狩
――場を作る者、ルールの外
あの惨劇から、数日が経っていた。
ダストという名は、まだ街に残っている。
だがそれは、もはや誇示のための看板ではない。
近づけば、何かを奪われる。
そんな忌避の対象としての名前だった。
「……いたな」
レイザーが、低く言う。
広場の中央。
一人の少女が、愉しそうに拍手をしていた。
「いいね、いいねぇ」
その足元で、少年が膝をついている。
「僕のイナヅマがぁぁぁ……!」
泣き叫びながら、
少年はよろめくように立ち上がり、その場を去っていく。
雷系アセットは、すべて封印されていた。
「……以前の俺を見ているようで嫌になるな」
レイザーが、ぽつりと漏らす。
少女――ルンルンは、振り返った。
年齢は判然としない。
幼さの残る笑顔と、
人の反応を“面白いかどうか”でしか見ていない目。
「次は、誰?」
その問いに、
シンが一歩前に出かけて――止まる。
「俺はやらない」
即答だった。
「……場を作る奴だ」
「相手のルールを、ひっくり返す」
レイザーも、肩をすくめる。
「身体強化が禁止されたら身体がもたない」
「俺も泥試合が目に見えてるからごめんだな」
二人とも、
この相手が自分たちの土俵ではないと理解している。
その視線が、自然と私に向いた。
「行く」
私が言うと、
止める声はなかった。
ルンルンが、にこりと笑う。
「君?」
「いいよ、いいよ」
アイズが、淡く輝く。
【魔法対戦申請】
【対戦Lv:3】
彼女は、即座に首を振った。
「やだ」
「封印する楽しみ、ないでしょ?」
「その戦い方」
申請は、却下された。
一拍置いて、
新たなウィンドウ。
【魔法対戦申請】
【対戦Lv:2】
「これなら、いい」
私は、同意する。
合意が成立した瞬間、
周囲の空気が変わった。
フェムトデバイスによる制御が、
魔法大戦用の位相へと切り替わる。
外界への影響は遮断。
死は結果として起こり得るが、
“扱われるもの”ではない。
「じゃ、ルールね」
ルンルンが、指を鳴らす。
「火、禁止」
何も起きない。
「水、禁止」
続けて。
「雷、禁止」
「……?」
彼女は、首を傾げる。
私は、動く。
忍び足。
影に溶ける。
「それ、禁止」
何も変わらない。
「……あれ?」
彼女は、理解できずに戸惑い始めた。
「アセット、使ってない?」
「じゃあ……コピー」
彼女は、私の動きをなぞろうとする。
忍術を、
“魔法として”再現しようとした。
その瞬間。
魔造が噛み合わない。
魔加が破綻する。
魔行が成立しない。
イメージが、行き場を失う。
「……っ」
短い声。
次の瞬間、
彼女の身体が内側から弾けた。
魔法暴走。
フェムトデバイスが即座に反応し、
損傷した肉体を修復する。
骨が繋がり、
皮膚が再生し、
呼吸が戻る。
だが。
精神までは、修復されない。
「……なんで」
地面に座り込み、
ルンルンは呆然と呟く。
「ルール、作ったのに……」
私は、静かに答える。
「忍術だから」
「魔法じゃない」
「ルールの外」
ルンルンは、乾いた笑いを漏らした。
「そっかぁ……」
「それ、ズルいね」
彼女は、はっきりと敗北を認めていた。
魔法大戦は、ここで終了する。
私は、アイズを通して告げる。
「ペナルティを執行する」
Lv2の敗者に課されるもの。
封印。
「禁止構築、封印」
「コピー構築、封印」
淡い光が走り、
ルンルンのアセット領域が閉ざされる。
彼女が築き上げてきた“場”は、
一瞬で使用不能になった。
「……あ」
力が抜けたように、
ルンルンはその場に座り込む。
私は、振り返る。
「これで、ダストのメインキャストはあなたたちだけ?」
レイザーが、深く息を吐いた。
「……ああ」
一歩、前に出る。
「ダストは、解散だ」
「もう、狩る意味もない」
誰も、否定しなかった。
こうして。
ダスト狩りは、幕を閉じた。




