世界
世界は平和になった。
……そういえば、私はまだこの世界のことを、ほとんど知らない。
施設から放出されて。
ダストと関わって。
忍術がこの世界で通じるか、それだけを確かめるように、私は走り続けていた。
戦えるか。
殺されるか。
通じるか、否か。
その問いばかりを握りしめて、
マジックアースという世界そのものには、ほとんど目を向けてこなかった。
ふと足を止めると、
世界はあまりにも静かだった。
「……なあ」
私が声をかけると、
レイザーとシンは同時にこちらを見た。
「この世界って、結局……どんなところ?」
二人は顔を見合わせ、
どちらからともなく、肩をすくめた。
「何もねぇよ」
レイザーが、あくび混じりに言う。
「マジで、何もない」
「自分のアセットを極めるか、
誰かとLv1かLv2で試すか」
「飯に困ることもねぇし、
病気で死ぬこともない」
「ケガしても、フェムトデバイスが全部直す」
シンも、淡々と続ける。
「努力が無意味とは言わない」
「だが、成果を披露する場は限られている」
「退屈なLv1。
少しマシなLv2」
「それ以上は、
ほとんど選ばれない」
言葉の端々に、
長い時間を生きた者の倦みが滲んでいた。
「だからな」
レイザーは、空を見上げる。
「この世界じゃ、
自分で何かを見つけないと、何も始まらねぇ」
歩きながら、私は周囲を見る。
地面は、場所によって違っていた。
綺麗に整えられたタイルの大地。
そのすぐ隣に、
ただの土の地面が現れる。
掘っても、何も出ない。
鉱石も、遺跡も、骨もない。
高い建物に登っても、
見えるのは同じ景色の繰り返し。
意味のある“高み”は、存在しない。
「大体な」
シンが言う。
「この世界の人間は、三つに分かれる」
「果てを目指す者」
「何かを求めて、旅を続ける者」
「そして――」
「俺たちみたいに、
魔法大戦で満たす者」
どれも、
生きるために必要な選択ではない。
ただ、
“暇を持て余した結果の行動”だ。
私は、歩きながら考える。
地球で命を受けていたころ。
天を突き抜ければ、宇宙があった。
大気圏の向こうに、
無数の惑星があり、
重力と法則が、球体に収束して存在していた。
それが、
世界の常識だった。
だが、この世界には――
宇宙がないという。
先人たちが、
どこまで行っても、
空の向こうには何もなかったと語る。
果ては、
本当に存在しないのか。
それとも、
まだ誰も辿り着いていないだけなのか。
私は、立ち止まった。
(……確かめなければならない)
この世界の外側に、
何があるのか。
もし、
この世界が“閉じている”のだとしたら。
もし、
どこかに“管理されていない場所”があるのなら。
――主君がいた場所へ戻る方法も、
そこにあるかもしれない。
私は、進む方向を定める。
「まずは……」
一歩、踏み出す。
「こっちだ」
少し遅れて、
足音が二つ重なった。
「俺もついてくぜ」
レイザーが言う。
「……面白そうだ」
シンも、短く続ける。
振り返らなくても分かる。
三人分の影が、
同じ方向に伸びていた。
戦いは、終わった。
だが。
旅は、
ここから始まる。




