飯
豆腐建築の中は、相変わらず無味乾燥だった。
四角い壁。
四角い床。
四角い天井。
「住める」という条件だけを満たし、
「暮らす」という発想を最初から放棄したような箱。
それでも、
人が集まれば、空気は変わる。
「……落ち着かねぇな」
レイザーが、腰を下ろしながら呟いた。
向かいでは、
シンが静かにアセットを展開している。
椅子。
だが、それはこの街でよく見る即席のものではなかった。
背もたれは緩やかな曲線を描き、
座面は深く、脚部は太く、無駄に安定している。
「……見慣れない形状ばかりだな」
レイザーが言う。
「強者に相応しい椅子は必要だろう」
シンは、当然のことのように返した。
「座る姿勢一つで、集中も判断も変わる」
言葉は少ない。
だが、その椅子には、
“戦う人間が休む”という明確な思想があった。
次に現れたのは、食器。
皿。
カトラリー。
コップ。
どれも統一感があり、
触れなくても、手触りが想像できる。
「……無駄に凝ってるな」
「壊す前に、整える」
それだけ言って、
シンは配置を終える。
レイザーは、鼻で笑った。
「Lv3で殴り合うやつらに挟まれて、
俺は何してんだろうな」
その言葉に、
私は床に座り込んだまま、視線だけを上げる。
身体が、まだ重い。
生命の丸薬は働いている。
だが、自然回復が追いついていない。
私は、装備を再現する。
クナイ。
手裏剣。
紐。
巻物。
イメージをなぞるたび、
身体の奥が、じくりと痛む。
(……次に備えないと)
レイザーが、ちらりとこちらを見る。
「無理すんな」
「してない」
即答。
「……その返し、もう聞き飽きた」
そう言いながら、
彼は立ち上がった。
「こういう時は、だ」
アセットが展開される。
分厚いステーキ肉。
それを、迷いなく細切れにする。
包丁の動きが、妙に慣れている。
「……お前、前から料理してたのか?」
シンが聞く。
「趣味ってほどじゃねぇよ」
レイザーは答える。
「ただ、腹が減ったままじゃ、
頭も回らねぇだろ」
次に、
炊き立ての白米。
湯気が立ち上る。
醤油が霧状に展開され、
空中で米と絡み合っていく。
大きめの鍋が現れ、
それらが一気に落ちる。
塩。
コショウ。
刻んだニンニク。
ピーマン。
ネギ。
謎の粉。
最後に、
バター。
一気に炒める。
香りが、空間を満たした。
「……腹減る匂いだな」
シンが、珍しくそう言った。
「だろ?」
レイザーは、少しだけ得意げだ。
「スタミナ満点、
ガーリックステーキチャーハンだ」
「体力も、すぐ戻るぞ」
皿が配られる。
……正直、
私には重い。
喉が、まだ本調子じゃない。
シンも、同じように箸を止めている。
「……通りにくいな」
「だろ?」
シンが、少し考えてから言う。
「食べる人のこと、考えた方がいい」
私は、無言で頷いた。
レイザーは固まる。
「……あ」
鍋を見つめる。
「……味じゃねぇな」
「どう食うか、か」
その顔は、
何かに気づいた人間のそれだった。
すると、
シンが指を鳴らす。
今度は、スープ。
白く、湯気を立てる液体。
「俺にとって、究極にうまいスープだ」
一口、飲む。
……豆乳スープに、よく似ている。
「筋力回復付きだ」
それを合わせると、
不思議と、喉を通った。
「……悪くない」
私が言うと、
レイザーは小さく笑った。
「だろ」
しばらく、
三人とも黙って食べる。
戦闘の話は、出ない。
だが、
空気は、妙に穏やかだった。
その時。
「おや」
声がした。
入口の方。
男が、立っている。
キョウ。
施設で、見覚えのある顔。
彼は、まず私を見て、眉をひそめた。
「……なんでここ(ダスト)にいる?」
その声には、
困惑と苛立ちが混じっていた。
目立たない。
弱い。
そう判断していた存在が、
なぜかダストの連中に囲まれている。
視線が、
シンとレイザーに移る。
「……へぇ」
「飯まで一緒とはな」
その言葉が、
この場の空気を、静かに切り裂いた。
私は、箸を置く。
次は――
また、騒がしくなりそうだ。




