女の子(後編)
クリームは、確かに美味しかった。
最初の一口は、祝福だった。
二口目は、確信。
三口目で、幸福はピークに達した。
だが。
四口目からは、別の戦いになる。
甘さが、舌に残る。
乳脂肪が、喉にまとわりつく。
空気が、重くなる。
少女は止まらない。
スプーンは、規則正しく動き続ける。
少年は、目を輝かせながら、箱を開け続ける。
レイザーは途中で静かにスプーンを置いた。
「……甘ぇな」
それは感想ではなく、降参の宣言だった。
私は、まだいける。
忍びは、耐える。
だが。
一定を越えた甘さは、
幸福ではなく、質量になる。
舌が、鈍る。
味覚が、単調になる。
「……」
少女の動きが、ほんの少しだけ遅くなる。
それでも食べる。
食べ続ける。
幸福を追うというより、
使命を遂行している顔だった。
少年は、次の箱を差し出そうとして、
ふとシノの疑問顔に首をかしげる。
「……?」
「それにしても、何で生クリームばかり?」
私は、何気なく言った。
少年の手が初めて止まる。
「?」
「イチゴクリームとかも食べたかったな」
懐かしい記憶が、ふとよぎる。
施設内でも、食べ物の種類はあまり見かけなかった。
完成品。
効率重視。
変化の少ない味。
「イチ、、、ゴ、、、、、クリーム?」
少年の声が、震える。
「オレンジとかも美味しいよね」
「お、オレンジぃ!?」
少年の瞳が見開かれる。
一瞬停止させていた手が、
今度こそ完全に止まる。
「そ、そんな発想微塵もなかった……!」
彼は、私を凝視する。
「君は一体何者なんだい!?」
「わ、、、、わ、、わ、、、」
少年が興奮する中、クリームを食べていた少女も震え始める。
自分が主役だったはずなのに。
いつの間にか、
甘さの中心が、移ろうとしている。
だが、そんな事はどうでもいい。
「こうしちゃいられない、作らなきゃ、作らなきゃ!?」
少年は、作業台へ飛び戻る。
牛乳。
砂糖。
そして――
「イチゴ、確か果物……!?」
少年はかろうじて記憶にあっただろう、
施設で学んだ果物の存在を思い出す。
そして少女は、涙目で私をにらみつける。
「わ、、、、私っ!」
「永遠に満たされる気がします! ありがとう」
少女はこれから、新しい料理を生み出すであろう少年を前に、
希望を得たのだ。
こうして、少年と少女は出会った。
師匠という存在と。
その横で。
「胸がモタモタする」
シンが、真顔で呟いた。
初めて聞く弱音。
「……どうやら胃もたれは状態異常に含まれないようだ」
完全異常耐性も、
身体強化も、
走馬も。
消化には効かない。
レイザーが吹き出す。
「お前、負けてんじゃねぇか」
「戦いではない」
真顔のまま、シンが返す。
だが、明らかに動きが鈍い。
甘さは、戦場よりも強かった。
少年は、ぶつぶつと呟いている。
「果実を混ぜる……分離率はどうなる……色味は……」
シンを茶化すレイザーも、
果物を利用した甘味か、と呟いている。
どうやらシノの発想に感銘を受けた男がここにも一人いたようだ。
少女は、空になった箱を見つめながら、小さく笑う。
「……満たされるかどうかは、まだ分からない」
「でも」
少年を見る。
「続きがあるなら、私はここにいる」
西の果てで。
甘さを混ぜ続ける者と。
食べ続ける者とのボーイミーツガール?が成立した。
少年と少女の続きは誰も知らない。
それでも三人の旅は続く。
私は立ち上がる。
甘さの余韻を残しながら。
西はまだまだ続いている。




