表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シノビナイト★ ~世界最弱と判定された少女は、忍術で本気だす~  作者: PP
弐乃巻:ダスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

キョウ

キョウは、胸を張った。


その姿は、施設にいた頃と大きくは変わらない。

だが、声には違いがあった。

自分が“上にいる”と、疑いもしない者の声音だ。


「俺をダストの幹部として入れてくれ」


キョウは、そう言い切ってから、ゆっくりと息を吐いた。

まるで、当然の要求をしただけだと言わんばかりに。


「施設は、間違っていた」


誰に言うでもなく、言葉を続ける。


「あそこはな、

 “弱いままでもいい”って顔をしてる」


「安全だ。死なない。失敗してもやり直せる。

 ――そんな環境で育った連中が、

 外でどうなるか、分かるか?」


唇が、歪む。


「躾けられてないんだよ」


「痛みも、恐怖も、

 “本物”を知らない」


だから、とキョウは言う。


「弱い者は、しっかり躾けないといけない」


「泣いても、喚いても、

 折れるまでだ」


両腕を広げる。


「それができるのが、ダストだろ?」


「ここに来ると、ようやく世界が“正しく”見える」


「だから、俺はここに来た」


その“正しさ”の中心に、

自分がいると、疑いもしない声だった。


視線が、シノに向く。


「お前は、ずっと不思議だったよ」


「目立たない。派手じゃない。

 なのに、消えない」


鼻で笑う。


「弱いくせに、しぶとい。

 それが気に食わなかった」


一歩、前へ。


「だがな、俺は違う」


その瞬間、

キョウのアイズが、はっきりと輝いた。


視界の端で、

合意ウィンドウが展開される。


【魔法対戦申請】

【対戦Lv:2】

【申請者:キョウ】


キョウは、ちらりとシンを見る。


「ダストに入りたいんだろ?」


「なら、俺を満足させてみろ」


その言葉と同時に、

申請はシン個人へと向けられていた。


シンは、視線を動かさない。


アイズの前に浮かぶ情報を、

まるで興味がないかのように眺める。


Lv2。


安全。

死なない。

“娯楽”の範囲。


「……」


一拍。


シンは、深く息を吐いた。

アイズが反応する。


【合意を確認】

【対戦Lv:2 成立】


世界が、わずかに軋んだ。


その瞬間、

キョウは満足そうに笑った。


「そうこなくちゃな」


「見せてやるよ」


「俺が、どこまで来たかを」


キョウは、視線を上げた。


天井ではない。

もっと高い場所を、見ている。


「俺はな、考えたんだ」


「どうして、負けるやつがいるのか」


一拍。


「小さいからだ」


言い切る。


「技がどうとか、

 工夫がどうとか、

 そんなのは全部、言い訳だ」


「見えない力?

 分からない戦い方?」


鼻で笑う。


「そんなものは、

 “理解されない弱さ”だ」


アイズが、淡く輝く。


「大きければ、誰でも分かる」


「強ければ、誰も逆らわない」


「目立てば、

 世界は勝手に道を空ける」


キョウは、両手を握りしめる。


「だから俺は、

 俺自身を“完成形”にした」


「逃げない。隠れない。

 圧倒するだけの――」


その言葉の続きを、

鋼が引き継いだ。


ただの鋼ではない。

幾重にも重なった装甲板。

一枚一枚が、精密に噛み合い、

隙間なく組み上げられていく。


音が、違う。


甲高い金属音ではない。

巨大な質量が、正しい位置に収まる低音。


次に、骨格。


人の形をしているが、

関節の配置は微妙に異なる。


可動域を最大化するため、

人間の構造を捨てた設計。


肩は広く、

胸部は分厚く、

腰は異様なほど安定している。


「見ろよ」


キョウの声が、反響する。


「これが、俺だ」


鋼のフルアーマー。

否――鋼の巨人。


その内部へ、

キョウ自身が吸い込まれていく。


搭乗ではない。

融合でもない。


自己投影。


キョウという存在そのものが、

巨大な自己像へと上書きされる。


巨人の顔が、完成する。


人の顔を模した造形。

だが、感情は削ぎ落とされ、

ただ“威圧”だけが残されている。


眼窩(がんか)に、淡い光。


それが、こちらを見下ろした。


床が、沈む。


豆腐建築が、悲鳴を上げる。


「どうだ」


巨人の内部から、声が響く。


「これが、“完成形”だ」


腕が、ゆっくりと上がる。


一挙手一投足が、

周囲の空気を押し潰す。


「Lv2だ」


「殺しはしない」


「だが――

 圧倒は、させてもらう」


その言葉通り、

巨人は構えすら取らない。


存在するだけで、脅威。


大きい。

重い。

硬い。


単純で、分かりやすい強さ。


それこそが、

キョウの信仰だった。


「どうした?」


巨人が、嘲るように首を傾げる。


「最弱が、

 最弱のままで終わるのか?」


対戦相手でもないシノに向けられる罵倒。

沈黙。


その空白を、

キョウは“恐怖”だと解釈した。


――次の瞬間。


「……はぁ」


ため息。


小さな音だった。


鋼の巨人の前に立つ男――

シンの、ため息。


「長い」


それだけ。


次の瞬間、

シンの身体が――浮いた。


跳躍ではない。

上昇。


身体強化による、

純粋な出力。


視界が、追いつかない。


キョウが、目を見開く。


「な――」


言葉は、そこまでだった。


シンの拳が、

巨人の顎に触れた。


ただ、それだけ。


衝撃音は、遅れて来た。


鋼が、

紙のように折れ曲がる音。


首が、

跳ねた。


巨人の頭部が、

宙を舞う。


次の瞬間、

本体が、尻もちをつく。


地響き。


静寂。


キョウの投影が、

瓦解(がかい)する。


顔は、真っ青だった。


「……っ」


Lv2。


勝敗は、

最初から決まっていた。


「興覚めだな」


シンは、

本当に退屈そうに言った。


私は、その光景を見て、

背筋に冷たいものを感じる。


(……よく、もったな)


自分の体が。


鋼の破片が、

静かに消えていく。


残ったのは、

圧倒的な差だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ