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シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
参乃巻:旅

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22/23

男の子(前編)

西へ向かうにつれて、景色はゆっくりと変わっていった。


施設を中心に広がっていた豆腐建築の群れは、

距離を置くごとに数を減らし、

やがて「跡」と呼ぶほうが正しい残骸に変わっていく。


四角い壁の名残。

途中で放棄された床。

屋根だけがぽつんと残り、

中身のない空洞を晒している建物。


「……人の気配、薄くなってきたな」


レイザーが言う。


「果ては、こんなもんだ」


シンは淡々と答えた。


私は、足元の地面を見る。


整えられたタイルは、

いつの間にか姿を消していた。


踏みしめるのは、

柔らかい土。


だが、掘っても何も出ないことは、

もう知っている。


資源も、痕跡も、

意味のある“発見”はない。


(……それでも)


歩みを止める理由は、なかった。


世界の果てを確かめたい。

それだけで、足は前に出る。


どれくらい歩いたのか。

時間の感覚は、もう曖昧だった。


そのとき。


「……なんだか甘い匂い、しねぇか?」


レイザーが、立ち止まる。


私も、気づいていた。


空気に、

甘い匂いが混じっている。


砂糖。

乳。

それらが溶け合った、

懐かしく、強い香り。


「……甘味か」


シンが、わずかに眉を動かす。


この世界では珍しい。


食事は、

「必要な栄養」を満たすためのものがほとんどだ。


味を追究する者は少ない。

甘さに、時間と手間をかける者は、なおさら。


匂いの元を辿ると、

一軒の建物が現れた。


豆腐建築。

だが、他とは違う。


壁は古く、

補修された跡が何重にも重なっている。


放棄された建物ではない。

使われ続けている建物だ。


窓はなく、

扉だけが、静かに閉じている。


その隙間から、

甘い匂いが、途切れることなく漏れていた。


「……入るか?」


レイザーが、私を見る。


私は、少し考える。


罠の気配はない。

魔法対戦の位相も感じない。


危険は、少ない。


「覗くだけ」


そう言って、

私は扉に近づいた。


触れる前から、

匂いが強くなる。


(……これは)


懐かしい。


地球で、

菓子屋の前を通ったときの匂いに、よく似ている。


私は、そっと扉を押した。


きい、と小さな音。


中は、薄暗かった。


だが、

中央に置かれた大きな作業台が目に入る。


その上には、

無数のボウル。


そして。


床には、

同じ形をした箱が、

几帳面に積み上げられている。


「……冷却箱か?」


シンが、低く言う。


確かに、

箱の周囲には、ひんやりとした空気が滞っていた。


だが、

それ以上に目を引くものがあった。


作業台の向こう。


背中を向けて、

誰かが、ひたすら手を動かしている。


一定のリズム。

休むことのない回転。


金属が、ボウルの内側を擦る音。


しゃりしゃりしゃり、と。


その動きは、

魔法でも、アセットでもない。


ただ、

人の手だった。


私は、息を殺す。


レイザーも、

シンも、

黙ったまま、様子を見ている。


その背中から、

敵意は感じられない。


ただ、

異様な集中だけが、あった。


甘い匂いは、

その手の動きから、生まれている。


声をかけるべきか。

それとも、去るべきか。


迷いが、胸に浮かぶ。


だが。


ボウルをかき混ぜる音が、

一瞬だけ、止まった。


そして。


「……あ」


小さな声。


少年が、

ゆっくりと、こちらを振り返った。

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