者なのか。

それとも、どこかの誰かが、趣味で作ったのか。


趣味で、ここまで?


レイザーが、即席で作ったアセットで石ころを作ると、

湖に投げこんだ。


ぽちゃん、と小さな音。

波紋が広がり、魚の影が散る。


「あれ、食べれるかな」


その声は、妙に弾んでいる。

この世界で初めて見つけた“違うもの”に、子どもみたいに惹かれている。


シンも、湖面を見下ろしたまま言った。


「食えるなら、狩る価値はある」


二人は、この世界の住人だ。

異常を異常として恐れるより、利用できるかで判断する。


私は、目を細めた。


(……ここに、誰かがいる)


湖を作った者。

魚を泳がせ続ける者。

この“場”を維持している存在。


その気配は、見えない。


けれど、見えないからこそ――厄介だ。


私は、袖の中の巻物を確かめる癖を、途中で思い出した。

今は、もう確認する必要もないのに。


「……渡る」


私が言うと、レイザーが振り返る。


「ん、突っ切るのか?」


「俺たちは西へ行くんだ、当然だろう」


シンが淡々と背中を押す。


私は湖を見つめながら、言葉を飲み込む。


(湖を作った理由は分からない)


(でも、理由が分からないものは――)


忍びにとって、最も危険だ。


風がまた変わり、湖の匂いが濃くなる。


水面の向こうは、まだ見えない。


私たちは一歩、湖畔へ踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ